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第22話 この瞬間を待っていたんだ!

「それが、何か」


 もはや敵対の意志は明らかだ。材料と言っていた今までとは違い、ハッキリとした殺意の籠った瞳で俺の事を見ている。


 ――やはり、怖い。


 こちらは相手に触れる事すら出来ないというのに、向こうはこちらに触り放題なのだ。一方的に嬲られる未来しか想像できなかった。


「はぁ? 君、ボクのお気に入りを壊したちゃったんだよ? それなのに帰れると思ってるの?」


 まあ、普通は無理だよな。


 俺だって帰さないだろうし。


「一応、俺はそうならないようにあなたと話そうとしましたよね。それを無視してけしかけて来たら、反撃しても仕方がないと思いませんか?」


 俺はじりじりと後方にある外へと繋がる扉……ではなく、それとは逆の方へと弧を描く様に移動していく。


 当然、俺を逃がしたくないマスケラは、俺と正対しながら出口の扉へ向かって移動する。


「思わない」


「ではいい勉強になりましたね。今後は思ってください」


 ゆっくりとゆっくりと、不自然に思われないように移動を続ける。


 チャンスは一度きり。


 俺は未だコイツの目の前でスマホを使っていない。コイツを滅ぼせる可能性のある手段を俺が持っている事を、コイツは知らない。


 それがどれだけのアドバンテージなるか。


 切り札を切るのは最高の状況とタイミングで、だ。


「ふざけるなよ、人間。人間如きが魔族であるボクに逆らうなんて、許されるはずがないだろう!」


「そうなんですか? 魔族なんて言葉を聞いたのも初めてなので知りませんでした。次からは努力します」


 どこかの政治家みたいな言い草を敢えて使う。


 もちろん、煽るためだ。


 マスケラが激昂して俺しか見えなくなれば、その分アウロラ達は逃げやすくなる。


「――それで、魔族って何なのか知らないので教えてもらえませんか?」


 だいたいは分かる。恐らくは、この世界における上位存在。


 人間に敵意を向ける魔物が居て、それよりも強力な魔獣。更にそれを従えて顎で使う魔族。


 これで最上位かどうかは分からないが、是非とも頭打ちになって欲しい所だった。


「あはっ……君は――君はずいぶんと強気だねぇ」


 マスケラは嗤っている。


 楽しいからではない。怒っているからだ。


 人間でもたまに居るが、明らかに感情が壊れてしまっているタイプ。


 そういうタイプは得てして話が通じない事が多い。――そんな事は今までの行動から分かり切っているが、重要なのは精神性がそれほど人間と変わらないという事だ。


 それならある程度どうなるかは、予想できる。


「強気ではないんですよ。本当に知らないだけです。何分(なにぶん)今まで魔族なんて存在と出会った事が無かったもので」


 言いながら、俺は足を止める。


 目的の場所にまで達したから。もう動く必要も、煽って時間を稼ぐ必要もない。


 俺はポケットに手を入れると、画面を見ずにスマホの操作を始める。


 操作のしやすい位置にアイコンを設置しておいたお陰で、楽々写真を表示出来た……はずだ。操作が間違っていなければ、今表示されているのはブラスト・レイ。俺の持ちうる手札の中で、最も攻撃力が高く、最も使って、最も信頼の置ける魔術。


 これが効かなかったら、俺にマスケラを倒す手段はない。


 ただ、普通に撃ってもダメージは与えられないだろう。だから――。


「そうだ、名前を教えていただけませんか? まずはそこが知るための基本だと思うんですよね」


「……ねえ、君は理解してないのかな。ボクは君を――」


 マスケラの笑みが深くなる。


 ――来た(・・)


「殺すつもりなんだけどさぁ!」


 言い終わると同時にマスケラの姿が掻き消える。


 どこに行ったとか、何をされるだとかそんな事を考えて居る暇などない。俺は瞬間的に脱力して地面にへたり込む。


 その刹那、俺の頭部があった空間を、マスケラの腕が薙いで行く。


 腕を振っただけの以前とは違う。明確な殺意を持って俺を殺すつもりで繰り出された攻撃は、スピードも、威力も、迫力も、何もかもが段違いであった。


 避けられたのは、来ると分かっていたから。


 そして――。


「避けるなっ!」


 癇癪を起した子どもがするように、手を振り上げたマスケラが、地面に座り込んでいる俺めがけて思いきり拳を振り下ろしてくる。


 それを俺はすんでのところで横っ飛びにかわす。


 ――こういうのを、テレフォンパンチというのだと聞いた覚えがある。


 大きく振りかぶって、思いきり力を叩きつけるのは、当たれば大きいダメージを与えられるだろう。だが、どこを攻撃するかが酷く分かりやすい。


 目の前の魔族は、確かに人間の上位存在なのだろう。力の限り振るえば、スピードと力で人間なんか圧倒できる。


 だから、効率的な挙動なんか考えもしないのだろう。


「このっ」


 追撃のスタンピングを、地面を転がって掻い潜り、


「ちょこまかとっ」


 腕による薙ぎ払いを、全身のバネを総動員して飛ぶ事ですり抜ける。


 たった一発でも当たればゲームオーバーの攻撃を、俺は紙一重でかわし続けた。――だが、素人の俺が躱し続ける事など、さすがに無理がある。


 少しずつではあるが、断頭台の気配が俺に近づきつつあった。


 鋭い突きを後ろに跳び退って逃れたのだが……ドンッと壁がその退路を塞ぐ。もう後ろに逃れる事は出来ない。


 いや、そもそも大きく跳んだり跳ねたりしていたため、体力的にも限界が訪れつつあった。


「潰れちゃえっ」


 無邪気な笑い声と共に、禍々しく広げられた手のひらが突き出される。


 俺は首を傾ける事で何とか死の顎から――。


 ドゴッという音がして壁に突き刺さったヤツの右手が、そのままゴリゴリと壁を砕きながら横に動き――。


「つーかまーえたっ」


 俺の肩口を捕らえられてしまう。


 強力な圧迫感が鎖骨にかかり、ともすれば潰れてしまったと勘違いしそうな痛みが生まれる。


 このままマスケラが少しでも力を入れれば、俺の左肩は豆腐の様にぐしゃっと潰され、引きちぎられてしまうだろう。


 しかし――。


「俺もだっ!」


 マスケラが俺に接触したという事は、俺がマスケラに触れる事が出来るということでもある。


 それは、俺が望んで望んで止まなかった瞬間。


 恐らくはたった一度きりしかないであろう、珠玉の時間。


 俺はポケットの中にあるスマホを握り締め、持ちうる限りの魔力を注ぎこんで――。


≪ブラスト・レイ!≫


 目の前の憎たらしい笑みを浮かべる仮面目掛けて必殺の一撃を叩き込んだ。

読んでくださってありがとうございます

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