第17話 受付のお姉さんは意外と肉食系でした
必ず約束は守るとの確約――今度はグミに誓われてしまうあたり本当に甘党なのだろう――を得て、俺はギルド長室を後にした。
魔術に関しても釘を刺された事は在ったのだが、おおむね想像通りであったので、これは今後とも変わらないだろう。
……まともに制御も出来ない魔術に手を出すことはさすがに怖くて出来ないって。
「どうする? このままシュナイドさんの家に帰ってもいいけど……」
「そうだよねぇ……ってナオヤ、魔石のお金とクエストのお金貰ってない!」
「あ」
完全に忘れてた。
とはいえ銀の魔石は値段が付けられないというか国家間以外の取引が禁じられてる代物らしく、報酬がいくらになるのかは検討も付かないのだが。
「ゴブリンから出て来た普通の魔石なら、一個銅貨二枚で換金してくれるはずだから」
「なら銅貨162枚(16200円)か。結構いい稼ぎになったなぁ」
それも全てはスマホによる大魔術のおかげである。
そう思うと電池が切れた時の事が怖いが、それまでにある程度の実力と貯蓄をしておけばいいだろう。
「今日はごちそう食べられるねっ」
「ちょっとは貯蓄しとかないといけないって」
「え~。でもでも、今までずっとライ麦パンとチーズと森に生えてる食べられる草やキノコばっかりだったんだもんっ。たまにはお肉も食べたいっ」
……ライ麦パン酸っぱくてあんまり美味しくないもんなぁ、固いし。
そうか、サラザールと一緒に居たんだからそんなに美味しい物食べてこられなかったんだよな。って草とか悲惨すぎない?
だったら仕方ないな。一日くらいは贅沢して構わないだろってか贅沢させてあげたい。
「材料買って、台所貸してもらおうか」
「それだったら安くすむね。私料理してあげるっ」
お、女の子の手料理だと……。しかもアウロラみたいな美少女の手料理?
マズ飯でも許せるぞ、これは。
「ちなみにどんな料理を作れるの?」
「えっとね~、串焼きとかポトフとか……」
なんて会話をしながらギルドの受付前にまで戻って来たのだが……。
「まだ並んでるね~」
アウロラが言う通り、受付前には未だ行列が出来ている。俺が元々並んでいた列の先で、現在報告書を作成しているのは世紀末兄弟であった。
……あの頭分かりやすすぎだろ。
「ちょっとかかりそうだなぁ」
「並ぶの私も苦手~」
そうは言っても並ばなければお金は貰えない。
仕方なく俺たちは列の最後尾へと向かって歩き出したのだが――。
「ちょっと君、アウロラちゃんも! こっちこっち!」
カウンターの横に立っている女性が何故か俺たちに向かって手を振っている。
「あ、セレナさん!」
セレナっていうと、さっきシュナイドさんが早馬をどうたら命令してた女性だっけ。
あれ、そういえば服も変わってる気がする?
俺はアウロラに引っ張られるようにしてその女性の下へと歩いていった。
女性は赤い唇と背中で一つに纏められた赤毛が特徴的な、綺麗なお姉さん――アウロラは自称お姉ちゃんなので天と地ほどの差がある――といった感じの女性で、今は動きやすそうで作業着にも似た服で身を包んでいる。
何より目を引くのは彼女が手を振る度にゆさゆさと揺れる、スイカもかくやというほど非常に豊かな女性の象徴で、ついつい視線が吸い寄せられてしまって抗うのにとても根性が要った。
「セレナさん、なに?」
「なにっていうか、シュナイドさんにセブンスウォールまで行くように命令されちゃったでしょ?」
そう言いながら、セレナは足元に置いてある鞄を足先でつんつんと突っつく。
セブンスウォールって何……なんて聞いたらやっぱ拙いかな。多分地名何だろうけど。
「あ、えっと……セレナさん、ですよね。すみません、俺のせいで」
「ああ、いいのいいの。これ結構いいボーナス出るし、私馬乗るの好きだからむしろお礼言いたいくらいかも」
その胸で馬に乗るとか大変な事になりそうなんですけど。とはもちろん言わないでおく。
代わりに軽く自己紹介をしあって握手を交わした。
「それでね。報告書が完成するまで私は手が空いてるから、ちゃっちゃと計算してあげちゃおうかなって。この情報も報告書に添付するかもしれないからね」
自分で考えて行動できるキャリアウーマンという感じでちょっとカッコイイ。
俺たちはお言葉に甘え、手に入れた81個の魔石全部をセレナに手渡した。
「それじゃあパパっとやっちゃうからね~」
ジャラジャラ魔石を鳴らしながらものすごい勢いで数えた後、装備レンタル料が~クエストボーナスつけて~と色々呟きながら計算していった。
最終的にはじき出された金額は……。
「報酬はしめて銀貨8枚と銅貨2枚っ。銀貨6枚と銅貨62枚にしといてあげるね」
銀貨1枚で銅貨30枚分だから、銅貨だけにすると242枚、つまり報酬は大体2万4200円か。しかもこれはゴブリン討伐に関する物だけで、魔獣討伐とか銀の魔石に関する報酬が後から追加されるはずだから、もっととんでもない額になりそうだ。
いや、ホント凄いな。
「凄い凄いすっご~い。私こんなにたくさんお金貰ったの初めて!」
うん、声に出されるとちょっと悲しくなるから黙ってようね、アウロラ。
一応社会人なのに二万円くらいを貰ったことないってホントに今までどんな生活して来てたんだよ……。
くそっ、俺がもっと楽な生活送らせてやるからな!
「ありがとうございます、セレナさん」
俺とアウロラはちょうど半分ずつお金を受け取ると、それを財布に入れていく。
少し大きめの財布とはいえ硬貨が三十枚以上も入ればパンパンになってしまった。
「いーのいーの。将来性のありそうな相手にはサービスしとかないとね」
そう言いながらセレナは前髪を触って……ひどく蠱惑的な流し目を送って来る。
その意味ありげな視線に、俺は戸惑いを隠せなかった。
「えへへ、なに食べよっかな」
よし、アウロラは安全だ!
ぺったんこ、小さい、子どもみたいと三拍子そろって全く危険はないぞ。
「どしたの、ナオヤ」
「いや、何でもないぞ。うん、何でもない」
「なんか失礼な事考えられてる気がするんだけど……」
「そんな事ないぞ、うん。よっし、今日はスパイシーな肉料理食べようか!」
「絶対何か誤魔化してる……」
そんなジト目で睨まれても何も白状しませんよ。
アウロラはレディ。かわ……じゃなくて綺麗で美しくて素晴らしい淑女ですからね。私の言う事に疑いを持っちゃいけませんよ、はっはっはっ。
「あ、ありがとうございました、セレナさん!」
「あら、もう帰るの?」
だから何で髪を掻き上げてうなじ見せるんですか!
なんで胸元のボタン外すんですか!
らめぇ~! たたた谷間とか見えっ、見えっ!?
「むむっ」
ぎゅぴーんっとアウロラの瞳が光り、ガルルルルッと激しい威嚇の声が上がる。
「ナオヤってば不潔! なに見てるのっ!?」
「見てない、見てないってば!!」
ちょっと視界に入っちゃったかもしれないけどそれだけだから!
まじまじと見てませんっ! ホクロがあった事にも気づいてませんっ!!
「ししし失礼しますセレナさんっ!」
「あっ、ちょっとナオヤッ!? 話はまだ終わってないんだからね!?」
俺は深々と頭を下げると、アウロラの手を取って逃げる様にギルドを後にしたのだった。
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