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第11話 魔獣決戦

 さっきの台詞は男が言ってみたい台詞ナンバーワンだと個人的に思っている。まあ、ネット上では死亡フラグだとか騒がれまくってるけど。


 かっこいいからいいじゃないか!


 ……いかん。さっきからちょっとテンションが上がってる。冷静にならないと。


 吸ってー吐いてー……吸ってー吐いてー……って、さっきからアウロラが静かだけど……もしかして外した?


「アウロラ?」


「…………」


 アウロラは手にスマホを持ったまま、器用に両手の人差し指を胸の前でくっつけていじいじしている。


 俺が名前を呼んでも、聞こえない位の小声でブツブツ呟いていてまったく要領を得ない。


「アウロラっ」


「ふひゃいっ!」


 顔を覗き込んでちょっと大きな声で名前を呼んだら何故か飛び上がって反応する。


 むぅ、顔が赤いし呼吸も少し上がってる。走り過ぎて体力消耗したか?


 もしかして逃げられないかもしれない?


「走って逃げられるよな? そしたら必ず助けを呼んで……いや、町の守りを固めて置いてほしいんだ。俺は何とかして逃げるから。……倒せたら倒すけど」


 この世界のプロが軍隊じゃないと難しいと言ってるんだから、素人の俺が倒せるなんてのは思い上がりだ。


 さっきのはあくまでもネタでしかない。


 俺の目的は、アウロラが逃げ切れる時間を稼いで、運よく撃破できれば撃破するってだけだ。


 作戦はいのちだいじに。ガンガン行くつもりはない。


「わ、私逃げないもんっ、絶対逃げないっ」


「じゃあアウロラが残るっていうのか? そんなの絶対許さないからな」


「お姉ちゃんの私がナオヤを置いて逃げるはずないでしょ! ナオヤが逃げるのっ」


 お姉ちゃんを自称する人は、両手を上げたり下ろしたりバタバタさせながら主張をしないと思います。


「それか、一緒に戦うの。パーティーでしょ」


「一人で戦う方が助かる可能性が上がると思うんだけど」


 普通に考えたら、二人で戦えば、二人共死亡する可能性の方が高い。


 別々なら隠れやすいし逃げやすいから両方助かる可能性も上がるはずだ。


 何よりスマホは一台しかないのだから。


「だーめっ。そんなのお姉ちゃんが許さないんだからっ! 一緒に戦うか、ナオヤが逃げるか、一緒に逃げるのっ」


「こういう時は男が残るって決まってるから!」


「だめっ」


 言い合っている間にも地響きはこちらに迫って来る。


 肌に感じるほどの圧迫感が、徐々に近づいてきていた。


 時間が――ない。


「……分かった。戦うから早くスマホを」


 もう逃げるのも隠れるのも多分無理だ。


 相手は明らかにこちらを狙って走ってきている。


 戦うしか選択肢が残されていなかった。


「うん」


 アウロラは素直にスマホを渡してくれる。


 ここから先は言い合いなんてしていたら、確実な死が訪れると分かっているからだ。


 俺とアウロラは運命共同体。生きる時も死ぬ時も一緒だ。


「それから障壁を張った時に引っかけない様なるべく近くに居てくれ」


「分かった」


 二人なら二倍防げるから、二倍……生き延びられるとは限らないよなぁ。


「じゃあ、ブラスト・レイで先制攻撃するから、アウロラは誘導指示をしてくれ」


「うんっ」


「それから……」


 他にもいくつかの遣り取りをした後、二人で頷き合う。


 絶対に生き延びる。その覚悟を抱いて――。


「行くぞっ!」


「ええっ!」


 二人で同時に物陰から飛び出した――瞬間。


 魔獣が、獅子の顔と体を持ち、蛇とヤギの頭をその横に生やしている三頭の巨大な獅子が咆哮を上げる。


 俺たちを食うつもりなのか。はたまた殺す事が出来るからなのかは分からない。


 いや、理由なんてどうでもいい。


 魔獣は間違いなく喜んでいた。人間である俺たちを見つけて。


「正面っ! 100歩」


 俺はこの世界の単位を知らない。だから歩数で表現してもらう事にした。


 アウロラの一歩は大体60センチだから、60メートルか。


 距離をすぐに認識できるのはさすがだと思う。ゲームに慣れ切った現代っ子の俺じゃあ多分無理だ。


「初撃で終わらせるっ」


 俺は右手をまっすぐ伸ばし、スマホを持った左手をその上に重ね、右足を後ろに退いて砲撃の体勢を取る。


 腕そのものが銃になったとイメージして、獲物をセンターに入れ――。


≪ブラスト・レイっ!!≫


 光線の魔術を撃ち放った。


 光の筋が大気を食い破りながら魔獣に向かって突き進む。その代償と言わんばかりに俺の右腕に巨大なプレッシャーがかかる。


 反動で暴れ出しそうになる右腕を、歯を食いしばって押さえつけ、魔力を注ぎ込む。


「右に避けたっ」


「くっ」


 光線のせいで視界が利かない俺の代わりに、アウロラが背後をちょこまかと移動しながら指示をくれる。


 それに従って、俺はわずかに砲口を微調整していく。


「飛んで避けたっ、左4歩! 接敵まで80歩!」


 ちょこまかとっ、これが魔獣かよっ。


 小型で持ち運びが楽なスマホでも捕えきれないのだ。特定の場所に固定された砲台では更に捕らえられないだろう。


 なるほど、これは軍隊が総出でって話になるな。


 だけどいい情報もある。魔獣は攻撃を避けている、つまり……当たれば倒せるはずっ!


「後70歩!」


 俺は一旦魔術を切ると、素早くスマホを操作して写真を切り替える。


 選んだのは――。


≪バーニング・エクスプロージョン!≫


 俺の手のひらから直径5、60センチはありそうな巨大な火球が発射され、火矢の半分程度の速度で突き進んでいく。


 狙いは、魔獣――の手前の地面。


 火球が地面に触れたと同時に爆発四散し、周囲に爆風と火炎をまき散らしていく。


 そのあおりを喰らった魔獣は顔を背けてその場に一旦停止する。


「止まった!」


 ブラスト・レイではないため、こちらも魔獣の姿は見えているが、正確な距離感を即座に教えてくれるのはありがたい。


 魔獣が火を恐れたのならば他の魔術も聞くことになるが――?


≪ブラスト・レイ≫


 挨拶代わりの攻撃は当然の様にかわされてしまう。


 こちらもそれを分かっていたためすぐに魔術を切り替える。


 70歩――約40メートルほどの距離を挟んで睨み合う。


 先ほどまでの歓喜の様子は、もう感じ取ることが出来ない。恐らくは俺たちが相応の歯ごたえがある存在だと認識してしまったのだろう。


「アウロラ。アイツはどのくらいの大きさになるんだ?」


 視線を逸らしてしまわないよう腹に力を入れて合計六つもある魔獣の瞳を睨み返す。少しでも弱い所を見せれば、奴は即座に襲い掛かって来るだろう。


「高さは多分、8、9歩ぐらい」


 だいたい5メートルってことはあのライオンの頭だけで2メートルはあるのか。


「それはそれは……。俺たちなんて丸呑みできそうだな」


「そうだね」


 冗談でなくそれぐらいできるだろう。そして、俺とアウロラを食ったとしても、奴の巨体からすれば前菜程度にしか感じないはずだ。


 メインディッシュはもちろん、俺たちがやって来たあの街になる。


 それは絶対にあってはならない未来だ。食い止められるのはきっと俺たちだけ。


「アウロラ。さっき言ったのやれる?」


「さっきのって……うん、難しそうだけどやってみる」


「大丈夫。これだけ距離感を掴むのが上手かったら出来るさ」


「う、うん」


 俺たちの方針は決まった。


 ぶっつけ本番で成功させられるかはアウロラにかかっているけれど、多分アウロラなら出来るはずだ。


 俺は――アウロラを信じてる。


 得も無いのに見ず知らずの俺を助けようとする、優しくて何事にも一生懸命なアウロラが、報われずにここで死ぬなんて絶対にあってはならないから。



読んでくださってありがとうございます

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