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決戦前夜

王都を出て一月、ナミロは苛立っていた。

キマから聞いていた情報で、古い土着の神の居場所は大体把握しているつもりだった。

しかし見つけられたのはわずかに五匹程、しかも大して力を持たぬ神ばかり。


その上最近は、自分の中に一体何をやっているのかという思いが浮かぶようになっていた。

ともすれば暖かい日差しの中で眠りたいという衝動が沸き上がってくる。

何かがおかしいと感じつつも、その原因が分からず苛立ちは募るばかりだった。


その日訪れた村には、キマの話では蛙の神がいる筈だった。

しかし社はカラッポで手入れされた様子も無い。


キマは堕とす神を信仰が途絶えた弱い神を中心に選んでいた。

ゆえに消滅していても不思議はないのだが、ナミロはキマの情報が当てにならないと決めつけ怒りを募らせた。


『グルルッ、クソ猿め、いい加減な情報を寄越しおって……』


不意にナミロの目に遠く村人達の姿が見えた。


神には及ばないが、人でも喰らえば少しは力を得れる。

それにいずれ自分の物になる奴らだ。今喰っても構わんだろう。


思い通りにいかない苛立ちは、ナミロの足を村へと向かわせた。




シロウ達が駆け付けた時、村は焼かれ人々は無残に食い千切られていた。


「酷え……」

「シロウ手伝え!!この者はまだ息があるのじゃ!!」

「おッ、おう!!」


アルの声で駆け付けると、焼け焦げた建物の残骸の下に中年の男が挟まっている。

シロウが残骸を持ち上げると、アルが素早く男を引き出した。

傷ついた男をアルの放つ光が癒していく。


「ファル!他にも生存者がいないか探してくれ!」

「はっ、はい!」


シロウ達はファルの情報網を使い、ナミロの巡った後を辿っていた。

これまでナミロは神は襲っても、人間に手を出す事は無かった。

その事で油断していた。


人を襲わなかったのは恐らく効率の問題だろうが、大半の神がファルの働きで姿を隠した事で方針を変えたのかも知れない。


「シロウ様!!こちらをお願いします!!」


元は石造りの倉庫だったのだろう。

バラバラに崩れた石の下からうめき声が聞こえて来る。

シロウが石を除けると、子供を二人抱えた母親と思しき女が現れた。

母親は瓦礫によって怪我を負い意識を失っているが、抱かれた子供はどちらも無傷の様だ。


ホッと息を吐きアルを呼ぶ。

そんな事を繰り返し、助けた人々は三十名以上に及んだ。


「ありがとう御座います!あなた方は命の恩人です!」


村人の代表、長老というには若すぎるが、生き残った者の中では一番年長者であろう男がシロウに頭を下げる。


「礼はいらねぇ。すぐに都から至高神の奴らが当座の食料とか持って来るはずだ。取り敢えずそれで凌いでくれ」

「おお!?何から何まで感謝のしようも御座いません!」

「だからいいって。……もとはといえば手を打たなかった俺の所為でもあるしな」

「はぁ、あの貴方様は一体……?」


沈んだ様子のシロウに男は不思議そうに尋ねる。


「……俺は伝道師。癒しの獅子神アルブム・シンマ様の伝道師だ」

「獅子神……、お坊様でしたか」

「まあな。……村がこんな事になったアンタ達に頼むのは気が引けるが……聞いてもらえるかい?」

「……何でしょうか?」

「村を襲った怪物、あいつの事を猫だと思って貰いてぇ」


男はナミロの話が出た事で顔を歪めた。

無理も無いだろう。

目の前で知り合いを殺され、男も助かったとはいえ襲われたのだから。


「……どういう事でございますか?」

「アイツの名前はナミロ・メラハ、古い土着の神だ。俺はアイツを倒す為に力を弱めてぇ」

「我々があの化物を猫と思えば倒せるようになるのですか!?」

「ああ、直接襲われたアンタ達には酷な事かもしれねぇが……」

「やります!!それであの獣を殺せるのなら何だってやって見せます!!」


シロウは憎しみに燃える男の目を見て、少し顔を伏せた。


「……思う事だが、奴は何の力も持たねぇ眠るだけの猫だと強く信じて欲しい」

「分かりました。ナミロ・メラハは眠る猫ですね……」

「そうだ。……それとこいつはついでで良いんだが……」

「何でも言って下さい!」


男は意気込んで尋ねる。

助けられた事でシロウの事を全面的に信用しているようだ。


「傷ついたアンタ達を癒したのは獅子神アルブム・シンマ様の力だ。思い出した時でいい、感謝の祈りを捧げてくれねぇか?」

「勿論で御座います!何でしたら村人全員、アルブム様の信者になっても構いません!いえ信者にして下さい!」

「いや、そこまでは……」

「何をおっしゃいます!生き残った者全てが傷一つ無く助かるなど、奇跡以外の何物でもありません!」


男はそう言うとアルに感謝の祈りを捧げた。


「おお!?凄いのじゃシロウ!!こんなに激しい感謝は久しく受けていなかったのじゃ!!」


輝くような白髪の美女が、村人の為に狩ってきた鹿の肉を配る傍ら驚きの声を上げている。

シロウはこの一か月、ナミロの後を追い国中を巡り村や街で、ナミロという猫の神がいるという話を流して来た。

同時に怪我人や病人の治療を行い、アルの名前を広めて来た。

その事で彼女に祈りを捧げる者が増え、アルの容姿は二十歳前後まで成長していた。


まぁ見た目は美女に変わったが、中身は殆ど変化していない。

今も肉を配りながら、たまにつまみ食いをしている。

ちなみにファルは鹿の後ろ脚に豪快にかぶり付いている。

小柄な見た目とのギャップが激しすぎて、村人達は明らかに引いていた。


「あの方たちもアルブム様の伝道師ですか?」

「まぁそんなもんだ」

「お二人にもお礼を言わないといけませんね」


男はそう言うとシロウに頭を下げ、アル達の下に歩いて行った。


現在は姿を消したキマに変わり、教団を纏めたファニと協力しナミロが襲った神を救う為、シロウとアル、そして連絡役とファルの三人で動いている。

またファニが教団を掌握した事で、貴族達に潜り込んでいた教団の人間には手を引かせる事が出来た。


ウルラ達にはクレードと協力してもらい、貴族達にナミロの姿について民に流してもらう事にした。

触れを出した所でどの程度の効果があるのかは疑問だが、何もしないよりはましだろう。


本当は完全に弱るのを待ってアルに封印してもらうつもりだったが、人を襲い始めたナミロを放っておく事は出来ない。


「やるしかねぇか……」


男に礼を言われて、この状況で素直に喜んでいいのか迷っている二人を眺めながらシロウは小さく呟いた。

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