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輝く雨の降る街で

貧民街に開いた深い穴。

その穴の縁から恐る恐る底を覗きながら、シロウとアルが話している。


「おい、これって二人とも死んでんじゃねぇのか?」

「じゃから、我はその様なしくじりはせぬ。ナミロは頑丈じゃから精々気絶しておるだけじゃ」


ナミロについては、名前が出た当初からどういった神なのか、どう戦うのかをシロウはアルと相談していた。

その土台を元にシロウは願いを使い、アルに大穴にナミロを落とす事を伝えたのだ。


「しっかし、話の通り直情的というか、単純な奴だったな」

「フフン、我の言うた通りじゃろ?そもそも神はその性を簡単には変えられん」

「そうなの?ウネグとかは変わったって言ってたぜ?」

「ウネグやランガを僅かとはいえ変えられたのは、お主だったからじゃ。普通の人間では難しかったじゃろう」


複数の人の心を統一させ、想いを一つにまとめる。

その為には纏める者がカリスマ性を持ち、絶対的な信頼感を得なければならない筈だ。

ある種のテクニックを使えば成し得る事も出来るだろうが、それにも時間は必要だろう。


多くの魂をその身に棲まわせ、自身の想いがその魂と共鳴するシロウだからこそ、短期間で神の存在、性に影響を及ぼす事が出来たのだ。


二人が話していると、マオトとファル、それにチビとウネグが駆け付けてきた。

ウネグの後ろには猫と茶髪の男が付き従っている。

男は若く年齢は十代半ば程に見えた。


「ん?チビ、キマはどうしたんだ?」


シロウが尋ねるとチビは申し訳なさそうにキューンと鳴いた。

どうもキマには逃げられたようだ。


「気にすんな。巻き込まねぇ様、逃がしたかっただけだ」


そう言ってシロウはチビの頭をワシワシと撫でた。

その様子をファルが妙にジトッとした目で見つめている。

膝をつきチビの腹まで撫で始めたシロウにウネグが尋ねる。


「ねぇ、何が起こったの?」

「そうだ!?ファニ様は!?」

「……えーと、ファニはナミロと一緒にこの穴の中だ」

「何だと!?ファニ様!!」


それを聞くとマオトは迷いもなく穴の中に飛び込んだ。


「あっ!?おい!?」

「あの者も不死鳥の眷属じゃ。そう簡単には死なんじゃろ。それよりウネグ、何故猫達を引き連れたままなのじゃ?」

「……匂いが強烈過ぎたみたいで、香りを消しても離れてくれないのよ。……シャオ、アンタどうにかしなさいよ」

「どうにかしたら、あの匂いをまた嗅がせてくれる?」


シャオはウネグにすり寄りながら尋ねた。

まるで餌をねだる猫の様だ。

それを見て他の猫達もウネグの足元に集まってきた。

ファルは少し怯えた顔で、そっとウネグ達から距離を取っていた。


「凄えぜウネグ、まるで猫使いだな」

「猫使いと言うよりは、餌で集めたと言う方が近いのではないじゃろか?」

「そうだな。昔見た公園でハトに餌やってる爺さんみてぇだ」

「アンタ達、覚えておきなさいよ。……それでどうするの?」


シロウは立ち上がり、穴の中を覗いた。


「ナミロと話す。どのみち、ずっと戦いを求められちゃ迷惑だ」

「そうじゃの。シロウならナミロの事を変えられるやもしれん」


そう話す二人の耳に、穴の底からガシガシという音が入り込んだ。

音は凄まじい速さで大きさを増していく。


「なんだ?」

「シロウ下がれ!?」


アルが言うより早く、深紅の獣が穴から飛び出して来た。

獣はその身に炎を纏い空を舞う。

その姿にウネグの周囲にいた猫はいっせいに逃げ出す。

それに混ざってシャオもどこかに姿を消した。


『グハハッ、もっと早くこうしておれば良かったわ!!』


その口にはファニとマオトが咥えられていた。

二人を唾でも吐く様に地面に吐き出し、ナミロはシロウとアルを睨め付けた。


『その二人は手始めだ。俺は全て神を喰らって再び貴様らの前に現れる。その時が貴様らの最後だと知れ』

「させるかよ!!」


シロウは剣を使い氷柱を打ち出した。

アルもそれに習い稲妻を放つ。


だが氷柱は炎に打ち消され、稲妻はナミロの体表を焦がすにとどまる。

その焦げた体表も見る間に癒えていく。


『フンッ、今の力でも踏み潰せるが、先ほどの様な無様な戦いは俺の矜持が許さぬ。今日の所は見逃してやろう』


それだけ言うと、ナミロは鼻を鳴らし東の空に飛び去った。


「二人とも何してるの!?追わないと不味いじゃない!?」

「いや、あいつの言う事は正しい、今の俺達じゃ止められねぇ」

「そうじゃの、あの速さで体が癒えるなら、我でも押し込む事は出来んじゃろ……」

「そんな……私達、皆食べられちゃうの?」


ウネグの出す不安を聞きながら、シロウはファニとマオトに近づいた。


「アル、頼む」

「うむ、任せよ。……二人とも息はあるようじゃ」


アルは手を翳し二人を癒していく。

シロウは周囲を見渡し建物の残骸に隠れ、頭を抱え震えているファルに声を掛ける。


「ファル!」

「はい!?」

「鼠を使って出来るだけ多くの神に身を隠すよう伝えてくれ」

「はっ、はい!承知いたしました!」


ファルに指示を出したシロウは、ファニ達の傍らに膝をついた。


「どうだ?」

「流石、不死鳥。治りが早いのう」

「何を暢気な事を……」


ウネグの言葉を他所にシロウとアルはファニの様子を伺う。

程なくファニは目を開けた。


「……あなた達が私をあの地獄から救ってくれたのですね。……ありがとう」

「礼はいい。それより穴の中で何があったか教えてくれ?」

「……何が……。気付いた時にはマオトがナミロの牙に……マオト!マオトは無事ですか!?」

「大丈夫だ、アンタの隣で寝てるよ」

「良かった……」


シロウの言葉で安心したのか、ファニは起こしかけた頭を再び地面につけた。


「穴の底の話でしたね。……とは言っても話せる事は殆ど無いのです。マオトを咥えたナミロはそのまま動きの取れない私を牙で引き裂きました。……体から力が抜けていき、気が付けばあなた達が覗き込んでいたのです」


「ふむ、力のみを奪ったのじゃな。……ナミロは覇王、武力で全てを統べる神じゃ。……侵略と略奪、元々奪う力が備わっていたのじゃろう。彼奴も知らなかったようじゃがな」

「侵略と略奪……、なら何で二人を完全に喰わなかったんだ?」


シロウの問いにはファニが答えた。


「腹の中に神を飼いたくなかったのでしょう。喰い破られては堪りませんから……」


ファニの言葉でシロウはルクスの事を思い出した。

彼は腹に悪神と化したマグナを封じていた。

マグナは消滅する事無く、逆にルクスから力を奪い復活しようとしていた。

ナミロがその事を知っていたかは分からないが、本能的に危険を感じたのかも知れない。


「ふむ、これからどう動くのじゃ?」

「そうだなぁ……。ナミロの後を追う形で襲われた神を助けよう。同時にナミロの話を住民にして奴の形を変える」

「そんな事でどうにかなるの!?」

「分からねぇ。でも出来る事をするしかねぇだろ?」

「そうじゃ、今出来る事を最大限するしか無いのじゃ!」


アルはそう言うと両手を掲げた。

雨雲が王都の上に広がり、やがて雨が降り始める。

雨の粒はほのかに薄緑色に輝いていた。


「癒しの雨か……」


雨はファニやナミロによって傷ついた人々を癒すだろう。

輝く雨の降る街にシロウの呟きは溶けた。

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