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王都を染める光

神殿を探ろうとしていたファルが突然よろめき膝をついた。

驚いたシロウがファルに駆け寄り肩に手を添える。


「どうした!?」

「すみません、仲間が…眷属が突然焼かれたもので…」

「焼かれた!?何が起きてる!?」

「不死鳥が……彼女は既に堕ちています。……貧民街へお早く」

「クソッ、まさか身内まで使うたぁ……。アル行けるか!?」


アルは頭を振り、頷きを返す。


「……大丈夫じゃ。急ごう」

「マオト!!ファルを頼む!!」


シロウは獣になったアルの背に乗り、貧民街へ向かった。


「待て!?私も行くぞ!!」


マオトはシロウを追おうとしたが、任せられたファルを置いていく事も出来ず躊躇を見せる。


「……私は大丈夫です。突然、数十の眷属が焼かれたので、苦痛を感じただけです。気にせず行ってください」

「ふらついている女を放って行けるか!!」


マオトは眉間に皺をよせ、ファルに癒しの術を施した。




貧民街では突然現れた黒い怪鳥により混乱が起きていた。

怪鳥は苦痛の声を上げながら周囲を熱線で破壊していく。


熱線は火災を生み、焼け出された人々がバラバラに逃げ惑う、それにより被害は余計拡大していた。


そもそも貧民街は区画整理など為されておらず、中心部の様に理路整然とした街並みではない。

道にはみ出した家が行く手を遮り、木造のあばら家が軒を連ねている。

消火の為の設備も人員も無く、統制を失った人々は唯、悲鳴を上げ我先にと逃げるばかりだった。


そんな人々の上に突如として黒い雲が広がる。

雲は風を呼び、やがて嵐のような雨を降らせ始めた。


「お母さん、あれなあに?」


娘を抱いて逃げていた女は、幼子が指さした先を思わず見上げる。

娘が指した先の空には白く光る一頭の獣が天に向かって吠えている。


「……白い……獅子?」


獣は周囲に閃光を帯びると、一瞬で消えた。


悪神と化したファニの上をアルは飛んでいた。


『火は消せるが大元を断たねば意味が無いのじゃ!!』

「ファニを止める!!アルはあいつを浄化してくれ!!」

『任せるのじゃ!!恐らく近くにキマがいる筈じゃ!!気を付けよ!!』

「分かってるが今は奴を止めるのが先だ!!」


シロウは腰の剣を握ると、アルの背から飛び降りた。

その姿を認めたファニはその身から黒い炎を噴き上げる。

炎が迫る中、剣を引き抜き叫ぶ。


「チビ頼む!!」


子犬の鳴き声が聞こえ、剣から吹雪が噴き出した。

吹雪は炎を相殺し、シロウは石畳に降り立った。


『ゆるじでぐだざい……』


ファニが嘆く度、周囲に熱線が走り家を焼く。

シロウには彼女が自我を無くし暴走しているように見えた。

先程の炎もシロウを狙った物では無く、動く物に反応しただけの様だ。


「動きを止めねぇと……」


シロウは柄を握り、ファニに切りかかる。

その動きに反応してファニは次々と熱線を放った。


『おうはじんだのでず……わだじでは……』


ファニの光り輝いていた体はどす黒く染まり、瞳から黒い涙を流している。

シロウが躱した熱線は家を焼き、街を破壊していく。

遠く怒号と悲鳴が聞こえてくる。


「時間は掛けられねぇな。思いっきりやるぜ。不死鳥の名は伊達じゃねぇって所を見せてくれよ」


シロウは剣を突き立て、白い子犬を思い浮かべると願った。

剣は以前ランガを止めようとした時とは比べ物にならない冷気を吹き出す。

あの時、吹雪はシロウの体をも凍らせた。

だが新たな剣は冷たさを感じる事さえなく、逆に守る様な暖かさを感じさせた。


唐突に兵士が現れシロウを取り囲む。

だが、剣から子犬が飛び出し遠吠えを上げると、兵士は凍り付き砕け散った。

さらに子犬は氷柱を次々と打ち出す。


「どうして私の場所が!?」


シロウが声がした場所にチラリと目をやると、右手を氷に貫かれたキマがこちらを睨んでいた。

子犬がピスピスと鼻を鳴らしている。


「何故、獅子神までが此処にいるのです!?彼女は東に向かった筈!?」

「悪ぃな俺が呼び戻した。チビ、ありがとな。キマ、お前の相手は後だ!!」

「おのれ、唯の人間と言葉も喋れぬ生まれたての神風情が!!」

「ワンッ!!」


チビが一声鳴くと、キマに向かって吹雪が押し寄せる。


「クッ、何故術が利かぬ!?」


匂いで場所を探っているチビには、視覚に作用するキマの術は相性が悪いようだ。


キマの相手はチビに任せて良さそうだな。

シロウはそう考えファニを止めるべく、更に強く剣の柄を握った。

噴き出した冷気はシロウの周囲を白く染めていく。


「何ですその剣は!?」

「へへッ、爺様達には礼を言っとかねぇとな」


ビキビキと周囲の凍り付いた建物が音を立てる。

水の入った樽や壺が凍り付き砕けて行く。


『ゆるじで……』


ファニは変わらず炎を噴き上げていたが、既に体の半分は氷に覆われていた。


『凄いのじゃ……。我も負けてはいられぬな』


アルは意識を集中し雷雲を練り上げる。

自然界には存在しない、天高く伸びた筒型の雲はその内に電気の渦を発生させる。


「馬鹿な!?この短期間で何故そこまでの力を!?」


雲を見上げ、集まった力の大きさを感じたキマが驚きの声を上げる。


『目を閉じよシロウ!!』


シロウは体の毛が総毛立つような感覚を感じた。

凍り付いた建物や石畳の上を小さな稲妻が這う様に動いている。


シロウが目を閉じた瞬間、淡く緑に輝く光の柱がファニに降り注いだ。

その光は貧民街のみならず王都中を白く染め上げた。


シロウが目を開けた時、ファニの姿は瓦礫ごと消えていた。

ファニがいた地面には底の見えない深い穴が開いている。

シロウは二、三度頭を振って、突き立った剣を抜きその穴に駆け寄った。


「……まさか死んだんじゃ。おーいファニ生きてるかぁ!?」

「ランガの時も言うたが、我がその様な失敗を犯す訳がなかろう?」


シロウの隣に降り立ったアルが得意そうに答える。


「……お前さぁ、少しは加減しろよ。どうすんだよこの穴?」


アルは穴の縁から底を覗き込み、少し慌てて言う。


「みっ、水でも張っておけば良いではないか」

「街のど真ん中にか?邪魔でしょうがねぇだろ?」

「ファニの様な強い神を止めるにはこれしか無かったのじゃ!!」


二人のじゃれ合いをキマは茫然と眺めていた。

彼はアルの逸話を伝承でしか知らない。

書物で読んだそれらは全て噂に尾ひれが付いた物だと考えていた。

だが書物は真実を伝えていたようだ。


雨が炎を消していく。

キマは人々の感謝の祈りがアルに流れて行くのを感じていた。

輝く獅子を見た者達が、噂を伝えたのだろう。


キマはナミロにその役を与えるつもりだった。

ナミロが堕ちたファニを屠る様子を、幻で歪め人々に見せつける。

輝く全能の神として人々に認識されたナミロは、存在を変化させ完璧な神として生まれ変わる。

しかし人々の心には、アルの姿が焼き付いてしまった。


「……これでは、もう」


キマと同様にアルの後を追った、マオトもファルも絶句していた。

回復したファルを抱え飛んだのだが、空に上がった時には光の柱が閃光を放っていた。


『あれは獅子神の力か……?』

「文献は本当だったのですね。獅子神の鉄槌は大地を貫いた……」


呆然と空を舞うマオトの横を深紅の風が通り抜けた。

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