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深紅の虎

王城近くの公園で金髪の男と黒髪の男が、池の前の芝生に腰を下ろしている。


「違和感ねぇ」

「そうだ。ハッキリとは言えないが何かが違う気がしたのだ」


金髪の男、マオトはシロウの名前を聞いて一瞬身構えたが、この男を利用すればファニを眷属の下に取り戻せるのではないかと考え、シロウに状況を説明する事にしたのだ。

眷属はキマの言葉を信用しているようだし、自分一人が息巻いても事態は動かないという思いもあった。


「お前の話だと、確かにあの女らしくねぇなぁ。少し話しただけだが、ファニって女はもっと激情家だろう?」


マオトはシロウの言葉遣いが癇に障ったが、内容には納得出来る部分もあった。


「……確かにその通りだ。ファニ様はご気性の激しい方だ。だが先程はしくじった私を叱責される事も無かった」

「だろう?……お前、キマに幻でも見されられてたんじゃねぇのか?」

「幻……。しかしお会いしたファニ様はお姿も声も……」

「あの猿ならそんぐらい朝飯前だろう?」


面会したファニが幻だとしたら本物は何処に……。

俯いたマオトの横顔を見て、シロウは明るくその肩を叩いて言った


「まぁ焦んなよ。今、仲間が居場所を探ってるからよぉ」

「本当か!?」

「ああ、ちょっと手こずってるみてぇだけど、すぐ分かるさ。なぁファル!?」


呼びかけられて、灰髪の男装の女性がシロウ達に歩み寄った。


「お前はキマの所にいた!?貴様、この女はキマの手先だぞ!?」

「今は俺達の仲間さ。んでどうだファル?」

「すみません。神殿に入り込もうとしているのですが、猫が多くて……」


「猫?」

「はい、おそらく猫神のシャオが操っているのだと思うのですが……」

「猫神……。ホントにいるんだな。まあいいや、マオトだっけ、お前の話じゃアルは帰って来てるんだよな?」


マオトはシロウの問いに頷きを返す。


「獅子神はザルト様の集落が落ち着いたら帰ると言っていた。恐らくもうこちらに向かっているはずだ」

「それじゃ続きはアルが帰って来てからだな」

「そんな悠長な事を言っていられるか!ファニ様が捕まっているのだぞ!?」

「しょうがねぇなぁ。んじゃ呼ぶか」

「呼ぶ?」


シロウは目を閉じアルに願う。


「アル、悪いが急いで戻って来てくれ。頼む。……多分これで届いた筈だ。飯でも食って待ってようぜ」

「ご飯!!」

「願いを神を呼び出す手段に使うな!」

「良いだろ、便利なんだし。戻って欲しいってのは本当なんだしよぉ」

「シロウ様、本日は何を頂けるのでしょうか!?」

「お前はホントに食べんのが好きだな」


シロウは立ち上がり、ファルの頭をポンポンと軽く叩く。

その後、マオトを見下ろし手を差し出した。


「行こうぜ。動く前には腹ごしらえしねぇと」

「……私はお前の仲間になった訳ではないからな。あくまでファニ様を取り戻すまでだ」

「分かってるよ」


シロウはそう言うと、ニカッと笑った。




シロウがマオトと話していた何日か前、集落も大分落ち着き、アルは王都に向かう事をザルトに告げた。


「そうか。悪いが俺はもう少しここに残る。逃げ出した家畜を探さねばならんしな。獅子神、今回は助かった」

「ふむ、家族の事じゃ、気にせず思う存分やるがよい。我の方こそすまんの、何も無ければ付き合うのじゃが……」

「構わんさ。一族を癒してくれただけでありがたい」


二人が話していると、子供を引き連れたウネグが話を聞きつけ駆け寄って来た。


「アルブム王都に帰るの!?」

「そのつもりじゃが……。すっかり人気者じゃの」

「子供にモテても仕方がないのよ!!モテるなら力のある男でなきゃ!!」

「して、何用じゃ?」

「私も一緒に王都に帰るわ」


それを聞いた子供達が一斉に騒ぎ始める。


「えー、ウネグ姉ちゃん帰っちゃうのぉ!?」

「ずっと一緒にいてよぉ!!」

「そうだよ、もっとお話聞きたいよぉ!!」

「帰っちゃヤダぁ!!」

「うぇえええん!!」


駄々をこね始めた子供達を見て、ウネグは少し顔をひきつらせた。

しゃがんで泣いている子の頭を撫でながら子供達に言う。


「ずっと一緒にはいられないわ。新しいお話を仕入れてこないと、話す話が無くなっちゃうでしょ?」

「……また来てくれる?」

「そうね。あなた達が良い子にしてたらね」

「姉ちゃんに言われなくても俺達は元々良い子だよ」

「アンタは少し口の利き方を覚えなさい」


ウネグは生意気そうな男の子の頬っぺたをつねった。


「いてて!姉ちゃん分かったから!!」

「分かればよろしい。その内また来るわよ。ほら解散、解散」

「ちぇっ、約束だぜ」

「絶対また来てね」

「はいはい」


その様子をアルもザルトも微笑みながら眺めた。


「なによ?」

「いや、案外世話好きだと思ってな。狐、お前意外といい母親になれそうだな」

「そうじゃの」


「私が欲しいのは贅沢で左団扇な生活なの!!子供の世話にてんてこ舞いの暮らしじゃないんだからね!!」

「じゃが、とても楽しそうじゃったぞ」

「そうだな。それに一族の子供があれほど懐いているのは初めて見た。ずっといて欲しいぐらいだ」


笑みを浮かべるザルトを見て、ウネグはアルに詰め寄った。


「早く帰りましょう!一秒でも早く!今すぐに!」

「分かった、分かった。ではのザルト、王都で待っておるのじゃ」

「ああ、シロウによろしく言っておいてくれ」

「うむ、では行くかウネグ」

「早く早く」


急かすウネグに苦笑しながら、アルは獣に姿を変え雲を纏い空に上がった。


「はて、何か忘れておる気がするのじゃが……」

「忘れ物なんてないわよ!それより一刻も早くあの集落から離れて頂戴!子供の世話を押し付けられちゃう!」

「フフッ、お主素直ではないのう」

「何がよ!?」


そんな事を話しながら、アルとウネグは西に向かい旅立った。


集落ではアルの指示で家畜に餌をやっていたガーヴが、アルを探して歩いていた。


「ねぇザルト君、アル君知らない?」

「獅子神ならさっき王都へ向かったぞ」

「王都に!?なんで教えてくれないのさ!?」

「ウネグがえらく急かしてな。教える間も無かったんだ」

「ウネグ君が!?……あの狐、さては僕とアル君を引き裂くつもりだな。そうはさせないよ!!」


しゃがんで土を操り飛ぼうとするガーヴの足が氷でガチガチに固められる。


「なッ!?」

「ガーヴ、お前にはしっかり働いて罪を償ってもらうぞ」

「ザルト君!?そんな今日まで色々働いたじゃないか!?」

「あんな物で足りる訳ないだろう。まだまだしっかり働いてもらう」

「そんな……アル君…アルくーん!!」


掌を空に掲げ叫びをあげるガーヴに、ザルトは肩をすくめため息を吐いた。




巨大な獣が闇に紛れて、王都近くの森の中に降り立った。

深紅の体毛に黒い縞の入った虎に似た獣だった。

その獣に小柄な老人が話しかける。


「突然、呼び出して申し訳ありません」

『全くだ。ようやく地位も上がり面白くなってきた所だというのに。それで俺の楽しみを奪った理由は何だ?つまらん話ならこの場で食い殺すぞ』


「計画が少し困った事になりまして、少し手順を変えて事を進めようと思います」

『フンッ、下らん謀などするからだ。だから適当な神をぶちのめして、悪神に堕とせばいいと言っただろうが?』


キマは獣の言葉に顔を歪めた。

しかし、それも一瞬の事ですぐににこやかな笑みに表情を戻す。


「仰る通りです。それでナミロ殿にはその悪神を屠って頂きたいのです」

『ほう、堕とす神が見つかったのか?一体誰だ?』

「不死鳥ファニ・ムラク」

『不死鳥……。グハハッ、良いぞ!!あの女は昔から気に食わなかったのだ!!……いつやる?』

「完全に堕ちるまでもう暫くかかるでしょう。ですがそれ程お待たせはしない筈です」


獣は口を歪め、舌なめずりをした。


『不死鳥か……、どんな味がするのか楽しみだ。キマ、分かっていると思うが俺は長くは待たんぞ』

「承知しております。ナミロ殿」


頭を下げたキマの前で、ナミロと呼ばれた深紅の虎は愉快そうに笑い声を上げた。

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