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違和感

至高神の神殿に戻ったマオトは、ファニに会うべく彼女の部屋に向かった。

ファニがキマの指示で北に向かった事は知っていたが、一族の祖である彼女が自分より戻りが遅い等考えられない。

だが何時も部屋の前にいる筈の側近達がその日はそこにいなかった。


神殿を巡り人間の高司祭を捕まえファニの行方を尋ねる。

彼の話では眷属たちは、挙って叡智神のキマのもとを訪ねているという。


マオトが彼らの後を追う為、神殿の入り口に向かうと丁度眷属たちが帰って来たところだった。


「ファニ様にご報告が有る!早急にお会いしたい!」

「それは無理だ」

「無理だと!?どう言う事だ!?」

「ファニ様は体調を崩され、叡智神の神殿にて療養されるとの事だ」


体調を崩す!?不死鳥族の長たるファニ様が!?

そんな事ある筈が無い。


「仮に体調を崩されたのであれば、我らがお側にて施療に当たるのが筋だろう!?」


「ファニ様ご自身が我らに命じたのだ。……キマ様の指示で向かった北で力を使い過ぎたらしい。今はキマ様の持つ秘宝でその力を取り戻されている最中だ」


指示云々は他の者に聞かれぬよう、マオトの耳元で囁かれた。



「秘宝だと……。信じられん!直接行って確かめて来る!」

「待て、キマ様は安静が必要だと…。待て!待つのだマオト!」


眷属の制止を振り切り、マオトは叡智神の神殿へ向かった。

五大教の神殿はどれも王城近く、街の中心部に建てられている。

マオトは大扉を叩きつける様に開き、驚く司祭の襟首を掴みファニの居場所を問う。


「ファニ様は何処にいる!?」

「おっ、落ち着いて下さい。我々もお加減が悪いとしか知らされていないのです」

「嘘を吐くと為にならんぞ!」

「ほっ、本当です!我々は何も……」

「チッ!」


司祭から手を放し神殿の奥、キマの下へ向かう。

扉の前にいた側近を殴り飛ばし、キマの室の扉を押し開けた。


「キマ!!ファニ様は何処にいる!?」

「なんと乱暴な……。ファニ殿は今、静かな場所でお休み頂いております」

「だからそれが何処かと聞いている!?」

「何をそんなに興奮されているのです?」

「何をだと!?何故、体を休めるのに癒しの術に長けた我らでは無く、貴様の元で休まねばならん!?」


キマは暴言を咎める事も無く、深いため息を吐いた。


「あなた方がいるからですよ。彼女は長としてあなた方に強い責任感を抱いています。眷属の方が近くにいらっしゃれば、ファニ殿も気を休める事が出来ないでしょうから、少し離れてみてはと提案したのです。他の眷属の方にはファニ殿自らそうご説明された筈ですが…」


「クッ!……そちらは了解した、だが私にも報告せねばならない事がある!ファニ様との面会を希望する!」


キマはわざとらしく顔を歪め、渋々といった調子でそれに応じた。


「仕方ありません。ですが手短にお願いします。……側近は案内出来ないようですね。……私がご案内しましょう」


キマは部屋を出て、チラリと気を失った側近に目をやるとため息を吐いて人を呼んだ。


「この者を医務室に連れて行って下さい。大事が有るようなら至高神の神殿に出向き、こう言いなさい。貴方達の同胞が我らの信徒の一人に暴力を振るったと……」

「はい、分かりました」

「フンッ!嫌味な男だ」


マオトは短気な性格ではあるが、普段はここまで無礼な男では無い。

ファニの不在とザルトの語ったキマの計画、アルの語った言葉が彼から冷静さを奪い取っていた。


キマの後に付いて神殿の奥、両開きの扉の一室に案内される。

キマが声を掛けると、中からはマオトも良く知るファニの声が聞こえた。


扉を開け中に入る。

先程の部屋とは違い、白壁の部屋には大きな窓があり、太陽の光が差し込んでいた。

その窓からは春の風が柔らかくそよいでいる。

天蓋付きのベッドの上で、ゆったりとした夜着に身を包んだファニがこちらを見つめていた。


「ファニ様と二人にしてくれ」

「いいでしょう。ですがくれぐれもお短に」

「分かっている」


マオトはキマが部屋を出たのを確認して、ファニに駆け寄った。


「ファニ様、大丈夫ですか!?」

「ええ、仕事で少し疲れただけです。貴方の方は問題ありませんか?」

「……すみません。ガーヴ様は獅子神に寝返りました」

「……そうですか」

「お怒りになられないのですか……?」


常とは違うファニの対応にマオトは違和感を感じ尋ねる。


「キマとも話し、そうなった場合の計画も既に整っていますから」

「……そのキマ…様についてお耳に入れたい事が」

「何ですか?」


「彼が我ら古い神を全て消すつもりだという者がいます」

「……誰の情報です?」

「それは……ザルト様と獅子神から聞いた事です」


ファニは皮肉げな笑みを浮かべる。


「あなたは敵のいう事を鵜呑みにするのですか?」

「ですがもし本当なら我々は……。それにファニ様もキマ様の秘密主義には、ご不満をお持ちだったではありませんか?」


「そうですね、確かに彼のその部分は気に入りませんでした。ですが北から戻った際、それは二人で良く話し合ったのです。今はキマに対する不満はありません」


ファニはそう言うと薄く微笑んだ。


部屋のドアがノックされる。


「余り長時間話されては、ファニ殿のお体に触ります」

「チッ、……また参ります。ごゆっくりお休み下さい」

「ええ、ありがとう」


マオトの心に何とも言えない違和感が付きまとう。

それを抱えたままマオトは部屋を出て、部屋の外に待機していた神殿騎士に連行される様に神殿の外に送り出された。


何かがおかしい、だがそれをハッキリと言葉に出来ない。

考えながら歩くうち、マオトはいつしか王城にほど近い公園に出ていた。

池の近くの芝生に腰を下ろし、ため息を吐く。


「よぉ、兄ちゃん。何か悩み事か?」


見上げると黒髪の男がこちらを見下ろしている。

黒い麻の服に皮のブーツ。

旅人なのか服もブーツも少しくたびれていた。


「うるさい、向こうへ行け」

「まぁ、そう言うなよ。こう見えて俺は伝道師なんだ。悩みが有るなら聞くぜ」


そう言うと男はマオトの隣に腰を下ろす。


「フッ、伝道師だと……。それこそ必要ない、私は至高神の信徒だぞ」

「へぇ、そうなのか。ちなみに俺はアルブム教の伝道師だ」


マオトは慌てて男の顔を見た。


「俺の名前はシロウ、よろしくな」


そう言うと黒髪の男シロウはニッコリと笑みを浮かべた。

それはアルが浮かべた物ととても良く似ていた。

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