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ファニとガーヴ

目覚めると青い瞳と目が合った。


「どうなってんだ?確か俺は風呂で……」

「のぼせて倒れていたのじゃ。何故倒れる前に出てこなかったのじゃ?子供でもあるまいに……」

「お前達が風呂の外でゴチャゴチャやってるからだろ……」


不意に風を感じると、部屋に立てかけた新たな剣から心地よい風が流れて来る。

その鞘の下で白い子犬が尻尾を振ってシロウを見ていた。


「ありがとよチビ」

「チビだけでは無く、我には礼は無いのか?」


礼……。

シロウは周囲に視線を送った。

どうやら、以前も寝泊まりした母屋の一室。

ベッドに寝かされ、目の前にはアルの顔が逆さに映る。


逆さ……。

後頭部には柔らかい感触……。


状況を把握したシロウはベッドから跳ね起きた。

シロウはアルの膝に頭を乗せていたようだ。


「何してんだよ!?」

「何って、膝枕という奴じゃ。心地よかったじゃろ?」

「……何でんな事した?」

「ファルに後れを取る訳にはいかんからの……。お主を取られとう無い……」

「……馬鹿な奴だ。そんな事しなくても離れたりしねぇさ」


シロウはアルの頭を乱暴に撫でた。


「むう、子供扱いはよせ」

「それより皆は?今後について動きを決めたい」

「ふむ、では呼んで来るのじゃ」


シロウはアルに部屋に仲間を集めてもらった。

シロウが聞いたキマの願い、更にファルに教団の動きについて説明してもらう。

ナミロの動向、キマたちの計画についてファルが話すと、ザルトとランガは立ち上がり部屋を出て行こうとする。


「待てよ。二人ともどうするつもりだ?」

「一族は俺の宝だ。失う訳にはいかん」

「ベルダ山の麓には俺を生んだ民が暮らしている。守らねば」

「俺たちゃ仲間だろ?やるなら付き合うさ。とにかく座れ、作戦を練ろう」


シロウの言葉で、ザルトとランガはそれぞれ椅子とベッドに腰を下ろした。


「んじゃファル。取り敢えず不死鳥の事を教えてくれ」

「はい、不死鳥ファニ・ムラクは…」


不死鳥ファニ・ムラク。

彼女は大陸中央、その南に位置する国の出身らしい。

蘇りを司り、炎による再生を願った人々の想いから生まれた。


光と炎の術に長け、癒しの技にも通じている。

だが、蘇生の術は彼女にとっても負担が大きく、当初から復活の象徴として生まれた自分や眷属ならいざ知らず、人を蘇らせる事は強い祈りが有っても一度しか成し得なかった。


それゆえ、彼女に対する信仰は徐々にその国から消えていった。

眷属が姿を消し、ファニ自身も弱り終わろうとしていた頃、キマが計画を持ち掛けたのだという。


至高神への人々の願いを譲り受ける形で、力を取り戻したファニは眷属を復活させ教団での地位を確立したそうだ。


「光に炎に癒し、その上、空まで飛べる。万能だな」

「そうですね。それにファニ自身は倒しても復活出来ますので、実質、無敵と言ってもいいと思います」

「無敵ねぇ。なんか弱点はねぇのか?」

「弱点ですか……。冷気は効くかもしれませんが、決定打になるかは……」


シロウは鞘の側で眠っている白い子犬に目をやる。

まだ赤ん坊に近いこの犬に頼り切るのも、大人としてどうなんだという気持ちが湧く。


「ファニはお堅いが、話の通じない相手じゃない。シロウが聞いたキマの真意を話せばこっちに付くかもしれん」


話をまとめる様に、ザルトはファニについて評した。


「そうか。んじゃ俺はランガと一緒に不死鳥を止めるか」

「では我もそちらじゃな?」

「いや、その前に牛神の事を聞きたい。ファル知ってる範囲でいい、教えてくれ」

「はい、シロウ様…」


牛神ガーヴ・ブラン。

彼女は大陸中東部で農耕の神として信仰されていたようだ。

大地を司り、植物を育む地母神としての性格が強い。

気候変動による土地の砂漠化と、ある時起こった大干ばつの影響で信仰が廃れこの国に流れて来たようだ。


大地の技に長けており、その力は地形を変える程だという。

ただ性格は温厚でのんびりしているらしく、およそ争いごとには適さないタイプのようだ。


「何度か会った事はあるが、あの女の事はよく分からん。キマが計画を説明しても、ニコニコ笑っているだけだった」


ランガもザルトと同じく、ガーヴが何故教団に参加したのか測りかねている様だ。


「そうね。私が話しかけても相槌は打ってくれるけど、自分の意見を言った事は無かったわ」

「流されるタイプか?」

「そういう感じでも無かったけど……」

「どうされますかシロウ様?」


ファルの問い掛けにシロウはしばし考えた。


「そうだな……。ザルトは故郷に行くんだろ?」

「当然だ。キマが誰を寄越すか分からんが、一族は俺が守る」

「だよな……。よし、アル、お前ザルトと一緒に東に行ってくれ」

「我はシロウと一緒では無いのか!?」

「誰が出て来るか分かんねぇなら、なんでも出来るお前が行ったほうがいいだろ?」


アルは少し膨れてぼそりと呟く。


「どうせ、相手は今この街におるのじゃ。ここでどうにかすれば良かろうに……」


「街で戦ったら住民を巻き込んじまうだろ。それにウルラが戻っても俺達は七人しかいねぇんだ。なぁファル教団には他にも神様はいるんだろ?」


「はい、幹部程の力はありませんが、私が知るだけでも数十名はいる筈です。それに不死鳥は自身の眷属を引き連れておりますし…」

「そんなにいたんだ……」


数十名と聞いてウネグは少し驚いた様だった。


「そういう訳だ。聞き分けてくれ」

「むう、仕方ないのじゃ」

「へへっ、いい子だ」


シロウがそう言って笑うと、アルは益々頬を膨らませた。

その様子をファルは黒目がちな瞳でじっと見ていた。





叡智神の神殿、キマの部屋に輝く金髪の女性ファニと、垂れ目で白に黒くメッシュの入ったロングヘアの豊満な女性がソファーに座っていた。

豊満な女性はテーブルに置かれた焼き菓子を、物欲しそうに見つめている。


「ガーヴ、食べても結構ですよ」

「ほんとう?わーい!ありがとう!」

「……これで幹部とは…人材不足を感じますね」

「彼女はノロマではありますが、目標は必ず達成してくれます。その点は私も評価しています。……もう少し手早く動いてくれれば言う事は無いのですがね」


ガーヴは二人の言葉もどこ吹く風と、幸せそうに焼き菓子を頬張っている。


「まあいいでしょう。キマ計画を教えて下さい」

「はい、ファニにはお話しましたが、貴女はランガの故郷、ベルダ山に向かって下さい」

「ベルダ山……。北の国境を超えた先ですね。極北の近く……」


「ええ、山の麓には彼の信徒が暮らしています。噴火が起きれば一時的にはランガの力も増すでしょうが、収まる事が無ければ信仰はやがて怨嗟に変わるでしょう」


「人がまた沢山死ぬのですね……」

「彼らの死は無駄にはなりません。我ら古の神が力を取り戻せば、噴火を抑え平穏な暮らしを与える事が出来ます。その為には止むを得ない犠牲と割り切って下さい」


ファニはキマを睨み口を開いた。


「説明されなくても分かっています!」

「それは結構。ガーヴ、貴女には東のザルトの民を消して頂きたい」

「消す?みんな殺しちゃうの?」

「はい、ザルトは自身の一族をとても大切にしています。彼を悪神に堕とすには一番効果的でしょう」

「……分かったぁ」


ガーヴはそう言うと焼き菓子を反芻し始めた。


「ファニ、貴女の眷属でガーヴを東に運んで下さい」

「誇り高き不死鳥族が牛を運ぶ等、本来であればありえないのですが……。仕方ありませんね」

「感謝します。力を取り戻した暁には、あなた方には最上の暮らしをお約束します」

「そんな物より、人々の平穏な生活と揺らぐ事のない信仰を約束して下さい」

「分かっております。ではお二人とも仕事にかかって下さい。私は悪神退治の準備をしておきます」


キマは話の内容とは真逆の穏やかな笑みを浮かべ二人を促した。

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