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のんびり旅を

意識を取り戻した時、金髪の女がキマを覗き込んでいた。

半身を起こし女に尋ねる。


「ファニ…ですか?ここは何処です?」

「ここは至高神の神殿です。貴方の側近たちが意識が戻らない貴方を案じて、医師のいる此処へ運び込んだのです」

「そうですか……。フフッ、医師ですか……」


至高神の神殿には、ファニの眷属たちが司祭として働いている。

彼らは癒しの技を使い、医師の真似事をしていた。

王都で至高神の信徒が多いのはそれが起因している。


「何を笑っているのです?それより何があったのですか?」

「いえ、大した事では無いのです。アルブム・シンマの伝道師を名乗る男に出会いましてね…」


アルの名を聞いてファニは表情を変えた。


「伝道師!?獅子神は消滅したのでは無かったのですか!?何故黙っていたのです!?」

「獅子神は力を失っていました。報告するまでも無いと思ったのですよ。それで私を癒したのは貴女ですか?」


「……いいえ、私が癒すまでも無く、あなたは傷一つ負っていませんでした。側近の話では中庭に倒れていた者たちは、一人として傷を負っていた者はいなかったそうです。中には古傷が治ったと騒いでいた者もいたそうですよ」


「……無傷。誰も?……あの男、本気で私を……」


キマの呟きにファニは眉をひそめた。


「貴方の秘密主義は嫌というほど知っていますが、今回の事はナミロにも伝えた方が良いのではありませんか?」

「彼の出番はまだ少し先です」


ナミロは現在、東の隣国で一兵士として戦乱を楽しんでいる。

勇者として兵に慕われ初めているらしいので、彼の心も満たされ、神としての力も増えている事だろう。


「そうですか?しかし我々には説明して頂かないと困ります。近く五大教のトップで集まりましょう」

「……ランガとザルトは獅子神に付きました」

「今なんと!?」


ファニは目を剥きキマを見た後、その目を細め彼の喉笛を掴んだ。

指の爪がキマの喉に食い込む。


「今まで貴方の計画は、そのほとんどが上手く行っていました。架空の神への人々の信仰心を譲り受ける形で、私達の力が増したのも事実です。ですが幹部の二人までもが離反し、その説明が一切為されていないというのは承服出来かねます」


喉に食い込んだ爪は猛禽のそれに代わり、掴んだ腕からは炎が噴き出しキマを焼く。


「…ランガもザルトも、所詮は力のみを重視して……幹部に据えていたにすぎません。ランガは破壊のみに特化した神であるし、ザルトは自身のしたい事以外に……興味の持てない男です。どちらも集団を率いるには……向いていない、貴女と違って……」


キマの言葉でファニの腕からは炎が消え、締め付けも少し緩んだ。


「何か考えがあるのですか?」

「……計画を一気に進めます。ランガとザルトを悪神となさしめ、それを我々が倒し古の神を復権させるのです」

「どうやって二人を堕とすのですか?二人はそれなりに信仰の篤い神ですよ?」


「……ランガは貴女の力で火山を暴走させれば良い。ザルトは東の彼の一族を抹殺すれば堕ちる筈です」

「そこまでする必要がありますか?特に火山は多くの犠牲が出るでしょう?」


キマは首にかかっている腕を握り、ファニを見返した。


「信仰を失い消えかけていたのをお忘れか!?貴女達は私が手を差し伸べねば、今頃この世界には居ないのですよ!?」

「クッ!……分かりました。ガーヴも呼んで三人で話しましょう。詳しく説明して下さい」


ファニはキマの手を払いのけ、忌々し気に答えた。


「承知しました。会合の日取りは追って連絡いたします」


キマは無表情にファニにそう返した。





剣術道場に戻ったシロウは、ロックが沸かしてくれた風呂に浸かり、一息付いていた。


あの後、シロウ達はキマたちが気を失っている間に、叡智神の神殿をアルに乗って抜け出した。

剣術道場に戻ると、血で汚れたシロウの姿を見て、マーロウもロックも酷く心配してくれた。

怪我をしていないと知って、二人とも安心したようだが、気を利かせてロックが風呂を用意してくれたのだ。


ザルトはそもそも心配などしていなかったようで、シロウの側を離れないファルと、それを睨むアルを見てニヤニヤと笑っていた。

ウネグは「また女の子を落としたの?」と少し呆れた様子だった。

ランガはロックが風呂を沸かすというので、手伝おうと言い出したのだが、彼がやると風呂が燃えそうなので丁重にお断りした。


道場の風呂は大きく、軽く十人以上は入れそうな程広い。

マーロウが門下生が汗を流す為作ったそうだが、そんな事をしているから母屋の修繕も出来ない程、貧乏なのでは無いだろうか。


「ふぅ、さて次はどうするかな……」

「不死鳥がランガ様の母体である、火山を噴火させようとしております」

「へぇ、そりゃヤバいな。止めねぇと……ってファル!?何処から入って来た!?」


ファルはシロウが気付かぬ内に湯船に入っていた。


「鼠ですので忍び込むのは得意なのです。今はお背中をお流ししようかと…」

「ああ、そりゃ気が利いてんな…じゃねぇよ!さっさと出ろ!」

「……私、お邪魔でしょうか?」

「邪魔とかじゃねぇよ!女が旦那でも恋人でもねぇ男と風呂入ってんのは問題だろうが!」

「……そうなのですか?……では恋人になってから出直します」


シロウは神の貞操観念はどうなっているのかとため息を吐いた。

そう言えばラケルも初めて会った時、臥所を共にとか言っていた気がする。


「おい、ファル」

「何でしょうか?やはりお背中をお流しいたしましょうか?」

「要らねぇよ。それより何でお前、噴火の事知ってた?」

「私の眷属は広く世界に散らばっております。私と彼らは繋がっているので、彼らの見聞きした事は私も知る事が出来ます」


成程とシロウは得心した。鼠なら確かに何処にでも潜り込める。

仮に見つかっても、追い立てられる事はあっても、不信を招く事は無いだろう。


「分かった。風呂から上がったら詳しく話を聞かせてくれ。……もう行っていいぞ」

「……やはりお背中は…」

「だからいいって!」


ファルは少し残念そうに、風呂から出て行った。

慕ってくれるのは悪い気はしないが、ファルが近くにいるとアルの視線が痛い。

娘は持ったことは無いが、親方が言っていた娘に不潔な物を見る目で見られるというのはこういう事だろうか。


「まったく、厄介事はさっさと片付けて、気楽な二人旅に戻りたいぜ……」


自分の呟きでシロウは自分はアルと二人、のんびり旅がしたいのだなと気付いた。

アルとのんびりいろんな景色を見るのは、とても楽しそうだとシロウはぼんやり考えた。


少し長湯しすぎたかとシロウが風呂から上がろうとすると、表から声が聞こえてくる。


「なぜファルが風呂場の前におるのじゃ!?」

「シロウ様のお背中をお流ししようかと思いまして。残念な事に追い出されましたが…」

「貴様、風呂に入ったのか!?シロウは我の伝道師じゃと言うた筈じゃぞ!?」

「はい、確かにお聞きしました」

「ではシロウに近づくでない!!」


もうそろそろ上がろうかと思っていたが、今上がるのは不味そうだ。

湯冷めするのも嫌なので、シロウは湯船に身を沈めた。


「なに騒いでいるの?」

「ウネグ、お主も言うてくれ!この鼠がシロウにちょっかいを掛けるのじゃ!」

「いいじゃない。恋愛は自由よ」

「ぐはッ!お主も味方では無かったか!?」


いい加減どこかに行ってくれ。

そう思っていると、さらに誰か近づいて来る気配がする。


「獅子神、ご機嫌斜めだな?」

「ザルトにランガ!聞いてくれ!ファルがシロウにちょっかいを掛けるのじゃ!ウネグは役に立たんのじゃ!」

「役に立たないって酷いわね」


「お前がもたもたしてるからだろう?さっさと夜這いでもすれば良かったんだ」


「よっ、夜這い……」

「成程、そういう方法もあるのですね…」

「鼠に要らぬ知恵を吹き込むでない!!ランガお主だけが頼りじゃ!!」


ランガに注目が集まったのか、それまで騒いでいた声が静かになった。

シロウも心の中でランガを応援する。

バシッと決めて、早く解散して欲しい。


「……強い雄が強い雌と結ばれる。それが自然の掟だが、俺は人間の事は分からぬ。シロウに聞け」

「そうじゃの!最初からシロウに聞けば良かったのじゃ!」


ドタドタと足音が聞こえ、風呂場のドアが開かれる。

むわっと湯気が流れ、それが晴れるとそこにはのぼせて真っ赤になったシロウの姿があった。

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