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木彫りの子猫

庭での話の後、シロウは宴が行われていた広間に戻った。

アルとウルラはニクスの案内で庭を見るようだ。


ザルトとウネグは抱き合って、笑みを浮かべながら眠っていた。

ランガは雪狼族の女性にお酌されながら、一人静かに杯を傾けている。


「よぉ、ランガ。この二人はどうしたんだ?」

「酒を飲んでいたら、段々と言動が怪しくなって、最後は笑いながら寝た」


傍には氷の瓶が転がっている。

ニクスが言っていた秘蔵の酒という奴だろう。


「そうか、三人に今後の予定を話したかったんだが、この様子じゃ無理そうだな」

「決まったのか?俺は何をすればいい?」

「俺とアルは竜神のルクスに経緯を報告したら王都へ向かう。ウルラは一族の協力を取り付けに一旦故郷へ向かってもらう事にした」

「そうか」


ランガは指示を求めたが、シロウはどうするべきか決めかねていた。

王都に来てもらうにしても、ランガの力は危険過ぎる。

彼がその気になれば、近くにいるだけで人間など燃え尽きてしまうだろう。


「ランガ、アンタの力はコントロール出来るのか?例えば人を殺さない程度に力を抑えたりとか?」

「力の制御か……。正直あまり得意とは言えん。……今まで制御など考えた事も無かったからな…」

「…なら人の多い王都に来てもらうってのは難しいな……」


二人の話を聞いていた雪狼族の女性がおずおずと口を開いた。


「あの、よろしいでしょうか?」


先ほどランガにお酌をしていた、十代後半に見える瞳の大きな娘だった。


「なんだい?」

「ネージュ様なら、力を抑える為の装飾品も作れると思うのですが…」

「ネージュが?……確かに出来そうだけど、やってくれんのかな…」

「フフッ、シロウ様の頼みなら喜んでお手伝いしますわ」


突然後ろから声を掛けられ、シロウは慌てて振り向く。

仏頂面のグラルと、笑みを浮かべたネージュが立っていた。


彼女はランガの横に座ると、その手を取って問いかける。


「少し力を使ってもらってよろしいですか?」

「…構わんが、俺の力は雪狼族には危険だぞ?」

「承知しております」


ランガが力を解放すると、部屋の温度が一気に上がる。

近くに置いてあった氷の杯も、その熱で表面が解け始めていた。


「結構です。……なるほど力を使うと体自体が高温になるのですね。では温度を抑える外套を作りましょう」


ネージュはランガに触れていた手の氷を払いながらそう口にした。

そして再度、彼の手を取りついて来るよう促す。


「採寸いたします。こちらへ。シロウ様はゆっくり宴を楽しんで下さい。ぼーっとしてないで、あなたも手伝って下さいな」

「おっ、おい…」

「ネージュ引っ張るな!」


ネージュは戸惑うランガを引っ張りながら、その様子を見ていたグラルも掴んで広間から出て行った。

シロウは茫然とその様子を見送った。


「凄えな…ネージュ」

「フフッ。長はグラル様ですが、この里でネージュ様に逆らえる者はいません」


女性はそう言ってシロウに笑みを見せた。




その後シロウは、宴の料理を楽しみ戻って来たアル達と、採寸を終えたランガと共に用意された部屋へ向かった。

ザルトとウネグはまだ幸せそうに寝ていたので、そっとしておいた。


部屋でランガに教団について尋ねたが、ザルトと同じく幹部であるのに、ランガも組織については余り知らないようだった。

キマはランガとザルトを戦神と交易神のトップに据えたが、幹部としての体裁を整えただけで、彼らの事は戦闘要員としてしか見ていないようだった。


ランガの話では、戦神の教会運営などはキマの信徒が全て取り仕切っていたらしい。

ランガは完全にお飾りだったようだ。


話を終えたランガは、胃の中が空っぽになったウルラが空腹を訴えたので、彼と共に部屋を出て行った。


シロウは、先程の雪狼族の女性に頼んで、木材とノミ等を用意してもらった。

木を削っているとアルが話しかけて来る。


「何をしているのじゃ?」

「爺様に渡す見本を作ってるんだ」

「見本?」

「ああ、爺様は力は強えが、庭にあったような細工物は苦手らしい。お手本になればと思ってな」

「成程のう…」


アルと話しながら木を削って行く。

出来上がったのは、ほぼ実物大の鬣を持った子猫だった。


「これは…我か?」

「そうだ。これは出会った頃のアルだな。…思えばお前も随分大きくなったなぁ」


その他にもウルラやラケル等、出会った神や修行で覚えた図案を元にした物を数点彫り上げた。

アルはその様子を飽きる事無く見ていた。


「上手じゃの……」

「三年みっちり修行したからな……」


黙り込んだシロウの手にアルが手を重ねる。


「大丈夫じゃ……」

「……ありがとよ」


シロウはアルにそう言って少し笑みを浮かべた。


翌日、雪狼達に別れを告げ一行は里を後にした。


ちなみに作った物は、袋に入れてコッソリ、グラルに渡した。

ネージュは笑っていたから何が入っているのかお見通しだろうが…。


ウルラはそのまま、故郷のレム山脈へ飛び立っていった。

ランガは白を基調としたフード付きのマントを身につけている。

水の流れを意匠した青いラインがとても美しい。


「ランガ、良いマントもらったな」

「うむ、格好良いのじゃ」

「……そうか」


ランガは少し照れ臭そうに、鼻の頭を掻いた。

三人の後をフラフラとザルトとウネグが続く。


「お前らは里で休んでいても良かったんだぞ?」

「嫌よ!ついて行くわ……飲み口がいいから油断したわ、あのお酒」

「全くだ。……しかしトロリと冷えて美味かったな」

「……そうね、とても美味しかったわね」


二人の口ぶりでは反省などはしていないようだ。


「ザルトにランガとウネグを運んでもらおうと思ってたんだが、これじゃアルに付いてくるのは無理そうだな」

「どうするのじゃシロウ?」


「取り敢えず麓の町へ行こう。ランガ、お前は二人を連れて王都に向かってくれ」

「承知した」

「二人が暴走しそうになったら止めてくれ。ぶん殴っても構わんぞ」

「……承知した」


ランガがザルト達を見て頷いたのに気付いた二人は、抗議するような目でシロウを見た。


「シロウ!?ランガに殴られたら私なんて一発で消えちゃうわ!」

「そうだシロウ!この男はゼロか百しか無いのだぞ!」

「こうでもしねぇと、お前らまたなにか仕出かすだろう?」

「信じるっていったじゃない!?」

「そうだ!仲間を少しは信用しろ!」


シロウはジトっと二人を睨んだ。


「信用だぁ?……知ってるか?信用ってのは失うのは一瞬なんだぜぇ」

「……もうお酒は飲みません。……多分」

「俺はそんな約束は出来んな!美味いモノを飲み食いするのは生きている者の権利だ!」

「ランガ、またザルトがヘロヘロになったら、構わず置いてけ」

「承知した。ぶん殴ってヘロヘロにして置いて行くのだな?」


少しずれたランガの言葉でザルトは小さくうめき声を上げる。


「……仕方ない。酒は少し控えよう」

「ランガ、ぶん殴るのは止めにしようか」

「うむ、承知した」


そんな事を話しながらシロウ達は麓の村に向かった。

その様子を木の上から小さな猿が見つめていた。

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