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虎の神とその仲間

クレードがシロウ達を案内したは、石造りの壁に囲まれたテーブルと椅子しかない殺風景な部屋だった。

兵は部屋の前で待機し、室内にはクレードとシロウ達だけが入った。


「今更だが、ここなら話が漏れる事は無い」

「……ホント今更だな」

「仕方なかろう、そんな大きな話だとお主が一言も言わないからだ」


シロウは元々クレードを巻き込むつもりはなかったので、術を解いた時も女が催眠術を使ったと説明していた。

領主であるクレードが、自ら協力を申し出るとは考えていなかったのだ。


行き当たりばったりで、無茶苦茶……。

確かにそうかも知れないと、シロウ自身、少し反省した。


「まあ、過ぎた事はしょうがねぇ」

「自分で言うな。まったくいい加減な男だ。……お主の計画、本当に大丈夫なのか?」

「とにかくだ。ウネグ、ボスや教団について教えてくれ」


風向きが悪くなったのを感じ、シロウはウネグに話を振った。


「分かったわ。ボスは虎の神、ナミロ・メラハよ」

「やはりか、信者が封印を解いたのじゃな」

「アル、知ってんのか?どんな奴なんだ?」

「ナミロはとにかく傲慢で貪欲な男じゃ。ただ、信仰している人達は命懸けで守るのじゃ」

「なんかイメージがブレるね。傲慢で貪欲なんだよね?」


ウルラの疑問にウネグは少し笑って答えた。


「優しさで守ってる訳じゃないわ。彼は手に入れた物を失う事を酷く嫌う。信者を守るのは、それが彼の所有物だからよ」

「所有物…。変わらんの奴は……。人は物では無い、我らと同様この地で生きている……いわば仲間じゃのに」


「あなたらしい答えね。ナミロは自分以外の者は自分の物か、いずれ自分の物になる物かとしか考えないわ」

「成程、それは確かに傲慢で貪欲だ」


クレードがウネグの説明に頷きを返す。


「んで、その虎は強いのか?」

「ええ、虎という存在に、人々は力強さと逞しさを求めたの。いわば戦神の様な存在よ」

「アルが王のイメージで生まれた様に、ナミロは戦士のイメージで生みだされたのですね?」

「そうね。戦士…いえ、全てを武で掌握する覇王かしら…」


全員が黙り込む中、シロウは軽い調子で尋ねる。


「覇王ねぇ、そいつ何が出来るんだ?」

「彼が出来るのは破壊だけ、力でねじ伏せて、恐怖とカリスマ性で支配を維持してるの」

「だったらうちのアルの方が凄そうだな」

「なんでよ?アルブムは確かに万能だけど、今の強さで言えばナミロの方がずっと強いわ」


シロウは笑みを浮かべ答える。


「強さじゃねぇんだ。……こいつは誰も見捨てねぇ。所有物かそうでないかなんて関係ねぇ。自分が出来る限りの全てをだ」

「それは買いかぶりじゃ。皆を癒したのは、信仰を得られるかもという打算も多分にあったのじゃ…」

「それでも手の届く範囲の奴は、全員救ってきたじゃねぇか?」


そう言ったシロウの顔を見てアルは呟く。


「それはお主が……」

「俺がなんだよ?」

「……もう良い!なんでもないのじゃ!!」


少し顔を赤らめ話を打ち切るアルの姿に、シロウ以外が目を細める。


「シロウ、あなたの所為でアルブムも随分変わったみたいね。私が近づいた頃はプライドが高くて、こんなに可愛くなかったもの」


「そうか?ずっとこんな感じだぞ」

「フフ、アルはシロウに甘えているのですよ」

「この話はもう良いのじゃ!!ウネグ、教団やナミロについている神について教えるのじゃ!!」


アルは顔を真っ赤にしながら、強引に話を変えた。

その様子に笑みを浮かべながら、ウネグは口を開いた。


「五大教のトップが、教団の幹部だって話はしたわね。その五人が仲間の神よ。至高神は不死鳥のファニ」

「不死鳥!?そんなのいるのか!?」

「シロウ、竜もおったのじゃ。不死鳥がいてもおかしくあるまい」

「…続けていいかしら?」

「ああ、すまねぇ」


ウネグはコホンと咳払いを一つして話を続けた。


戦神のランガは熊、叡智神のキマは猿、交易神のザルトは馬、地母神のガーヴは牛だった。

おかしなのは不死鳥だけかとシロウは少し安心した。


ファニは光、ランガはマグマ、キマは幻影、ザルトは加速、ガーヴは大地とそれぞれ違う術に長けているという。


「他にも何人かいるけど、手強いのはナミロも含めて、その六人ね」

「なぁ、他のは何となく分かるんだが、加速ってなんだ?」

「すっごく速く動けるのよ、彼」

「……それだけか?」

「なによ、強いのよ!ボスのナミロだって、ザルトを捕まえるのに苦労したんだから!」


シロウは不満そうなウネグを宥め、教団についての話を促す。


「基本は元々ナミロ達の信者が母体となっているわ。今は五大教や貴族たちに入り込んで、動きをコントロールしてる」


「あぶり出すのが面倒そうだな…」

「そうね。私も担当以外は詳しくは知らないから…」

「ふむ、その信者というのは人間なんだな?」

「そうよ」

「ではそちらは我々で引き受けよう。バーゼルトやファリノスと連携すれば、他の領主にも協力を仰げるはずだ」


クレードは自信ありげに大きく頷いた。


「今はこんなとこか…。さてと、まずはラケルを村に送っていくか」

「シロウ、私も働けますよ?」

「いや、ラケルはまず力を取り戻してくれ」

「……そうですか……分かりました」


ラケルは申し訳なさそうに少し俯いた。


「ラケル、そんな顔しないでよ。君の分まで僕が働くからさ」

「いい心がけじゃねぇか、ウルラ。んじゃ、お前はこのまま雪狼のとこに行って、協力するよう頼んでくれよ」


ウルラはラケルと一緒に旅が出来ると内心喜んでいたので、あからさまに表情を曇らせた。


「なんで僕なんだよ!?」

「だってお前飛べるし」

「嫌だよ!シロウの仲間の僕だって、雪狼の長には嫌われてるんだよ!?」

「んじゃ、ルクスの所はどうだ?」


ウルラはルクスの事を思い浮かべた。

あの竜神はリイナという妻を娶ったばかりだ。

仲睦まじい様を見せつけられるのは、それはそれで辛い。


「……分かったよ。雪狼の所へ行くよ。でもあんまり期待しないでよね」

「ねぇ、私もついて行っていい?」


話を聞いていたウネグがそう提案する。


「いいのか?長はプライドが高くて頑固だぜ。それに俺は長を叩きのめしたから嫌われてるしな」

「ウフフッ、任せてよ。私は変幻自在の狐神よ、どんな男も落として見せるわ」


シロウはウネグの目を暫く見つめ、おもむろに口を開いた。


「んじゃ、任せた」

「よいのかシロウ?」

「ああ、俺はウネグを信じてる」


シロウの言葉で、ウネグは頬を赤らめ震えた。


「何これ!?……ヤバいわね。あなた危険だわ」

「何だかよく分かんねぇが、頼んだぜ、ウルラ、ウネグ。俺達はラケルを送ったあと、ルクスの所へ向かう」


「はぁ、分かったよ」

「了解よ、シロウ」

「お二人ともお気を付けて」


ラケルはそう言って二人に視線を送る。


「問題が起きたら、すぐに逃げろよ」

「そうじゃな、また敵に操られても面倒じゃし……」

「うるさいよ!二人とも僕を子ども扱いして!」


「あなた、扱いやすいからしょうがないわよ」

「扱いやすいってどういうことさ!?」


「ふむ、神というのはもっと威厳があるのかと思っていたが…」

「親しみやすくていいだろ?」


少し呆れた様子のクレードに、シロウは笑いながらそう返した。

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