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地下牢

シロウとアルは、領主が住むという城に向かった。

山道を抜け、小麦畑が広がる道を馬で駆け抜ける。


城が見えた頃には、日は傾きかけていた。

城の周りには城下町が広がり、街は城壁で覆われている。


シロウは衛兵が止めるのを無視して、城下町を突っ切り城門の前で馬を止めた。


城門を警備していた衛兵が誰何の声を上げる。

それに答えず、シロウはアルに声を掛けた


「さて、村の女を取り返すか。アル、お前は姿を消してついて来てくれ」

「分かった。だが気を付けろ。お主も無敵では無い、血を流し過ぎたりすれば、生きたまま動け無くなるぞ」


「ナイフが通らねぇんだから、そうそう怪我はしねぇだろ?」

「世の中には、信じられないような手練れがいるもんじゃ…」


アルは何か思い出したのか、少し顔をしかめた。


「分かった、気を付けるさ。ありがとよ」


シロウはアルの頭を撫で、そのまま顎の下をくすぐった。


「あ、止めろぉ」


アルがふにゃりとしたのを見て少し笑って、シロウは城門の前で拳を構えた。


「何者かと聞いている!?答えんか!?」


槍を突きつける衛兵達に、シロウは凶悪な笑みを浮かべ言った。


「なに、ちょっと領主に用があるだけさ。邪魔をしなけりゃあんた達には何もしねぇよ」

「この狼藉者め!!」


槍を突き出した衛兵達に拳を叩き込み、城門を蹴破る。


「何事だ!!反乱か!?」


衛兵たちがワラワラと城門に押しかける。

その中の一人、立派な服を着た青年にシロウは尋ねた。


「領主に攫われた女たちが、何処にいるか知らねぇか?」

「貴様が城門を破壊したのか!?」


「そうだ。お前達もこうなりたくなかったら、村の女が何処にいるか吐けよ」

「何の事だ!?」


青年も衛兵たちも、本当に何も知らないようだ。


「シロウ!!こっちからリンゴの匂いがする!!」

「でかしたアル!!先導してくれ!!」


シロウは取り囲んだ衛兵を飛び越え、アルを追って城の中を進んだ。

衛兵たちはシロウを追ったが、そのスピードにはついて行けない。


アルの後を走りながら、時折出くわす衛兵を躱しつつ、シロウは城の地下に踏み込んだ。


「ん?誰だお前は?」


シロウは素早く駆け寄り、問いかけて来た男を殴って気絶させた。

扉を開けると鉄格子が並んだ通路が奥に広がっていた。


「地下牢ってやつか?……嫌な臭いがする」

「……腐った血の匂いじゃな。恐らく拷問が行われておったのじゃろう」


「アル、リンゴの匂いは?」

「それが、こう腐臭が酷くては、臭いを追うのが難しいのじゃ。この奥じゃとは思うがのう」


シロウはアルの頭を撫で、地下牢を奥へと進んだ。

段々と血の匂いはきつくなっていく。


牢を覗きながら女たちを探す。入れ墨をした男や目つきの鋭い女、壁に血で絵を描いている老人、様々な人間が牢には入れられていた。


その一つに女ばかりが纏めて入れられている牢を見つけた。


「なぁ、あんた達、ニムの村の女か?」

「…村長を知っているの?」


女の一人がシロウに答える。

その顔には憔悴の色が浮かんでいる。


「ああ、アニーの頼みで助けにきたんだ。ここに居る人たちで全員かい?」

「アニーが!?テレーズを!!テレーズを助けて!!」

「テレーズ…。アニーの母親だな?何処にいる?」


シロウは心に湧きあがる不安を押し殺し女に聞いた。


「この奥に連れて行かれた!!テレーズは皆を代表して、領主様に村に帰してもらえるよう訴えたの!!そしたら彼女、領主様に連れて行かれて…。私達はいいから早く!!」


「分かった。テレーズを助けたらすぐ戻る。」


シロウの言葉に女たちは少しホッとしたようだった。

シロウは彼女達を置いて、地下牢を走った。


奥の部屋からうめき声と悲鳴が聞こえる。

勢いのまま、シロウは最奥の扉を蹴破った。


「何じゃ!?お前は!?」


部屋では覆面を付けた筋肉質の男、上等な服を着た太り過ぎの男、そして磔にされた裸の金髪の女がいた。


女の指から血が流れている。太った男の手にはペンチが握られ、その先に剥がされた爪らしき物が挟まれれていた。


シロウの心に激しい怒りが沸き上がる。


「てめぇら、テレーズに何をした?」


太った男の喉を左手で締め上げ、壁に押し付ける。

筋肉質の男がそれを見て襲い掛かって来たが、ぞんざいに振った右手は男の顎を砕き、男は壁に叩き付けられ動かなくなった。


「うぐぐ、儂は領主だぞ、こんなことが…許されると思っているのか?」

「何をしたか聞いてんだ?」


シロウの左手がゆっくりと男の喉を締め上げる。


「くっ…はな…せ…」

「止めろシロウ!!死んでしまうぞ!!」

「それの何が悪いって言うんだ!!」


アルの制止に声を荒げ、シロウはさらに男を締め上げる。


「止めんか!!」


アルはそう言うとシロウの足に噛みついた。


「グッ!!」


痛みでシロウの中で荒れ狂っていた怒りが途切れた。


「俺は…」


男から手を放し頭を振る。


「戻ったようじゃな?」

「俺は一体…」


「魂が放つ感情に飲まれたのじゃ。…こんな男よりテレーズの方が先じゃろう?」

「…そうだな。」


喉を押さえ咳込んでいる男から目を放し、テレーズに向き直る。

彼女は爪だけでなく、体中に傷を負っていた。


シロウはテレーズを繋ぎ止めていた手足の金具を壊し、テレーズを抱き留めた。


「もう大丈夫だ。村へ帰ろう」

「…誰…なの?」


「アニーに頼まれて、あんた達を助けに来たんだ」

「…駄目よ…まだ帰れない…今…帰っても…また…襲われるだけ…」


「テレーズ…」


傷だらけになりながら、彼女はまだ戦おうとしている。


「領主…様に…村を…」

「任せろ。俺が話を付けてやる」


「お願い…村を…」

「分かってる。少し眠りな。アル、テレーズを見ててくれ」

「うむ」


シロウは上着をテレーズに掛けて、床に寝かせた。

膝をつき荒い息をしている太った男に近寄り声を掛ける。


「村から手を引け」


男はシロウを見上げ唇をゆがめた。


「貴様、誰に口を利いている?」


シロウは無言で男の腹を蹴った。


「グフッ!!」

「村から手を引け」

「ゴホッ!…こんな事…をして…唯で済む…」


男が言い終える前に、シロウは男の左手を掴み小指を折った。


「ギャァアア!!」

「村から手を引け」

「貴様!!何を!?」


薬指を折る。


「!!!」

「村から手を引け」

「…儂は…領主…」


中指を折った。


「ガァアアア!!!」

「村から手を引け」

「…分かった。あの村には…金輪際手を出さん」


人刺し指を折る


「ギャアアア!!!何故だ!?手は出さんと言ったではないか!?」

「信用できない」


そう言ってシロウは親指に手をかけた。


「分かった!!書面にして残す!!それでどうだ!?」


親指を折る。


「ぐうう!!!……儂が悪かった…もう…もう許してくれ」


シロウは右手に手を伸ばした。


「ひぃぃ!!!」


領主はシロウの手が離れた瞬間に、部屋の隅にうずくまり震え始めた。

シロウは領主の襟首を持って持ち上げ、その顔を睨みながら言う。


「…もし、あの村に手を出したら、全身の骨を砕く。どんなに兵を集めても無駄だ。少しでもおかしな真似をしてみろ。貴様を後悔すら出来ない地獄に叩き込んでやる」


領主は涙と鼻水でどろどろになった顔で何度も頷いた。

シロウは領主を投げ捨てテレーズに向き直った。


アルがテレーズの傷を舐めている。すると舐めた部分の傷が癒えていく。


『テレーズ、……ありがとう』


シロウの心に優しい声が響き、シロウの体から力が溢れアルの体に流れ込んだ。


「おお、感謝が!これなら完全に癒せるぞ!」


アルはそう言ってテレーズに手を翳した。

テレーズの体が光に包まれ、荒い呼吸が穏やかな寝息に変わる。


『ああテレーズ…、本当に…本当にありがとう』


さらに力が流れてアルはまた少し成長した。

それと同時に彼女の腹がクゥと鳴る。


シロウはアルの頭を撫で、口を開いた。


「へへッ、俺も腹減った。…アル、帰ろうぜ」

「うむ!」


地下牢を進み、女たちの牢をこじ開けテレーズを預ける。


「ああ、テレーズ。無事だったのね…。ありがとう」

「感謝は俺じゃなく、アルブム・シンマって神様にしてくれ」


「アルブム・シンマ?」

「傷ついたテレーズを癒したのはその神様さ」


「神様……。何だって良いさ、テレーズが無事なら…。ありがとう御座います。アルブム・シンマ様」


女たちは全員、跪いてアルブムに感謝の祈りを捧げた。


「ふむ、感謝の祈りは心地よいのう」


アルは嬉しそうにそう言った。


「お前ら、祈るのはその辺にして、村に帰ろうぜ」

「はい!」


「シロウ!止める事なかろう!」

「祈るのは後でも出来んだろ」

「ぬう」


シロウは膨れたアルと女たちを引き連れ、全員で城を進む。

衛兵たちは、汚れた女たちを見て驚きの声を上げていた。


彼らの殆どは領主の行いを知らなかったようだ。

女たちの様子に道を開ける。


「止まれ!!」


先ほど城門の所でシロウと話した青年が、剣を突きつけシロウを睨む。


「なんだよ。俺は皆をさっさと村へ連れ帰りてぇんだ。邪魔するなよ」

「その者達は罪人ではないのか?」


「違う。この女たちは領主に捕まって、奴隷商に売られそうになっていたんだ。」

「無実の者を奴隷商に?」


この青年は少しは話が出来そうだ。


「ああ、領主様は、この女たちが住む村を潰したいみたいだぜ。金の為によぉ」

「まさか…」


「あんたはまともそうだから言っておく。仕える相手はよく選んだほうがいいぜ」

「……」


青年は剣を下ろした。

シロウ達はその横を通り、城を後にしようとする。


「待て」

「なんだよ。やるってんなら、全員叩きのめしてやるぜ」

「おい!!馬車を持ってこい!!」


青年は部下にそう命じた。


「どういうつもりだ?」

「村まで女たちを歩かせるつもりか?」

「…お前、名前は?」


「私はクロード。お前は?」

「俺はシロウ、アルブム教の伝道師だ」

「アルブム教?」

「そう、そして我こそが、そのアルブム教の神でフガッ」


シロウは面倒な事を言い出したアルの口を塞いだ。


「…何だ?」

「何でもねぇ。ありがとよ、クロード。そんじゃあな」


シロウは衛兵が持って来た馬車に女たちを乗せ城を後にした。

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