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形を変えるモノ

領都カルデンの城の一室、広い室内に豪奢なベッドが置かれている。

そのベッドで眠っている少女を見下ろし、赤いドレスの女が笑みを浮かべていた。


「ねぇラケル。この娘どうするの?」


「この娘はある村にいたのですが、その村で村人達に虐められてたのです。ですからその村人達を懲らしめ、虐めないよう言い含めたら、村へ送り返してあげましょう」


「捕まえる時暴れたのも、虐められていたからかな?」


「そうですね、嫌な事を思い出したのかもしれません。村人が罰を受けたと知れば、彼女は喜びの余り、泣くかもしれませんね」


「そうか。やっぱりラケルは優しいね」


ウルラはそう言ってベッドに眠る少女を見た。

この少女を見ると彼は何故か落ち着かなくなる。

だがそんな感情も、甘い花の香りを嗅ぐと何処かに消えて行った。


ウルラの様子を女は満足そうに見ていた。


赤いドレスの女、ウネグが領主に取り入った理由、それは力のある神であるラケルを、悪神に堕とす為だった。


周囲の村や街を領主の命で、まだ力を持たない五大神へ民の信仰を鞍替えさせ、力を奪い拠り所であるラケルの膝元の村を滅ぼせば、この蜥蜴は容易に堕ちると彼女は考えていた。


領主に囁き、彼を蔑ろにするドアンの村に兵を送って、そろそろ一週間。


アルブム、それに術の利かない男の事や、繋ぎの教団員から連絡がない事は気になったが、村を滅ぼし悪神を作ればここでの自分の仕事は終わりだ。


ソカル族という手駒も手に入れたし、滅んだ村に蜥蜴を落としサッサと帰ろう。


そう考えていると、部屋のドアがノックされた。


「誰?ここには誰も来るなって言っておいたでしょう?」


そう答えたウネグの言葉を無視して、ドアが開かれる。


「お前は!?どうやってここに!?」

「どうやってって、正面から普通に入った」


そう答えたシロウの後ろには、ウネグが操り人形にしたはずの、兵や領主クレードの姿があった。


「ウネグとやら、よくも私を良いように使ってくれたな」

「クレード!?兵達まで…。アルブム、貴様、私の呪縛を解いたのか!?」

「フンッ、我が癒しの前では、お主の術等、意味を成さん」


アルが胸を張ると、ウネグは顔を歪め歯ぎしりした。


「アルブム・シンマ!いつもいつも邪魔ばかりして!ウルラ、あの二人を排除して下さい!」

「分かったよ!」


ウルラはウネグを守る様に、彼女の前に立った。

そんなウルラを見て、シロウはアルの耳元で囁く。


「なあアル。やっぱ触らねぇと術を解く事は出来ねぇのか?」

「うむ、ウネグの手前ああ言ったが、触って術の詳細を見てみんと解くことは出来ん」


「……変な所で恰好つけんなよ。…しゃあねぇ、ウルラには眠ってもらうか」


シロウはクレード達に言う。


「アンタ達は下がってな」

「しかしあの女は、クレード様や我々を操った張本人なのだぞ!?」

「あいつは俺に任せる。そういう約束だろ?」


シロウがそう言ってクレードに目をやると、彼らは不満を残しつつ部屋から離れた。



シロウは兵が目を覚ました後、彼らに催眠術で操られていたと伝え、それを解いたのは自分たちだと話した。

続けて領主のクレードも操られていると、彼らに告げた。


兵達はシロウの言葉には懐疑的だったが、最近、クレードの言動がおかしいとも感じていた。


実際、兵の中の一人、騎士の男はクレードが最近城に入れた女の存在を怪しみ、彼女を探っていた。

騎士が最後に憶えていたのは、その女に声を掛けられた所までだった。


兵達は騎士の言葉を受け、シロウとアルを連れて城に戻る事にした。


シロウ達はその操られていた騎士の案内で、クレードに謁見する事が出来た。

その謁見の場で、アルにクレードに掛けられた術を解いて貰ったのだ。


先ほどシロウが口にした約束は、正気を取り戻したクレードに対し、報酬替わりに取り付けたモノだった。



シロウはクレード達が下がったのを確認すると、剣を抜きウルラと対峙した。


「この前は人間だと思って油断したけど、今度はそうはいかないよ」

「いいからとっと掛かってこい。狐が逃げちまう」

「馬鹿にするな!!」


ウルラは右手を振り上げ、風の刃を放った。

シロウが振るった雪狼の剣が、風の刃を弾き飛ばす。


「雪狼の剣…、そういえば持っていたわね…」


剣を振るいながら、シロウはウルラに肉薄した。


「人間風情がこんな…」

「お前、昔に戻ちまってるじゃねぇか?…まあいいちょっと寝とけ」


シロウは柄頭をウルラのこめかみに打ち付けた。

ウルラは勢いのまま吹き飛び、壁を二部屋分破壊して動かなくなった。


「シロウ!!やり過ぎじゃぞ!!」

「まあ、ウルラなら死なねぇだろ?…さてウネグ。お前に提案がある」


シロウは剣をウネグに向けそう告げる。


「なによ!?獅子神の仲間の言う事なんて聞かないわ!!」

「そう言うなよ。悪い話じゃねぇからよぉ」

「……一体何を提案しようっていうの?」


シロウはウネグが、少しは耳を傾けた事を感じ笑みを浮かべた。


「その前に確認なんだが、お前は強い奴に取り入って、生きてきたんだよな?」

「そうよ!私はそう生まれ付いたし、そうしないと生きていけないの!」


「なら何でアルに付かねぇ?」

「そんなの決まってる!私の主の方が強いからよ!」


「ホントにそうか?アルはその主も昔封じたんじゃねぇのか?」

「それは……、でも今はその獅子神は力を失ってるじゃない!?」


シロウはニヤリと笑って言葉を紡ぐ。


「お前も見ただろ?アルはどんどん力を取り戻してる。それによぉ、生まれ付いたからって、取り入ったり裏切ったりしててお前楽しいのか?」


「私は狐の神よ!そう生きるのが定めなの!楽しいか楽しくないかなんて関係ない!」


「……俺はよぉ、定めとか運命とかが決まってるなんて思いたくねぇんだ」

「何を言うの?お前達、人が私をそういう風に…」

「俺が変えてやる」


ウネグは一瞬キョトンとして、嘲るような笑みをシロウに向けた。


「人、一人が何が出来るって言うのよ?」

「俺はアルの伝道師だ。あいつが力を取り戻したのは俺と旅をしたからだ」

「あなたと旅をすれば、私も変われるっていうの?」


ウネグはウルラの記憶で見た、シロウ達のした事を思い出した。


彼女はアルが受けた様な感謝の祈りを受けた事は無い。

彼女を信仰していたのは、商人や詐欺師、口で世の中を渡っていこうとする悪党達だった。

彼らの祈りはいつも欲に塗れていた。


ウネグはアルに嫉妬していた。


ああなりたくて、なれなくて、だから昔、彼女に近づき取り入ろうともした。

彼女の近くにいれば、自分もそのお零れを貰えるのではと…。


しかし、獅子神アルブム・シンマは孤高の神で、誰の助けも必要としていなかった。

だから彼女から離れ、別の神に付いたのだ。


「……本当に変われるの?」

「ああ、変われる。変えてみせる」


シロウは真っすぐにウネグを見て答えた。


「最初は俺からだ。ウネグ、俺はお前が優しく気高い神だと信じるぜ」


シロウの想いは、彼の中に棲む魂を揺り動かし、ウネグの元に届いた。


「これは……。あなた本当に私なんかを信じてるの?」

「なんかって言うな!お前は俺が信じている立派な神になるんだ!!」


「おかしな男ね、どうしてそこまで私に……」

「仲間になれって言ったのはお前だろ?俺は女の頼みは断らねぇ」


確かにこの男の前で姿を変えて、仲間にならないかとは言った。

しかしあれはそういう意味ではないだろう。


「フフフッ、へんな人。……分かったわ、仲間になってあげる。ただし後悔しても知らないわよ」


そう言って笑ったウネグの姿は、ドレスを着た金髪の女ではなく、化粧ッ気の無い栗毛の娘に変わっていた。

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