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誘拐

ウネグ達に出会った翌日、シロウはアル達と共に領都カルデンに入っていた。

この街はミダス程、発展している訳でも無く、イッシュの街程治安が悪い訳でも無い。

良くも悪くも普通の街だった。


「なんか人に説明する時、困るタイプの街だな」

「別に説明等する必要はあるまい」

「まあそうなんだけどよ」

「こんな風に人の街に来たのは初めてです。人はこんなに大きな街を作れる程になっていたんですね」


ラケルはまるでお上りさんの様にはしゃいでいる。

彼女は全ての物が珍しいようで、金の瞳を輝かせて露店を覗いていた。


三人が観光気分で街を見物出来るのには訳がある。

シロウがずっと欲しがっていたアルの隠形が、成長した事でようやく他人にも施せるようになったのだ。

そういう訳で、明らかに普通の人とは髪色の違うラケルでも、騒がれる事無く街を散策できるという訳だ。


「シロウ、これは何ですか?」

「そりゃ綿あめだよ。砂糖で作ったお菓子だ」

「綿あめ……。美味しいのですか?」

「美味いっていうか、甘いな」

「ラケル、それは口の周りがベタベタになるのじゃ。食べぬ方が良いぞ」


アルには以前、ミダスで食べたいとせがまれ買った事がある。

あの時、彼女はふわふわのお菓子に興奮して、ガッついて顔中ベタベタになった。


「アルはこれを食べた事があるのですか!?」

「まあの」

「……シロウ、私も食べたいのですが!!」


街に潜入したのはウルラを取り戻して、ウネグに黒幕を吐かせる為なんだが…。


シロウはため息を吐いて、アルに隠形を解くように言った。

綿飴とりんご飴を購入し、ラケルとアルに差し出す。


「シロウ、ありがとうございます!!」

「中にリンゴが入っておるのか!?これは初めてじゃ!!」


二人とも嬉しそうに甘味を頬張った。


「食べたら城に行くぞ。アル食い終わったら隠形を掛けてくれ」

「うむ、分かっておるのじゃ。……このリンゴはアニーの村の物ほど美味しくないの」


二人が甘味を堪能している間、シロウは街の様子を眺めた。

今いる通りは食料品等を売っている商店が立ち並ぶ、所謂商店街だ。

食材を買い求める子供を連れた主婦や、料理人らしき人間が買い物をしていた。


そんな人々を眺めるシロウの目が、不意に止まる。

小さな男の子が泣きながら通りを歩いていた。

親からはぐれたのだろう。


「アル、ラケル。ここにいてくれ。すぐに戻る」


気になったシロウは二人にそう言い残し、雑踏の中へ駆け出した。


「シロウ何処に行くのじゃ!?」

「すぐ戻るからよ!!」


シロウが男の子を見た場所に辿りつくと、その子の姿は既に無かった。

親と出会えたのだろうか。

少し違和感を感じながら二人の元に戻ると、アルもラケルもそこにはいなかった。




「シロウ、どこまで行くのじゃ?城は反対方向じゃぞ?」

「潜り込むなら、暗くなってからの方が都合がいいだろ?」

「さっきはすぐ城に行くと言っておったではないか?」

「気が変わったんだよ」


そんな事を話しながら歩いていると、アル達の周囲の街並みはどんどんさびれた雰囲気に変わっていった。


「アル、なにかおかしいです」

「ふむ、確かに変じゃの」


辿り着いた袋小路で、シロウが振り返る。

その顔はニタニタと笑っていた。


「ふう、どうやら騙されたようじゃ」

「みたいですね」


シロウの姿は一瞬で金髪の赤いドレスの女に変わっていた。


「随分余裕じゃない?」

「久しいの、ウネグ」

「ええ、会いたかったわアルブム・シンマ」


ウネグが左手を上げると、周囲を衛兵が取り囲んだ。


「人が我らをどうこう出来る訳あるまい?」

「出来るわよ。その子たちは特別だからね」

「特別?」


アル達は目を細め衛兵達を視た。

衛兵達の中に、本来の魂以外の何かが視える。


「お主、何をした?」

「戦場で彷徨っていた人の魂を入れてみたの。そのままだと狂っちゃうから、本来の魂を眠らせてね」

「なんて酷い事を……」


ラケルが口に手をやり思わず呟く。


「二人とも力を無くしているようだし、これだけいれば十分でしょ?」

「ラケル、お主は下がっておれ」

「分かりました」


ラケルが離れると、アルの周囲に雷を帯びた雲が立ち込める。


「無理しない方が良いんじゃない?力、戻ってないんでしょ?」


そう言ったウネグの額を汗が伝った。

彼女はかつてアルが使った力を思い出す。

足が震え、逃げ出しそうになる自分に、ウネグは大丈夫だと暗示をかけた。


「黒幕が誰か言えば、少しお仕置きするだけで許してやるのじゃ」

「強がっても無駄よ!!あなたの力が戻っていない事は分かってるんだから!!」


アルはすっと右手を上げた。

周囲に雷光が走り、視界が白に染め上げられる。

ウネグの眩んだ目が見え始めた時には、衛兵は一人残らず倒れていた。


「なんでよ…。あのソカルの記憶じゃ、癒しと浄化ぐらいしか…」

「我には優秀な伝道師がおるからの。さて吐いてもらおうか?」

「クッ、皆その忌々しい女を止めて!!」


ウネグが叫ぶと衛兵達が起き上がり、アルに群がった。


「ウネグ止めろ!!これ以上無理をさせると、こやつらの体が持たんぞ!!」

「あなたが癒してあげればいいじゃない」


衛兵は攻撃するでもなく、ただアルを掴み動きを封じようとしていた。

どうするべきか決めかねていると、ラケルが声を上げた。


「ウルラ止めて下さい!!」

「捕まえたよラケル!」

「流石ですねウルラ、では城に戻りましょう」

「何をしておるウルラ!!ラケルを離すのじゃ!!」

「フフフッ、無駄よ」


姿も声もアルにはウネグにしか思えなかったが、ウルラにはラケルに見えているのだろう。


「ウルラ離して下さい!!」

「暴れないでよ。僕は女の子は傷つけたくないんだ」


ウネグはウルラに駆け寄りアルに告げた。


「あなたは私が絶対にこの世から消すわ。覚えておきなさい。行きましょうウルラ」

「分かったよ」

「待てウネグ!!待つのじゃ!!」


ウルラは藻掻くラケルと、抱きついたウネグを連れて空に飛び去った。

アルは衛兵達にもみくちゃにされながら叫び声を上げた。

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