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声の導き

気が付いた時、当たりは暗闇に包まれていた。

夜の闇でももう少し明るい。

そう感じる程の一切光の無い場所だった。


海で水流に飲まれ流された所までは憶えている。

もしかして自分は死んだのだろうか。

そう思い頬をつねってみる。

シッカリと痛みを感じた。


自分はまだ生きているらしい。

いや、死んだあとも痛みは感じるのかも知れないが…。


とにかくここから出ねぇと、アルの話じゃ俺は簡単に死なねぇらしいが、こんな真っ暗な場所で動けなくなるなんて御免だぜ。


シロウは立ち上がり、壁に当たるまで歩いて、妙に柔らかいその壁に拳を叩き込んだ。




剣を突き出し頭に交渉を求めたジョシュアに、頭は小さく笑う。


「交渉だと?そっちの男はもう限界なんじゃないのか?霧は防げても水撃は防げまい?」


ジョシュアは頭の言葉にチラリとウルラを見る。

彼は地面にへたり込み、荒く息を吐いていた。


「確かにアンタの言う通りのようだ。だがアンタもこの彫像は大事なんだろう?」


ジョシュアはそう言うと、彫像をこれ見よがしに掲げた。


「クソッ、一体何が欲しいんだ?」

「シロウ…お主が飲み込んだ男を返して欲しいのじゃ」

「ああ、俺達の船を燃やした奴だな。残念だが奴は俺の腹の中でもうくたばってるよ」

「そんな事は無いのじゃ!シロウはそんな簡単に死ねる体では無いのじゃ!」


アル達が頭と話していると、ウルラが吹き飛ばした海賊が海から上がり頭のもとに駆け付けて来た。


「頭!大丈夫ですかい!?」

「ああ、お前らは?」

「あっしらは海に落ちただけで、怪我した奴はいません」

「そうか…。そりゃ良かった」


海賊達はアル達を取り囲み、サーベルを抜いて威嚇している。


「男の事は諦めてそいつを返しな。素直に返せば命は取らないでおいてやる」

「そうだ!それはお頭の母ちゃんなんだ!粗末に扱うな!」

「母ちゃん?さっきも言っていたがどういう意味だ?」


頭は母ちゃんと口にした海賊の頭を殴り、ジョシュアに向き直った。


「なんでもいいだろ。さっさと返せよ。それとも三人一緒に海の藻屑になりたいか?」

「ひでえよお頭、ぶん殴る事はねぇだろ?」

「うるさい!お前が余計な事を言うからだ!」


ジョシュアもアルもそして頭もどうする事も出来ず、ただ黙って相手を見る事しか出来なくなってしまった。


「ねぇどうするの?僕もしばらく休まないと風は使えないよ?」


ウルラがアルの耳元で囁く。


「むう、考え中じゃ」


アルはそう答えたが、糸口は見えなかった、

ジョシュアの腕なら霧が効かない今、全員戦闘不能にする事も出来るかもしれない。

だが頭の水撃は、多分雪狼の剣でも防ぎきれないだろう。


一方、海賊側もジョシュアが持つ彫像を、なんとか無傷で取り返したいようで手が出せずにいる様だ。


「痛っ!!」


そんな風ににらみ合いを続けていると、突然、頭が腹を押さえて呻き始めた。


「お頭!?」

「はっ、腹が…」

「……なんじゃ?」


頭は立っていられなくなったのか、地面に倒れ込み腹を抱えのたうち回った。


「お頭しっかりして下せえ!!」

「ちょっと診せるのじゃ」

「アル危ないよ!?」


ウルラの制止を無視してアルは頭に近づいた。


「なんだよ!!ガキは引っ込んでろ!!」


声を荒げた海賊に、ジョシュアが剣を突きつける。


「アルさんの言う通りにしろ。その人は私の師匠も治してくれた人だ」

「医者…なのか?こんなガキが?」

「我はガキではない。……まあよい、とにかく診せるのじゃ」

「あ、ああ」


海賊たちは頭の前を離れ、アルに道を開けた。

アルは暴れるのを止め、額に脂汗をかいている頭の腹に手を当てた。

手に振動を感じる。腹の中で何かが暴れている様だ。


「シロウか?」


アルは頭の腹に額を押し付け、シロウに語り掛ける。


「シロウ、暴れるな。暴れずともそこから出してやる」


そう語り掛けると、感じていた振動は治まった。

呻いていた頭の表情も和らいだ物に変わっている。


「お頭!?……良かったよぉ…」


海賊たちの中には涙ぐんでいる者も何人かいた。

アルは腹から額を外し、頭に問い掛ける。


「大丈夫か?」


痛みの治まった頭は、体を起こしてアルを見た。


「お前が治したのか?」

「いや、中で暴れていた者に止めるよう言っただけじゃ」

「中で……。あの男ホントに生きてやがったのか…」


「今は暴れるのを止めておるが、シロウの事じゃ暫くすればまた暴れ出すぞ。下手をすれば竜神の弓を使うやもしれん」


竜神の弓と聞いて頭の顔から血の気が引いた。

船に大穴を開け、炎上させた弓の事は鮮明に記憶に残っている。

あんな物を使われたら、腹の中から焼き殺されてしまう。


「……吐き出しゃいいのか?」

「うむ」

「…うまく出るかな?俺の腹は船十隻飲み込んでも釣りがくるからなぁ」


頭はそう言うと、浜辺に歩き海に身を沈めた。

頭の姿が見えなくなってしばらくすると、海が盛り上がり巨大な鯨が姿を見せた。

鯨は大口を開け、アルに話しかける。


『男…シロウだったか?奴の名前を呼べ。自分から出て来てもらった方が早い』

「そうか…、すぅぅ……シロウ!!!こっちじゃ!!!出てこぉい!!!」

「呼べばいいんですね?……シロウさぁん!!!」

「ペッと吐き出してくれればいいのに……シロウ!!!こっちだよぉ!!!」


三人が大鯨の口にむかって叫んでいると、海賊たちも一緒になって叫び始めた。


「さっさとお頭の腹から出てこぉい!!!」

「そうだぞ!!!はやくしないとウンコになっちゃうぞ!!!」

「大体お頭が変な物食べるからだぁ!!!」

「お頭は食い意地が張ってるからなぁ!!!」

「まったくだぁ!!!俺の干し肉と酒かえせぇ!!!」

『てめぇら、後で覚えとけよ…』


途中から頭に対する苦情になっていたが、とにかく皆叫び続けた。




声が聞こえる。

アルの声だ…。

その他にもなんだかよく分からないモノも混じっているが、シロウはその声のする方へ歩き始めた。




ニ十分以上は叫んでいただろうか。


「シロウ……こっち…じゃ」


アルの声はかすれ、もう話すのも背一杯の様子だ。

ウルラは既に力尽き砂浜で仰向けになっている。

ジョシュアもしゃがみ込み喉を押さえていた。

海賊たちも砂浜で座り込んだり、大の字になって咳込んでいる者もいる。


「これは何の騒ぎ?」


振り返ると、ガルンに肩車されたイルルがこちらを見降ろしていた。

その後ろからドーガも何事かと覗き込んでいる。


「イルル…シロウが…ケートスの…腹から…出てこれる…ように…呼びかけて…おったのじゃ…」

「すっかりしわがれちゃって、まるでお婆さんみたいな声じゃない。……大声で叫べばいいの?」

「そう…じゃ」


イルルはニヤッと笑い、ガルン頭をポンッと叩いた。


「最高の人材がいるじゃない?ガルン、ドーガと二人でシロウを呼んで。加減しなくていいわよ」

「任せて下さいイルルさん!!やるぞドーガ!!」

「おう!!」

「イルル…さん?」


アルの疑問を無視して、イルルはガルンの肩の上で耳を塞いだ。


「「シロウゥゥゥ!!!!!!!!出てこぉいぃぃぃ!!!!!!!!」」


二人の声は島中に木霊した。

鳥はいっせいに逃げ出し、海賊の中には目を回し気絶する者もいた。


「うるせぇよ!!」

「シロウ……」


シロウの姿を見つけたアルは、大鯨の口元で眩しそうに手で日差しを遮っている彼の胸に飛び込んだ。


「心配…したのじゃ…」

「声が聞こえたからな。ずっと呼んでてくれたろ?ありがとなアル」


シロウはしがみついて泣いているアルの頭を優しく撫でた。


『感動の再会は、俺の口から出てしてくれ。いい加減、顎が疲れた。閉じちまいそうだ』


大鯨がそう言ったので、シロウはアルを抱え慌てて口から逃げ出した。

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