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再会

夜明けを待って、アルはウルラと二人、海賊達が停泊しているという入り江に向かっていた。


ウルラにはついて来てもらったが、潜入はアル一人で行い、彼にはイルル達を連れて逃げてもらうつもりだ。


「本当に一人で行くの?僕だって結構戦えるよ?」

「ウルラはケートスに勝てるのか?」

「それは……。でも一人じゃ危ないよ」


「我には隠形がある。ケートスにさえ見つからなければ大丈夫じゃ」


ウルラは顔をしかめていたが、それ以上何も言わなかった。


入り江の沖には二隻の大きな船が停泊し、浜辺には手漕ぎのボートが十艘ほど繋がれていた。

浜辺から少し入った所に、野営用のテントがいくつか張られている。


恒久的なアジトでは無く、島を転々として足取りを追えない様にしているのだろう。


「では行って来るのじゃ。我が戻らない時はイルル達を連れて逃げるんじゃぞ」

「……分かったよ。でもなるべく戻って来てよね」

「うむ」


アルは獣に姿を変え、隠形を使い海賊たちの野営地に踏み込んだ。

野営地は昨夜のシロウの攻撃で、けが人が出たらしく緊張感に包まれていた。


一番立派なテントに近づくと、アルは耳をそばだてた


「お頭、ヤサを変えた方が良いんじゃねぇですかい?」

「心配するな。周囲に船は無かった。賞金稼ぎが抜け駆けしたんだろう。それより仲間の具合はどうだ?」


「水夫の一人が爆発に巻き込まれて火傷が酷えです。他はかすり傷ぐらいですみやした」


「そうか…。あの男、俺の障壁を破るとは…。食い殺さずに生かしとくんだったな」

「まあ、海でお頭に歯向かったんですから、当然の結果ですよ」


食い殺す…。


お頭と呼ばれている男がケートスらしい。

信仰を集めるとかでは無く、自ら海賊を率いているとは…、部下もそれを受け入れているようだ。


アルはシロウを取り戻す為、交渉材料を探して野営地を探った。

テントの一つからうめき声が聞こえる。


隙間から中を覗くと、寝台で包帯を体中に巻かれた男が荒く息を吐いていた。

見た所、他に人は居ないようだ。


アルは男に近づき耳元で囁いた。


「協力するなら助けてやってもよいぞ」

「誰…だ?」

「誰でもよい。お前達の頭が大事にしている物を教えろ」


「へッ…、言う…訳…ねぇだ…ろ」

「お主の火傷の具合では半日もたんかも知れんぞ」


「俺たちゃ…あの人に…救われ…たんだ。裏切れる…かよ」


男はそれだけ言うと意識を失った。

海賊たちはケートスに心酔しているようだ。


「…海賊から情報を得るのは難しそうじゃのう」


アルはそう呟くと、そっと男の手に触れた。

触れた個所から光が広がり、苦痛に歪んでいた男の顔が安らいだ物に変わった。


「お主を癒したのはアルブム・シンマぞ。心のどこかに残っておれば感謝するが良い」


そう言い残し、アルはテントを後にした。


野営地を探したが、テントには海賊が盗んだ物は見当たらなかった。

ここは一停泊地にすぎず、宝は別の場所に隠してあるのだろうか。


アルが一度イルル達のもとに戻ろうかと思っていると、浜辺の奥の森から海賊が野営地に歩いて来た。


森の奥に何かあるのだろうか。

アルは海賊が出てきた茂みから、臭いを辿って森の奥に向かう事にした。


人の入っていない森は鬱蒼としていたが、海賊が頻繁に通っているのか、下草が払われ道が出来ていた。

それを辿り森を進むと、山肌に洞窟が口を開けている。


脇には見張りらしき海賊が二人、何やら談笑しながら立っていた。


アルは躊躇する事無く、海賊の横を素通りして洞窟に足を踏み入れた。


洞窟の中は松明が灯され、内部は天然の洞窟に手を入れたのか、いくつか部屋が作られていた。

流石にドアを開けると気付かれるので、中の音を聞くだけに留め、部屋の様子を探っていく。


部屋には人の気配はなく、倉庫として使っているようだ。

もしかしたら宝はここにあるかもと、アルは洞窟を奥に進んだ。


洞窟の最奥部は鉄格子のはまった部屋だった。

少しすえた臭いが漂って来る。

鼻に皺を寄せながら鉄格子の奥を見ると、薄汚れた男が独り寝台で眠っていた。


「おい、お主は何者だ?」

「……飯って言葉以外は久しぶりだな。……あれ、アルさんじゃないですか?」

「なんで我の名を知って…、お主、ジョシュアか?」


男は体を起こし、鉄格子に歩み寄りアルの前で腰を落とした。

松明に照らされたジョシュアは、髪も髭も伸び放題で服も着た切りなのか、悪臭を放っていた。


「別れたのは冬の初めだったから、もう四月は経ちますかね?大きくなりましたね」

「なぜお主がこんな所におるのじゃ?」


「いや、お恥ずかしい話なんですが、海から別の国に旅立とうとしたんです。ところが海賊の所為で船が出ないと言われまして…。だったら退治すればいいと、海賊船に乗り込んだんですけど、変な霧で意識を失って、気が付いたらここにいました」


ジョシュアはシロウが町で聞いた、不思議な霧にやられたようだ。

いかに剣の達人でも、神が起こした奇跡には抗えなかったのだろう。


「アルさんはどうしてここへ?」

「シロウが海賊の頭に捕まってな。返してもらおうと交渉材料を探していたのじゃ」


「シロウさんが?あの人を捕まえるなんて…。でもここには私以外いませんよ?」

「シロウがいるのは、その頭の腹の中じゃ」


ジョシュアはポカンと口を開けた。


「腹の中?シロウさん、食べられたんですか?」

「海賊の頭はケートスという鯨の神じゃ。人を丸呑みにするぐらい容易い」


「丸呑み…。それじゃあシロウさんは…」


「大丈夫じゃ、あやつはそう簡単に死にはせん。腹の中で生きておるはずじゃ」


「……あの人相変わらず無茶苦茶ですね。…なるほど、それで交渉材料ですか…」


ジョシュアは顎に手を当て、部屋の中を歩き始めた。

暫くそうしていたが、やがて立ち止まり口を開く。


「ふむ、この洞窟には海賊が強奪した宝を隠しています。それを奪って交渉材料にするのはどうでしょう?」


「しかし我とお主では、そんなに大量には運べんぞ。それに我ではお主を牢から出す事も難しい」


「このぐらいの鉄格子なら、剣があれば斬れます。それと運ぶ物は多分一つで十分です」

「どういう事じゃ?」


ジョシュアはアルに顔を寄せ囁く。

アルは臭いに顔をしかめたが、これもシロウの為と耳を傾けた。


「私が捕まったのは、どうやら仲間に取り込む為の様なんです。何度も海賊の頭が私を説得に来ました。その時お頭は必ず別の部屋に入ってから、洞窟を出て行くんです。あの部屋にはきっと、彼にとって大事な物がある筈」


「…なるほど。……剣があれば良いのじゃな?」


「はい」

「待っておれ、すぐに戻る。それまでに顔ぐらい洗っておけ。お主、酷く臭うぞ」


「そうですか?自分ではよく分からなくて…」


ジョシュアは衣服に鼻を近づけ、臭いを確認している。

アルはそんなジョシュアを置いて、イルル達のいるキャンプ地へ走った。


キャンプ地に戻ったアルは、焚き火の傍らに置かれていた雪狼の剣を咥え、洞窟に駆け戻もどろうとする。


「アル!?どうしたの!?」

「説明はあとじゃ」


イルルに一言そう告げると、アルは森の中に消えた。


「アルってどういう事だ!?」

「あの獣喋ってたよな!?」


ガルン達はイルルの言葉に、事情を聞こうと詰め寄った。

幼い少女にいかつい男が二人にじり寄っている。


「説明するから座りなさい。まったくこんな小さな女の子に、怖い顔して凄むんじゃないわよ」


「いや、凄んだつもりはねぇんだが!!」


「声が大きい!!もう二人とも普通に喋れないの!?ガルン!!あんまりうるさいと奥さんに逃げられるわよ!!ドーガ!!アンタもそんなんじゃお嫁さんの来ても無いわよ!」


「グッ!……気にしてることをはっきり言う嬢ちゃんだぜ!」

「やっぱ声がデカいとモテねぇのか!?」


「とにかく座る!!」

「はい…」


イルルの妙な迫力に、ガルンとドーガは彼女の前に膝を揃えて座った。


「いい、私たちはねぇ…」


ガルン達がイルルに説教の様な形で事情を説明している頃、森を駆け抜けたアルは、ジョシュアのいる洞窟に駆け戻っていた。


「剣を持って来たぞ」

「これはシロウさんの…。この剣があれば鉄格子なんて無いも同然です。アルさん少し離れて下さい」


ジョシュアはアルから剣を受け取り、短く息を吐いて剣を振るった。

一瞬の煌めきの後、ジョシュアは剣を収め、鉄格子を持ち押し出した。


鉄格子は丁度ジョシュアの大きさに四角く切り取られている。

彼は切り取った鉄格子を洞窟の壁に立てかけ、アルに話しかけた。


「それじゃ、頭のお宝を拝みに行きましょうか?」

「……シロウも人外じゃが、お主も人とは思えんの」

「アハハッ、あの人と一緒にしないで下さいよ」


ジョシュアは髯だらけの顔で爽やかに笑った。

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