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海賊の島へ

翌朝、シロウ達は船に乗り海賊のアジトである島に向かっていた。


ウルラが言っていたケートスとはクジラの神の一族だった。

海の男は皆ケートスを信仰している、ウルラはそう語った。


彼の話ではケートスの男は他の男神の例に漏れず気性の荒い者が多いが、仲間と認めた者はとことん守り抜く義理堅い種族だそうだ。

逆にケートスの女は優しく、特に子供を守る為ならわが身を犠牲にする事も珍しくないらしい。


「シロウ、気持ち悪いのじゃ…」

「私も…。ねぇ…シロウちゃん…私が死んだら…うぷっ…コリーデ村に埋めて頂戴。…それでお墓の周りには花の種を…蒔いて欲しいわ。…フフッ…春になったら…お墓の周りは…花で溢れるのよ……ウェップッ」


シロウはイルルの言葉に呆れながら、二人の背中をさすってやった。


「船酔いで死ぬ訳ねぇだろ」

「だって…オエッ…こんなに…気持ち悪いの…初めてだもの…」

「水飲むか?」

「うう、いらない」


「気持ち悪けりゃ腹の中のモン全部出しちまいな!!それと水は飲んどけ!!じゃねぇとへばる!!心配しなくても水と食い物は十分積んでるからよ!!ガハハッ!!」


男の大声に耳を塞ぎながら、アルとイルルは船べりでへばっていた。

出航した時は二人とも景色を楽しむ余裕があったのだが、内海を出ると波に揉まれすぐに酔ってしまった。

シロウは体質なのか内に棲む魂のお蔭なのか全く酔う事が無く、ウルラも平然としていた。


「兄ちゃん達は船乗りの経験でもあんのかい!?」

「いや。俺は船に乗るのも初めてだ」

「僕も船は初めてだよ」


「そうかい!!そりゃいい!!二人とも漁師に向いてるぜ!!今日は結構波が荒い方だ!!甲板に立っていられるだけでも大したもんだ!!ガハハッ!!」


先程から大声でしゃべっている男はガルン。

港町で見つけた漁師だ。


シロウは島に渡る為、港で船を出してくれる者を探したのだが、海賊退治と聞くと誰も引き受けてくれなかった。

唯一買って出てくれたのが、このガルンという男だった。


「親父!!このまま島まで真っすぐだと海賊に見つからねぇか!?」

「大丈夫だ!!この時期、あの島の周りにゃ朝に濃い霧が出る!!それに紛れりゃ問題ねぇ!!お前も覚えとけ!!」

「おう!!冬の終わりは朝に霧だな!!覚えたぜ!!」


漁船はガルンと息子のドーガの二人で操っている。

ガルンは三十代、息子のドーガはまだ十代半ばだろう。

二人ともしっかり筋肉の付いた巨躯の持ち主で、肌は日に焼けて赤銅色に光っていた。

そして二人とも馬鹿みたいに声が大きい。


ガルンは目的の海域についても詳しく知っているようだ。

シロウはドーガと話していたガルンに旅程について尋ねた。


「町ではおおよそ二日って聞いたが、予定通り行けそうか?」

「風が良くねぇ!!すまねぇが三日ぐれぇは掛かりそうだ!!」

「三日……。我は…我はもう駄目じゃ……」

「私だって……あと一日もてば……いいほうよ……」


二人の様子を見かねたウルラが、ガルンに声を掛けた。


「ねぇ、どっちに向いて風が吹いてればいいの?」

「そりゃ順風、南東に吹いてりゃ一番だが、風はお天道様しだいだからな!!」

「南東だね」


ウルラが手を振り上げると、風が巻き起こり、しおれていた帆が一杯に張った。


「こりゃ一体!?」

「二人とも辛そうだからさ。なるべく急いであげてよ」

「任せとけ!!風さえ味方に付きゃ、今夜にでも島が見えるとこまで行けるぜ!!」


その答えにウルラは笑みを見せた。


「ウルラ、あんがとよ」

「女の子が辛そうにしてるのは見てらんないよ。…イルルは少し大人しい方がいいけどね」

「違いねぇ」


船は帆に風を受け、波を切り裂いて進んだ。

漁師親子は行きたい方向へ風が吹いてくれるのを不思議がっていたが、最終的には日ごろの行いが良いせいだと結論付け、二人で大声で笑っていた。


ガルンの読みより早く、夕方には遠く島が見える位置まで船を進める事が出来た。

これなら明日の朝、霧に紛れて上陸する事が出来そうだ。


日が落ち夜になると波も治まり、アルもイルルも多少船酔いから回復したようだ。


「ガハハ!!一日でこんなに距離を稼げたのは初めてだぜ!!」

「昨日、親父が神様に酒を供えたのが利いたんじゃねぇか!?」

「確かにあの酒はとっておきだったからな!!ガハハッ!!」


船を止め、甲板で夕食を取りながら、ガルンとドーガが話している。

神様の話がでたので、シロウは気になった事を訪ねてみた。


「二人は何の神様を信仰してるんだ?」

「あ!?そんなのメーア様に決まってんじゃねぇか!?」

「ケートスじゃねぇのか?」

「ケートス様か!?懐かしいな!!うちの爺様がよく拝んでたぜ!!」

「今じゃ町の漁師は殆どメーア様しか拝んでねぇよ!!」


メーア…、海を司る神。

たしか港町で一番大きな教会が、そのメーアの教会だったはずだ。

ベルゲンでも古い土着の神は消えつつあるようだ。


「ふう、大分楽になったのじゃ。ずっとこうなら良いのにのう」

「ホントにね。アナタの事は気に入らないけど、その意見には大賛成だわ」

「ガハハッ!!嬢ちゃんたちも、ちゃんと飯を腹に入れとけよ!!」

「そうだぜ!!食わないと持たねぇぞ!!」


アルとイルルが多少回復したのを見てガルンは、二人の前に魚の燻製とキャベツの酢漬け、さらにパンを置いた。

それを見て二人は途端に眉を顰める。


「うぷっ、まだ食欲は無いのじゃ…それにしても、なぜこの二人はこんなに声が大きいのじゃ…」

「同感だわ、昼間は船酔いと声で殺されるかと思ったわ…」

「ガハハッ!!時化の時は声がでかくないと聞こえねぇんでな!!」

「まったくだ!!」


「うう、うるさいのじゃ…」

「こんな事ならついて来るんじゃなかった…」


回復したといっても、普通の食事はまだ喉を通りそうになさそうだ。

そう思ったシロウは、ガルンに頼んで船倉に置いてあった果物を出してもらった。


「これなら食えるか?」


オレンジに似た果物を皮をむいて差し出してやる。

アルはそれに手を伸ばし、ゆっくりと口に運んだ。


「……甘酸っぱくて、美味しいのじゃ。ありがとうシロウ」

「おう。ほら、イルルも食え」

「うう、分かったわよ」


イルルも食欲は無いようだったが、果物を少し口にした。


「……これなら、なんとか食べれるわ。シロウちゃんありがとね」

「明日の朝には島に着く、それまで辛抱してくれ」

「分かったのじゃ…」

「朝ね…。頑張るわ…」


二人がそういった時、マストの上に昇っていたウルラが声を上げた。


「よく分かんないけど、光がみえるよ!」

「光だと!?」


ガルンとドーガが船首に走る。

彼らに続きシロウも船首に向かうと、月明かりに照らされて船のシルエットが見える。

船は松明を掲げ、島の周囲を回っていた。


「間違いねぇ、海賊船だ!!」

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