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南の海へ

シロウ達は社で一晩明かし、翌朝、森から出てきた所を見回りをしていた中年の男に見咎められた。

昨日の聞き込みで話を聞いた村人の一人だ。

彼は森から出てきたシロウ達を見て、少し驚いた様に尋ねる。


「あんたら、もしかして森で一晩明かしたのかね?言ってくれりゃ泊めてあげたのに…」

「そうかい?まあ、俺たちゃ野宿にゃ慣れてるんでな」

「それにしたって、子供を二人も連れてんのに…」

「二人?」


村人の視線を追うと、視線のあったイルルがニッコリと微笑んだ。


「見送りでもしてくれんのか?イルル?」

「昨日話していて思ったんだけど、シロウちゃん達と一緒いた方が、いい男に会える気がするのよね」

「お主、ついて来るつもりか!?」

「嘘だよね!?」


アルとウルラは、信じられないといった様子でイルルを見る。


「そんなに睨まないで、怖いわお姉様」

「誰がお姉様じゃ!」


イルルはウルラの足に隠れながら、おどけた調子で返す。


「僕を巻き込まないでくれよぉ!」

「もう、つれないんだからぁ」


イルルはウルラから離れ、シロウの足にしがみつく。


「シロウに触るな!その者は我の伝道師ぞ!」

「なによ!ケチ!」

「シロウから離れるのじゃ!!」


シロウの足の横から顔を覗かせ、舌を出すイルルをアルは歯ぎしりしながら睨んでいる。


「アル、そんなにむくれるなよ」


そう言ってシロウの側に駆け寄り、イルルに抗議しているアルの頭を撫でた。


「むう、シロウは子供に甘いのじゃ。第一その者は我と同じく姿が子供なだけじゃぞ…」

「私子供だもーん」


その様子を見て、村人は愉快そうに笑った。


「ハハハッ、元気な子たちだねぇ。二人ともアンタの子かい?それにしちゃ似てないけど。……もしかして連れ子かね?」

「まぁそんなもんだ」


「そうかい、若いのに二人も抱えて大変だね。そう言えば探していた神様とやらの事は分かったのかい?」

「ああ、そっちは何とかなった」


村人は笑みを浮かべ頷いた。


「そりゃ、よかった。それでもう村を出るのかい?」

「ん?ああ、そのつもりだが?」


シロウは質問の意図が分からず、首を捻りながら答える。


「だったら次来た時は村長の家に行きなさい。きっと泊めてくれる筈だよ。お客さんがいて断られたら、家にくりゃいい。子供に野宿なんてさせるもんじゃないよ」

「…そうだな。また村に来る事があったら頼らせてもらうよ」


村人はシロウの答えに満足した様に微笑んだ。


「そうしな。あたしゃカシム。家は子供が多くて手狭だけど、野宿よりはましな筈さ」

「そうか…。俺はシロウ、こいつはアル。んでイルルとウルラだ」

「シロウさん、アルちゃんとイルルちゃん、それにウルラさんだね。それじゃ旅の無事を祈ってるよ」


カシムはそう言うと、アルとイルルに手を振って見回りに戻っていった。

人の好さそうな男だと思うと同時に、旅人を泊められる程にはこの村は豊かで平和なのだろうと思う。


「いい村だな…」

「そうでしょう。私を忘れちゃったのは、気に入らないけどね」


イルルは去って行くカシムの後ろ姿を見ながら、少し得意げに言った。

そんなイルルにシロウは声を掛けた。


「ところで本気でついて来るつもりか?」

「ええ、このまま村にいて、待ってるだけなのも退屈だしね」

「ふう、しゃあねぇなぁ」

「あっ…」


シロウはイルルを抱き上げ、肩車した。


「なっ!?何をしておるのじゃシロウ!?」

「何って、こんな子供を歩かせる訳にもいかねぇだろ?」

「ぬぬぬ。では我も抱っこするのじゃ!!」

「二人は無理だ。悪ぃがアルは歩いてくれ。大きくなったし、お姉さんなんだから頑張れるだろ?」


アルは地団駄を踏んで、ニヤニヤと笑うイルルを睨んだ。


「ムカつくのじゃ!!悔しいのじゃ!!」

「アル、疲れたら抱っこでもおんぶでもしてやるから…」

「其奴がシロウの肩に乗っている事が気に入らないのじゃ!!」

「我儘な奴だなぁ。…ウルラ、イルルを運んでくれるか?」


黙って成り行きを見ていたウルラは、急に名前を呼ばれて後退った。


「僕が!?…僕、その子苦手なんだけど…」

「神様の癖に何言ってんだよ。……まあお前は荷物も運んでるしな。仕方ねぇ、アル我慢してくれ」


シロウがそう言うと、ウルラはあからさまにホッとした表情を見せた。

イルルは、アルを見下ろし勝ち誇った様な笑みを浮かべる。


「ウフフッ、悪いわねお姉様」

「ムハッ!!出会った時から気に食わなかったが、やっぱりお主は嫌いなのじゃ!!」

「アル、機嫌直せよ。手ぇ繋いでやるから…」


アルはまだ納得できない様ではあったが、差し出されたシロウの手を握り返した。


「シロウ、お主は我の伝道師なのじゃ。それを忘れるな…」


少し拗ねた様子でアルは呟いた。


「分かってるよ。アルブム・シンマ様」

「うむ、分かっておるなら良いのじゃ。フフッ」

「ハハッ、単純な奴だなぁ」


そう言って笑い合うシロウとアルを、イルルは少しの嫉妬と多分の羨望が入り混じった目で見ていた。


「いいなぁ…」

「ん?なんか言ったか?」

「何でもないわよ。目指すは南の海、行きましょ。シロウちゃん」

「いてて、髪を引っ張るなよ」

「はぁ、先行き不安だなぁ…」


ウルラは歩きだしたシロウ達の後ろで、そっとため息を吐いた。




南へ向かう道中で、シロウはイルルに色々尋ねた。

彼女はアルに土地を分けて貰えなかった後、暫く放浪して当時コリーダと呼ばれていた村に辿り付いたそうだ。


その頃、村はそれ程豊かでは無かったが、彼女は人のふりをして占い師として村に入り込んだ。

彼女(当時は彼だったが)はイルル・ナハッシュという幸運の蛇神の僕だと名乗り、自分で自分を喧伝する事で自身の信仰を確立した。


彼女の占いは驚くほど当たり、村人は徐々にイルルに祈りを捧げる様になったらしい。

しかし、村が豊かになり、幸運の女神として知られる様になると、どっちつかずになったイルルは人前に姿を現さなくなった。


彼女曰く。


「だって、男か女か微妙な姿だったから恥ずかしかったんだもん。貴方も嫌でしょ、美女だと思って声を掛けたのに、返事が野太かったら?」


だそうだ。


村の名前がコリーデと変わり、領主が五大教を推奨する様になるとイルルの事は段々と忘れられていった。

別の土地に行ってやり直そうかとも思ったが、仲良くしていた村人達の末が住む村を去りがたく、結局力を失い動くに動けなくなってしまった。


海に向かう旅の間に、そんな事を話しながら、アルに威嚇されたり、ウルラに怯えられたりもしつつ、イルルは一行に馴染んでいった。


イルルが幸運神というのは伊達ではないようで、南に向かう馬車に乗せて貰ったり、作った薬を丁度欲しがっている人が居たりと、路銀に窮する事無くスムーズに旅を進める事が出来た。


そして海に着くころには、すっかり旅の仲間として彼女は打ち解けていた。


ベルゲンという王国でも、南に位置する肥沃な土地。

その南端の港街に着いたのは、南という事もあるが春の陽気を感じる頃だった。


「気持ち良いのじゃ。この季節は無性に眠くなるのう」

「貴女はいつもお昼寝してるじゃない」

「確かにアルはよく寝てるよね」


「うっ、うるさいのじゃ二人とも!シロウも何とか言うのじゃ!」

「寝る子は育つって言うし、実際大きくなってんだから良いんじゃねぇのか」

「うう、シロウまで…」


シロウの言葉通り、旅の間にアルは更に成長し見た目は十二歳程になっていた。

これまでの旅の間でシロウが行ってきた布教により、アルに祈る人が増えたのだろう。


イルルも少し成長して、見た目は四歳程度になっていた。

道中出会う旅人にシロウがイルルの事を、幸運の女神として話した事が影響しているようだ。


「とりあえず、街で宿をとって今日は休むとするか?」

「賛成!僕、硬いパンはもう食べ飽きたよ」

「私もゆっくりお風呂に入りたいわ」

「我も柔らかいベッドで眠りたいのじゃ」


人間社会に染まりつつある三人を見て、シロウはいいのかねこれでと苦笑を浮かべた。

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