表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/113

生きる道

ルクスの願いにシロウ達が困惑していると、広間の建物から一人の女が姿を見せた。


「ルクス様…、どうされたのですか?」


女はか細い声でルクスに問い掛ける。

女は酷くやつれ、入り口にもたれかかる様に体を支えていた。


「リイナ!?寝ていろと言っただろう!?」

「ですが…、大きな音が聞こえましたので…、また、ゴホッ、ゴホッ、発作かと…」


そう言うとリイナは口を押え倒れ込んだ。

ルクスは彼女に駆け寄り、その身を支えてやる。

意識を失ったリイナを抱き上げ、ルクスは建物の中に消えた。

シロウとアルは顔を見合わせ、頷き合うとルクスを追い建物に入った。


建物は簡素な作りだったが、人が暮らすには十分な家具がそろっていた。

ルクスはリイナをベッドに寝かせると、彼女の手を握りながらシロウ達に語り始めた。


「彼女で六人目だ…。リイナは我の世話役として村から送られて来た」

「どこか悪いのか?」


アルはベッドに駆け寄りリイナの、苦痛に歪む顔を見ながら尋ねる。


「我の中にいる悪神の力が、世話役の体を蝕むのだ。悪神を飲み込んだ当初は、我もその力を抑えておくことが出来た。だが奴は我の腹の中で力を蓄え、漏れ出す毒気はどんどん強くなった」

「娘の体はその毒気にやられたのか…。じゃが我なら毒気を払えるやもしれぬ」


アルはリイナに向け癒しの光を注いだ。

彼女の顔が少し和らいだ様に見えたが、またすぐに歪んだ。


「駄目なのじゃ。洞窟に満ちる毒気が娘の回復を妨げておる」

「やはりか…。何十年か前、猟師の男に傷を負わされ、それ以来、我は時折意識を失う様になった。決まってその後は洞窟に濃い毒気が満ちる」


「猟師…。ロビンだな。おいロビン、隠れてないで出て来いよ!!」


シロウの体から弾き出される様に髭面の男が現れた。

毛皮の外套を着た逞しい男だ。


「貴様はあの時の…?教えてくれ?ずっと疑問だった。我を崇めていた村の者が、何故我に矢を向けたのか…」


『……竜神よ、俺は…、俺は娘を失いたく無かったのだ。世話役がターニャに決まったと知った時、俺は村の連中に隠れてこの洞窟に来た。その時見たのだ。お前がやせ衰えた男を埋葬している姿を…。娘をそんな姿にしたくなかった』


ルクスは懐かしい様な、悲しい様なそんな顔をした。


「ターニャの父親だったのか…。あの娘には本当に良くしてもらった。彼女は我が悪神に支配されそうになるたび、毒気に曝されるのも厭わず、我を抱きしめてくれた。ターニャのお蔭で我は村を襲わずにすんだ」


『ターニャはここにいたのか!?俺がお前を殺しきれず、神殺しの武器を探してさまよっている間も!?』


ルクスは少し笑ってそれに答える。


「フフッ、男は駄目だな。すぐに邪魔なモノを排除しようと考える。我も良くターニャに叱られたよ」

『どういう事だ!?邪魔なモノとは村の事か!?』


「違う。……我だ。我自身が悪神に乗っ取られるのも、時間の問題だと分かっていた。自らを滅ぼそうと考えていたのだ。しかしその事をターニャに気付かれてな…。あの娘は神である我を泣きながら叱ってくれた。生きる道を探せと…。だから世話役達を犠牲にしながら、今まで生きてきたのだ。世話役達の死を無駄にしない為に…」


生きる道……。

シロウはリーネとレントの死を知って、生きる事を放棄し死を求め祠に向かった。

二人に詫びたい気持ちは、変わらず心の中にある。

しかしルクスの話を聞いて、安易に死を選ぶ事が、彼らに報いる道なのか分からなくなってきた。

生きる道……。未来……。リーネ、レント……。


『ターニャは…ターニャは何処に?』

「こっちだ。ついて来い」


ルクスはそう言って建物から出た。

ロビンはその後を追い、滑る様に建物から出て行った。

それを見たアルは、腕を組んで考え込んでいるシロウの服の裾を引いてルクスを追う。


ルクスはロビンに建物の隣に並ぶ柱の一つを指し示していた。


「右から二番目。その下に彼女は眠っている。次の世話役に我の事を頼んで、眠る様に息を引き取った」

『ターニャ…ターニャ!!』


ロビンは柱に縋り付いて泣き崩れた。


『俺が短慮を起こしたばっかりに……』

「いや、元はといえば、我が悪神を倒せなかった事が原因だ。済まない」


二人が墓を見下ろし沈み込む中、考えこんでいたシロウが突然声を上げた。


「分かったぜ!!」

『シロウ!?』

「何事だ人間!?一体何が分かったのだ!?」

「俺達のやることだよ!悪神を倒す!そしたら村の連中も、もう子供を捧げなくていいんだろ!?やろうぜ神殺し!」


ロビンとルクスは呆気に取られてシロウを見た。


『神殺し…』

「貴様、本気か?」

「封じるって事は、いつか復活するかも知れねぇんだろ?きれいさっぱり送ってやろうぜ!」


シロウの提案にルクスは顔をしかめる。


「しかし、ターニャは…」

「女が未来を作って、男はそれを守る為に戦う。こいつは生き物の性だと俺は思う。だからこの世に男と女がいるんだと思うぜ。戦おうぜ、未来を守る為によぉ」

「未来を…」

『守る…』


アルがシロウを見上げ不安げに尋ねる。


「シロウ、神を殺せば穢れを受けるやもしれんぞ?」

「悪神なんてモノは残しておきたくねぇ。それによぉ俺がやられた時はアル、お前が癒してくれんだろ?なぁ偉大な獅子神様?」


シロウはそう言ってアルに笑い掛けた。


「……我は偉大な獅子神。……我は癒しの神」


アルがそう呟いた時、彼女の体がまるで爆発の様な強い光に包まれた。


「これは…なんという…」


ルクスの驚きの声が聞こえる。

光が消えた時、アルは十歳ほどに成長していた。


「シロウ…我は…」


アルは自分の手を見た後、戸惑いながらシロウを見上げた。

シロウはその頭を撫でてニカッと笑う。


「頼りにしてるぜ。相棒!」

「シロウ…うむ、任せるのじゃ!」


アルがシロウに笑い掛けた時、空から羽ばたきが聞こえてきた。


『すごい光が見えたから来てみたら、シロウとアルじゃないか?…となりにいるのはここの土地神かい?』

「ちょうど面子も揃ったな。それじゃあやろうか、神殺しを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ