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なるべく笑って…

元院長の屋敷に忍び込んだシロウは、彼の口から幹部の名を聞き出した後、屋敷を見張った。

シロウの予想通り院長はシロウ達が部屋から去った後、治療もそこそこに馬車で別の屋敷に向かった。


そこからは、屋敷から出た人間の後を追うだけで良かった。

伝令役の人間の後を追い、最後に辿り着いたのがガラードの屋敷だった。


アルにガラードを追ってもらい、行きついた城で薬漬けの領主イッシュの存在を知った。

シロウはアルから話を聞き、植物学者リックの知識から麻薬の存在に行きついた。

リックの知識とアルの癒しの技で、何日かかけてイッシュを治療したシロウは、彼に協力を要請した。


城の人間は重要なポストにいる人間の殆どが、ガラードにより買収されていたが、末端に行くほど自分の仕事に疑問を持っている人間は多かった。


そういった人物と渡りを付け、イッシュはガラードを排除する為の準備を進めて行った。

一番面倒なのはスパイの存在だったが、シロウはカーグ山の雪狼に助力を求める事で、スパイの存在を無効化する事が出来た。


面倒臭がるウルラを、アクセサリー探しに付き合う事を条件に説得して、カーグ山まで運んでもらい雪狼族の若者ニクスに協力してくれるよう頼んだ。


長はシロウを見ると牙を剥いたが、ニクスは喜んで協力を買って出てくれた。

彼らは憑依の技を用い内面を探り、スパイを排除し組織の人間を操り、ガラードの王国を内側から食い破っていった。


水面下で動き続け、全てのお膳立てが整ったところで、ガラードをイッシュに呼び出してもらったという訳だ。



全てが終わった後、シロウはアルを連れて留置所に向かっていた。


「シロウ、ララはどうなるのじゃ?」

「ララは子供達が売られる先を、慎重に選んでいたみてぇだ」

「慎重に?」


「本当に子供を欲している夫婦や、奴隷じゃなくて、家族として扱ってくれる家を優先してたみてぇだぜ。まぁ全部が全部そんな家に行った訳じゃねぇみてぇだがな」


アルは首を傾げた。


「…つまりどういう事じゃ?」

「抒情酌量っていってな……。要するに、罪も少しは軽くなるって事さ」

「そうか!それは良かった!」


ララは孤児院に戻り、シロウに情報を流し続け組織の崩壊を悟ると、自ら自首する事を選んだ。

彼女はシロウに言っていたように、自分の事も赦す事が出来なかったのだろう。


留置所でイッシュから渡された書類を見せると、それまで胡散臭げにシロウ達を見ていた看守は態度を変え、まるで賓客を扱う様に二人を応接室に案内した。


留置所の応接室だから、それ程豪華という訳では無かったが、看守にしてみれば最大限の配慮なのだろう。


「領主様と知り合いになると、話が早くて助かるぜ」

「貴族とは関わり合いになりたくなかったのではないのか?」


「そうなんだけどよぉ…。今回は面倒な相手だったからな。……次は拳でどうにか出来る相手がいいぜ。…いや、そもそも揉め事が起こらない方が楽なんだが…」


アルはシロウの言葉を聞いて、クスクスと笑った。


「それは無理じゃろう?シロウは困っている人々を放っておけんのじゃから」

「そんな事はねぇよ。……そうなのか?」


二人が話していると、看守がララを連れて部屋に入って来た。


「お待たせしました。私は外で待機しておりますので、お話が終わりましたらお呼び下さい」

「おう、あんがとな」


看守はララを残し部屋を出て行った。

シロウはララに目をやる。

簡素な服を着て手かせを嵌められたララは、少しやつれたようだった。


「シロウ、ギルドは無くなったのね」

「ああ、ボスのガラードは捕まった。幹部も大体捕まえたから、この街でもう仕事は出来ねぇ筈だ。」

「そう…」


ララは虚ろに少し微笑んだ。


「ララ、今日来たのはシュナの頼みなんだ」

「シュナの?」

「シュナ、聞きたい事があるんだろ?」


シロウの体からシュナの魂が現れる。


『ララ。…あのね。僕、ラグとコビーの事が知りたいんだ。…知ってるんでしょ?』

「シュナ…。ラグとコビーは…二人は…二人はもういない…」


『…やっぱりそうなんだね。…ララは僕の事も知ってた。だから二人の事も知ってると思ってたんだ。…ねぇ、二人はどうなったの?』


シュナの質問にララは唇を噛んだ。


「ララ、話してやってくれ。我はシュナの記憶を見た。孤児院から離れた後もシュナは三人の事をずっと想っておった。…頼むのじゃ」


アルの言葉でララは少しずつ話始めた。


「……ラグはシュナに次いで優秀な子だった。だからシュナがいなくなった後、しばらくしてどこかに連れて行かれた。…私が調べた限りでは、彼は何度目かの仕事の時に、しくじって死んだって書かれてた。…事務的な報告書で分かったのはそれだけ、たった一行、名前の横に死亡と記載されていただけ」


ララの顔は初めて出会った時の様に、硬いモノに変わっていた。


「コビーは…コビーはあまり優秀じゃなかった。彼はどこかの商人に買われ、そこで馬車馬のようにこき使われて半年ほどで死んだ。…組織の資料には、その商人からのクレームが書かれていただけだった。…質の悪い奴隷だって。……うう、みんな死んじゃった。…みんな…死んじゃったよぅ」


『ララ、泣かないで…』

「シュナ…。私…私だけが生き残って…」


泣き崩れるララにシロウは声を掛ける。


「ララ、ギルドは確かに潰した。でもそれで、どうにかなんのは暫くの間だけだ」

「…暫く?」


顔を上げたララにシロウは頷く。


「そうだ、暫くだ。この手の組織が無くなる事はねぇ。きっと誰かがまた作るだろう。それが一年後か十年後かは分からねぇ。だからよララ、お前が街を見張るんだ」

「私が見張る?」


「俺はこの街にずっといる事は出来ねぇ。領主のイッシュもいつか代替わりするだろう。そうなった時、同じ事が起きないように、街を、子供達を守れる何かを創れ」


シロウの言葉で、ララは少し考える様に視線を落とした。


「…守る…出来るだろうか私に…」

「内側を知ってるお前だからこそ、俺は出来ると思うぜ」

『出来るよ。ララはお姉さんになったんだもん。大きくなったんだから出来るよ』

「シュナ…。うん、お姉さんだもんね。…分かったシロウ、罪を償って出られたら、私はその為に生きてみる」


ララは赤くなった目をシロウに向け、ニッコリと微笑んだ。


「まぁのんびりやれよ。ちょっとの間はイッシュが頑張るだろ?」

「フフッ、いい加減な男だな」

「うむ、シロウはいつも行き当たりばったりなのじゃ」

「うるせぇよ」


そのやり取りを聞いて、ララは声を上げて笑った。


『もう大丈夫みたいだね』


シュナの魂が光を放ち始める。


「行くのか?」

『うん、ラグとコビーが待ってるもん。ララ、なるべくでいいから笑っていてね。…僕、君の笑顔が好きだよ』

「シュナ…。うん、私笑うよ」


ララの返事に微笑んで、シュナはシロウを見た。


『シロウ、ありがとう。…僕が覚えたもの、シロウにあげる。僕は嫌だったけど、シロウならきっと良い事に使ってくれるよね?』


シュナはそう言うと光を強く放ち消えた。

シロウの中にまるで幼い頃の思い出の様な、甘く苦い感覚が残った。


「良い事ねぇ。…子供の頼みは断れねぇな」

「約束が増えたの」


シロウは腰を上げララに目をやった。


「さて、ララ。俺達の用事は終わりだ。もしこの街に来ることがあったら、そん時はなんか美味いもんでも食わしてくれ」

「我はリンゴとスペアリブが食べたいのじゃ」

「フフッ、分かった。その時は食べきれない程のご馳走を用意しよう」


ララの答えにシロウは満足そうに唇を曲げた。

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