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盗賊の街

シロウ達はそのまま南下し、街道の分かれ道でジョシュアと別れる事にした。

思えば王都を抜け出す為、ロック達とも慌ただしく別れ余韻に浸る暇も無かった。


「悪かったなジョシュア、マーロウともロックとも、もっとちゃんと別れをしたかっただろうに」


「フフッ、別に今生の別れという訳ではないですよ。色々回るつもりですが、私はいずれこの国に帰ってきます。その時はシロウさん達にもまた会えるかもしれませんね」


「そうだな……。そうだジョシュア。貰い物だけどこの剣いるか?」


シロウは腰の雪狼の剣を鞘ごと抜き、ジョシュアの前に差し出した。


「この剣はちゃんとした剣士が持ってた方が、活きると思うんだが?」


しかしジョシュアは小さく笑って首を振った。


「その剣は斬れ過ぎます。修行中の私にはこいつが合っています」


そう言って腰の剣をポンッと叩いた。


「そうか。そう言うんなら俺が持っておくよ。…じゃあなジョシュア、達者でな」

「はい、シロウさんもお元気で。アルさん、ウルラさん、お世話になりました」

「うむ、困った時はアルブム・シンマに祈るがいい。加護を授けてやろう」

「シロウに勝った君なら大丈夫だと思うけど、海には気の荒い神も多いから気を付けてね」


ジョシュアは改めてアルとウルラを見て苦笑した。


「私は今まで神様は天高くにいるものと思っていましたが、意外と近くにいるんですね」

「そうじゃ。お主は人としては破格じゃが、上には上がいる事を忘れるな」

「はい、肝に銘じておきます。では御縁があれば、またいつかどこかで」


シロウ達はジョシュアを見送り、街道を西に進んだ。

彼と別れる事をシロウは、それ程名残惜しいとは感じなかった。

なんとなくまた会える。そんな気がするのだ。


「それで次は西の街なんだろう?どんな所か知っているの?」

「いや、全然知らねぇ。そもそも俺は自分の村と都。それも仕事関係の場所ぐらいしか知らねぇんだ」

「ふうん。ねぇアル。次の魂はどんな人なんだい?」


「次は幼い男の子じゃ。よく分からんが幼い子供がたくさん暮らしている場所から、違う場所に引き取られた様じゃ」


幼い子供がたくさん…。孤児院だろうか…。

引き取られたという事は、里子に出されたのだろう。


「それで何が心残りなんだ、そいつ」

「魂を視るに、そこに残してきた子供達に執着しておるようじゃの」

「子供達?兄弟とかか?」

「分からん。いままで同様、近くに行ってみるしかないじゃろう」


アルは旅の初めよりは随分大きくなったが、見た目はまだ八歳前後ぐらいだ。

存分に力を使うには、もっと信仰が必要なのだろう。


今回、アルが視た場所は情報をまとめると、これから行く領の領都ではないかと考えられる。

孤児院というのなら、地母神の教会が運営しているのかもしれない。




それから一週間ほど旅をして、シロウ達は領境を超え領都に辿りついた。

街は古い建物が多く、目つきの悪い男たちが、路地裏にたむろしているのが目についた。

あまり治安は良くなさそうだ。


「アル、俺達から離れるなよ」

「分かったのじゃ」


アルはそう言ってシロウの手を握る。

その手を握り返し、シロウは取り敢えず宿を取る事にした。

先を考え安宿を選んだつもりだったが、宿主が提示した金額はかなりの高額だった。

これなら都でもそこそこの宿に泊まれる。


「なぁ、旅人だと思って吹っ掛けてないよな?」

「とんでもない!自慢じゃありませんが、うちはこの辺じゃ一番安い宿ですよ」


中年の宿主は、手を広げてシロウに訴える。


「ホントかよ?都でも、もっと安い宿はあるぜ?」


シロウの言葉に、宿主が顔をよせ耳打ちした。


「大きな声じゃ言えませんがね。この街は領主様じゃなく、盗賊が仕切ってるんですよ」

「盗賊!?」


シロウの口を宿主は慌てて塞いだ。


「あわわっ、声が大きい。奴らどこで聞いてるか分からないんだから、気を付けて下さい」

「どういう事だよ?領主はなにしてんだ?」


「領主様は盗賊ギルドの言いなりですよ。だからうちみたいに商売してる所は、税金の他にギルドへの上納金も払わなきゃいけない。必然的に宿代は高くなるって寸法で…」


盗賊ギルドか…。関わり合いにならない方が良さそうだ。

ヘタにちょっかいを出したら、四六時中、暗殺者に狙われるかもしれない。

それに自分やウルラは大丈夫でも、アルが狙われたら困る。


シロウはそう思い、孤児院を探して事を片付け、さっさと街を出ようと考えた。


「そうか、分かったよ」

「すいませんねぇ」

「ところで、この街に孤児院はあるかい?」

「孤児院ですか?…まさかその子を預けるつもりですか?」


宿主がカウンターから離れ、ウルラと一緒にいるアルを見て答える。


「いや、子供を探してんだ。この街の孤児院にいるかもって聞いてね」

「旦那、悪い事は言いません。その子の事は諦めた方がいい」

「…どういう事だよ?」


宿主はシロウを気の毒そうに見ながら言った。


「この街で孤児院と言えば、ギルドが運営してる物しかありません」

「ギルドが…。まさか?」

「そのまさかですよ。……ギルドは子供を売ってるんです。あくまで噂ですがね」


シロウは自身の中に沸き上がった感情を抑える為、拳を握った。

その手がブルブルと震える。


「気持ちは分かりますがね。……変な事、考えない方がいいですよ。今までも子供を取り戻そうとした人はいたけど、出て行った翌日には、街の水路に浮いてるなんて事が何度もありました」


「……孤児院とギルドについて、知っている事を教えてくれ」


低い声でそう言うシロウの様子に、宿主はため息をついて答えた。


「忠告はしましたからね。……私が言ったって言わないで下さいよ」

「分かってるよ」


「…孤児院は近隣の貧しい家から、子供を安い値段で引き取ってるんです。詳しくは知らないけど、見た目のいい子は貴族とか商人に売って、そうじゃない子は労働力として売られてるって話です」


「貴族に?」


宿主は苦い物を食べた様に顔を歪め言う。


「裕福な方には、子供が好きな人もいるんでしょ。私にはさっぱり理解できませんが…」

「……それでギルドほうは?」

「そっちは私ら町民には全くわかりません。金を取りに来る奴も顔を隠してるし、男か女かも分からない始末で…」


「そうか。あんがとよ」


シロウは宿泊費とは別に、銀貨を一枚カウンターに置いた。


「旦那、繰り返しになりますが、諦めて街を出た方がいい」

「…そういう訳にもいかねぇんだ。忠告ありがとよ」


シロウは宿主から鍵を受け取り、アルとウルラを伴い部屋に向かった。

部屋に入りベッドに腰を下ろすと、アルが横に座りシロウの膝に手を置いた。


「シロウ…」


シロウがアルに目をやると、彼女は心配そうにシロウを見上げていた。

その頭を優しく撫でると、アルは気持ちよさそう目を細めた。


「大丈夫だ。子供を売ってるって聞いて、少し頭に血が上っただけさ」

「それで、どうするんだい?君の中の魂は、あのおじさんが言ってた、孤児院にいる子に用があるんだろ?」


ウルラは向かいのベッドに座り、荷物を漁って焼いた肉を取り出しながらシロウに尋ねる。


「明日、孤児院に行ってみるわ。ウルラ、お前とアルは宿に残ってくれ」

「嫌じゃ、我も行くぞ。隠形があれば問題ないじゃろ?」

「……一緒にいた方が安心できるか。分かったそうしてくれ」


アルに答え、ウルラに目をやる。

彼は肉を器用に風で切って、口に運びながらシロウに答えた。


「僕は街を見て回るよ。何かいい物があるかもしれないし」

「…食費しか渡さねぇぞ」

「シロウ、あの訳の分からない道具や食料は僕が運んだんだよ。少しは評価してくれてもいいじゃないか」


旅の間、都で買った調合道具や野営の道具はウルラに運ばせた。

シロウは路銀の足しにとリックの知識を借り、道中、薬になる草を集め調合していた。

草集めはアル、調合と食事、野営の準備はシロウ、運搬はウルラという割り振りで旅をしてきたのだ。


「…分かったよ。だが聞いてたとおり、この街は盗賊が支配してるみてぇだ。あんまり良い物は無いと思うぜ」

「分かってるよ。もう装飾品には手を出さないさ。でもそうすると何がいいかなぁ…」

「面倒起こさなきゃ、なんでもいいよ」


シロウは路銀から幾らかウルラに渡し、その日は早々に眠りについた。

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