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捨てられた娘 前編

シロウ達は娘の村を目指し歩いていた。


死んで家族に会いたいという気持ちは、依然としてシロウの中にあったが、祠に行く前程の強烈な衝動では無くなっていた。


当初はアルの後について歩いていたシロウだったが、アルが虫を追いかけたり、花を見てぼんやりしたりしていたので、今は抱きかかえ移動していた。


「放せシロウ!我はあの虫を捕まえたいのじゃ!」

「そんな事してたら、いつまで経っても娘の村に着けねぇだろ」


そう言うとシロウはアルの顎の下を撫でた。


「止めろ!それをされると我の威厳が!ああぁ…、うにゃぁ…」


喉を鳴らすアルを見ながら、これは本当に神様なのだろうかとシロウは考えた。


しかし、この子猫に縋らなければ、自分の中に棲み付いた魂を除く事も出来ない。

そうなれば天国のリーネやレントに詫びる事も出来ないだろう。


ため息を吐いてシロウはアルに尋ねた。


「アル、次はどっちだ?」

「うにゃぁ…?ああ、その道を右じゃ」

「右だな」


アルの指示に従い歩を進めると、小さな村が見えて来た。

シロウの住んでいた村と同じく普通の農村のようだ。


「シロウ待て」


村に入る前にアルがシロウを止めた。


「なんだよ?小便か?」

「神は排泄などせん!獣が喋ると目立つじゃろうが。姿を変える、下に降ろせ」


「姿を変える?」

「いいから見ておれ」


シロウはアルを地面に降ろし、その姿を見つめた。

アルの体から光が溢れ、肉体が変化していく。


光が収まった後には、白い髪の青い目をした三歳ぐらいの女の子が立っていた。

白い上等な着物を身に纏っている。


「へぇ、さすが神様。いろんな事が出来るんだな」

「どうじゃ、少しは見直したであろ?余りに美しすぎて人の男には目の毒かの?」


アルは科を作ってシロウに微笑んだが、シロウには子供が大人を真似て遊んでいる様にしか見えなかった。


「…アル、あんまり上等な着物だと攫われるぞ」

「それが感想か!?うぬぬ、力を取り戻した暁にはお主を悩殺してやるからの…」

「はいはい、楽しみにしてるよ」


シロウは歯ぎしりしているアルと手を繋ぎ、村の入り口をくぐった。


娘について村人に話を聞くと、シロウ達を胡散臭げに見る者もいたが、噂好きの中年の女性が事細かに説明してくれた。


「話してやってもいいけど、子供が聞く話じゃないよ」

「そうかい?アル少し向こうで遊んで来な。遠くへは行くなよ」

「むッ、我は子供ではないぞ」


「いいから。おじさんはこの人と難しい話をしないといけない。アルは退屈だろ?」

「……分かった」


アルは渋々少し離れた場所で、地面を這う蟻を観察し始めた。


「賢そうな子だね。あんまり似てないけど」

「親戚の子なんだ。…それよりベルって娘はこの村の娘なんだろ?」


「地主のトビーさんとこのベルちゃんだろ。あの娘も隣町へ行くようになってから、どんどん派手になってねぇ。私も心配してたんだよぉ」

「派手に?」


女性は心配していたという割には、なんだか楽しそうに話してくれた。


「そうだよぉ。化粧なんかしちゃってさぁ、服も足や肩を出す服を着るようになってねぇ。

指輪やネックレスなんて、どこからお金が湧いてんだろって不思議に思ってたのさ」


「そりゃ不思議だなぁ?」


シロウは女性の話が聞きたくてしょうがないといった風に相槌を打った。

蟻を見ながら耳をそばだてていたアルは、伝道師も意外といけるかもと心の中で笑みを浮かべた。


「そうだろ。どうも家の蔵からトビーさんが集めた骨董品なんかを売って、お金を作ってたみたいなんだ」

「それじゃぁトビーさんも怒ったんじゃないか?」


「そりゃもうカンカンだよ。持ち出した物には先祖から受け継いだ家宝もあったみたいでね。勘当だ!ってベルちゃんを追い出しちまったのさ」


「勘当までするなんて、トビーさんも相当頭にきてたんだなぁ」


「そうだねぇ。でもトビーさんもしばらくしたら、急に不安になったみたいで人を使って行方を探してたのさ」


シロウは話しが核心に近づいた事を感じ、意気込んだが自分の中の何かが、落ち着く様に言っている気がしてゆっくりと息を吐いた。


「そりゃ、実の娘だもんな、心配して当然だよ」


「そうだよねぇ。…ベルちゃん隣町のムースって男に貢いでいたみたいなんだ。化粧も服もその男の趣味だったみたいでねぇ」


「好きな男に好かれたい一心って奴かい。健気じゃないか」


女性も深く頷き、悲しそうな顔をした。


「勘当されてその男の所に転がりこんだらしいんだけど、お金を持っていないベルちゃんは、男にとっては厄介なだけだったんだろ。

男はその時ベルちゃんが身につけてた宝石なんかを全部持って、姿を消したのさ」


「最初から金目当てだったって訳かい?」


よくある話だが、当人は自分は違うと思ってしまう物なのだろう。


「たぶんね。男に捨てられたベルちゃんは隣町からも姿を消して、今じゃ何処にいるのかも分からないって話だよ。」


「そうかい…。その男の歳格好は分かるかい?」


女性はシロウを訝しげに見た。

急に目の前の正体不明の男が怪しくなったようだ。


「あんた、何をする気だい?」


「実は俺、道中で死にそうになっている所を、ベルちゃんに助けられたんだ。この村に来たのはその時の恩返しがしたかったからなんだが……。

本人が何処にいるか分からねぇって言うなら、男を見つけ出して一発殴りつけてやろうかと思ってね。」


もちろん嘘だ。シロウ自身、自分の口が何故こんなによく回るのか理解できなかった。


だが命を救われたのは、あながち嘘でもない。

ベルの魂がシロウの中に入らなかったら、シロウはアルの祠で自ら命を絶っていただろう。


女性はその嘘を信じたようで、自分が知っている男の情報をシロウに教えてくれた。


分かった情報を頭の中でまとめる。

男の名はムース。歳は二十代半ば、見た目は優しそうな二枚目だが、その見た目と口に騙されて沢山の娘が泣かされてきたそうだ。


「典型的だな。色々教えてくれてありがとな」

「いいんだよ。私も知ってりゃベルちゃんを止めたんだけどねぇ」


「俺が見つけてとっちめてやるよ。それじゃあな。アル行くぞ!」

「うむ」


アルがシロウに駆け寄って来る。

アルと手を繋ぎ女性に礼を言って村を後にした。


「取り敢えず、隣町だな。」

「うむ。しかしシロウ、よくあんな嘘がつけるな」


「俺も不思議なんだ。自分じゃ口下手だと思っていたし、実際その筈なんだが…」

「お主の中の魂が悪さしておるのかもな」


アルの言葉で不安がよぎるが、その不安もすぐに掻き消えた。

なんと言うか負の感情とでもいうのだろうか。そんなモノが心をよぎっても、一瞬で消える。


これも自分の魂に住み着いた者達がそれを喰っているせいだろうか。


そんな事を考えながらシロウはアルと一緒に隣町へ向かった。

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