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医師ジャクソン

シロウは壁際で気絶していた男に歩みより二、三度頬を叩いた。

それに気づいたジョシュアが、シロウの下にやってくる。


「起きろ」

「シロウさん、なにを?」

「こいつら、マーカスが病気だって知ってた。お前ら隠してたんだろ?」

「ええ、知っているのは私とロック、それに医師のジャクソン先生ぐらいです。…まさか?」

「うう…。てッ、てめぇ、俺にこんな事して唯で済む…」


シロウは男の首に手をやり、喉を締め上げる。


「質問に答えろ。誰の差し金だ?」

「何の…事だ…」


男は容易く口を割るつもりは無い様だ。


「言いたくないなら構わねぇ。だがよぉ無理矢理、喧嘩吹っ掛けて来て権利を奪おうとしたんだ。衛視に突きだしゃ、お前ら全員、豚箱行きだぜ?」


シロウの言葉に男はニヤリと笑った。


「やりたきゃ、やるがいい」

「なるほどな。雇い主は上にも顔が利くって訳だ」

「クッ、そうさ俺達を突き出してもすぐに無罪放免さ」


シロウはその言葉を聞いて男の腰からナイフを抜いた。


「それじゃ、お前らが二度とここに来ないように、始末しておくか…」

「てめぇ…本気か?」

「俺は生憎、流れ者だ。お前ら全員殺しても街から離れりゃ済む話さ。雇い主もわざわざお前らの為に、追っ手を出すなんて事しねぇだろ?」


男の瞳が不安げに揺れた。

男自身、自分たちがそれ程、黒幕にとって大事ではない事を理解しているようだ。


「んじゃ、あばよ。来世はお互い関わらないと良いな」


シロウはナイフを振り上げた。


「まッ、待てよ!……言えば俺達を見逃すか?」


男の言葉でシロウは一旦ナイフを下ろした。


「そりゃ、情報次第だな。俺が本当だと思えば見逃してやる。逆に嘘だと感じたら、お前らとはここでサヨナラだな」

「……」


男が黙り込んだので、シロウは再度ナイフを振り上げる。


「ジャクソンだ!!医者のジャクソンが依頼主だ!!」

「やっぱりそうか、でもなんで医者が道場なんて欲しがるんだよ?」


「……近々、ここら辺一帯の区画整理が予定されてる。空き家を潰して新しく歓楽街を作るんだとよ。そうなりゃ土地の値段は跳ね上がる。マーロウが病気のままなら、俺達が出張る必要も無かったのによ…」



あの医者、客もいないのに妙に羽振りがよさそうだったのは、土地を転がして儲けてたのか…。

道場はそれほど裕福ではない。マーロウの病が長引けば治療費の形に権利書を奪うというシナリオだろう。

治療自体、まともにしていたかどうか怪しい物だ。


「情報ありがとよ」


それだけ言うとシロウは、男の首を締め上げ気絶させた。


「さてと、ほんじゃちょっと出掛けてくるわ」

「シロウさん、ジャクソン先生の所に行くんですか?」

「ああ、そのつもりだ」

「私もご一緒していいですか?」


シロウは庭を見回して、かぶりを振った。


「お前はロックたちを守れ」

「しかし、これは道場に関わる事です。無関係の貴方にそこまで頼る訳には…」


二人が話しているとアルが声を上げる。


「ウルラ、何処に行っていたのじゃ!?」

「ちょっと買い物にね。この人たちどうしたの?」


シロウはそう言って庭を見回すウルラに駆け寄り、笑いながら肩に手を回した。

顔は笑っているが、目は笑っていない。


「よぉ、ウルラ。お前、金抜いて何を買ってきたんだぁ?」


シロウの問いにウルラは嬉しそうに答える。


「聞いてよシロウ。この首飾り金貨たったの三枚で買えたんだ。ラケルに似合いそうだと思わないかい?」


ウルラの差し出した宝石が散りばめられた首飾りを、シロウは手に取り観察した。

良く出来てはいるが、宝石はガラス細工、地金はメッキだ。

とても金貨三枚に見合う価値ではない。


「ウルラ、お前は今晩飯抜きだ。それとその首飾り、偽物だぜ」

「飯抜き…。それに偽物だって?だって店の人はお買い得だって…」

「善人ばかりじゃねぇって事さ。…お前はもっと人の世を学ぶ必要があるな。それと二度と金は抜くな。抜けばそこでお前とはお別れだ」


ウルラは手渡された首飾りを手に肩を落としている。

その肩に手を置きシロウは言う。


「俺はジョシュアと出かけて来る。その間、お前が道場を守れ、それで金の件はチャラにしてやるよぉ」

「シロウ…分かったよ…」

「よっしゃ、用心棒も出来た事だし、ジョシュア行くか?」

「はい」


出掛けようとするシロウに、アルが声を掛ける。


「シロウ、何処に行くのじゃ?何処かに行くなら我も一緒に行くのじゃ」

「アル、お前はここでロックたちを診ててくれ。頼むよ」

「むう、すぐ帰ってくるのじゃぞ!」

「分かってるさ」


シロウはアルの頭を撫でて、ジョシュアと共に医者のジャクソンのもとに向かった。

ドアを押し開け、驚いている診察待ちの患者を無視して診察室の扉をくぐる。


診察室には髯を生やした太った男が、老人に聴診器を当てていた。

その後ろには受付をしてくれた女性の姿も見える。

全員、目を丸くしてシロウ達を見て固まっている。


「よぉ、邪魔するぜ」

「何だね君は!?…ジョシュアじゃないか、この男は誰だ?」

「先生、お尋ねしたい事があります」

「今は診療中だ。後にしてもらえないか。それともマーロウの容体でも急変したのかね?」


ジャクソンは落ち着きを取り戻し、穏やかな口調でジョシュアに尋ねた。


「いえ、ご存知だとは思いますが、師匠は薬のお蔭で回復しました」


ジョシュアの言葉に、ジャクソンの笑顔が少し引きつる。


「そんな事よりよぉ、お前、道場にチンピラよこしたろう?」


ジャクソンはシロウの問いに、引きつった笑顔のまま答える。


「チンピラ?何故、医者の私がそんな連中と…。言いがかりは止してくれたまえ」

「まぁいいさ。このまま何もしてこねぇんなら、こっちも何もしねぇよ」

「……」

「一応警告はしたぜ。じゃあな、ジョシュア帰んぞ」

「ええ」


シロウはジャクソンに一瞥もくれず、ジョシュアは丁寧に頭を下げて診察室を後にした。

女性がジャクソンに声を掛ける。


「先生、彼らは何を?」

「うるさい!今日の診察は終わりだ!患者には帰ってもらってくれ!」


普段にこやかなジャクソンが声を荒げた事で、女性はショックを受け、老人も服を整え診察室を足早に後にした。

ジャクソンは診察室を出て、自室に戻り棚から出したブランデーを瓶のまま呷った。


「私の計画を邪魔しおって…。このままで済むと思うなよ」


そこには穏やかに患者に接する医師の姿はなかった。



シロウはジョシュアと二人道場に向かっていた。


「シロウさん、先生は諦めたでしょうか?」

「お前もお人好しだな。ありゃそんな玉じゃねぇだろ。きっと仕掛けてくるぜ」


「……シロウさん。先ほども言いましたが、貴方達は本来、道場とは関わりの無い人たちです。逃げた方が…」

「連れない事言うなよ。同じ釜の飯を食った仲だろう?最後まで付き合うぜ」


ジョシュアは不思議そうにシロウを見た。


「どうして我々を助けてくれるのですか?」

「……俺には息子がいた。死んじまったけどな。ロックが悲しむ所は見たくねぇんだ」


「息子さんが…。しかし危険です。アルさんもいるのに」

「心配すんなよ。俺とウルラがいりゃ軍隊でも連れてこなきゃビクともしねぇよ。それにお前もいるしな」


事も無げに言うシロウに、ジョシュアは笑みを返した。


「貴方がそう言うと本当に聞こえるから不思議です」

「本当だからな」


「……貴方の見返りは何です?」

「見返りか…。そうだな、事が全部終わったら、アルブム・シンマって獅子神様にお祈りの一つも上げてくれ」


そう言ってシロウは笑った。

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