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剣術道場

シロウ達は、アルに姿を消してもらって城門へと進んだ。

ロックはアルが急にいなくなった事で戸惑いを見せたが、シロウが大丈夫だと言うので困惑しながらも先に進んだ。


「すまんが密猟者を探している。けしからん事に王の庭に忍び込んだ者がいるのだ。荷物を検めさせてもらうぞ。」


兵士がそうシロウ達に告げ、持っていた鞄を探る。


「ふむ、旅人か?」

「そうだ。旅先で手に入れた物を売りたくてね」


シロウはウルラの荷物を指差し、兵士にそう告げた。

兵士はウルラの荷物を調べ、首を捻っている。


「これは何だ?ガラスみたいだが妙に冷たいな?」

「溶けない氷らしい。高く売れそうだろ?」

「溶けない氷ねぇ…。まあいい行っていいぞ」


兵士はシロウとウルラに進む様に手を振った。

ロックは住民である事を示すカードを兵士に提示し、シロウ達に合流した。


「ロック、これは返しておくのじゃ」

「アルさん!?一体どこにいたんですか!?」


突然姿を見せたアルにロックはかなり驚いていた。


「ずっと側にいたのじゃ」

「ずっと側に…」


事も無げに言うアルをロックは不思議そうに見た。


「それより、早く親父さんに薬を届けようぜ」

「…そうですね。ではまずは先生の所に行きましょう」


ロックに案内され、一行は医者のもとへ向かった。

医者の家は街中でも大きな家の並ぶ、上級市民が多く住む区画にあった。

シロウがかつて住んでいた職人たちが暮らす長屋とは違い、立派な塀に囲まれた家が多く、私設の警備員が門の前に立っている家もちらほらあった。


「ここです」


ロックが示した家は診療所と、住居を兼ねた作りの大きな屋敷だった。

門をくぐりドアをノックする。

ドアが開き白い服を着た女性が姿を見せた。


「あら、ロック君。先生に御用かしら?」

「はい、薬を作ってもらいたくて伺いました」

「そう。ではロビーで少し待ってて」


女性はロビーのソファーで待つよう一行を促した。

ロビーにはシロウ達の他には、裕福な身なりの老人が数名いるだけだった。

こんな調子でやって行けるのだろうか…


ソファに座ると、アルが鼻を鳴らして少し顔をしかめた。


「変な臭いがするのじゃ」

「医者の家だからな、薬の匂いがするんだろ」

「薬か…、こんな匂いのするものを飲まねばならんとは、人とは難儀なモノじゃのう」

「僕らは基本的に病気とは無縁だからね」


シロウはそんな二人から目を放し、ラサン草の入った袋を抱えたロックを見た。


「そういえば、あんまり金はねぇって言ってたけど、薬を作ってもらうのは大丈夫なのか?」

「あんまり余裕はないですけど、調合代ぐらいならなんとか…」

「そうか」


待っていた老人たちが呼ばれ、やがてロックの名が呼ばれた。

彼はシロウ達に待っている様告げて、奥の診察室に姿を消した。

しばらく待っていると、肩を落としたロックがロビーに戻って来た。


「どうした?薬、駄目だったのか?」

「はい、草を見せたんですが、予想より調合代が高くて…」

「なるほどな…。よし、薬は俺が作ってやるよ」

「えっ?だってシロウさんはお医者様じゃないんですよね?」

「医者じゃねぇが、薬の作り方は知ってるぜ。任せときな」


そうロックに言ってシロウは笑みを見せた。

シロウは医者の家を出た後、鍛冶屋に向かい雪狼の刃を売る事にした。

鍛冶屋を何軒か周り、買い取ってくれるという店があったので、そこで刃を売り払った。

刃は結構な額で売れ、シロウの懐はかなり温かくなった。


「ふう、ようやく荷物持ちから解放されたよ」


ウルラがこれ見よがしに肩を回しながら呟く。

その後、調合に必要な器具を揃え、それをウルラに持たせると彼は渋面を浮かべた。


「また荷物持ちなのかい?」

「お前は基本的に荒事以外出来ねぇだろ?だったら荷物持ちぐらいしろよ」

「お金が入ったんだから、美味しいモノ食べさせてよね」

「分かった分かった」


二人の話を聞いてアルが目を輝かせる。


「何か持てば美味しい物が食べられるのか?では我も何か持つのじゃ!」

「アルはそんな事しなくても食べてもいいんだよ」

「なんでアルにはそんなに甘いんだよ…。僕にも少しは優しくしてくれてもいいじゃないか…」


ウルラのぼやきを聞き流しつつ、シロウ達はロックの家である剣術道場へ向かった。


「今更なんだが、親父さん放っておいてよかったのか?」

「父の世話は一番弟子の、ジョシュアさんがしてくれています。彼にだけは父の病の事も話しました。そしたら看病を買って出てくれたんです」


『ジョシュア!』


ソラスの声がシロウの中で響いた。

突然の声に驚きながらシロウは小声で尋ねる。


「急にでかい声だすなよ。ジョシュアってのが、お前が探している奴なのか?」

『そうだ!俺はあいつと戦いそして敗れた。体さえ本調子ならば、存分に剣を振るえたものを…』


悔しそうなソラスの声を聞きながら、シロウはジョシュアについてロックに話を振る。


「うつるって知ってんのに看病するなんて、親父さん慕われてんだな」

「ジョシュアさんは特別です。父もジョシュアさんの事は、いつも自慢げに話していました」

「道場主が誉めるんだ。相当腕がいいんだな」

「腕だけじゃありません。礼儀正しくて面白くて、他の弟子の方たちも皆ジョシュアさんをしたっています」


ロックの話を聞いていると、彼もジョシュアを慕う一人だという事が伝わって来た。

子供にも慕われるんだから、そのジョシュアという奴は本当にいい奴なんだろう。


自分はそのいい奴と、魂を解放する為に戦わなくてはならない。

シロウの体は普通の人とは違う、人外の力をつかって叩きのめしていいものか…。

そんな思いがシロウの中に渦巻いていた。


道場は庶民が暮らす街の一角に在った。

塀が家の周りを取り囲んでいる。

門をくぐり中に入ると敷地は広いが建物自体は古く、ロックが言っていたようにあまり裕福な様子では無い。


庭には剣の練習に使うのだろう、木で出来た人形がいくつか並んでいた。


「こっちです。ただいま戻りました。」


ロックに案内され寝室に赴くとベッドで眠る口髯を生やした男を、長い金髪を後ろで一つにまとめた細身の青年が看病していた。


「ロック君、お帰り。薬は見つかったのかい?」

「それが、ラサン草は手に入ったのですが、調合代が高くて…」

「そうかい…。私も金には縁がないからなぁ。ところで後ろの人たちは?」


青年がそう言ってシロウ達に目をやる。

優しく澄んだ目をした男だ。

シロウがそう思っていると、ソラスがシロウの中で声を上げた。


『見つけた!!奴がジョシュアだ!!シロウ体を貸してくれ!!』

「駄目だ。まずはロックの親父さんの薬を作って治療してからだ」

『…しかたがない。では早く薬を作れ』

「まったく、偉そうな奴だぜ」


ロックはシロウの様子には気づかず、ジョシュアにシロウ達を紹介した。


「森で倒れていたところを、この方たちに助けて貰ったんです。シロウさん、ウルラさん、アルさんです」

「倒れた?大丈夫なのかい?」

「はい、崖から落ちたんですけど、かすり傷一つ負っていませんでした」

「……とにかく無事でよかった。皆さんロック君を助けてくれてありがとうございます。」


ジョシュアはそう言ってシロウ達に頭を下げた。


「困った時はお互い様さ。それよりロックの親父さんを診てもいいかい?」

「診る?貴方は医者なのですか?」

「シロウさんは父さんの薬を作れるんだ」

「薬を?」


ジョシュアは訝し気にシロウを見た。

彼の態度も当然だろう。


シロウは麻の服を着た如何にも旅人というなりだ。

アルは上等な服を着ているが子供だし、ウルラに至っては冬が近いというのに薄手の上下しか身につけていない。


「怪しむのも分かるが、任せてみてもらえねぇか?」

「…そうですね。今すぐ大金を用意出来る当てもありませんし、よろしくお願いします」

「おう」


シロウはロックの父親を観察し、リックの知識にある症状と一致している事を確かめた。

父親は病により、大分体力を失っている様だ。


「アル、親父さんに術を使ってみてくれ。まずは体力を回復したい」


シロウはアルを促し、癒しの力をロックの父親に使ってもらう事にした。

しかしアルはシロウの言葉に首を振る。


「駄目じゃシロウ。我の技は生命力を活性化させる物じゃ。いま使えば病魔まで勢いづかせてしまう」

「…薬で元を絶たなきゃダメってことか?……そんじゃ先に薬をつくるか。ロック、台所かりていいか?」


シロウの言葉にロックは首をかしげる。


「台所ですか?」

「ああ、案内してくれ。」

「はぁ、こちらです」


シロウの意図が分からないまま、ロックはシロウを促した。


「二人はここで待っててくれ」

「分かったのじゃ」

「シロウ、ちゃんと運んだんだから、食事は奮発してよ」

「へいへい」


シロウはウルラに持たせた器具を受け取り、ロックに案内され台所へ向かった。

台所は広く調理器具も充実していた。


「へぇ、立派な台所だな」

「母が存命の頃は、門下生に食事を作ったりしていたんです」

「なるほどな。これなら仕事が捗りそうだ。」


そう言うと、シロウは火を起こしお湯を沸かしながら、ロックの持っていたラサン草を潰し始めた。

潰した草を煮沸やろ過を行い、成分を抽出していく。

強烈な臭いが台所に漂った。


最終的に袋いっぱいあったラサン草は、コップ一杯程の液体になっていた。

それを瓶に詰めてロックに差し出す。


「これでいいはずだ。ロックこいつをスプーン一匙ずつ、朝晩、親父さんに飲ませるんだ」


ロックは余りの匂いに、鼻をつまみながら瓶を受け取った。


「シロウさん、これホントに大丈夫なんですか?」

「植物学者のお墨付きだ。信用してもらっていい」

「…シロウさん、貴方は本当に何者ですか?」

「アルブム教の伝道師さ。それより早く親父さんに飲ませてやんな」


ロックは緑色のドロッとした液体に顔を引きつらせながら、父親のいる寝室へ向かった。

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