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草と花、山と森

ヴィーネは瞬きをして、シロウを見つめた。


「私の話を聞いてくれるの…?」

「俺は女の頼みは断らねぇ。で何に憑りつかれたたんだ?」


「もう何年すぎたか分からない…私は薬草を取りにこの山に入ったの…そこで白い獣に襲われて…崖から落ちた…そこで私は一度死んだ…」


シロウには女は普通には見えなかったが、死んでいる様にも見えなかった。


「死んだ?それで?」

「再び目覚めた時…私は沢山の獣に囲まれていた…彼らは凄く怒っていた…獣たちは私に言った…ここで人が死んだら穢れるって…」


「穢れる?」

「私、彼らの大事な場所へ…知らないうちに入ってしまったみたい…それを追い払う為に…彼らは私を襲うフリをした…」


どうもヴィーネは獣の聖域に足を踏み入れてしまったようだ。


「私を襲った獣の一匹が私に入った…それで生き返ったみたい…でも生き返った私は誰にも触れなくなった…」

「どうしてリックを探していたんだ?」


「優しかったから…私、村に戻ったけど…皆と一緒に暮らす事は出来なかった…獣も私を仲間に入れてくれなかった…だからずっと一人でここにいた…リックはそんな私に微笑みかけてくれた…話をしてくれた…」


シロウはヴィーネに問い掛けた。


「ヴィーネはどうしたいんだ?」

「もう一人は嫌なの…解放されたい…リックにもう一度会って話せたら…その勇気を貰えると思って…ずっと探してた…」


シロウはその言葉を聞いて、ウルラに声を掛けた。


「ウルラ、こいつの中に何がいるか分かるか?」

「うーん。僕は余りそっちは得意じゃないんだよ。アルに頼んでよ」

「しょうがねぇなぁ。アル!起きてくれ!」

「なんじゃシロウ…まだ朝には早いじゃろ…」


再び眠ろうとするアルを、シロウは揺さぶった。


「お前の力が必要なんだ。頼む」


シロウの体からアルへ力が流れる。


「…しょうがないのう。…ん?この娘、雪狼に憑かれておるな」

「凄いね…、一目で分かるんだ…」

「どうやればその雪狼を取り除ける?」

「…除けば、娘は死ぬぞ。それでも良いのか?」


シロウはヴィーネに目をやった。


「聞いた通りだ。憑いた奴を追い出せば、お前は死ぬ。ヴィーネどうする?」

「それでもいい…寂しいよりはずっと…」

「分かった。アル、雪狼の追っ払い方を教えてくれ」

「暖かくすれば良い。だが難しいぞ、雪狼は常に冷気を放っておるからな」


暖かくか…。

シロウはアルをウルラに預け、雪洞を飛び出した。


雪洞を出たシロウは倒木を引きずり戻って来た。

それを砕き、雪を掘った地面に焚き火の要領で重ねていく。


その後、吹雪の中、何とか火を起こしたシロウはヴィーネに呼び掛ける


「ヴィーネ火に当たれ」


シロウがヴィーネを見ると、彼女は雪洞から足を踏み出そうとしては戻るという事を繰り返していた。


「何やってんだよ」


シロウがヴィーネの手を掴むと、掴んだ手が霜に覆われ凍り付いた。


「…こりゃ、厄介だな」


そう呟き、シロウはヴィーネを抱え上げた。


「何を…」


ヴィーネに触れた場所が霜に覆われ凍り付いていく。


「シロウ!!」


アルが雪洞から飛び出し声を上げる。


「大丈夫だアル。お前はそこにいな」

「離して…貴方が死んでしまうわ…」

「黙ってろ!!」


上半身を氷漬けにされながら、シロウは炎に近づいた。

氷が溶けだしシロウの体を濡らす。


「熱い…」


ヴィーネが呟くと、彼女の体から冷気が噴き出し、焚き火の炎は大きく揺らめいた。


「ウルラ!!炎を守ってくれ!!頼む!!」

「…名指しで頼まれちゃ、聞き届けない訳にもいかないか…」


ウルラは雪洞から出て、右手を振った。

風が冷気から炎を守る。


「少しおまけだよ」


ウルラが左手を振ると、焚き火の炎を煽る様に風が吹いた。

焚き火は炎の勢いを強めた。


「ありがとよ!」

「熱い…でもこれで自由になれる…」

「リック話は聞いてたな?出て来いよ」


シロウはヴィーネを下ろしリックに呼び掛けた。

シロウの体からリックの魂が姿を現す。


『……』

「リック…会いたかった…私、貴方の仲間を殺すつもりはなかったの…でも私に触れると皆凍ってしまう…」

『君がやったんじゃなかったのか?』


「私…あの人達に襲われそうになって…押さえつけようとした人が私に触れて…それで…」


『僕は…君が僕らを殺す為に近づいたんだと…。裏切られたと思っていた…』


リックはヴィーネの頬に手を伸ばした。


『僕はもう君に触れる事も出来ない…』


ヴィーネはその手に自身の手を重ね、嬉しそうに涙を流した。


「リック、また話せて良かった…」


一際大きく焚き火が燃え上がると同時に、ヴィーネの体が力を失う。

何かが抜け出し、麓近くの森へ飛んで行った。


『ヴィーネ!!…僕は意気地なしだ…。君を…君を信じる事が出来なかった…』


泣き崩れたリックに、ヴィーネの体から抜け出た魂がそっと寄り添った。


『リック…泣かないで…貴方が私に微笑みかけてくれた事、とっても嬉しかった…貴方が話してくれた草や花の話、全部覚えてるのよ…』

『ヴィーネ…。僕も君の話した森や山の話を、一つ残らず覚えているよ…』


リックはヴィーネに抱き着き、大声で泣いた。


『こんな風に抱きしめられたの初めてよ…』

『ヴィーネ…』


二人の体が眩い光を放つ。


『シロウ、ありがとう。僕は彼女を恐れて話す事もせず逃げたした事を、ずっと悔やんでいた。』

「まぁ、仲間が氷漬けになりゃ、誰でもビビっちまうさ」

『…僕はヴィーネをもう二度と離さないよ』

「おう。ヴィーネ、お前もしっかり捕まえとけ。生まれ変わっても離れないように」


ヴィーネはシロウに微笑んで頷きを返した。


『シロウ、バートみたいに役には立たないかもしれないけど、僕の知識を君に託そう』

「知識?」

『僕は植物学者だ。この山に来たのもその為だったんだ……。時間みたいだね。シロウ本当にありがとう』

『ありがとうシロウ』


二人は手を繋い強く輝いた。

シロウの中に静かな、しかし強い情熱に似た物を残し、光は消えた。


「シロウ大丈夫か!?」

「ああ」

「フフッ、僕の活躍で上手くいったようだね」


ウルラは得意げに髪をかき上げた。


「ああ、助かったぜ。ありがとな」


素直に礼を言ったシロウに、ウルラはキョトンとした顔をした。


「なんだよ?」

「いや、また皮肉でも言われるかなと思ったんだけど…」

「実際、お前の力のお蔭だ。皮肉なんて言わねぇよ」

「そうかい?」


ウルラは少し照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。


「我も褒めて欲しいのじゃ!」

「アルもありがとな。お前が視て教えてくれたから、何とかなった」


シロウはそう言ってアルの頭を優しく撫でた。


「えへへ」


アルは撫でられながら嬉しそうに笑った。


ヴィーネが去ったことで、吹雪は晴れ、空には星が輝いていた。

シロウは星を見上げ、二人の幸せを願った。


そんな三人の前に白い獣の群れが姿を現した。

その中の一際巨大な一頭が口を開く。


「貴様らが娘を解放したのか!?」


牙を剥いて唸る獣にシロウは獰猛な笑みを向けた。


「こっちから出向こうと思ってたんだ。ヴィーネを縛った理由を聞かせてもらおうか?」

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