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腐敗の大地と金の砂漠

最初に異変に気付いたのはシロウだった。

ナミロが暴れた所為で、周辺の大地は焼け焦げ抉れている。

だが、その更に周辺は緑色の草が風にそよいでいた筈だ。

そのそよいでいた筈の草がどす黒く変化し腐敗している。


「アル、ここから離れた方が良さそうだぜ」

「ん?」

「大地が腐ってる……」


アルはシロウに言われ鼻を鳴らした。

焼け焦げた匂いに交じり、確かに腐敗臭が混じっている。

アルは瞬時に獣に変化した。


『シロウ乗れ!!』

「おう!!」


シロウは地面に転がっていた雪狼の剣を掴むとアルの背に飛び乗った。

アルが大地から離れた直後、地面が丸く円を描いた。

円は丁度真ん中で折れる様に盛り上がり、土ごとナミロの体を飲み込み半球状になる。


『何じゃあれは!?』

「……食虫植物で似たような物があった気がする」

『植物じゃと!?じゃが動いておるぞ!?』


アルの言う様にナミロを飲み込んだ半球は、細長い首をもたげウネウネと動いている。

気付けばそれは一つでは無く、周囲の大地から無数に生えだしていた。

球形の頭部をもたげた闇色の植物は、獲物を求める様に牙の並んだ口を開けた。


「喰われたらドロドロにされちまいそうだ。……そういや俺の邪魔をしたのはキマだろ?」

『そうじゃ。じゃが今は彼奴の事等どうでも良いでは無いか』

「そういう訳にはいかねぇよ。あいつを拾って取り敢えず空に逃げよう」

『……お人好しじゃのシロウは』


アルは少し笑って自分が打倒したキマの元へ飛んだ。

気を失い黒焦げになっているキマを咥え、上空へ上がる。

アルはキマを投げて自らの背に飛ばした。

シロウは慌てて小柄な老人を抱える。


「おい、一応爺さんだぞ」

『フンッ、其奴の所為でシロウは死にかけたのじゃぞ。扱い等、少し乱暴なぐらいで丁度良いわ』


その間にも草原の浸食は続き、このままではラケルの森を飲み込みルサル村までその根は伸びるだろう。

封印では無く、完全に滅ぼさ無ければ止められそうに無い。


「アル、この前ナミロを倒した術は使えるか?」

『勿論使えるが、あの術でも完全には倒しきれんかったぞ?』

「……とにかく見えてる部分だけでもどうにかしねぇと」


シロウはキマを抱えたまま剣を抜きチビに願う。

剣は吹雪を吹き出し、うごめく植物を凍り付かせた。


『ふむ、では我も』


アルは植物に次々と雷を落とした。


『どうかの?』


吹雪で凍り付いた物は崩れ落ち、雷で焼かれた物は消し炭となった。

だが、朽ちた部分から新たな芽が芽吹き、時を置かず球形の頭を覗かせる。

更には復活の際に浸食の速度が増した様に感じられた。


「本体をどうにかしねぇと止められねぇな」

『雷で地面を抉るか?』

「見えてる範囲全部か?……広すぎんだろ」

『むう……』


王都でアルが使った術は地面に大穴を開けたが、草原の浸食は流石に規模が大きすぎる。


「……植物」


シロウに抱えられたキマがぼそりと呟く。


「……ナミロがアルブム殿の技から逃れたのは、恐らく植物の神の力でしょう。植物が生存出来ない土壌であればあるいは……」


「植物の生きれない土地……砂漠か!?」

『じゃが簡単に砂漠等作れんのじゃ……』

「……くーん……アルくーん!!」


アルの耳が自分を呼ぶ声を捉えた。

声のした方に目をやるとファニの背に乗ったガーヴが、手を振りながら声を張り上げている。


『げっ、ガーヴなのじゃ……。我は彼奴が苦手なのじゃ……』

「……あいつ、流砂を作れたよな。だったら草原を砂漠に変えられるじゃねぇか?」

『そういえばザルトと戦っておった時、地面を砂に変えておった!!』

「よっしゃ!!いけんぞ!!やっぱ全員仲間に取り込んどいて正解だぜ!!アル頼む!!」

『やれやれ、あまり近づきとう無いが……』


アルは雷を弾けさせ、ファニのもとに飛んだ。

彼女は教団の神を引き連れてきたらしく、彼女の眷属の背にはファルやランガの他にも神の姿が見えた。


「よぉ、ガーヴ、良い所に来た!」

「アル君、僕を置いて行くなんて酷いじゃないか!?」

『ガーヴ、シロウの話を聞くのじゃ』

「……なんだよぉ?」


ガーヴはアルに言われ、渋々シロウに目を向けた。


「下に見える黒い奴、あれは植物の神の力らしい。あいつを止めてぇ」

「止めるって、僕に何をしろって言うんだい?」

「草原を砂漠に変えてくれ」

「……砂漠に……嫌だ!!一部ならいざ知らず、こんな広い草原を砂漠に変えたら戻せなくなるかもしれない!!」


ガーヴは一点を見つめ押し黙った。


『ガーヴ、我儘を言っている時ではありません。貴女の力なら人々を救えるのですよ』

「ファニ……。君は砂漠を知らないからそんな事が言えるんだ。どんどん広がる砂の海の怖さを……」


ファニの説得にもガーヴは応じなかった。

自棄に陥っていた時は、世界がどうなろうと構わなかった。

だがアルと出会い、砂漠に緑を取り戻せるかもと希望が生まれると、ガーヴは大地を砂に変える力は極力使いたくはなかった。


『ガーヴ、あれを止められるのはお主だけじゃ。頼むのじゃ』

「駄目だよ。アル君の頼みでも出来ないよ。……砂は皆飲み込んじゃう。この国も誰も住まない土地に……」

「しょうがねぇな。アル、寄せてくれ」


アルがファニに近寄ると、シロウはアルの背からファニに飛び移った。

彼女の肩に手を掛け、シロウは口を開く。


「ガーヴ、あれを見ろ。あれはラケルがずっと守ってきた森だ。その先には人が暮らしてる」

「それが何だい?」


「あの植物は森を枯らして、人を襲い、土を腐らせるだろう。そんな物が国を覆えば、それは砂漠より酷い死の世界だと思わねぇか?」


「砂漠より酷い……」


ガーヴは顔を上げて森を見た。

どす黒い草原は今も少しずつ広がっている。


「分かった。やるよ。でも土地を元に戻すのは手伝ってもらうからね!」

「おう任せとけ!力仕事には自信がある!」

「ファニ、草原の端に降ろして」

『分かりました』


ファニは森と草原の境界近くにガーヴとシロウを下ろした。

人に身を変え、二人の横に並ぶ。


「お前は上にいていいんだぜ?」

「あれはナミロなのでしょう?では計画に手を貸していた私にも責任の一端は有ります」

「責任ねぇ、相変わらず硬えなぁ」


『シロウ!!我はどうすれば良い!?』

「アルは上でナミロに備えてくれ!!」

『分かった!!気を付けるのじゃぞ!!』


アルが上空に上がるのを見たガーヴが口を開く。


「それじゃあ、やるよ……。」


ガーヴが少し震えているのを見て、シロウは彼女の頭に手を乗せた。


「ビビるな。人間は砂漠だってどうにか出来る様になる。俺が保証してやる」

「約束できるの?」

「俺はどうも普通の人間より長く生きなきゃなんねぇみてぇだし、その間に必ず方法を見つけてやるさ。焦らずやろうぜ」

「君は……。砂にするのは簡単でも、戻す為には倍以上の力が必要なんだ。言ったからには責任取ってよね」


ガーヴは笑みを浮かべると、大地に強く足を打ち付けた。

ガーヴの前方の大地が放射状に砂の大地へと変わっていく。


「すげぇ……」


シロウは陽光を浴びて、金色に輝く砂の海に思わず口を開けた。


「ふぅ……。とにかく思いっきりやったよ。これでいいんだろ?」

「ああ、後は何とかする。あんがとな」


シロウはそう言うと、乗せていた手でガーヴの頭をポンと叩いた。

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