表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/113

草原を駆ける風

マオトが草原の上空に辿り着いた時、眼下ではザルトと奇怪な獣が戦っていた。


「不死鳥!!ソカル達を癒せ!!」


ザルトの叫びで周囲を見渡すと、草原に巨大なハヤブサ達が身を横たえている。

彼らは生きているようだが、うめき声を上げ苦しんでいるようだった。


マオトは翼を広げ、浄化と癒しを内包した炎をハヤブサ達に放った。

炎を受けたハヤブサはヨロヨロと立ち上がり、何とか翼をはためかせ空に上がった。


だが、そのスピードは元来ソカル族の持つ速さとは比べ物にならない程遅かった。

ヴェインもガルダの巨体を掴み、何とか空に上がる。


『かたじけない!』

『いや、それより安全な場所へ退避してくれ』

『我らはまだ戦える!!』

『……無理をするな。私はファニ様程、癒しの術は得意では無い。あなたは今、飛ぶので精一杯だろう?』

『クッ……恩に着る』


ヴェインはマオトにそう言い残し、草原から遠ざかった。

他のハヤブサ達も彼に続く。


「良くやった!!お前も退避しろ!!」

『そういう訳にはいかん!!』

「いいから!!巻き添えを食うぞ!!」


ザルトが言い終わる前に、風の刃がマオトを掠める。

それは一撃でマオトの翼を深く抉った。

体勢を崩し、落下しながら必死で翼を再生させる。


ザルトのいう様に、足手まといにしかならないようだ。


『……ご武運を』


マオトは甲高く一声鳴くと、ハヤブサ達を追って草原を離れた。


「さて、邪魔者は消えた。あの時は咆哮で足を止められたが、今度はそうはいかん」

『フンッ、何度やっても同じだ。あの時同様、土の味を堪能するがいい』


大地に足跡を刻み、ザルトがナミロと戦っている。

ザルトは両手、両足に白い籠手とグリーブ付きのブーツを身に着けていた。

籠手とブーツには、部分部分に黄赤色に輝く石がはめ込まれている。


ナミロは攻撃を受ける度、ある時は表皮を霜で凍り付かせ、ある時は炎を吹き出し焼け焦げた匂いを漂わせた。


『グッ!?……何だ、その籠手は!?』

「ガーヴと戦って、力不足を感じたのでな。ランガと雪狼に頼んで作ってもらった。突貫だったがいい出来だろう?」

『熊と狼に……。余計な事を……』

「お前、色んな力を取り込み過ぎて制御出来ていないだろう?で無ければファニの力で相殺できる筈だからな」


ザルトの言った通り無作為に神を襲い得た力をナミロは扱いかねていた。

力は増したが短期間で得た能力をナミロ自身把握出来ておらず、的確に場面場面で使える程慣れていない。

実際、全身に不死鳥の力を顕現させれば、炎も氷も防げるだろうが他の能力の行使が出来なくなる。

ザルトの攻撃はそれを逆手に取り、ナミロが奪った神達の特徴が強く出た個所を的確に突く物だった。


『だからどうだと言うのだ?貴様の攻撃では俺を殺す事は出来んだろう?』

「俺がお前を倒す必要は無い。これは時間稼ぎだ」

『時間稼ぎだと?どういう意味だ』

「説明する義理は無いな」


マオトが来る前戦いながら確認したが、倒れたソカル族の中にウルラの姿は見えなかった。

ここにいないという事は、この状況でウルラがいる場所は一つしか無い筈だ。


ザルトは会話を打ち切り、再び踏み込んだ。

ナミロの全身から黒い炎が噴き出す。

だが手足の籠手とブーツが吹雪でそれを相殺した。


「いい仕事だ」


頭部に有る目の一つに突きを放ち、反撃前に離脱する。


『貴様ぁ!!』


ナミロは抉られた目からどす黒い血を流し吠えた。

力を集め、ソカル達の動きを封じた毒の球を再度作り出そうとする。


「遅い!」


それより速くザルトの蹴りが硬質に変化した蠍の尾に放たれる。

振り降ろされた足は、斧の様に尾を根元から切断した。

切断面は焼け焦げ煙を上げていた。


『ガァ!?……おのれぇ……』


ナミロは自ら尾を断ち切り、尾を再生した。


「なるほど、別の神が宿っている場所は焼かれると再生出来んのか」

『グルル、走るしか能のない神が……』

「そうだ。俺は走る事しか出来ん。だから人の技を学んだのだ」


ザルトはそう言うと拳を構えた。

その表情には付け焼刃では無い自信と誇りが感じられた。


力では圧倒的に勝る自分がザルトに翻弄されている。

その事はナミロの肥大したプライドを激しく傷付けた。


怒りが膨れ上がり、全身を支配していく。

それはナミロの全身を巡り、体の芯を突き抜けた。


『グオオオオルアァアア!!!』

「何だ!?」


漆黒の淀んだ霧がナミロの全身から噴き出す。

ザルトは思わず距離を取る。


霧が晴れた時、そこには巨漢の男が立っていた。

全身に黒い鎧を纏い、その鎧からは同じく黒い炎が揺らめいていた。


「カハァ……。フハハッ!感謝するぞザルト。貴様のお蔭で俺は更なる高みに立てたようだ」

「……何を言っている?」

「特別に見せてやる、覇王。……いや、覇神の力を」


ナミロの右手に炎が揺らめき、大剣を形作った。

彼はそれを無造作に振る。


剣は暴風を生み周囲を薙ぎ払った。

ザルトはそれを飛んで躱した。


完全に躱した筈のそれはすれ違った瞬間、炎を吹き出しザルトを焼いた。

更には衝撃を加え、そして体の自由を奪った。


「初めてにしては上手くいったな」

「ぐぐっ……、力を…合成したのか……」

「ほう、良く見抜いた。褒めてやろう」


「大体、コツは掴んだ。今後、俺の攻撃を受けた者は、あらゆる苦痛を感じながら死ぬ事になるだろう。素晴らしいとは思わんか?それは恐怖を生み、俺を更に強くする。まさに覇者に相応しい力だ」


「なにが…覇者だ。…そんな者は…王でも…神でも…無い。ただの…傍迷惑な…厄介者…だ」


ナミロは無表情に、ザルトに剣を振り下ろした。


「グアアアアアア!!」


切り飛ばされた右腕が宙を舞う。

同時にザルトの全身を感じた事の無い痛みが襲った。


「グウウゥ……」

「無礼な物言いはそれで許してやる。光栄に思えお前の力も我が身に宿してやろう」


ザルトを見下ろすナミロの後ろ、空の彼方に雷光の煌めきが見える。


ようやくお出ましか……。

だが、とても間に合いそうにないな。

もう少し、あいつ等と遊んでいたかったが……。


「俺は…これで幕引きの…ようだ……籠手よ頼む……」


籠手に取り付けられた黄赤色の石が激しい光を放つ。


「フンッ、悪あがきを」


封じられていたマグマの力が噴き出し、ザルトの体を焼いて行く。


「何!?」

「ハハッ……残念…だったな…俺は…誰かの…思い通りには…ならん。……草原の風は……いつも……自由だ……」


ナミロが何かする前にマグマはザルトを包み込み、その身を一瞬で焼き尽くした。

不意に青く輝く馬が現れる。

黒く立派な体躯を持った馬の横に、黒髪の少しつり目の女性が立っていた。

馬と女性が見つめ合い頷くと、草原を風が駆け抜けた。


草が風に靡いた後、そこには焦げた大地が残るだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ