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幸せの総量

王都に戻ったシロウ達は、ナミロを倒した事をファニに報告する為、神殿に向かった。

ウルラは祖父に報告すると言ってラケルの森へ向かい、ザルトは堅苦しいのは御免だと王都の街に姿を消した。

ガーヴはマオトの事があり気まずいのか、神殿に入らず外のベンチで待つと言い座ってしまった。


仕方なく残った四人で入った至高神の神殿で、一行はファニの部屋に通された。

部屋は几帳面な彼女らしく埃一つ無く、白を基調とした棚が壁に沿って置かれ整頓された資料や報告書が収められている。


中央に置かれたテーブルを挟んで、ファニと向かい合う形でシロウとアルがソファーに腰かける。

その後ろにファルが立ち、ランガは壁に背にして腕を組んでいた。


シロウはナミロが消滅した事をファニに報告し、彼を消した術の説明はアルに任せた。


アルが言うには、あの術に巻き込まれて生き残れる者はいないそうだ。

シロウには普通の炎と何が違うのか分からないが、木が燃えるのとは根本的に違うらしい。

アルは物質を構成する小さな粒がどうとか言っていたが、聞いていると頭が痛くなったので殆どの説明はシロウの耳を素通りしてしまった。


他の者も同様だったようで、嬉しそうに話すアルに少しげんなりしていた。


「それでアルブム、本当にナミロは消滅したのですね?」

「むう、これからが良い所じゃのに……。消滅した筈じゃ奴の匂いも消えておったしの」


ファニに止められアルは少し不服そうだったが、渋々といった様子で質問に答えた。


「匂い迄消えていたのなら、復活までには長い時が必要でしょう」

「復活出来るのか!?」

「我々は人の想いが積み重なり形を取ったものです。彼を人が求め信じれば再び誕生するでしょう。……同じナミロ・メラハという神でも違う者としてですが」


ファニの説明にシロウは首をかしげながら尋ねる。


「俺達が戦ったナミロとは違う奴ってことか?」

「はい、消滅は人格や記憶の終わりを意味します。彼はまた一からやり直す形になります」

「……形は同じでも全くの別人って訳か」

「ええ。ただ信仰する者の求める物が変わらなければ、また戦を求める神になるでしょう」


信奉者がいる限りナミロは変わる事はない。

信奉者……。

それはキマが作った教団に多く存在していたのでは無かっただろうか。

彼らを変えられれば、ナミロは違う形で復活出来るかもしれない。


「なぁ、ファニ。お前達のいた教団の人間は元はナミロの信者なんだよな?」

「はい、ナミロが封じられた後、細々と活動していた彼らをキマが纏めたのです」

「そいつらに会えないか?」

「会ってどうするのです?」


シロウは切なそうな笑みを浮かべて言う。


「力と破壊、侵略と略奪……。それがナミロへの願いなんだろ?」

「そう聞いています」

「誰かを傷付けて奪うだけなんて、それが当然だと思ってるなんて人として悲しいじゃねぇか……」

「シロウ……」


アルと旅をしている間に見た、力によって何かを奪われた人々。

彼らが傷ついた原因は、奪う事が当然だと思っている者達がいたからだった。


豊かになる一番簡単な方法は誰かから奪うことだ。

だがそれではいつまで経っても不幸は消えない。

幸せを奪い合っているだけだからだ。


本当に必要なのは、皆が豊かになる方法を考え、状況を変える為の努力ではないだろうか。

富める者は貧しい者を助け、やがて助けられた者も豊かになる。

そうすれば幸せの総量は増えていく、そんな風に漠然とシロウは思った。


「奪うんじゃなく、自分達でつかみ取る。その為に戦う神にナミロを変えてぇ」


「……彼らはナミロの力に魅せられた者達の末裔です。そして今の世代は復活したナミロの力を見て育ったのです。出来る筈がありません」


「出来る筈が無いか……。まぁそうだよな。最初からあきらめてんだからよぉ」


シロウの挑発的な物言いにファニの眉がピクリと動く。


「貴方なら出来るというのですか?千年以上続いてきた信仰を変えることが?」

「さぁてねぇ。やってみねぇと分からねぇよ。でもやらなきゃ変わらないのは確実だろ?」

「……まったく口の回る男ですね。いいでしょう。彼らと引き合わせましょう」

「そうか、あんがとな」

「他には何かありますか?」


シロウはずっと考えていた事を口にした。


「そもそもなんだが、お前が教団に協力したのは、信仰が途絶えて消えかけていたからなんだよな?」

「一番の理由はそうですね」

「俺がアルに頼まれたのも信者を増やす事だった」

「うむ、我らは信じる者がおらねば加護を授ける事は出来んからの」

「それでだ。五大教は王様にも顔が効くんだろ?」


王と言われてファニは怪訝な顔をした。

確かに何十年という時間をかけて、キマは王にも影響力を持つモノに五大教を変えた。

それが土着の神の信仰とどう繋がるのか……。


「王様にナシつけて、信仰を自由にしてくれよ」

「自由に?どういう事です?」

「だから、どれか一つを信じるんじゃなくて、場合によって祈る神を変えるのさ」

「祈る神を変える?」


理解が及ばずファニだけでなくアル達も首をかしげている。


「いや、お前ら色々特化してるだろ?だから怪我した時はアル、子宝はファル、死を悼む時はファニ、温泉はランガみたいにその時々で祈る神を変えるのさ。だったら信者を取り合う必要もねぇだろ?」


「俺は温泉の神ではない!」


「分かってるよ。でもお前の温泉、気持ち良かったぜ」

「グォ……」


ランガは再び腕を組むと、まんざらでもなさそうに鼻の頭を掻いた。


「……人々がどれか一つを選ぶのではなく、自由に神を行き来するということですか?」

「そうそれ!」

「人気の無い神とか出て来そうですね。シャオ等は特に……」


ファルが少し嬉しそうにそんな事を言う。


「まぁ、生まれて来たんだから求めれた理由は有る筈だぜ」

「ふむ、それなら自身の信仰にこだわって争う事も減りそうじゃの」


元々、信者であるかどうか等関係無しに癒してきたアルは嬉しそうに笑った。


「……現状で我々不死鳥族は、至高神への人々の祈りをかすめ取る形で存在しています。確かに自身の信仰を作った方が形としては自然でしょう」

「王様に話してくれるか?」

「……分かりました。王には余り会いたくは無いのですが、話してみましょう」

「会いたくない?なんでだ?」


ファニは顔を顰め、吐き捨てる様に答えた。


「王は私に懸想しているのです。私が教皇で無ければ正室に迎えたいと囁かれた事もあります」

「正室じゃと!?女王ではないか!?」

「へぇ、その顔を見るに相当嫌な奴みてぇだな?」

「悪い人ではありません。ただ、とにかく饒舌なのです。私は寡黙で実行力のある殿方が好みなのです。……何を言わせるのですか!?」


ファニは、シロウは笑みを、アルは興味深々、ファルは少し驚いた様子、そしてランガは少し口を開けて自分を見ている事に気付き声を荒げた。


「お堅い女と思っていたが、アンタ結構可愛い所もあるんだな」

「……口を閉じないと燃やしますよ」


半眼で睨むファニをシロウは両手を上げて宥めた。


「貴方と話しているとペースを乱されます。……ではナミロの信者に会う、それと王に信仰について進言する、以上でよろしいですか?」

「ああ、それでいい。そういえば教団の他の神はどうしてるんだ?」


「残った者もいますが、キマや幹部が消えた事で大半は去りました。やはり私が悪神に堕とされた事が大きかったのだと思います。去った者は王国に残った者や故郷に帰った者などそれぞれです」

「そうか、もし信仰について王が認めたら、国に残った奴らにも声を掛けてやってくれ」


ファニは不思議そうにシロウを見た。


「何故、そこまで見知らぬ神を気に掛けるのです?」

「旅の間、崩れかけた社を何度も見かけた。そいつらも昔はアルみてぇに土地を守ってたんだろ?忘れられていくのは少し寂しい。そう思っただけだ」

「シロウ……」


アルは優しい微笑みを浮かべシロウを見つめた。


「……分かりました。王の承諾を得られれば、彼らとも話してみましょう」

「頼んだ」


その後、シロウ達が詳細を打ち合わせている頃、山中にある打ち捨てられた社を鼬に似た獣がのぞき込んでいた。

獣は鼻を鳴らすと、社に入り込み丸くなって寝息を立て始める。


翌日、その社は粉々に壊され、その近くには干からびた獣が残されていた。

信仰の絶えた社の存在は現在知る者は無く、獣はやがて風に溶ける様に消えた。

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