7章
転移した先、そこは懐かしい戦場だった。
人々の悲鳴・怒号・怨嗟・攻撃を仕掛けたときの希望・ソレが通らなかった絶望、それらが何もかも懐かしい。
~転生前は傭兵として、4歳から人を殺していた。
内乱のあおりで両親が死に、赤子で傭兵集団に拾われたアリスは、物心ついたときから戦闘や殺人の知識を叩き込まれ、4歳で初めて人を殺した。
以来、あらゆる状況・あらゆる戦場で成果を挙げてきた彼女は、その可憐な容姿と裏腹に、感情無く淡々と殺すスタイルから「キリングドール」と呼ばれ、畏怖と尊敬を集めてきた。
けれどある日、傭兵として参加した戦闘で、味方ごと巻き込む絨毯爆撃に巻き込まれた。
爆弾が直撃する瞬間、あぁ死んだなと覚悟して目を閉じたが、いっこうに痛みは来ず、目を開けるとあの馬車の中だった。
とりあえず襲われそうだった彼を突き飛ばして熊の一撃を受ける。身体が折れそうな衝撃が走るが潜在Vitのおかげで耐えられた。
その一瞬の硬直の隙を突いて影槍で頭をぶち抜く。生暖かい血がさらに自分を過去に戻していく。
「君はいったい・・・」
問われるが答える暇がない、戦況は最悪なのだから。
熊の死骸を空間収納して、とりあえず商隊を襲ってる熊を影槍で串刺しにする。
そのまま息をするように、練成魔法で短剣を2本生み出す。逆手に構え、姿勢を下げて攻撃態勢をとる。
そのまま感情を墜とす。理性を、蝋燭ぐらいの明るさまで。
一切の感情を廃し、冷徹に・慈悲も無く・一撃で殺すために前世で鍛え上げた殺しのやり方。
感情を廃すことで思考に余剰を生み、その余剰で戦況の動き・相手の戦術を思考する。
未来予知レベルまで鍛え上げたこの方法で、今生の初の戦場を蹂躙する。
手始めに近場の熊へ突撃する。小柄な体躯に加え、身体強化による高速移動で地表を這うように走るために対応が遅れた熊は一瞬で懐に入られ頚動脈を切り上げられて絶命する。
しかしそのそばにいた熊が、攻撃したその一瞬を突いてアリスに突貫する。
が、読んでたアリスは突貫の勢いそのままに振るわれた前足の一撃に合わせて勢いをそらし、回転しつつその首を刎ねる。
そしてアリスは戦場を走る。ある熊は眉間を刺し貫かれ、ある熊は心臓を穿たれて絶命する。
そこに「戦闘」はなく、ただの「作業」としてアルスたちの目には映っていた。
が、色の濃い上位種のクリムゾングリズリーを倒した直後、ブラッディーグリズリーの固有スキル「深紅の爪」でクリムゾングリズリーごとアリスの左手が切り飛ばされた。
「ひっ」と商隊から悲鳴が上がるが、別にアリスとしては問題ない。むしろ切り飛ばされた腕にパスを通して簡易魔力爆弾として重濃度の魔力肉片を熊達にぶつける。
重濃度の魔力は、ただ触れるだけでレジスト不可の混乱・脱力・麻痺などの状態異常を与えることがあるので、アリスは万一のことがあったら作戦上そうしようと考えていた。
結果、ばら撒かれた肉片で隙が生まれ、その隙を突いて次々と血祭りにあげていく。
そして数分後、最後の熊を倒し、深呼吸して「キリングドール・アリス」から普段のアリスに切り替える。
やはり戦場は居心地がいい。それに、元の世界より魔法やスキルがある分戦術に幅が持てる。
右手を振るい、影波であちこちの熊の死骸を空間収納に収めたところで、隊の護衛冒険者のリーダーから声をかけられた。