1章
~少女が転生してから8年が経過。
前世でのサバイバル知識・技術を駆使し、なおかつ持っていたスキルを総動員して野生化していたアリスはそろそろ人里を探そうと決意して前から見つけていた街道を進んでいた。
ふと、彼女の気配操作による探査が、この先で争いが発生している雰囲気を伝えてきた。しかもかなり強いのも混ざっていた。
急ぎアリスが駆けつけると、大き目の城塞都市が見える草原の中腹あたりで、衛兵らしき人たちと狼っぽい魔物が争う現場だった。
20人ほどの前衛と10人ほどの魔法兵のコンビネーションで拮抗はしてるみたいだが、遠目から見るとジリ貧なのは明らかだった。
さらに狼の後方には一回り大きい狼が控えており、その咆哮で森から逐次狼が戦線に投入されていた。
それにリーダーらしき騎兵の人が気づいたらしく、その狼に突撃していくのが見えたが、明らかに大狼の方が強そうだったので、まずいだろうと思ってレインは参戦した。
走りながら魔力操作で地面を分解・金属成分を抽出し、即席のダガーを練成して両手に持ち、衛兵リーダーに追従する。
「っ、何者だ!」
「誰何は後。倒すのが先。隙を作るから止めをお願い」
そう短く告げて、レインはさらに速度を上げて大狼に肉薄する。
気づいた大狼が回避しようとするがそれより早くレインが左手のダガーを投擲。
投げられたダガーは狙いたがわず大狼の足を縫いとめ、続く右手のダガーがすれ違いざまに腹部を切り裂く。
「ぉぉおおおっ」
とどめに衛兵リーダーの槍が大狼の頭蓋を貫通し止めとなった。
礼を言われそうだったけどそれより残党処分を先として、衛兵を襲っていた狼をすべて影槍で刺し貫き殲滅した。
その光景に一瞬唖然としたリーダーは、はっと我に返って礼を言った。
「オレはイルク領の領主、エル・イルク公爵だ。領主として、此度の支援攻撃、感謝する」
びっくり公爵がリーダーだった。
「ん。感謝も礼もいらない。誰も死ななかったから、いい」
「しかし領主として、領民ならびに領地の危機を救ってもらった恩人だ。そういうわけには行かない。30匹近くいたCランクの牙狼を1撃で葬った実力といい、Aランクの狼王の足止めまでした実力者だ。お礼をしなければ民から恨まれる」
「そうだぜ嬢ちゃん、領主様もこう言ってるんだし、お礼に飯ぐらい奢らさせてくれや」
いつの間にか集まってきた衛兵達に口々に言われ、ご飯くらいならと着いていくことにした。
無論、そのときにこの世界の常識等を教えてもらうこともさりげなく伝えておいた。