表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第四話

パチリと目を覚ますと全く知らない天井。というベタなセリフを思ってみた。騎士さんは宿を紹介してもらってから帰った。その時に手紙も処分してくれるように渡したのでもう二度と会うことはないだろう。

「んー」

寝心地最悪のベットから起き上がると伸びをした。ベットの隣の床には雑魚寝しているグレンがいる。そう、床だ。これは決して意地悪などではなく仕方のないことなのだ。グレンは2メートル越えのでっかい男でベットに入りきらなかったのだ。可哀想なことにベットの足元の方に微妙な出っ張りがあり、寝心地がこれまた最悪そうだったので床で寝てもらったのだ。ごめんグレン。

「朝ご飯どうしようっかなぁ。」

素泊まりで代金を払ったので朝御飯の事をあまり考えていなかったのだ。だが、あれとあれを買えばイケると思うんだよな。

「グレン」

「ふがっ………ぐがー」

揺するが全く起きない。これは困ったな。じゃあ、魔法の言葉で起こしてやろう。

「グレン起きーや。朝ご飯抜きにするよ。」

「駄目だ。」

ガバリと起きたグレンの顔は大真面目だ。

「おはよう。」

「ん?おはようってなんだ?」

「え、おはようって知らないの?」

まじかよ。

「何だそれ?」

「朝、起きたり人に会った時に使う言葉だよ。挨拶。知り合いに会った時にグレンは「おう。」とかいうやろ?それと同じ。」

「そうか。なら、おはようだな。」

「うん、おはよう。で、もうチェックアウトするから着替えて。」

「わかった。」

「私も着替えるから。」

「おう。」

私は荷物から二人の着替えを取り出して服を脱ぎ始めた。

「おい!」

「ん?」

私の現在の格好はスカートを脱いでいる途中だ。

「お前なぁ俺がいるだろうが。もちっと女としての自覚をもて。」

「いや、グレンはもう家族の様なものだから問題ないやろ。だから大丈夫。下着までは脱がないから。」

「そういう問題じゃねぇんだよなぁ。」

「まぁ、そんなことはどうでもいいからグレンはさっさと下着と服を着替えて。ほら。」

私はグレンに向かって下着と服を投げた。それをキャッチしたグレンは複雑な顔をしている。

「こっち向くなよー。」

「わかってる。」

私は後で使いそうなお金を別の袋に入れて、全財産ともいうべきお金はリュックの底に入れた。髪の毛は制服のポケットに入っていた携帯用の櫛を使って梳いた。尖った部分で二つに分け、二つとも慣れたように髪を結んでいく。ゴムで結び終わるとグレンがいつの間にか近くに来ていて、感心したような顔をしていた。

「どうしたん?」

「スゲェなこれってどうやんだ?」

「やってみるか?」

「いや、要らない技術だなとは思ったぜ。」

「やってみると楽しいで。暇つぶしになるし。」

「まじかよ。」

「まじ。」

「まぁ、今晩野宿するときにでも教えたるわ。あ、グレンそのまま止まってて。」

「お、おう。」

グレンは大人しくしている。アザミはグレンの跳ねている髪を気やすめだが自分の櫛で軽く梳いた。

「私の奴隷になったからには清潔にしてもらうからな。道中色々教えたる。」

「いや、勉強は遠慮するぜ。」

「いや、教える。そしたら美味いもんも食える。」

「教えてくれ、先生。」

「うん。で、代わりに私にも常識を教えて。グレン先生。」

「おうよ。で、朝飯はどうすんだ?」

「パンとその具を買おうと思ってる。」

「具?」

「まぁ、美味くなるから大丈夫。」

「任せた。」

「じゃあ、行こう。顔を洗ったら、近くのパン屋に行こう。」

「わかった。俺が道を覚えているから大丈夫だ。」

「ありがとう。じゃあ、しゅっぱーつ。」

ある宿屋の一室から少女と獣人の旅が始まった。


********


「毎度あり」

朝の焼き立てのパンに切れ込みを入れてほしいと言うとパン屋は不思議な顔をしながら了承してくれた。そして、その切れ込みの中に何を入れるかは読者の皆様は大体お分かりだろう。

「なぁ、これどうすんだ?」

切れ込みの入ったホカホカのパンを持って困惑した表情のグレン。ふっふっふ。それは美味しくなるための準備をしただけなのだよ。

「あ、あそこの屋台でウィンナーが焼いてあるから買おう。」

「うぃんなー?」

「えっと、あー、腸詰のこと。」

「あぁ、腸詰な。あれ美味いんだよな。」

「それをこのパンで挟むねん。おじさん腸詰二本下さい。焼けたらこのパンの切れ目に入れてくれへん?」

「ん?あぁ、いいぜ。腸詰二本だな。銅貨6枚だ。」

「はい。」

「毎度ありー。」

私とグレンは腸詰をパンにはさんでもらいなんちゃってホットドッグを食べた。

「…うめぇか?」

「まぁ、まだまだやからな。」

「これがもっと美味くなんのかよ。」

「なるなる。頑張れば。」

「…それはどう頑張んだよ。」

「んー、トマト味のソースを作るんだよ。それをこれにかけたらめっちゃ美味い。で、プラスで炒めた野菜を挟めば完璧。」

普通はレタスを入れるのだろうが、洗った時の水分がパンに染みてべちゃべちゃになるのが嫌なので、私は玉ねぎと人参を炒めたものをよく挟むのだ。あと、塩もみキャベツとか。塩もみキャベツは塩でもんだことでボリュームが激減することで沢山挟める利点と、食感がとてもいい利点があるのだ。

「ほんとか?」

「うん。あ、喉乾いた、あそこの果実水を買お。」

「俺の分も頼む。」

「わかってる。」

「ありがとよ。」

「はいはい。あ、おじさん果実水二つ頂戴。はいこれお金。」

「毎度ありー。」

私とグレンはなんちゃってホットドッグでパサついた口を果実水で潤した。

「さて、腹ごしらえは終わったことだし、王都をでよう。」

「そうだな。」

私達は王都から出るために門に向かった。


********



門に着くと見たことのある背格好の人物がいた。この世界に着てみたことのある人物なんぞ一人しかいない。あれは騎士さんだ。

「騎士さん。おはよう。」

「よう。」

私とグレンが挨拶をすると騎士さんはこちらを向いた。

「おはようございます。」

「騎士さんは何か用があったん?」

「いえ、お見送りに来ただけですよ。」

「そうなん。でも、もう会わん人間のお見送りなんかこんでいいのに。」

「いえ、最後まで案内しますよ。」

「案内って、もう出るだけなのに?」

「はい。」

「まぁ、いっか。じゃあ、もう行くね。ばいばい。」

「はい。道中お気をつけて。」

私は手を遠慮がちに振りながら門を通って次の街を目指した。


********



後ろで手を振っていた騎士はタチバナアザミの姿が見えなくなると王城に戻った。その表情はアザミに見せていたあの優しそうな騎士の顔ではなく、無感情な顔のどこか冷たい空気を纏っていた。それは豹変ともいうべきものだった。

「副団長。」

豹変した騎士、否副団長を呼び止めたのは騎士の部下だ。

「何だ。」

表情だけでなく声までも抑揚がなく冷たい。

「勇者様方が訓練に入られました。」

「そうか。」

「どういたしますか?」

「甘めの訓練でいいだろう。平和なところでぽやぽやと育ったようだからな。私は団長が放置した書類を片付ける。判断はお前たちに任せる。以上だ。」

「っは。」

副団長はそう言うと騎士団長に与えられている執務室に向かった。


********




王都を出て数時間


「え、道ってこれでも整備されてんの?」

「そうだが?普通じゃねぇの?」

「えー。」

道は馬車が通った後が溝になっておりデコボコだ。これで整備されているというのだから恐ろしい。そして、更に恐ろしいのは馬が良く走っているのに殆ど糞が落ちていないことだ。何で? 

「我慢するか。で、ここら辺に出てくる魔物はあんまりいないらしいよ。」

「そりゃそうだろう。王都の冒険者がこぞって退治しまくってんだからよぉ。まぁ、それでも出てこないわけじゃねぇんだけどな。」

「うん。あ、あとさ夜の見張りってどうすんの?」

「急に話が飛ぶなおい。はぁ、野営か。野営は基本的に交代しながら夜の見張りをするんだが、お前は役に立ちそうにないな。」

「じゃあ、剣を教えて。解体も。グレンは私に冒険者のことを教えて。私はその他のことを出来る限り教えるから。」

「そうだったな。」

「料理も頑張るし。」

「それは期待している。」

「圧はかけないでほしいなぁ。ははは。」

「ん?おい、ゴブリン来たぞ。これは、1、2…3匹だな。」

「え、ゴブリン!?」

小声で叫ぶ。

「1匹はお前がやれ強くなった方がいい。俺が一応足を折っとくから大丈夫だ。」

「う、うん。わかった。」

緊張で声が震えていないだろうか。怖い。大丈夫だと思っていたんだけど。

「来た。」


ガサガサ


ヒョコっと茂みから姿を現したのは緑色の人型の魔物。ゴブリンだ。いや、ちゃんと事前に聞いていたからそう認識できるんだけど。リアルで見ると汚いな。ゴブリンの腰布は灰色で薄汚れていてテカっている部分もあるからそこに戦慄する。

考えないようにしよう。

「ふー。」

「ギャギャ」

「ギャ」

「ゲギャギャ」

生理的に受け付けれない声を上げながらゴブリンは私達に片手に持っている棍棒を振り回しながら迫ってきた。私はゴブリンが出てくる前に抜いた短め細めの軽めの剣を両手で構えていた。そんなゴブリンたちにグレンは顔色も表情も動かさずに一瞬で迫ったそして、武器屋で買った大剣を横なぎに軽く振った。するとゴブリン2匹は吹っ飛んだ。もう1匹のゴブリンが戸惑っている。すかさず大剣を振ってゴブリンの足に軽く叩きつけている。しかし、軽くと言っても大きなクレイモアを軽く叩きつけただけで軟弱なゴブリンがタダで済むはずがない。案の定ポキポキと嫌な音を立ててゴブリンが軽く飛んだ。

「アザミ!」

私はその足の折れたゴブリンに向かって走り寄り剣を逆手に持った。

「アザミ、やれ。」

「…うん。死にたくないからな。」

私は色々な感情を押し込めて震えた身体を叱咤した。そして、ゴブリンの首に剣を刺した。

「うぇー。」

私は手の肉と骨を断つ感触に気持ち悪くなりゴブリンの頭に吐いた。グレイが背中を優しく摩ってくれる。

「よくやったな。」

「うん。うん。けほっ。」

私は泣きそうになるのを堪えてうんうん言った。胃液で喉が少し痛い。

「みずぅ。」

「はいよ。」

グレイが背中をさすってくれながら革袋の水筒を出してくれる。ふぃー、頑張ったぜ。ん?なんか身体がめっちゃ熱い。あっつ、あっついわぁああ!!

「グレンぅぅぅ、暑い暑い脱ぎたい。はぁはぁはぁ。」

「アザミ!?どうしたんだ!まさか毒か?」

「何か暑い。なぁ、グレン死んじゃうの?」

「死なん!取り敢えず川に行くぞ!」

「うんっ。行きたいっ。うぇえぇぇ、インフルエンザに罹った時みたいぃぃぃ。」

それくらい暑くてしんどいのだ。おおう、身体がぐらっとしたがグレンが支えてくれた。いい仲間を持って幸せだったぜ。

「んな死ぬみたいな顔すんな!取り敢えずあっちに川があるみたいだから抱えて走るぞ。」

「へ?」

「んじゃ、舌噛まねぇようにしとけよ。」

あっという間に私と荷物を抱え込んだグレンは私の剣をゴブリンから引き抜くとブンっと振って血振りをした。そのまま片手に持ちながら物凄いスピードで走りだした。これは下手したら車位スピードが出てんのじゃないか?ってくらい。私は、しんどいので落ちないようにグレンの首に必死にしがみついた。それでもはぁはぁ言ってるけど。


********


「着いたぞ!」

俺は荷物をすぐさまおろし川辺に布を敷いた。その上にアザミを寝かせた。暑い暑いと呟いているアザミはしんどそうだ。俺は乾いた布を取り出し川の水ですぐさま濡らした。戻ると汗を大量にかいていた。俺は濡れた布でアザミの汗を拭った。

「背中も拭くか。」

俺は少しでもアザミが楽になるように背中の服をめくった。が、俺は絶句した。アザミの背中には大量の掻き傷と2度と消えない様な丸い火傷の跡が大量にあったからだ。思わず顔を顰めた。皮膚は火傷で爛れている。俺はそっと布巾で拭いてやるとアザミがビクッとした。俺はつい行動を止めてしまったが、直ぐに再開する。

「アザミ、」

その名を呼ぶと胸の内が温かくなる。会って1日と経っていないこの小さな俺のご主人様が俺は大事に思えて仕方がない。別に恋情を抱くとかそういうのではなくどこか放っておけないのだ。気丈には振舞っていたが昨晩寝ている時に泣いて震えていた。不安にならないようにしてやりたかったが、どうしたらいいのかわからなかった。頭を何度か梳いてやると震えがおさまったので思わず安堵の息を漏らしてしまったくらいだ。

「グレン、グレン」

俺の名前を呼ぶアザミが苦しいなら自分が変わってやりたいくらいだった。俺は少しでもアザミが楽になるようにその華奢な身体を自分の太い腕で優しく抱擁した。近くで聞こえるのはアザミの激しい息切れ。いつになったらおさまるのかわからないが、すぐに死なないと言う事は遅延性の毒などではないだろう。まず、死ぬようなものではないとわかった。奴隷になる前は冒険者をやっていて、それなりに裏社会との付き合いもあったのでどんな毒が使われているとかは知っている。その中でアザミの症状がでる毒は一つもない。希少であまり知られていない毒を使ったとしてもこいつに使う意味がわからない。まぁ、こいつの出自やらは知らないし、何処から来たのかさえもわからない。ただ一つわかるとすると、アザミが"騎士さん"と読んでいたあの男が手がかりだ。だが、その男に聞くわけにもいかないし、まず名前も知らねぇ。アザミも知らなさそうだし、何よりあいつは怪し過ぎる。身のこなしは一級品だったが俺の本能が警笛をうるせぇくらいにガンガン鳴らしやがる。時折フードから覗くアザミを見る目は狂気の色があった。そんなやつがアザミをあっさりと離したのも不思議だったが、あぁ!ックソ!何で役にたてねぇ!


ちらりとアザミを見るといつの間にか気絶していたようだ。汗も額から沢山吹き出している。俺は布で拭ってやった。顔が火照っていて親愛の情を抱いている俺ですら理性がぐらっとくるくらいだ。白い肌に色づいた赤い頬。汗ばんだ肌に小さな赤い果実のような唇。こいつってなんで自分で自覚を持ってねぇのか意味が解んねぇくらいだ。

「はぁ~。俺が守ってやらないとな。」

あの時握られた手は決して強がりなんかではなく、普通に握手した手の様だった。俺はその時歓喜に打ち震えた。震えていない手、しかし、華奢で細くちょっとでも力を込めるとすぐに潰れてしまうだろう。そんな何の力もない非力な少女が俺みたいな獣人に手を差し出してくれたのが嬉しくて仕方がなかった。星のない夜空の様な黒い瞳には強い光が宿っていた。俺はその目に屈してしまったのだ。そして、心底愛しいと思ってしまったんだ。






********










「ん、……」

んん?なんか近くで工事してんのかな?めっちゃうるさい。まるで地響きのような…



パチリ



目を開けると目の前にはいびきをかくグレンの顔が…

「うるせぇ!」

思わず叫んでしまったではないか。

「ご、ぐがッ?!」

変な声を出して起きたグレンは目をぱちぱちしてこちらを見る。

「うおー!治ったのか!?起きたのか!?」

グレンは腕の中で不機嫌になっていた私を急に強く抱いて雄叫びを上げた。

「う、うるさい。声、声が頭に響くから。」

耳がキーンとなっている。本当にうるさいのだ。

「わ、わかった。すまん。」

「身体は大丈夫だよ。寧ろ、めっちゃ調子がいい。」

「そうか、良かった。」

うーん。本当に調子がいい。身体が軽い。

「で、離して。」

「お、おお。」

グレンの腕から解放された私は体の調子を確かめるために屈伸をした。

「暫くは安静にした方がいいんじゃねぇか?」

グレンがそう声をかけてくるが構わない。

「いや、ちょっと試したいことがあって。」

私はそこら辺の石を拾って遠くの木に当たるように集中した。

「あ、おい。」

「いっけぇ!」



ヒュンッ




ズドン!!




私はメジャーリーガー張りのフォーム(自称だから)で思いっきり投石した。すると石は木にめり込んで凄い音がした。そして、私は青ざめた。

「なに、これ。」

「マジかよ。」

グレンも驚いているようだ。これはいったいどういうことだ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ