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結果



「優勝━━━━、





  櫻夏(おうか)高校」



 パチパチパチ。


 本心では祝福なんてしていないくせに、形式的に拍手をする。心からライバルの勝利を祝えない自分の醜さに呆れる。


 周りの音がない。色がない。そういえば、前世でも大会で負けた時こんな感じだった。……いや、前世以上に無音無色か。


 先輩達の顔色も優れない。当たり前のことなのだけど。


 最後だったのだ。この人達にとって。3年間頑張った結果なのだ。


 そうだ。俺は。俺たちは。



 春蘭(しゅんらん)高校は、



「準優勝━━━━、春蘭高校」



 負けた。



* * *



 誰が悪いわけではない。

 誰かを責めたって仕方がない。


 負けは負けだ。あれだけ調子の良いことを言っておきながら、情けない。


 今俺たち春蘭高校生は、選手控え室で後片付けをしている。しかし、誰かが口を開くことは無い。ただ皆黙々と作業を続ける。


 何を言えばいいのか分からないし、軽々しく何かを言うべきではない。と、思う。


 俺の隣に立つソフィも何処と無く気まずげだ。一応先程、『ん、ご主人様。準優勝おめでとう。惜しかった』と声はかけてくれた。


「うぇ……」


 んん?


「うぇえ……うわぁあああ……!」


 一体なんの声かと思えば、それはすみれ先輩の悲痛な泣き声だった。

 ……彼女の気持ちを想像すると胸が苦しくなる。すみれ先輩を責める気はない。しかし、成績だけを見ると彼女が5人の中で1番的中率が低かったのだ。それはそうだろう。彼女はまだ2年生。3年生の引退をかけた大会で普段通りの成績を残せと言われても無理がある。俺は1年だけど、精神年齢は全然違うしね。

 それに俺も今回的中率100%ではなかった。(精神的に)最年長の俺が皆を引っ張らなければいけないのに、だ。


 だから、彼女を責めるものなど誰もいない。

 しかし、すみれ先輩自身はどうだろう。激しい自責の念に囚われているはずだ。


 すみれ先輩の周りにいた友人達が、泣きじゃくる彼女の背中をさすったり、頭を撫でてあげたりして慰めている。


 俺も今すぐ行って慰めてあげたいが……それは出来ない。

 俺は5人の中で的中率がトップだった。加えて年下である1年生。そんなやつに慰められてどうしろというんだ。俺だったらほっといて欲しい。


 それに3年生の先輩達も泣きたい気持ちは同じだろう。それを先輩として後輩に情けない姿は見せられないと、ぐっと堪えているのだ。1年生の俺にできることなどない。


「……みんな、よく今まで頑張ってくれた。結果は残念な形になってしまったが、準優勝でもすごい事だ。それに全国大会出場は無理だったが、地方大会には出場できる。次は絶対優勝するぞ。皆疲れたと思う。今日は帰ってゆっくり休んでくれ」


 右京雫(うきょうしずく)部長がそう締めくくり、今日の日程は全て終了した。


 そうだまだ終わっていない。全国大会出場は逃したものの、地方大会出場権は得た。ちなみに地方大会で優勝したからといって全国大会に出られるわけではない。全国大会と地方大会は別物なのだ。優勝チームは全国大会、2位〜4位チームは地方大会に、それぞれ出場権を得る。


 かと言って、虚無感がおさまるわけではない。

 とりあえず帰ろう。話はまた後日だ。


 それに明日は美沙のバスケットボールの大会がある。彼女のためにも精一杯応援してあげたいのだ。こんなしょぼくれた状態ではいけない。元気ださなきゃね。


 来週は同窓会だし、落ち込んでる暇なんてないな、本当に。



* * *



「……ジンちゃん、お疲れ様」


「仁よく頑張った。2位おめでとう」


「お兄ちゃん凄かったよ!!おつかれさま」


 会場を出ると、愛すべき家族が労ってくれた。集中していて観客席の方は見ていなかったが、応援してくれていたのだろう。


「ありがとね、みんな」


 ごめんね、とは言わない。謝るのは何か違うし、一緒に戦った先輩達に失礼な気がした。


「前原君、久しぶり!そしてお疲れ様っ!準優勝おめでとう!」


「あ、足立さんお久しぶりです。ありがとうございます」


 あー、すっかり忘れていたけどこの人も来るって言ってたな。

 ソフィは、足立さんが俺の家族と一緒にいたためか、彼女のことは特に警戒はしないみたいだ。ソフィは足立さんのことは知らないため、今のように話しかけて来た時反応するかと思ったがそんなことはないらしい。その辺の判断はすごい。

 

「えっと、君は噂のSBMの方かな?」


「ん、私はソフィア・マルティス。ご主人様の盾となる者」


 挨拶カッコイイな。

 ちょっと厨二病混ざってるけどそこがまたいい。


「外国人美人だね〜。あ、そうそう前原君に取材しようと思って来たんだけど……。また今度改めて来ようかな」


「そうして頂けると助かります。少し疲れたもので」


 どうやら俺が落ち込んでると思い気を使ってくれた様子。そういうことなら、それに甘えることにする。


「わかったっ!ゆっくり休んでね。じゃあまた連絡するね。またね〜」


 そう言って足立さんは足早に去っていった。助かります。


「ふぅ……」


 なんだろ、この、自分の一部が抜け落ちた感覚。悲しいとか悔しいとかじゃなく、苦しい。無力感に打ちひしがれそうだ。


 爛々と照りつける太陽を見やる。……目が痛い。あれ、裸眼で直接太陽見ちゃだめだったっけ?……まぁ今はいいや。


 帰ろう。明日の美沙の大会応援に備えなければ。いっぱい応援してあげるのだ。

 莉央ちゃんも来るのかな。今夜連絡でもしてみよう。ついでに慰めてもらおう、うん。



 今日は美味しいもの食べるぞ。





 

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