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会長

あけましておめでとうございます。

長い間休んでしまったので今回は長めで…!

 「ふぅ…」


 時刻は午後10時。

 自室にて学校の宿題を終えた俺は、一息つきながら背もたれに体重を預ける。

 

 宿題は終わったから、次は定期テストの勉強かな。授業を受けた限り特に分からないところはなかったけど、とりあえずテスト範囲を一通り確認しておかないと。


「でもその前に、ちょっと休憩するか」


 少し喉が渇いたので、一階のリビングから何か飲み物を取ってこよう。

 

 小一時間ほど椅子に座っていたため少し固くなっている体を解しつつ、自室から出る。

 そして、俺の部屋の右隣に位置する部屋に視線を向けた。

 ここは、ソフィの部屋という事になった。『できるだけ、常に俺の近くにいた方がいい』という皆の考えの元の判断だ。俺もその結論に特に異議はない。


 彼女は今この部屋で書類作業をしている最中だ。報告書をまとめる必要があるとか。あと、


『…ん。ご主人様を侍衛するにあたって、そのシュミレーションは必須。暴姦がこの家に侵入してきた場合の、逃走経路の確認・確保を事前にしておきたい』


 との事で、30分程前までこの家の内部をこれでもかと調べに調べ尽くしていた。アホな子かと思いきや、こういうところはやっぱりプロなんだな、と、とてもカッコ良いと思った。



 …のだが、実はその直前にちょっとした事件があった。

 

 その事件とは、5人で食卓を囲んだ後、俺が一番風呂を貰った時に起きた。

 俺は普段、当然のことながら1人でお風呂に入っている。そして、前原家ではその間お風呂場に近付く行為は禁止とされている。これは誰かの抜け駆けを防止するために3人で協定を結んだらしい。俺は本当は、母さんや姉さん、心愛と一緒に入浴したいというささやかな願望を胸に抱いているのだが、まあその話は今は置いておく。


 兎に角、そのルールの下いつもの如く俺は1人でお風呂に入っていた。




* * *




「あー…気持ちいい」


 俺は湯船に体を浸からせながら、先ほどの情景を思い浮かべる。


 ソフィを交えての初の夕食は中々楽しかった。彼女はどうやら人との対話があまり得意ではなさそうだが、俺たちとの距離を少しでも縮めようとしてくれたのか積極的に会話に参加してくれた。

 SBMというかなり特殊な職業柄、ソフィの話は興味深いものが多かった。目を血走らせながら猛突進してきた女性ファンから男性アイドルを守った話、男性大臣の私室にナイフを持って、あと何故か下着姿で侵入してきた変態女を撃退した話など、思わず聞き入ってしまうほどだった。


「…『ご主人様』、ね。ふふっ」


 チャプンと、湯船に貯められたお湯を手で掬いながら呟く。

 まさか自分がご主人様になる日が来るなんて思わなかった。前世で何度も読んだ異世界転移・転生モノの小説では、主人公が奴隷を購入し、そう呼ばれるシーンを目にした事は数え切れないほどあった。同時に、強く憧れもした。

 しかし、俺が転生したこの世界は、前世の世界のパラレルワールドとも言えるほど類似点が多く、とてもじゃないが奴隷が存在しているとは思えなかった。だから、転生できたこの幸せをきちんと噛み締め、憧れは捨てようと思っていたのだ。


 それなのに、図らずも棚から牡丹餅的に俺を『ご主人様』と呼んでくれる女の子が現れた。冷静に振舞ってはいるが、内心では踊り狂いそうなほど歓喜しているのだ。



「これから楽しくなりそ───」



『ガラァ!!』



 『これから楽しくなりそうだ』。俺はそう口にしようとしたのだが、言い切ることはできなかった。

 何故なら、語尾に達する前にお風呂場の扉が勢い良く開かれたからだ。


 !?

 なんだ!?


 俺が入浴中なのは皆の周知済みのため、ルールに従って近付く事はしないはず。という事は、何か緊急の事態があった可能性がある。それを伝えるために、ルールを破って誰かが来てくれたと考えれば辻褄が合う。


 俺は素早く扉へ顔を向けその人物を確認する。



「……」



 ソフィがいた。


 視線で穴が開くほど俺を見つめる彼女は少し鼻息が荒い。

 …あと、彼女はバスタオルを体に巻いていて、その下は裸だと思われる。長髪も結わえており、『今からお風呂に入ります!』と体現しているようだ。

 

「えっと…、どうしたの?何かあった?」


 ソフィに特に動きがなかったので、俺の方から話を促してみた。

 まあ、答えは分かりきってるんだけど。火急の用事という訳では、おそらくないんだろうな。


「……ん。私の仕事はご主人様の身辺警護。よって、常に警戒しておく必要がある」


「うんうん」


「それには、入浴時間も例外じゃないと考えた」


「まあ、うん」


「だから、私も一緒に入る。…決して卑猥な気持ちはない」


「う、うん」


 まあ…、筋は通っている、かな?

 いや、でもそれなら扉の前に待機しておくだけでもいいような気がするしなあ。うーん。

 そもそも、母さん達の了承は得たんだろうか?ほぼ確実に許可は得られないと思うんだけど。


 ソフィの端正な顔を見つめ、彼女の主張について吟味する。


「…卑猥な気持ちは少ししかない」


 すると、不審がられていると思ったのかソフィがまた口を開き、僅かに言い直した。目を逸らしながら。


 いや、卑猥な気持ちあるんかい。正直なのはいい事だけども。あと可愛いから許す。

 

 とまあ、色々と考えてしまったが、一緒にお風呂に入るくらい別に構わない。寧ろこっちからお願いしたいくらいなのだ。願ったり叶ったりというやつだ。唯一の懸念としては、この子がまた鼻血を出さないかということだけかな。…大丈夫だろうか。

 

 いや、やっぱりソフィの体調が心配だ。残念だけど今回はパスして、また明日一緒に入ろう。そしてその時こそご主人様として、グヘヘな事をしてやるのだ。ぐへへ。


 そう頭の中で考えた俺は、悪いと思いながらもソフィに断りを入れようと改めて彼女に向き直る。


 その時。



「「「……ソフィ」」」



「ひっ…」


 俺が意図せず悲鳴を漏らしてしまう程の迫力がある、黒く濁った深淵から這い上がってきたような凄まじい声が、三重奏の如く浴室を反響した。


「なぁにしてるのかなぁ?」


「さっきあれほど言い聞かせたんだけどねぇ」


「ダメだよソフィちゃん。しばくよ?」


 その音源はソフィの背後。

 奏でるは、前原柚香(ゆずか)茄林(かりん)心愛(ゆあ)の3人。般若の幻影が見えるようだ。正直無茶苦茶怖い。


「…ん。でもあのルールは家族に適用されると聞いた。私は家族ではないので、ルール外の存在のはず」


 そして怒る3人の般若の重圧をもろに受けている張本人は飄々としている。さすが修羅場をくぐってきたエリートだ。


 …でも、家族ではない、か。うーん、一緒に住むんだから家族のようなものだと思うんだけど。


「何言ってるの!この家に住むからにはソフィも家族の一員だよ!」


 と思ってたら、どうやら母さんも同じ意見だったみたいだ。うんうん、ソフィも前原家の一員でしょ。


「でも、血縁関係が…」


「そんな細かいことどうでもいいの!とにかくこっち来てソフィ!お説教の時間だよ!」


「仁のお風呂に侵入した罪は重いわよ」


「…羨ましいよぉ。私だってお兄ちゃんと…」


 母さんと姉さんに脇を抱えられてソフィは連行されていった。

 ありがたい説教が待っているらしい。強く生きてくれ。


 …あと、ソフィ以外の3人。去っていく直前に俺の方をガン見していた姿、きちんと見えてましたよ。そんなに俺の裸が見たいなら言ってくれればいつでも見せてあげるのに。

 まあ女性の方からは頼み辛いか。今度唐突に誰かの目の前に裸で参上してみようかな。反応が面白そうだし。ちょっと考えておくか。


「…ふう」


 全く、騒がしい家族たちだ。




* * *



 といった、プチ事件があったのだ。あの後ソフィはこってり絞られたという。少し気の毒だとは思うが、これも皆の愛故なのだ。最初は『ソフィさん』と呼んでいた皆も、共に夕食の時を経た今では母さんと姉さんは『ソフィ』と呼び捨てにしているし、心愛に関しては『ソフィちゃん』だ。心愛よりもソフィの方が断然年上なんだけど、身長は同じくらいだから親近感でも湧いているのかもそれない。


 俺はソフィの部屋の扉に生暖かい目を向ける。

 ソフィがうちの家族に馴染めそうで本当に良かった。


 さて、飲み物をさっさと取りに行って勉強を再開しよう。


 ソフィの仕事の邪魔をしては悪いので、音を立てないように抜足差足で部屋の前を通り過ぎ、階段へ向かう。


 恐らく、母さん達は全員まだリビングにいる筈だ。


 階段を下りていると、リビングの扉の隙間から僅かに明かりが漏れ出ていることがわかった。…確か冷房をつけていたはずなんだけど。きちんと扉を閉めないと、せっかくの冷気が廊下に流れてしまうし、電気代も高くなってしまう。

 まったく。


「みんなー、扉開いてたよ。クーラーつけてるんだからちゃんと───」


 俺は注意を促そうと、さながら子を叱る親のように入室したのだが其処で一旦言葉を切った。


 なぜなら、


「…うん、いいねこれ」


「撮影者…分かってる」


「うんうん。お兄ちゃんの良さを分かってるよ」


 3人が集まり、何やら怪しげな密談を行っていたからだ。ソコに何かあるのか、床のある一点を中心に3人で囲むようにして、小声で言葉を交わしているようだ。


 …あやしい。


 もうこれ、私達内緒話してますよと宣言してしまっているようなものだと思う。もう少し上手くやりようがあるだろうに。

 しかも俺がいる事に全員気付いていないみたいだ。どれだけ熱中してるんだ。


 気になる。


 こうもあからさまだと、ムクムクと好奇心がつい顔を出してしまう。

 幼少期の子供が新しい玩具を発見したかのように、自身の探究心を抑えられない。


 …これは覗き見るしかないでしょう!

 行きましょう!


 俺は剣道や弓道で用いる、()り足という技術を駆使して、無音で3人に近付く。


「ジンちゃん…いつ見ても…いい」


「ちょっと母さん…!ヨダレなんか垂らさないで、はしたない…!」


「でもお姉ちゃん、私はお母さんの気持ち分かるよ」


「…それは、私もそうだけど…」


 目的地まで残り1メートルという場所まで接近出来た。此処まで近付いてしまえば、小声だとしても会話は丸聞こえだ。


 うん、予想通り話題は俺のようだな!というかヨダレて。それ俺にくださ…いえ、何でもないです。

 くだらん思考は捨て置こう。この距離からならばもう覗けそうだ。


 上半身をぐいっと前へ突き出し、3人の上から彼女たちが囲んでいるブツを確認してみた。


 そこには、スマホがあった。

 3台あり、3人の正面にそれぞれ置かれている。そして、写っている画面も一様に同じのようだ。


 …えっと、写真、かな?写ってるのは…俺?いつのやつだ?見覚えがあるような、ないような。


 3台のスマホの画面には同じ俺の写真が映し出されていた。

 撮影場所は学校の教室。俺は学習机の椅子に腰掛け、カメラに向かってピースサインしている。顔はいつも通り異常に整っており、輝かんばかりの笑顔だが、照れているように見えるくらい少し顔が赤い。机の上には数学の教科書が整理されて置かれている。


 …なんか、覚えがあるな。いや、覚えがあるどころじゃない。鮮明に記憶に残っている。


 これ、今朝だ。

 1限目が始まる前に、森山さんに撮ってもらった写真だ。間違いない。それ以外に考えられない。

 …何故、この写真を母さんたちが…?


 思いがけぬ事態に俺がそう混乱していると。


「…ん?…あっ、お兄ちゃん!?」


「えっ!」


「あ、いつの間に!仁」


 俺が上から覗き込んでいたせいでできた影に心愛が気付いたらしく、覗き見していることが3人にバレてしまった。


「覗き見しちゃってごめんね?気になっちゃってさ。…それより、その写真は何?どうして母さんたちが持っているの?」


 少し問い詰めるような口調になってしまった。


「…あっ。…え、えっと」


 母さんは両手の指を絡ませながら、バツが悪そうに体をもじもじとさせる。その姿は、悪戯が発覚して叱られる子供を彷彿とさせた。


「…うぅ」


 無言で見つめていると、観念したように母さんがスマホを俺に差し出してきた。

 …別に怒ってるわけじゃないんだけど何でそんなに怯えてるんだろう…。後ろ暗いことなのかな。


「じゃあちょっと見せてもらうね」


 怖がらせているとしたらそれは俺の本意ではないのでそう言って笑顔を見せつつ、手元のスマホに視線を落とす。


 そこには、





『「美天使」前原仁様を崇高し、全てを捧げる覚悟を持つ信者たちよ、ごきげんよう。此度、皆の者に朗報がある。皆が(すべから)く狂喜乱舞する事だ。

 実は、前原仁様の御写真を入手した。かのお方の真の美しさの1割も表せてはいないが、それでもかなりの破壊力を持つものだ。そして、私はその破壊力を皆と共有したいと考えた。心配せずとも、御写真のご利用の許可はご本人様から頂いている。

 前原仁様の御写真で共にイき、共に逝こう。』





という旨の内容が記されていた。これは要所要所を抜粋してみた結果である。本文はさらに長々と俺への想いが綴られている。

 そしてこの本文の下に、俺の写真が貼り付けられているというわけだ。


 ちょ、ちょっと待って!少しずつ、少しずつ整理しよう。


 …まず、これファンクラブだよね?そのサイトに前述の文言と、俺の写真が載っていたと。

 次に、この写真を撮影したのは森山さんで間違いないし、不特定多数へ拡散する許可を問うてきたのも森山さんだ。

 さらに、この写真をサイトに貼り付けたのは『会長』と呼ばれる人物だという。前々から俺のファンクラブを運営してくれている人がどんな人なのか知りたかったのだが、この会長という人物がそうなのだろう。


 …えっと、えっ?嘘だろ…?


 これらの事実が雄弁に物語ることは1つしかない。


 つまり、森山さん=会長の方程式が成り立ってしまうのだ。

 あり得るのか?こんな身近にいるなんて。可愛らしいクラスメイトくらいとしか認識していなかったあの子が、まさか悪の黒幕だったなんて…!いや、悪じゃないけど。

 

 とにかく、『俺の信者の巣窟とも言えるファンクラブを総括しているのは、俺が所属する1年1組のクラスメイトである森山さん』説が濃厚だ。これは確認しなければいけない。

 明日の朝一で、本人に聞いてみよう。


 もしかしたら、森山さんがSNSにあげた写真を誰かが流用したのかもしれないしね。


「ん、ありがとう」


 俺はスマホを母さんに返した。


「も、もう大丈夫なの?」


「うん、大丈夫だよ。わざわざ貸してもらっちゃってごめんね?」


「う、ううん!全然いいよ!」


 母さんは安堵したように息をつきながら手を振る。

 …そういえば、さっきはなんであんなに怯えてたんだろう。それに、そもそも何故3人はコソコソと俺の写真について話していたんだろう。別に俺が怒ることはないと分かってるはずなんだけど…。


 いや、待てよ。

 3人のスマホ全てに、同じ俺のファンクラブのサイトが映ってたよな。

 あのサイトは確か会員しか閲覧することはできなかったはず。この前検索をかけてホームページを見ようとしたら、会員限定と書かれており、ログインしなければサイトに飛ぶことすらできなかったのだ。


 でもこの3人はサイトに飛べた、と。


 ……。


「ね、ねぇ母さん、姉さん、心愛」


 半ば確信と化した予想を確認すべく、俺は件の3人へと声をかける。


「もしかしたらなんだけどさ、3人とも俺のファンクラブに入ってたりするの、かな?」


 そう、つまりこういう事なのだ。会員しか見られないサイトをこの3人が見ていたという事は、この3人は会員であるということ。

 

「「「…」」」


 3人は物言わぬとばかりに、目をそれぞれ別の方向に逸らしている。黙秘権行使しないで。


「黙っててもダメだよ?会員なんでしょ?」


 このままでは埒があかないので、追撃を加える。


「…だってぇ…、会員特典があるって噂聞いたから…」


「入らざるを得ないじゃない?」


「お兄ちゃんの妹として見逃せなかったの!!」


 すると、母さんは泣きそうになりながら語りだした。姉さんと心愛は開き直ったのか、堂々としたものだけど。


「…そうならそうと早く言えばいいのに…」


「うぅ…あんなに力強く宣言しちゃったものだから言い出し辛くて…」


 そう、母さんがこれ程気まずそうにしているには理由がある。

 ただ単に俺のファンクラブに入っていただけではこうはならない。


 実は、母さん達に俺のファンクラブがある旨を伝えた時、

『ファンクラブ?ふんっ、どうせジンちゃんをいやらしい目で見る女達の集まりだよね?そんな集団私は認めないから!いつかケチョンケチョンにしてあげるよ!』

 と高らかに口にしながら、シャドーボクシングのように両拳を交互に繰り出していたことがあったのだ。


 この意見には姉さんも心愛も概ね同意のようだったので、うちの家族は俺のファンクラブに入ることはまず無いんだろうなと思っていた。


 …思っていたのだが、それが今見事に打ち砕かれたというわけだ。

 母さんの話によると、会員限定の特典の噂を聞いてつい入会してしまったみたいだ。そしてその特典っていうのは恐らくさっきの俺の写真の事なんだろう。


 俺は横目で3人を見やる。


 開き直っている姉さんと心愛に対して、母さんは今尚気まずそうに体を忙しなく揺らしている。


 そんなに気にすることないのに…。

 でも母さんはああ見えて繊細なところがあるからな。


 うん、フォローするべきだな。そうと決まれば即実行、だ。


 俺は母さんに近付き、顔を鼻頭が触れるのではないかというくらい近付け、告げる。

 

「俺は、母さんのことが大好きだ」


「ふへぇッ!?」


 可愛らしい反応をしてくれているのはありがたいが、まだ終わってない。

 母さんの顔に走る熱気を感じながら、さらに続ける。


「その大好きな人が、俺のファンクラブに入ってくれたんだ。…嬉しくないわけないでしょ?」


 笑顔でそう言ってあげた。


 …うん、クサい。こんなクサいセリフ恥ずかしげもなく言えるようになったのはいつだろう…。以前の俺なら、待ったなしの顔真っ赤案件だ。

 自己陶酔、とはちょっと違う。なんていうか、自信がついたって感じ。


 まあ、自己陶酔者でもナルシストでもいい。


「ジンちゃん…」


 俺の大切な人が嬉しそうにしてくれるのなら、道化にも悪者にでも何でもなってやる。それが男ってもんだ。



 そして。



 …そして夢の一大ハーレムを築くのだ!

 ふっふっふ。何を隠そう俺が優しくあろうとするのは、その布石!着々とハーレムの土台が出来始めているからな。

 5年後が楽しみだ!

 

 俺はゲスい思考を脳内で繰り広げながら、黒い笑みを浮かべた。


 その後、姉さんと心愛の意味ありげな視線に応え2人にも気障なセリフを吐いた俺は満足気に二階の自室へと舞い戻るのだった。




 あ、飲み物取ってくるの忘れてた。



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