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ソフィア・マルティスという女性 前編



───みんな、死んでしまえばいい。



 幼い頃の私はそんな事を特に深く考えることなく、漠然と思っていた。

 別に周りのみんなを憎んでいた訳ではない。ただ、眩しかった。私とみんなは住む世界が違う存在なのだと理解してしまっていたから。私以外いなくなればいい、若しくは私がいなくなりたい、そう思っていた。


 私には家族がいない。


 生まれは外国、育ちはこの国なのだが、児童養護施設で育てられた。私の母や父はどんな人なのか、何故私を独りにしたのか、どういう経緯で児童養護施設に預けられたのか。疑問は尽きない。何度か施設の職員に聞いてみたことがあったが、うまくはぐらかされ、答えを聞くことはできなかった。


 児童養護施設には、『男の子じゃないならいらない』といった理不尽な理由で捨てられた身寄りのない子供や、同様の理由で過去に虐待されていた子供など理由は様々であるが、私の他にもたくさんの人がいた。

 最初の頃は、同じ境遇の中同士仲良くしてくれると思っていた。


 だけど、それは間違っていた。


 虐められたり、陰口を言われたりする事はなかった。みんなよく話しかけてくれたし、一緒に楽しそうに遊んでくれた。


 表面上は。


 けれど、分かる。私には分かってしまう。みんなが、私と接する時だけみんな少し緊張している事が。


 理由は大方察しがつく。


『見た目』。

 この国の人々は殆どが黒髪に黄色っぽい肌の色をしている。対して、私は銀髪に真っ白な肌。はっきり言って、はたから見たらすごく浮いていたと思う。

 みんなは、1人だけ見た目が圧倒的に異なる『異分子』の私を頑張って歓迎してくれた。子供ながらにして、私に同情してくれたのかもしれない。


 施設の職員も、


「ここにいる子はもちろん、職員の私達もみんなソフィアちゃんの家族みたいなものだからね」


 と、そう諭すように言ってくれた。その言葉が嬉しくなかったと言えば嘘になる。

 でも、どう頑張ってもみんなを家族と思う事は私には出来なかった。だって家族というのは血が繋がってなきゃいけないから。血縁がないのは、それはただの同居人と言うのだから。


 職員の善意を無下にしてしまう事に幼い私は苦しさを覚えた。

 

 さらに、みんなに無理して構ってもらうというのは、とても辛かった。向こうも気を使うし、私も気を使う。そんな関係に果たして意味があるのだろうか。


 私は、みんなと距離をとった。


 会話はできるだけ少なく、同じ空間にいる事も避けた。

 そんな事を続けているうちに、私に話し掛けてくれる子はいなくなった。


 これでいい。これでいいんだ。私なんかに構うより、本当に仲の良い友達と遊んだ方がみんなにとって良いに決まってる。


 自分に必死に言い聞かせた。



 ひどく惨めで、空虚だと思った。





 時は過ぎ、18歳になった時私は施設を出る事にした。18年間お世話になった施設だけあって、愛着もあったしとても感謝していた。けれど、それ以上そこに留まる事は私にはできなかった。私はみんなとは違う存在で、異端なのだから。


 施設を出た私は、男性特別侍衛官、通称SBMを目指す女の子達が集まる国立の育成大学校を目指す事にした。理由は特にない。強いて言うなら、全寮制のためこれ以上施設に迷惑をかける心配がない事と、何故か私には人並み外れた天性の身体能力があった事が理由。

 その育成学校の入学試験の倍率は凄まじく高く、私なんかが受かるとは思わなかった。

 ただ私の身体能力のおかげで、座学試験はイマイチだったのだが実技試験で巻き返しなんとか滑り込みで受かる事が出来た。


 その学校内でも、私の立場が変わる事はなかった。私の見た目はそこでも遺憾なく違和感を発揮し、浮いた。とにかく私は異分子。わかりきったこと。

 それでも、仲良くしてくれようとする女の子は沢山いた。私もそれに応えようとしたが、できなかった。人との関わり方が分からなかったから。仲良くなろうとしても、すぐにみんな離れていった。


 だから、ここでも私は人を拒絶する事にした。私は、彼女達が求めているような存在じゃないから。そう心の中で言い訳をしながら。自分で自分を最低だと思った。


 そんな私だったが、成績は常にトップだった。充実した設備があるため、人と接する必要がない私が、暇さえあればトレーニングと勉強を繰り返した結果。


 

 それから4年間研鑽を積んだ私は、無事国家男性侍衛特務機関の本部に配属される事になった。そして数ヶ月の間のSBMの先輩に付いて任務をこなす名目上の研修期間を終えた今日、初めての単独任務を任された。


 先行資料によると、侍衛対象の名前は『前原仁』。

 数少ない私達SBMが侍衛するのは有名人が殆ど。実際、これまで侍衛して来たのは世情に疎い私でも知ってるような名前の男性ばかりだった。


 しかし、私はその男性、前原仁の事を知らなかった。写真を見た限り、異常なまでに顔が整っておりかなり若いので芸能人か何かだと思う。

 …ただ、前原仁の顔を初めて見たとき、私は何か言いようのない感情に襲われた。そしてそれは決して悪いものではなかった。美形だから?優しげな顔立ちだから?…どちらも違う気がする。何というか、『同じもの』を感じた。上手く言えないけれど、私と同じく『他と一線を画す』ような。私の他と一線を画す(それ)は、この国の人間とは見た目が異なるという意味。ならば、前原仁は…?考えてみても答えは出なかった。

 だから、前原仁とはどのような人物かSBMの先輩に尋ねてみる事にした。

 ちなみに、その先輩は私が1番お世話になっていて数少ない信用できる人物。


「…え?あんた本気で言ってるの?前原仁くんのこと知らない?」


「…ん。知らない」


 何故か呆れられた。もしかしたら途轍もなく有名な人だったのかもしれない。


 その後、先輩に前原仁の逸話と呼ぶべきような話を幾つか話してもらったが残念ながらどの話もピンと来なかった。



 まあとにかく、私はその前原仁たる男性を侍衛すれば良い。そうすればきっと何かが分かる。

 初めての単独任務で少し体が硬くなっている気がするが、問題はない。任された任期は半年。先方の満足度次第では任期が伸びる事がある。逆に、粗相をすれば任期満了を待たずして送り返される事もある。精々後者の事態にならないように留意したいところ。



 身が引き締まるスーツに着替えた私は、着替えや歯ブラシなどの生活必需品が詰まったトランクを引き、書類に記載された住所に従って侍衛対象の家に訪れインターホンを押す。


『ピンポーン』


 見た所普通の一軒家で、態々SBMが要請される程の男性が住んでいるなど考えられない。SBM(私達)が侍衛する男性などは大抵何か大成していて、豪勢な家を所持している事が多いから。


『はーい』


 私が脳内で首を傾けていると、鈴を転がしたような綺麗な高音の女性の声が聞こえてきた。


「夜分に失礼。私は国家男性侍衛特務機関より前原仁様の侍衛官に拝任された、ソフィア・マルティス。こちら前原様の家で相違ないか?」


 …決まった。

 昨日、あまりにも私の言葉遣いがなっていないということで先輩に『初めはこう言ってご挨拶をするのよ?いい?』と教えてもらった。幾度となく練習をしたので、恐らく完璧だと思う。


『あ、SBMの方ですか!お待ちしてました!すぐに扉を開けます』


「…ん」


 初めての単独任務に緊張している自分に少し驚きつつ、声の人物を玄関にて待った。



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