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かつての前原仁

間空いてすみせん。

今回からシリアスな話が続きますので、一気に投稿して一気に終わらせたかったのです。

女の子たちと仁くんとのキャッキャウフフを楽しみにしている方は申し訳ありません。

しかし、これは避けては通れないお話なのです...。

シリアスが苦手な方はご注意下さいませ。

前原仁(おれ)の昔の知り合いに会うとは...。


俺は今ある女の子と対峙している。名前は桜咲雛菊(おうさきひなぎく)さんで、俺の中学校の同級生らしい。制服を着ているけど春蘭のものではないので他校生かな。

実はただの俺のファンで、成りすましによって近付いているだけという可能性も考えられなくもないがそれだったらそんな直ぐにバレる嘘はつかないだろう。この子は恐らく本当の事を言っていると思う。


「名前聞いても思い出せないかな?そうだよね、あの前原くんが私なんて覚えてるはずないのに...何を期待してたんだろ私...」


視線を固いアスファルトの地面に落としてそう力なく呟く桜咲さん。


く、暗いなこの子...。考え方もネガティヴで、恐ろしく後ろ向きだ。

いや、いかんいかんそんな失礼な観察をしている場合じゃない。彼女は俺が桜咲さんの事を忘れていると思い込んでいるようだが、それは誤解なのだ。そもそも俺は前原仁であって前原仁ではない、もはや同姓同名の別人なのである。しかし実は転生者なんです!なんて告白した所で頭のオカシイ奴だと思われるのがオチ。此処はやはり記憶喪失だと説明するべきだろう。俺はこれ以上可愛い女の子の悲しむ顔を見たくないぞ。


うん、毎回毎回嘘を説明するのは忍びないが記憶喪失としか言えないのだから仕方がない。


とりあえず誤解を解こうと俺は話し始める。



「あ〜ごめんね、忘れてたわけじゃなくて実は僕記憶喪し....」



と、その時。



「ヒナ〜!ごめん待ってた!?」


このタイミングで違う女の子の大きな声が桜咲さんの背後から俺の言葉を遮る。


...なんて時機の悪さだ。これもはやワザとじゃないのか?ってレベルだぞ。今から誤解を解かんとする時だったのに、俺が桜咲さんの存在を忘却していたなんてバツが悪すぎるから早く処理させてくれ。落ち着かない。


俺は少々恨みがましく体を傾け桜咲さんの後ろから此方に駆け寄ってくる人物を見やる。その人物は黒髪をツインテールにした少し背の低めの美少女であった。目は少しキツめで何処と無く負けん気が強そうな感じがする。勝手なイメージだけど。この子も桜咲さんと同じ制服を着ており、同じ学校に通っているのだろうということが窺える。朝のこの時間ということと先程の黒髪ツインテールの子の言葉から、恐らく登校の待ち合わせでもしていたんだろう。


「マキちゃん....」


「よっ、おはよ!先行っといてって言ったのにこんな所で何してんの?」


桜咲さんに並び立ち、快活な笑顔で挨拶する黒髪ツインテール....マキさん。髪型のイメージとは違ってかなりボーイッシュな女の子のようだ。系統的には美沙に似た感じかな。あの子も結構ボーイッシュな喋り方だし。


「あ...えと...」


マキさんの問いに対して、答える代わりに俺の方をチラリと見る桜咲さん。尚もビクビクしており怖がられているようだ。


「んっ?あ、誰かいたのか?」


そんな桜咲さんの視線を辿るように首を動かし俺の方へ顔を向けるマキさん。

俺もちょうどマキさんを見ていたので、そこでピタリとお互いの視線が交錯する。


へぇ〜こうして正面から見ると少し幼い顔つきをしてるんだな。身長が低めだからかな。


俺はそんな呑気な事を考えていたのだが....



「.....前原」



何やらマキさんの様子がおかしい。

具体的には睨まれている。俺の名前を呟きながら不機嫌そうな表情を浮かべる彼女からはとてもじゃないが歓迎ムードは感じられない。

というか俺の事を知ってるのか?もしかしてファン....なわけないですよね。寧ろ嫌われてるような気がするよ。という事は桜咲さんと同じく俺の同級生だったのかな?2人は仲が良いみたいだしその可能性は十分にあり得る。


「何で前原がここにいんの?....お前、またヒナを傷付けるつもりなら今度は絶対許さないからな....!」


肌が白くなるほどの強さで拳を握り締め、歯をギリギリと食いしばりながら俺を睨むマキさん。

この世界に転生してからというもの常に周りからチヤホヤされてきた俺にとって、今向けられる怒りの感情は普段とは差異がありすぎてどうしようもない戸惑いしか覚えることができない。


「や、やめてマキちゃん...!私何もされてないから!」


「...本当か?」


「本当だから!」


そんなマキさんを必死になだめる桜咲さん。それにより何とか少しだけ向けられる怒りが緩んだ気がする。未だ大部分は健在なのだけど。


マズイな...俺とこの子達の関係性が分からない。マキさんも桜咲さんと同じく俺と昔の知り合いっぽいのは何となく分かるんだけど、俺に向けられる負の感情がな....。恐らく、いや間違いなく過去の俺がこの子達に何かしたんだろうなっていう事だけは予想できる。それが何なのかが問題なんだけど...。




「...ねぇ、ちょっといいかな?」



今も俺を睨みつけ続けるマキさんとそんなマキさんを心配そうに見つめる桜咲さんに話し掛ける。


「...な、なに?前原くん」


「.....」


桜咲さんは反応してくれたが、マキさんは残念ながら返答はくれなかった。や、ヤバイな...美少女に無視されるっていうのはあまりメンタルが強くない俺には中々効くんだけど。ドエムの方は歓喜かも知れないけど残念ながら俺はノーマルだ。


「さっき言いかけたんだけど、実は僕今年の春から記憶喪失になっちゃってて...。中学時代の記憶は全部なくなっちゃってるんだよ。だから君達のこと分からないんだ...」


心的ダメージを負いつつも顔にはおくびにも出さず俺はそう返す。

向こうからしてみれば、知人が自分の事を忘れているというあまり気分が良くない状況だ。彼女達の心情を思えばとても申し訳ない気持ちが溢れてくる。俺はこの世界においてイレギュラーな存在であり、本来いるはずのない人物だ。言い方を悪くすれば、俺は前原仁にすり替わっているのであり、常にその十字架を背負っていなければならないのだ。そのせめてもの償いとして俺は周りの人達を少しでも幸せにしてあげたい。俺が密かに掲げていた目標である。



「.....えっ?き、おくが?」


「.....ッ!?」



桜咲さんは何を言っているのかよく分からないといったキョトンとした表情、マキさんは驚愕と不信が混ざり合った表情をそれぞれ浮かべる。


「うん...ごめんね?事故でね」


このごめんには、彼女達の事が分からないことと記憶喪失であると嘘をつくことへの謝罪の2つの意を込めている。転生も楽じゃない....。いつか秘密をみんなに明かせる日が来るといいなと思う。


「そんなことが本当にあるなんて...信じられない...」


桜咲さんは手を口に当て心底驚いたように掠れた声で呟く。それはそうだろう、記憶喪失を患う人なんて俺もフィクションでしか見た事がない。それが実際目の前にいて、ましてや知人なのだから簡単に信じる事など出来ないと思う。


「.......」


チラリとマキさんに視線を向けてみるも彼女は口を開かない。顔を俯かせその長いツインテールをタラリと垂らす今の彼女からは今は怒りを感じないが....うん、良い予感はしないな。


「...はっ」


と、唐突にマキさんが此方を馬鹿にするように鼻で笑った。


「嘘...嘘に決まってんだろ。こんな奴の言う事なんて信じんなよヒナ」


「マキちゃん...」


マキさんがゆらりと顔を上げる。その表情は紛れもなく嘲笑...だが、額に汗の粒が浮かんでいる。


「どうせその口調もお飾りなんだろ?その態度も演技なんだろ?また前みたいにヒナを傷付けるつもりなんだろ?」


そう訴えかけてくる。『前みたいに』かあ...。前原仁(おれ)一体この子達に何したんだよ...。


「ごめんね、その『前みたいに』っていうのは僕分からないんだよ」


かつての前原仁(おれ)が何をやらかしたのかは分からないけれど、今の俺がやらかしたわけではないこともまた事実。

俺がこの世界に転生したのは今年の春で、それより過去の事は伝聞でしか知り得ない。そう今のように人伝に教えられるしかないのだ。


「...ッ!この子に傷を負わせといてお前だけ忘れてんのかよ...」


マキさんは苦虫を噛み潰したような顔で唸る。

...言いたい事は分かる。イジメの加害者はイジメの事などすぐに忘れてしまうが、被害者はずっとそれを覚えているといった話を前世ではよく聞いた。過程は違うが、つまりはそういう事だ。一方的に傷付けるだけ傷付けてこっちはそんな事なんて記憶の彼方。そんな身勝手な話があるだろうか。彼女が激昂するのも納得だ。


「.....」


言葉が出てこない。何も浮かばない。ここで一言「ごめん」と告げる事は簡単だけど、どうもそれが薄っぺらいものに感じられて謝罪の言葉を紡ぐ事ができなかった。



「...ヒナ、先学校行ってて」


「...えっ?でも...」


「大丈夫だから。すぐに追いかける」


「....分かった」


沈黙が3人を満たす中、マキさんが切り出した。

その言葉に少々の困惑を示しつつも桜咲さんは肯定の意を示す。


「じゃ、じゃあね前原くん....」


彼女は俺に目線を合わせることなく控えめな声色でそう言って、そそくさとその場を離れた。

...怯えられてるなあ。可愛い子に拒絶されるのはダメージがでかい。



「....さて」


そんな桜咲さんを見送ったマキさんは溜息と同時にそう言って改めて此方に向き直る。

そう言えば、どうして桜咲さんを先に行かせたんだろうか。まあすぐに分かることか。


「...記憶喪失云々の話はもういい。ウソって可能性は十分にあるが、この際どうでもいい」


「....いいの?」


「ああ。....問題なのはお前があの子を傷付けた事を忘れていることだ。...まあそれもウソかもしれないがな。とにかく今から私が、お前があの子に何をしたかを教えてやる。あの子が傷付いたのにお前が覚えていないなんて理不尽な事を許すわけにはいかない。仮にお前が記憶喪失だとしてもそんなこと私達には関係ない」


なるほど、そう来たか。桜咲さんを先に行かせたのは彼女にその時の事を思い出して欲しくなかったって所かな。この子友達思いの良い子じゃないか。

それに何があったか教えてくれるのは有難いことだ。確かに記憶喪失だとしても前原仁(おれ)が犯したことには変わりないからな。その辺は同意する。


「....お前みたいな男にこんな事言っても無駄かもしれないけど、出来るならヒナに一言謝って欲しい。あの子は今でもあの事を引きずってるから」


マキさんは諦念と懇願を綯交(ないま)ぜにしたような顔でそう絞り出す。



「...分かった」


「....お前本当に前原か?演技かもしれないが、随分雰囲気が変わったな」


俺が承諾すると、マキさんが訝しむような表情でそう問うてきた。

まあそれはそうだろう、別人だからな。口には出さないけども。


「言ったでしょ?記憶喪失になったって。その影響か性格も変わっちゃったみたいでさ」


ウソをつく申し訳ない気持ちを悟らせないようにしながらそう返す。

俺ウソばっかついてるな。いつかバチが当たりそうで怖い。


「....まあいい。よし、じゃあ今から話すぞ、しっかりと聞け」


その言葉からマキさんが話し始めた。

俺が、桜咲さんにした事を。


「あれは....ちょうど1年前ーーーー」


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