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かつての…

「ただいま〜」


女子高生2人組に声を掛けられた以外はいつも通りに俺は家へと帰宅した。周囲からの視線の嵐には慣れたものだ。


「おかえりジンちゃん」


玄関で靴を揃えていると母さんがリビングから出て来た。


「うん、ただいま」


「...ジンちゃん、話があるからちょっといい?」


「うん?別にいいけど」


いつものホワホワした顔つきから急に神妙な顔つきになった母さんがそう言った。

まあ向こうから話があるというならちょうどいい。俺もこれからの事について相談したかったところだ。良い機会だろう。


母さんに付いてリビングに向かうと、姉さんと心愛もテーブルの席についておりどうやら家族全員での話のようだ。


「ただいま、姉さん、心愛」


「おかえりなさい仁」


「お兄ちゃんおかえりっ」


2人に声を掛けつつ俺も椅子へと腰を下ろす。どうやら椅子を移動させているらしく、俺に3人が向かい合う形に配置されている。こうして4人揃うのは御飯時以外ではあまりないため何か新鮮な感じだ。話というのは何だろうか。


「さて、ジンちゃんが帰って来た所で私達3人で話し合った事を伝えるよ」


最後に席に座った母さんが仰々しい態度でそう切り出す。...何か少し緊張してしまうな。

というか、俺がののちゃんの家に遊びに行っていた間に話し合いなんてしていたのか。


「結論から言うと、『SBM』を要請することにしたよ」


母さんは重々しくそう言った。


....そうきたか。


『SBM』、男性特別侍衛(じえい)官の事だ。Special Bodyguard for Maleを略した言語。SBMは女性のみで構成されたエリート集団である。前世での自衛隊を養成する大学校のように、日々の研鑽を惜しまず鍛えに鍛え抜かれたもの達の中から更に選抜された本物の天才達。男性を侍衛し、外部からの不当な干渉を一切遮断する彼女達は正に鉄壁。確か男性侍衛特務機関という国家機関に属する人達で、国家公務員だったはず。公務員のため、彼女達を要請する事に費用はかからない。しかしSBMは基本的に侍衛対象の男性の傍から離れることはなく同居ということになるため、生活費などは此方が負担する必要がある。その数はあまり多くはなく、大部分は芸能人や数少ない男性大臣などが対象となっている。

そんな彼女達を俺のような一般人に...?


「か、母さん。それは流石に申請が通らないんじゃないかな?」


かなり厳しいと思うのだ。いくら世間の俺の知名度が急激に高まっているとはいえ。


「問題ないよ。さっき先方に問い合わせたら、恐らく申請は受理されるだろうって言ってたから」


マジで!?それは...到底信じ難い話だな。

心底驚く俺だったのだが。


「....ごめんね。ジンちゃんの断りもなく。ジンちゃんの行動の妨げになるかもしれないし、必要のない処置かもしれない。でも...心配なんだよ....。今回のスポ男でこんなに話題になっちゃうなんて....。お願い....どうか受け入れて....」


母さんは泣きそうに辛そうな顔で俺に訴えかける。

両隣では姉さんと心愛も悲痛な表情を浮かべている。


「母さん....」


「もし邪魔だって思うんなら、相手方と相談して侍衛場所や侍衛時間を限定してもいいから!ずっと自衛官の人と一緒にいろとは言わないから!ジンちゃん...お願い....」


母さんは両手を互いに握りしめて懇願する。


....ここまで言われてしまっては、男して俺の立つ瀬がない。それに母さんのお願いなら全部叶えてあげたいし、何より俺の事を想ってくれての行動だ。無下になんてできないだろう。


「...分かったよ母さん。心配してくれてありがとうね」


「ッ!...ありがとう....」


「「ほっ」」


母さんは安心したようにお礼を言う。姉さんと心愛も息をつき、一安心といった感じだ。

むむ...どうやらかなり心配をかけてしまっていたみたいだ。申し訳ない。


「SBMの人が来るのはもう少し先になるから、それまでちゃんと用心してね?」


「うん分かったよ母さん。気をつける」


図らずも俺からしようとしていた相談内容と被る案件だったな。手間が省けたと言えるだろう。


まあ調べたところによると、SBMは眉目秀麗、英俊豪傑な女性達が殆どだという。また、SBMが護衛対象の男性と恋仲になる例も少なくはないと聞いた。ハーレムを目指す俺としては、渡りに船というやつなのかもしれない。





「行ってきます」


「気をつけてね?人通りがなるべく多いところを通るんだよ?...あ、でもそしたらジンちゃんが囲まれちゃうかも....。あわわわ...」


次の日、清々しい気持ちで目覚めた俺はいつもより少し早めの時間に家を出ることにした。

母さんは何やらあたふたしており此方が心配しそうになる。


「大丈夫だよ。こんな朝っぱらから変な事する人なんかいないって」


「そうかもしれないけど...でもでも...」


心配性だなあ母さんは。

ま、男が少ないこの世界で美形の一人息子が有名になっちゃったらこういう反応してしまうのも無理もないことかな。


「うぅ......」


頭を抱える母さん。

...全く仕方ないな。


「母さん」


「....なに?」


玄関に立つ俺はチョイチョイと手招きする。それに甘い蜜に誘われる蝶ようにフラフラと近づいて来る母さん。



「俺は絶対大丈夫だから。母さんは信じて俺の帰りを待ってて」



そう言葉をかけ、俺より少し背の低い母さんの頭を撫でつつその(ひたい)に唇を「ちゅっ」とワザと音を立てて落とした。


「.....なぇ?」


「行ってきます!!」


惚ける母さんをその場に置いて、俺はドアを勢い良く開け駆け出した。

俺の安否が不安で仕方ないなら、それ以上の衝撃を与えて塗り潰すまでだ。本当は唇にキスしたかったんだけどそれはもう少し待って欲しい。俺にその意識はあんまりないんだけど、一応は俺と母さんは実の親子である。いきなりキスしたら向こうもビックリするだろうし、最悪距離を置かれてしまうかもしれない。こういうのは段階が大事なのである。



夏を感じさせる太陽の日を浴びながら、俺は駅に向かい歩き始める。アスファルトの道路から湧き上がる熱気を少し感じる。


「梅雨も終わりだな...暑い...」


そう呟きながら、すでに衣替えは完了している夏服のシャツの襟をパタパタと扇ぐ。


俺夏は苦手なんだよね〜蒸し暑いのとか....。女の子の水着が見られることと祭りがあること以外この季節はどうも好きになれない。やはり秋がベストだろう。冬は寒いため、春は花粉が舞うためNGだ。


俺がこれからの気温の上昇に辟易としていると、



「ま、前原くん....?」



後ろから女の子に話し掛けられた。


ん?おっと、この声の女の子は知らないな。ということはまたファンの子かな?全くモテる男は辛いぜ。


俺は少し、いや大分調子に乗りつつ笑顔を作り振り向く。


そこには内巻きにカールした黒髪のミディアムショートヘアの可愛らしい女の子が立っており、何故か少し怯えたような、また不安そうな表情で俺を見ていた。



....?なんだ?この女の子に違和感を感じる。



......あぁ。


この子......。この子は明らかに俺を怖がっている。嫌悪ではないと思うが、恐怖の感情を抱いている。今もビクビクしながら俺の反応を窺っている様子からしてもそれがよくわかる。

ファンの子かと思っていたが...違うのか?知り合いでもないし.....この子は一体...?


「お、おはようございます」


危ない危ない、少し顔が引きつっているかもしれない。俺はとりあえず何か反応しなければいけないと思い、なんとかそう返す。



「....えっ?」



なのだが、女の子は不思議そうにキョトンと目を丸くさせる。

しまった、行動を見誤ったか?

まずいな....この子がどういう子なのか全く分からん。


「えっと....久しぶりだね?前原くん、何処か雰囲気変わった、かな.....?」


女の子は所々詰まりながらも改めてそう返してくれる。


うん?久しぶり....?雰囲気が変わった....?

知り合い?いや、違う。


......。

ッ!?


おい、まさか。そういうことか?

いや、間違いない、それならば説明がつく。

しまった....その可能性を考えていなかった。


この子の態度、発言、俺の現状の3つから導き出される答えはすなわち....




「私のことなんて覚えてない、かな....?そうだよね....。忘れちゃってると思うけど、私桜咲雛菊(おうさきひなぎく)。....前原くんの中学の同級生だよ」




女の子...いや、桜咲さんは哀しそうに儚げに微笑みながらそう言った。

その笑顔は今にも消えてしまいそうで、とてもじゃないが喜びを表しているようには見えなかった。これは、そう深い悲しみを内包している。


時が止まったかのような静寂の中、2人の間を少し強めの風が吹き抜け桜咲さんの髪が靡くことだけが、俺に今も状況は動いていることを伝えてくれる。



俺は、かつての前原仁の知り合いに出逢ったのだ。


今回少し英語を使用してたと思うのですが、私英語が苦手なものでして....。

間違いがあれば報告して下されば嬉しく思います。

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