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母が妹で、俺が兄をする。

リビングへ俺はねねちゃんに手を引かれながら入室する。


広々としており、中々過ごしやすいのではないだろうか。入り口から向かって右側にはテーブルがあり左側には大きめのソファがある。右奥には綺麗なキッチンも整備されているようだ。

そんなののちゃんの家のリビングなのだが気になる点が2つ。

1つ目はテーブルの上に豪勢な料理が所狭しと並べられている事だ。食欲を掻き立てられる香りが此処まで漂ってきている。ご飯を食べている途中だったという事は恐らくないだろう。どうやら気を使わせてしまったようで申し訳ないな。まあ勿体無いので勿論美味しく頂こうと思う。

そして2つ目なのだが...

ソファとテーブルの中間、リビングの中心に位置する辺りに背筋をピンと伸ばし正座している人物が1人。目を瞑り、まるで瞑想中のように静かである。

この人物は一体....!?


「お、お母さん...?」


俺より少し下がった位置に居たののちゃんがそう呟く。


ですよねー。この人物は一体....!?とか言っちゃったけどお母さん以外あり得ないからな。一目で確信できる、この人は変な人であると。


「ふーっ....ようこそ来てくれたわね」


ののちゃんのお母さんはそう言いつつ目をゆっくりと開けていく。


「我が娘のお友だ......ぇ?」


何処と無く尊大さを意識しているかのように話し始めるお母さんだったが、俺の顔を視界に入れた瞬間フリーズしてしまった。


「...あぁ...ああぁあ....」


プルプルと腕全体の筋肉を震わせながら俺の方を指差す、ののお母さん。こら人に指差しちゃいけません。


「じ...じじっ!じじじじじじ!!!!」


どうしたんだこの人は。電撃でも食らっているのか?やはりののちゃんのお母さんは面白いな。

いや、まあ何が言いたいかは何となく分かってしまうんだけども。


「仁きゅぅううんッ!!!!」


ちょっ!

分かったからそんな血走った目でいきなり距離を詰めないで!この人むちゃくちゃ速いな!今の技を縮地と名付けよう。

しかしやはりか。俺も有名になってしまったのだと改めて実感する。月刊スポーツ男子から俺の事を知ったのだろう。まあ有名になるのは嫌な気分ではないけども。


「えっ!仁きゅんなの!?そうなのよね!?本物?モノホン?ちょ、ちょっとその男性器触らせてもらえるかしら?」


おっと、この人結構強烈だぞ?この世界に来てから数ヶ月経つが初対面でいきなり俺の息子を握りたいと申し出てきた人は貴方が最初ですよお母さん。かなり図太い神経を持ち得なければできない芸当だ。


....ふむ、よろしい。その無謀とも言える勇気への賞賛として我が息子を貴方に捧げよう。


俺はそんな事を半分本気半分冗談....じゃなくて、100%冗談で考えていたのだが。...冗談だよ?本当だよ?


「何言ってんの!?」


「えっ?えっ?だんせいきって何?」


ののちゃんは俺に(にじ)り寄るお母さんを必死に止めている。

ねねちゃんは男性器という言葉自体よく分からないみたいだ。それはそうか、小学生ではそんな言い方はしないだろう。いいかいねねちゃん。男性器というのはね、おちんち(ry


さて、ふざけるのは此処までにしておこう。

俺はやる時はやる男なのである。


「おっしゃる通り僕は前原仁と申します。男性器は触らせません。挨拶が遅れて申し訳ありません、ののちゃんとはいつも仲良くさせて頂いております。本日はお家に上がらせて貰って感謝いたします。宜しくお願い致します。あと男性器は触らせません」


胸に手をそっと当てて優雅さを意識して礼をする。2次元創作物で執事とかがするアレだ。

前世ではこんな礼を本当にやったら笑い者になること請け合いなのだが、何故かこの世界ではこれがとても女子には効くらしい。莉央ちゃんにこの間頼まれたのでしてあげた事があるのだ。


「はぅ...!仁きゅんカッコいい....高尚で人類の究極的存在ぃ....」


ギュッと胸の辺りを抑えてお母さんはそう言う。

ねねちゃんがあんな難しい言葉使ってたのはお母さんの影響っぽい。全く同じ語呂であるから、多分ねねちゃんはマネしてたんだな。


「昨日、今月号の月刊スポーツ男子を買って仁きゅんを見た瞬間から一目でファンになったの....本物カッコよすぎるぅ...萌え死ぬ....はぁはあ...」


ののお母さんは何か色々限界そうだ。これ大丈夫なんだろうか?僕とても怖いです。

しかし、ファンと来ましたか。それは凄く嬉しいことである。


「ファンですか。ありがとうございます」


お礼を言っておこう。


「はぅっ!!」


それだけでダメージを受けるののお母さん。

紙装甲だ。


「お兄ちゃんごめんなさい....変なお母さんで」


息を荒くさせ興奮状態にある母親を尻目にののちゃんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。

その隣でねねちゃんがよく分からないといった顔をしつつも、お姉ちゃんに合わせるように一緒に見よう見真似で頭を下げているのがとても可愛いです。


「ううん、楽しいお母さんだね?僕は嫌いじゃないよ」


本当はあの手の賑やかな人は大好きであるが、少し控え目に言っておく。もちろん大人しい人も好きだ。要するに俺は可愛い女の子が好きだ!


「よかったです....」


ののちゃんはホッと胸をなでおろす仕草をする。

よかった。ちゃんとフォローは出来たみたいである。可愛い妹が頭を下げる姿は俺も見たく無いものだからな。



「ちょっと待ちなさいッ!」


とそこで満を持して又もや登場したのは手のひらをこちらに向けストップの合図を示すののお母さん。


「どうしたんです?」


「お母さん今度は何...?」


今度はどんな楽しい事を言い出すのか少しワクワクしながら問う。この人が突拍子も無いことをよく言うことはののちゃんから確認済みだ。俺そういうの結構好きです。


「のの、仁きゅんに向かって『お兄ちゃん』とは一体どういうことなのかしら?」


先程までの欲望丸出し状態ではなく、目をキリッとさせ表情を厳かにしたののお母さんが言う。

おお、こう言った態度を取ることもできるのか。四六時中賑やかに過ごすのではなく、やるべき時はきちんとやるそのメリハリはとても大切だと思います。まあ、何故今そんな態度に変えたのかはよく分からないのだが。


「えっ?いや、お兄ちゃんがそう呼んでいいって...」


心なしかお母さんの豹変振りに少したじろいでいる様子の ののちゃんがそう返す。

娘でさえも少し動揺するほどの切り替えの早さ。お母さんに何があったのだろうか。


「....そう」


ののお母さんは顎に手を当てる。

眉間に少しばかりの皺を寄せながら何か考え込んでいるようだ。その難しい表情と思考時間の長さから荘重たる事に違いないだろう。たぶん。


それからしばし。

ようやくののお母さんが重々しく口を開いた。


「...仁きゅん」


「はい?」


もう俺はきゅんには突っ込まないぞ。弓道部で慣れてしまったからな。

さて、何を考えていたのやら。


ののお母さんは改めて俺の前に仁王立つ。

その端正な顔立ちを引き締め真っ直ぐにこちらを見つめてくるその姿には思わず気圧されて物怖じしそうになるほどである。

そして言い放った。




「私も....、私も仁きゅんのこと『お兄ちゃん』って呼んでもいいかしら?」



.......。


OH.....。

何なんだこの人は。

悉く俺の予想を超えなければ気が済まないのかな?

いや、あなた今何歳なんですか?女性にご年齢を尋ねるのは失礼にあたるためそれは聞かないが、俺の倍近く生きているのは確定だよね?そんな歳の女性が俺をお兄ちゃん呼びか...シュールだ。


「お、お母さん....」


娘もドン引きしていますよ。そりゃ母親が自分と差して変わらない歳の子をお兄ちゃん呼びは少々来るものがあるだろう。

隣で「その気持ちわかる!!」みたいに目をキラキラさせて頷いているねねちゃんは例外とする。


「お母さん...さすがにそれは...」


「皆まで言わないでのの。これは、そう。止めることのできない途方も無いリビドー!人生の頂上決戦なの!」


大きくでたな。

あと笑いそうになるから変なポーズを取りながら言い放つのは止めて下さい。


「さて...仁きゅ...いえ、お兄ちゃん。答えを聞かせてもらえるかしら?」


いや答えも何も俺の承諾を得ずに既にお兄ちゃんって言っちゃってるよね?わざわざ言い直してまで。


まあ俺の答えは既に決まっているのだが。



「もちろん構いません。お好きにお呼びください」



俺はすべての事象を包み込むかのような包容力を持った笑顔で快諾してあげた。

当たり前だ、俺は可愛い女の子が大好きでありそれに年齢など関係無い。出来る限りお願いは叶えてあげたい。それが男の甲斐性ってもんだ。


「ッシャア!!!.....お兄ちゃんっ」


一瞬野太い声でガッツポーズをしたかと思えばすぐに可愛らしい声で迫ってくるののお母さん。

う、うむ。改めてこんな年上に言われると少しキツイものがあるがそれは俺が選んだ道。それに、まあそんなに悪い気分でもないしな。賛否両論は捲き起こるかもしれないが、俺は結構好きかもしれない。

隣で絶望したような表情を浮かべるののちゃん、許してほしい。俺はこんな美人さんを悲しませたくなかったのだ。後で撫で撫でしてあげるから。



しかし、「お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!」と嬉しそうに舞いながら何度も繰り返すののお母さんに追従するように、ねねちゃんも「おにいちゃんっ!おにいちゃんっ!」と可愛らしく踊ってる姿はとても和みますな。


ののちゃんは疲れたような表情で、俺はニコニコしながらしばらくお兄ちゃんの舞を観戦するのであった。


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