表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/124

ののちゃんのお願い

あの後、俺たちは今は懐かしきカフェBlenに移動した。覚えているだろうか、莉央ちゃんとのデートで最初に向かったお店である。パスタが美味しく、店員さんが面白い。デート後しばらく俺の中で話題になっていた程気に入っているのだ。


「ブレンドコーヒーお願いします」


「ボ、ボクはいちごミルク下さい」


「私はホットココアお願いするっす」


順に、俺、ののちゃん、愛菜ちゃんだ。

俺の顔を見てちょっと挙動不審に陥っている店員さんに飲み物を注文する。

普段なら俺はミルクコーヒーを頼むところなのだけど妹達の前でカッコつけたかった。許してくれ、悲しい男の性である。


席はもちろん窓側を選択した。何故なら、俺は雨が好きだから!


そわそわとしている2人をこのまま眺めるというのも良いものだが、残念ながら時間がない。早く帰らないと家族のみんなに心配されるからな。さっそく本題に入るとしよう。


「えーと、じゃあお願い事って何なのか聞いてもいいかな?」


正面に座る2人を出来るだけ安心させるように微笑みながら問う。


「は、はい!」


うーん、ののちゃんはまだ俺に対して緊張が抜けないようだ。Blenに入るまでは良い感じにほぐれていたと思ったんだけどなあ。いざ話すとなったらまた違うのかもしれない。

ならばお兄ちゃんがフォローしなければなるまい。


「何でも言って?お兄ちゃんが叶えてあげるよ、のの」


唸れ俺のイケボ!!

前世の時に散々聞いた男性声優さんの声を意識して甘い声を出してみた。

目をしっかり見つめて、笑顔もおまけ付きだ。


「お、おにおに!おにぃ!お兄ちゃん!?」


これで少しは気が抜けて楽になるだろうと思ったのだが、ののちゃんが尋常じゃなくパニックになってしまった。言葉にできないけど、なんか凄いことになっている。


「お、落ち着くっすよののちゃん。よしよしっす」


どうやってののちゃんを落ち着かせようかと思ったのだが、愛菜ちゃんがカバーしてくれた。ののちゃんの頭をなでなでしている。この2人の間では愛菜ちゃんの方がお姉さんのようだな。


「うぅ...酷いですよお兄さ...お兄ちゃん。いきなり呼び捨てなんて、心の準備というものがあります...。それもあんなにカッコ良い声と笑顔付き。...胸が苦しいよぉ愛菜ちゃん」


最初は俺をジト目で睨むののちゃんだが、言葉を紡ぐに連れ先ほどの光景を思い出してしまったのか顔を赤くして愛菜ちゃんに泣きつく。


「それは仕方ないっすよ。お兄ちゃんと接してると心臓がドキドキしっぱなしっす。これからも一緒に居たいなら心臓の1つや2つ諦める必要があるっすよののちゃん」


そうなの!?俺と共に過ごすには心臓を捧げなければいけないの!?命がけなんてものじゃないな!


愛菜ちゃんの発言に心の中で盛大に突っ込んでしまった。

ののちゃんは可哀想なくらい狼狽えているのに、それに対して愛菜ちゃんは中々落ち着いてるようだ。ボケる余裕がある程。...ボケなんだよね?


「...そうだよね。分かったよ愛菜ちゃん。ボクはお兄ちゃんの為に命をかける覚悟が足りなかったみたい。ごめんね」


...ののちゃんもボケてるんだよね?まさか真面目に言ってるわけじゃないでしょ?

やめてののちゃん、そんな何かを決意した顔をしないで!

やめさせないと!



俺が心の中でどうやってこの事態を収拾しようか焦っていると、


「失礼します、お待たせしました」


店員さん(救世主)が現れた。

何というベストなタイミング。


「あ、ありがとうございます。僕がブレンドコーヒーです」


「畏まりました」


店員さんが、俺たちが注文していた商品を持って来てくれた。それを合図に愛菜ちゃんとののちゃんの謎のシリアス展開は終わりを告げる。

母さん達もそうだけど俺の事になったらみんな本当に大袈裟になるからな。俺がしっかり手綱を握らないといけないな。


「ボクいちごミルクです」


「ホットココアっす」


平常運転に戻りいつも通りのホワホワした顔の妹たち。

頼むから君たちはそのままでいてくれ。俺の癒し担当!


「話逸れちゃったね。それでお願いっていうのは?」


この機会に乗じて方向修正。

とにかく本題を進めよう。


「は、はい実はですね」


未だやや表情は硬いが及第点といったところのののちゃんが事のあらましを話し始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それはボクが家族で夜ご飯を食べている時のこと。

ちなみにボクの家族は、お母さん、妹がいる3人家族になる。妹は小学校5年生で、お母さんはもちろん人工授精により私たちを産んだ。


「おいひい〜」


そうしてボクがお母さんの春巻きに舌鼓を打っていると、突如妹のねねがこう切り出した。


「あ、お母さんあのね!今日クラスに1人だけいる男の子と仲良くなったんだ!」



ッ!?まさか...そんなことが。

ボクは春巻きを咀嚼する歯の動きをピタリと止めた。


男の子と仲良く...?そんな兆候なんてなかったじゃん!!ねね...恐ろしい子....。


「あら、そうなの?それは妬ましいわね代わってくれない?」


ボクがねねに慄いていると、お母さんが笑顔でそう言った。


いや満面の笑みなのはいいんだけどちょっと何ていうか雰囲気が怖くないかな?気のせい?


「えへへ〜ダメだよ!ボクのお友達なんだからね!」


「へぇ〜男の子の友達が出来て良かったわね、ねね。....チッ」


今舌打ちした!舌打ちしたよねお母さん!?

ねね、そんなにとても良い笑顔でお母さんを見つめないであげて!それは煽りだよ!気づいてねね!

お母さんも大人気ないよ....!小学5年生に嫉妬するなんて。


「お姉ちゃんは男の子のお友達とかいるの?」


頬がヒクついているお母さんを尻目に、ねねがそのクリクリした目をこちらに向けてそんなことを聞いてきた。

これは煽りとかではなくただの純粋な疑問だと思う。小学5年生の妹に煽られる姉にはなりたくないよ。


...男の子のお友達か。正直に言えばいない。だって男の子と喋るのはとても緊張するし、頑張って話しかけたとしても相手にしてくれないだろうし....。


そこまで考えたボクは、尚もキラキラした目でこちらを見るねねをチラリと見る。


...ここでいないと答えるのは簡単だ。簡単だけど、本当にそう答えていいものだろうか。

ねねは何かを期待した眼差しだし、その期待を裏切りたくない。何より、妹に男の子の友達がいて姉にはいないって威厳が保てないよ!

今も食い入るようにボクの返答に注目しているお母さんへの恐怖の分を差し引いたとしても、此処は....!


「い、いるよ?もちろん。しかも、ものっっすごくイケメンのね!」


嘘をつくしかない!許して下さい神様!


ボクはとりあえず仮想男のお友達(モデル心愛ちゃんのお兄さん)を思い浮かべながら薄い胸を張ってねねにそう言ってやった。


「いけめん!?お姉ちゃんすご〜い!」


「ギリリ...!ギリィ...!」


楽しそうにはしゃぐ妹に、歯軋りの音を響かせるお母さん。とても居心地の悪い空間に早変わりしてしまった。


「そ、そうでしょ?お姉ちゃんだから当たり前だよ」


嘘をついた罪悪感と母さんからのプレッシャーにより、よく分からない理論を唱えてしまった。お姉ちゃんだからってどういうこと!


「お姉ちゃん!」


「どうしたの?」


ねねが改まったようにボクの名前を呼んだ。何だろう?


「ボクそのいけめんの男の子見たい!見たい見たい!会わせて!」


「え"っ」


妹から少々まずいお願いをされて、咄嗟に人生で出したことのない声を出してしまった。


「ね、ねねは、どうしてもその人に会いたいのかな?」


上擦っているのが自分でわかる声でねねに尋ねる。


「うん!ボク会いたい!」


やめて!穢れのない瞳でボクを見ないで!


妹の眩しさに圧倒されるが、何とかここは断る理由を探さなければいけない。


「ど、どうだろうね〜。その人忙しいからな〜」


でっち上げた適当な理由をとりあえず仄めかしてみる。

頼む、これで引いてねね!


「え〜ちょっとだけでいいから会いたいよ〜!」


ダメか〜!

小学5年生といえば好奇心旺盛なお年頃。ちょっとやそっとじゃ納得してくれないか。

増してや美少年に会えるともなればねねも必死になるというもの。


「そうね、先っちょだけでいいから会いたいわ」


そしてねねに便乗するように主張してくるお母さん。

....?お母さんも会いたいっていうのは分かるんだけど、先っちょだけ...?どういうことかな。何の先っちょ?

お母さんが言うことはたまによく分からない。


「お願いお姉ちゃん!!」


「私からもお願いするわ、のの」


2人からお願いされたボクにそれを断る図太さは持ち合わせていなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「....という事でして...」


「...なるほどね」


ののちゃんが所々話を端折って大体のあらすじを語ってくれた。

つまり俺に、ののちゃんのお母さんと妹さんに会ってもらいたいとそういう事だな。

なんだ、思ったよりも簡単な事だったな。そんな事ならすぐに叶えてあげるよののちゃん。


「うん、いいよ。今度の休みの日ののちゃんの家に遊びに行くね」


不安気にこちらを上目遣いで見ていたののちゃんに了承の意を伝える。


「ッ!?本当ですか!ありがとうございます!」


嬉しそうに飛び跳ねるののちゃんを見てると俺まで嬉しい気持ちになる。


「よかったっすねののちゃん」


「うん、ありがとう愛菜ちゃん!」


ん〜可愛い女の子同士が手を取り合ってはしゃぐ姿は絶景だな。


俺は喜び合う2人を眺めながら少し冷めてしまったブレンドコーヒーに口をつけるのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ