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1日空いてしまってすみません。

お許しくださいませ

「......」


昼下がり。

俺は今授業中であるのだが先生の話は話半分に聞き流し、机に肘をつきながら窓の外をぼーっと眺めていた。

特に珍しいものがあるわけではない。


雨が降っているだけだ。今は梅雨の季節、嫌という程の降雨が俺たちを迎える。

一般的に雨という天候はあまり好まれていないように思う。まあ、雨に濡れるし傘は必要だし出掛ける事を妨害してくるようなものだろうから仕方がない。薄暗くなって、気分的にも良いものではないだろうし。



しかし俺は雨が好きだ。

屋内から窓越しに雨を眺める事が好きだ。


人間の視力では雨粒の一粒一粒は確認できないけれど、この数多ある雨粒たちが遥か高い位置にある雲から生成されこの地面に降り立っている事を想像すると、意味は不明だけど何故か感慨深さを感じてしまうのだ。


また、ザーーーという絶えることのない自然が奏でるBGMは俺の耳を癒してくれる。まるで雨に、自然に俺が包み込まれているかのような気分である。本当に雨に晒されるのは勘弁したいところではあるのだが。



「ふぅ〜...落ち着く」


誰にも聞こえないように音量を調整しつつそう呟く。

やはり良いものだ。


と、私的雨談義はこの辺にしておく。



ところで、唐突な話なのだが


燦々(さんさん)と降り続ける雨とそれを物憂げに見つめる俺。



....カッコ良くない?

いや自分で言うなって感じなんだけど!

ナルシストとかではないけど、かなり様になっていると思う。

その証拠に周りの席の女子たちが陶酔しきった目で俺を見ている。


ふっ、これだからイケメンはつらいぜ。何をしても映えてしまう。


そんなくだらない事を考えながら自分に酔っていると、机の中に入れてあるスマホの画面が明るくなったのが視界の端に映った。これは何かの通知だろう。

授業中であるため通知音は消しているのだ。


とりあえずこそこそと何の通知なのか確認する事にする。授業は大切だが、もし女の子からの連絡だとすればそれは授業以上の重要価値を誇るのだ。可愛いは正義。


さてさて、何の通知かな。女の子からの連絡であってください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


のの:お兄さんこんにちは。突然で申し訳ないのですが、今日会えませんか?それほどお時間は取らせません。お願いしたいことがあります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そのお願い叶えよう!!!


.....おっと、落ち着け俺。期待した通りの展開に己のテンションを抑えきれなかった。

まずはそのお願いの内容を確認しなければいけないだろう。しかしののちゃんのお願いか。よっぽどの事ではない限り出来るだけ期待には応えたいところなのだが。


通知は、早乙女ののちゃんからの連絡だった。

連絡先は結構前に心愛、愛菜ちゃん、ののちゃんのおチビちゃん3人と一緒に帰った時に交換しておいたのだ。


ふふっ俺も年下の子から何かお願いされるようなってきたか。少しは頼りになりそうに思われているのかもしれない。目指すは恵令奈さんような、高尚な人格を持つ頼れる年上の人間だ。

今回の事はその第一歩とさせてもらう!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


仁:こんにちはののちゃん。勿論いいよ。じゃあ学校終わった後駅に待ち合わせでいいかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


とりあえずこれで送信、と。

どんなお願いなのかなあ。


俺はののちゃんとのトーク画面を眺めながらこれからお願いされるであろう事へと期待を高めるのだった。





時は過ぎ、今は部活が終わり電車に莉央ちゃんと美沙と3人で乗り込んでいるところだ。


「....それで、あたしは『やめとけ!それ以上したら頭皮が禿げ上がるぞ!』って言ったんだ」


「へぇ〜」


「そしたらあたしの想いが届いたみたいでさ、なんとか毛根を守りきれたんだよ」


「そっかそっか。美沙は偉いなあ、よしよし褒めてあげるね」


そう言って美沙の頭をよしよしする俺。


「....ありがと」


頬を赤く染めて嬉しそうな顔を隠すように俯かせる美沙。


最近美沙と俺はずっとこんな感じだ。あの事故の後から美沙の存在は俺の中で確実に変化した。もちろん、良い意味でだ。


それっきり今のようにイチャイチャすることが増えた。

と同時に、


「......」


頬に空気を入れて膨らませながら、ぶすっと此方をジト目で見ているのは莉央ちゃんである。


「莉央ちゃんどうしたの?」


理由を察することは容易いがとりあえず聞いてみる。


「.....別に何もないですけど?仁くんが、他の女の子と、イチャイチャしてても、私は、特に何も思いませんよ?」


やはり....。

莉央さまはとてもお怒りになられている。


今も電車の吊り革をパシッとはたき、振られる吊り革が戻ってきてはまたはたく。

という行動を繰り返している姿からは中々拗ねているということが伺える。

これは早急に処置が必要であろう。


「あの、莉央ちゃん?」


「何ですか」


尚も吊り革への攻撃を止めない莉央ちゃん。


「今度2人っきりで遊ぼっか」


俺がそう言うと、


ピタッと吊り革をはたいていた手が止まる。

俺と莉央ちゃんの間には物理法則に従ってプランプランと振られる吊り革。

それを緊張した面持ちで見つめる美沙。


しばしの静寂後、莉央ちゃんが口を開いた。


「....仁くんが遊びたいなら、私は構いませんよ?」


ニヤニヤとした顔を隠せていると思っているのか、はたまた気付いていないのか。ツンデレっぽい口調とは裏腹にその顔は正に幸福絶頂。ツンデレに見せかけたデレデレとみた。


「僕は莉央ちゃんと遊びたいよ。また今度一緒に予定を考えようね」


「....はい」


ストレートに笑顔でそう言うと莉央ちゃんは照れてしまったみたいで顔を赤く染めて目を逸らしながら返事をしてくれた。

それを見る美沙はまるで妹を見ているみたいに優しい笑みだ。美沙はあまりヤキモチとかは妬かない人なのかもしれない。



「じゃあまたね、ばいばい」


電車から降りた俺たちは駅で別れの挨拶をする。

いつもはここからまた少し一緒に歩いて帰るのだが、今日は俺がののちゃんと約束があるためここでお別れだ。


「はい、また明日です仁くん」


「うん、じゃあまた明日学校で仁」


先程より幾ばくか機嫌が良くなった莉央ちゃんとそれを微笑ましそうに見つめる美沙がそう返してくれた。


2人が仲睦まじそうに歩いていくのを見送った俺は、例に漏れず待ち合わせ場所となっている時計塔の下へ向かう準備をする。


う〜ん見てる分にはいいんだけど、やっぱり雨は不便だな。


今日1日雨が止むことはなく、俺は少し雨で濡れている傘を開く。

さて、行きますか。


雨で若干視界が霞む中、時計塔の下に何人かの人が立っているのが遠目からわかった。

他にも待ち合わせしている人がいるのかもしれない。時計塔って目立つからね。


えと、ののちゃんは....


あれかな。傘をピョコピョコと忙しなく揺らしているちっちゃい子が1人.....


いや、2人?


....愛菜ちゃん?

ののちゃんとしか約束はしていないはずだが何故か隣に速水愛菜ちゃんが立っている。

どうしたのだろうか。


「ののちゃん。それと、愛菜ちゃんも。こんばんは」


とりあえず声を掛けてみる。


「はわっ!こ、こんばんはお兄さん!」


「こんばんはっす。私もお邪魔して申し訳ないっす」


雨が続き湿気がかなり高まっている中、それを物ともせず相変わらずピョコっとアホ毛が跳ねているののちゃん。いつか触らせてもらおう。

それと、ペコリと頭を下げながら申し訳なさそうに謝る愛菜ちゃん。こちらも、〜っす口調は健在かな。


「別に大丈夫だけど、愛菜ちゃんが一緒にいるのは知らなかったからちょっと驚いたよ。何でまた一緒に?何か僕に用事あった?」


気になることは聞いてみることに限る。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥ってね。今の状況では別に聞くのも一時の恥とかではないけど。言ってみたかっただけだ。


「あー、それはっすね」


「あ、ボクから説明するよ愛菜ちゃん」


ふむ、ボクっ娘も衰えていないようだ。


「ボ、ボクがお兄さんと2人っきりは緊張して話せないかもしれないので無理言って愛菜ちゃんには付いて来てもらったんです。....ごめんなさい」


シュン...となるののちゃん。...アホ毛もシュンとしてないか?どうなっているんだ、運動神経でも通っているというのか。あの毛は一体...?

いやそんな事考えている場合じゃなかった。

可愛い後輩を救わなければ。


前から思っていたのだが、この世界の女性達は極端な2つに分けられる。男にかなりグイグイ行く女性と、男にかなり遠慮してしまう女性だ。前者は男に飢え、求めすぎることにより少々過激になり気味だ。それに対して後者は、希少な男にどう接すればいいのか分からず何処か一歩引いている感じで丁寧に接しようとする。

ののちゃんは明らかに後者のタイプである。

こういうタイプには、きちんと俺から言ってあげることが必要だろう。


「ののちゃん」


「....はい」


怒られるとでも思っているのだろうか?普段から小さい体がさらに縮こまっているように見える。

はっきりと伝えなければいけないな。


「俺はな、ののちゃん。心愛の事可愛くて良い妹だと思ってる。それと同時に、ののちゃんと愛菜ちゃんの事も本当の妹のように思ってるんだ。ののちゃんは俺の可愛い妹だ。だから遠慮することなんてないぞ。心愛みたいにいっぱいいっぱい甘えてきていいんだ。俺は君達のお兄ちゃんなんだから」


ののちゃんと愛菜ちゃんは俺の言葉を聞いている間微動だにせずこちらを見つめていた。

しばしの沈黙が3人を包み込む。

雨音だけが変わらず聞こえる。


「....おにい、ちゃん?」


俺の言葉を確認するように繰り返すののちゃん。


「そう、お兄ちゃん」


もちろん肯定してあげる。


「ボ、ボクのお兄ちゃんになってくれるんですか?本当に?」


「俺はずっとそう思っていたけど、俺だけだったんだ。なんか悲しいなあ」


中々事態を飲み込めない様子のののちゃんを少しからかってみる。この子は何か弄りたくなるのだ。


「ふぇへ!?あ、あのごめんなさい!違うんです!うっ、うぇえぇ...違うんですぅ....」


俺が悲しそうな表情の演技をかましていると、ののちゃんが泣きそうになってしまった。

しまった、やり過ぎてしまったな。


「あぁ〜ごめんごめん。泣かないでののちゃん、少し意地悪だった、ごめんね?」


身長差があるため、少し屈んでののちゃんが差す傘にお邪魔し、頭を撫でてあげる。


「.....」


そんな俺を少し潤んだ瞳でポーッと見つめるののちゃん。

どうしたんだろうか。


「....お兄ちゃん?」


呟くようにののちゃんがそう口にした。

心愛から言われても思うけど、良い響きだと思う。俺はお兄ちゃんと呼ばれることが好きみたいだ。


「うん」


これまた肯定してあげよう。


「....ボ、ボクこれからお兄さんのことお兄ちゃんって呼んでいいですか!?」


ののちゃんは思い切ったように目をギュッと瞑りながら叫ぶ。

ううむ、健気で可愛い子だな。


「いいよ?それに、そんなに変わってないじゃん」


思わず少し笑みが漏れてしまったが、俺はそう返した。

....心愛にまた怒られてしまうかもしれないな。「私以外にお兄ちゃん呼びを許すなんて!」って。許してくれ妹よ。


「えっ、あ、ちょっとずるいっすよ!私もお兄ちゃんって呼んでいいっすか!」


とそこで今の今まで固まっていた愛菜ちゃんが再起動した。流石にこのチャンスを看過することはできなかったみたいだ。


「うん、いいよ」


もちろん答えはイエスだ。

心愛はまた今度いっぱい甘やかしてあげよう。それで許してくれるはずだ。...はずだよね?許してくださいお願いします。



「「はわぁああ....」」


感激したように悶えている2人。

喜んでもらえたようで何よりだ。


「じゃあ雨の中立ち話も何だし、何処かに移動しよっか」


「「あ、はい(〜っす)!」」


未だ降りしきる雨の中、今にも鼻歌を口ずさみそうな、またスキップをしはじめそうなくらいご機嫌な2人の妹と連れ立つ。

嬉しそうな2人を見ていると、何故かこちらまで嬉しい気分になってしまう。

心愛や愛菜ちゃん、ののちゃん達と接すると不思議と何か不確かなものに癒される感覚があるのだ。もしかしたらこれが俗に言う妹成分なのかもしれない。

妹成分、恐ろしい子!


俺は未知の成分に戦慄しながら、3人で仲良く歩を進めるのだった。




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