表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/124

仁くんとのデート 恵令奈さん視点

それは私が部屋で趣味の編み物をしている時だった。


「ピロリン」


私のスマホに連絡が来た時の通知音が静かな自室に響いた。

誰だろうか。さっき返事を返した同僚かな。


光るスマホの画面を編み物をしながら覗き込む。

そこには、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


仁:お久しぶりです恵令奈さん。連絡遅くなってすみません。唐突なんですけど今度の日曜日どっか遊びに行きません?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



という文字の羅列が映し出されていた。


......。


....仁?

仁.....前原?



ーーーーーあっ!!


私が大分前にナンパした超絶美少年だ!あまりにも綺麗だったから衝動的にやっちゃったんだよね〜。

ていうか、連絡遅くない?

私もうとっくに諦めてたよ!


いや....さすがに遅すぎるでしょ?

まさか、忘れてたのかな?


そうだとしたらすこーしだけショックだけど、こうして向こうからお誘いしてくれたんだ、無効にしてあげましょう。

私は返信を返す。


「デートのお誘い....ふふっ」


男性と遊んだことはたくさんあるけれど、あれだけの美少年と遊ぶのはさすがの私でも初めてのことだ。

編み物をする手を止めて私はついついニヤけてしまう。


日曜日どんなことをしようか。

私は来たるデートに想いを馳せるのだった。





そしてあっという間に訪れた日曜日。


今日のデートにはドライブのプランも組み込んであるため駅まで車で向かう。

動悸が少しだけ激しくなりつつあるのが分かる。緊張してるみたいだ。ダメダメ、私がエスコートしないといけないんだから。


また、私は女のため男の子を待たす訳にはいかず、待ち合わせ時間の1時間前に着くようにした。


今日のデートは絶対成功させてみせる。

今までの男は....あれだったけど、でもあの子なら、きっと。


そんな想いを抱きながら駅の駐車場へ車を停める。


さて仁くんが来るまで、いつも通りベンチに座ってデートのプランでも再確認しますか。


車のカギをクルクルと指で回しながら時計塔の下へ向かう。


「....ん〜?」


しかし何やら時計塔の辺りが少し騒がしい、というか色めき立っているといった方がいいだろうか。

その一帯だけ僅かに人口密度が高くなっており、足を止めて何かを見つめる人もいる。



何々〜?



ひょこっと背伸びして軽い人垣の上から視線が集中する場所を確認してみる。

これ程の注目を集める存在は何なのか。幸い仁くんとの待ち合わせ時間まではまだ大分あるし野次馬の1人になってみよう。

私はそう結論付けたのだ。


しかし其処に居たのは、



「.....うぅ...」



居心地が悪そうに目を伏せてソワソワとしている見覚えのある、そうとても見覚えのある美少年だった。


10人とすれ違えば15人は振り向く程の美貌。もはや母数など関係がない、正に世の理から外れたようなレベルだ。また庇護欲をそそられるあの何とも言えない立ち居振る舞いは世の女性達がほっておく事などあり得ないだろう。服装も可愛い系でまとめられており、ほっとけない気持ちはよく分かる。


......。


まあ何が言いたいかと言うと、仁くんだ。

仁くんが其処にいたのである。



ーーーーなんで!


早いよ仁くん!

まだ1時間前だよ?


もしかして私が時間を間違えたのかと、スマホを取り出し焦りながら確認するもののやはりまだ紛う事なく1時間前。


うーん....なんでこんなに早く来てるのかは分からないけど、今にも泣きそうなくらいビクビクしてるし助けてあげるとしますか。


私は野次馬の外周を回り、仁くんの背後にそっと移動する。


「...ふふふ」


私との約束を忘れていた罰だ。

少し驚かせてやろう。


黒い笑みを携えつつ私は悪戯を決行する。


と、その時。




「恵令奈さぁん.....」




ーーーーーッ!?


ドキッ!!っと心拍が1度だけ桁外れに強くなった。胸が跳ね上がったかと錯覚するほどに。



....びっくりした。今私の名前呼んだよね?しかもなんて甘い声で呟くのこの子は....。

ヤバイ、無茶苦茶嬉しい。

私の事考えてくれてたってことだよね?


驚愕と喜悦という感情が身体中を駆け巡って、体が震えるという現象をもって私に働きかけてくる。


し、しっかりしろ私。

こんな事でこんなに動揺してたらこの子と釣り合うことなんて夢のまた夢。

真摯に、直向きに。私はただ私を全うすればいい。



「だ〜れだっ」


「わわっ!?」


そう言いながら私は背後からガバッと仁くんの目を覆う。

此れには悪戯をするという目的と、今の赤くなっている顔を見られたくないという目的の2つがある。

可愛い反応をしてくれてる所悪いけど、ちょっと時間を頂戴。

その時間で私は平常心を取り戻してみせる。



「え、恵令奈さん...ですか?」


「おっピンポンピンポーン!!」


未だ僅かに心に残る動揺を吹き飛ばすように私は殊更明るく振る舞う。

と同時にパッと手を放す。あんまりやるとしつこい女って思われちゃうしね。

仁くんはパッと振り返る。

う〜ん近くで見るとやっぱり綺麗な顔してる。


....またちょっとドキドキしてきてしまった。抑えろ私。


私の内面の葛藤を仁くんに知られるわけにはいかない。

私は意識してニヤニヤとした顔付きにする。


ここからは私のターンだよ仁くん。


「恵令奈さぁん.....だっけー?」


先程の仁くんのつぶやきを少し真似ながらからかうように言ってみた。


「〜〜ッ!?ち、ちがっ、それは!周りの視線が!別に変な意味じゃ!」


するとたちまち顔が沸騰したみたいに赤くなる仁くん。必死に弁明をする健気さと相俟ってとても頭ナデナデしたい。

この辺りで許してあげたい。

でも、


「へぇ〜〜?」


許してあげない。

私の心の安寧を保つため、そして私が仁くんに釣り合うような女になるために攻めを緩める訳にはいかないのだ。

仁くんの魅力は異常の一言だ、気を抜くとすぐに取り込まれてしまう。女の私がそれじゃダメだ。私が取り込んでやるんだ、頑張るぞ。



「そんなに私に会いたかったのかなあ?ねえ仁くん?」


余りにも攻めすぎると、こいつうざって思われるし加減が難しい。ギリギリを見極めるんだ。


「い、いや、そういんじゃなくてですね!」


「じゃあどういうことなのかな?」


「えっと、周囲の視線に耐えられなかったので、早く来てくれないかなって....」


なるほどそういうことだったか。

でもその答えじゃ甘いよ仁くん。


「なるほどなるほど。つまり、私を求めていたということだね?」


物は言いようってことだね。

ふふん、年上のお姉さん相手に口勝負で勝てるかな?


仁くんは何か逡巡していたようだが、やがて観念したように言った。


「.....そういう、ことです」


よしっ勝った!


「そっか!....ふふ、そっかそっか」


仁くんが私を求めていた。

この事実は私の口角を緩ませるのには十分過ぎる事実で、自然と笑顔になってしまった。


「ほ、ほら周りの人に注目されちゃってますし行きましょう?」


仁くんが焦ったように私を急かす。

しかしこの理由は建前だろう。本音は私の攻めに臆してしまい、この場をリセットしたかったに違いない。


ここは私の勝ち(?)のようだね仁くん!


「ん、そうだね行こっか。...ふふ」


年上の威厳というものを垣間見せることが出来たと自負した私は余裕たっぷりにそう返し、考えたプラン通り、レストランへ歩き始めようとする。




「じゃあ、デートなんで手でも繋ぎましょうか。はい、どうぞ」




が、そこで仁くんの強烈なカウンターが私を襲う。

さも当たり前のように手を私の方に差し出してくる。


ーーーーーッ!!


えっ!!い、いいんですか!?ボディタッチOK!?

ヤバイ私手汗大丈夫?手汚くない?遊んだことはあっても、男の子と手握ったことなんて一回も無いよ!!!

しかもこんな美少年と?こ、鼓動が.....。



「ん?あ、そうだね。はい」



しかしそんな内心もなんのその。私は見事なポーカーフェイスっぷりを遺憾無く発揮する。

私がそう答えた時、仁くんは一瞬ポカンとした気がした。向こうからしても私の反応は予想外だったのかもしれない。亀の甲より年の功ってね!


やばいやばい力加減が分からない。

そっと包み込む感じ?それとも力強く握りしめればいいの?


私はキュッと握り締める方針に決めサッと仁くんの手を取り、歩き始める。


マズイ、今顔赤いかもしれない。


仁くんは今どんな顔をしていて、私はどんな表情を浮かべているのだろう。

上手く手を握れているのだろうか。

仁くんは何も言わない。

という事は大丈夫ということだ。


「.....ふぅ」


こっそり、私以外には聞こえないであろう強さで息を一つ吐く。


よし、いける!!


と私は意気込んだのだが。


仁くんが突然恋人繋ぎと言われる指をお互い絡ませあうような濃密な方法に変化させてきた。


「....ひっ」


やばい、吃驚して一瞬声が出そうになった。

此れだけでも胸が張り裂けそうな程心臓が暴れ回っているのに、仁くんはそのまま私に寄り添うように体をくっ付けてきた。


.....鼻血出るかも。


「どこに向かってるんですか、恵令奈さん?お昼前だから昼食ですか?」


この子は天然なのか策士なのか。天然ならば恐ろしい歩く災害指定生物だし、策士であったとしても危険な歩く災害指定生物だ。要するにこの子は歩く災害だ。自分で何を言っているのかよく分からない。この子と接しているだけで、本能がこの子を襲って子種を授かれと訴えかけている気がする。

このままでは埋もれてしまう。この子の魅力はあり得ない練度で私の心を取りに来てる。


気を...気を確かに持たなければ。


デート中にあるまじきことではあるが、申し訳ないがスマホを見させてもらう。

昨日見ていた動画投稿サイトの「うちの猫ちゃんの1日」という動画を見て心を鎮める。そう、今私が手をつないで寄り添っているのは可愛い可愛い猫ちゃんだ。断じて美少年ではない。

私は辛うじて理性を取り戻すことに成功した。


「そうそうお昼ご飯食べに行こうと思ってね。あ、此処の先に美味しいレストランがあるみたい。そこにいこっか」


本当は事前にレストラン「ミュート」に行く事は決めていたがスマホを見ていた違和感を無くすため、あたかも今見つけたように私は提案する。

うん、落ち着いてきたよ私。


「......ぬぐぐ」


折角提案したと言うのに、何故か仁くんは涙目で此方を睨んでくる。

...私何かしたかな?

それにしても、全然怖くない。小動物が軽く噛み付いてきたみたい。そう思うとかなり可愛く見えてくる。


「....どしたの?そんな可愛い顔して」


ついついからかってしまう。許せ仁くん。


案の定仁くんはプイッと顔をそらしてしまった。

あちゃー怒らせちゃったかな?


そう心配した私だったけど、仁くんはその後も体を擦り擦りと甘えるように擦り付けてきたり、私の肩に頭を乗せたりと爆弾行動を色々とかましてくれたので恐らく大丈夫だろう。


私たちはレストラン「ミュート」に着き、昼食を共にした。

途中仁くんが元気なさげだったため心配したのだが、その後は明るく元気いっぱいだったため大丈夫だろうと思う。無理してる感じではなかったしね。


プラン通り、次はドライブに移行した。

私自慢のオープンカーを披露してあげた時は仁くんはまるで子供みたいにはしゃいでくれてとても嬉しかった。


今思えば私は仁くんの事は何も知らなかった。年も、性格も。知ってるのは顔と名前くらいだ。

ドライブがチャンスだと考えた私は仁くんに色々な質問をした。高校1年生だと言われた時は、「っしゃ男子高校生とデート!!」って叫びそうになった。いかんいかん、私は仁くんの前では頼れる年上のお姉さん的ポジションにいる(はず)。みっともないところを見せるわけにはいかない。

あと1ヶ月前に事故にあって数日間意識不明だったと言われた時は吃驚して吹き出してしまい、あわや大事故となる所だった。あれは本当に危なかったよ。



あと、助手席で楽しそうに風を受ける仁くんはとても綺麗だった。気持ち良さそうに目を細めて、嬉しそうに騒いでいるのだ。今すぐ抱き締めたかった。

オープンカーは風を諸に受けると思われがちだが、実はそれは後部座席のみだったりする。運転席と助手席にはそれ程強風は入ってこない。気持ちの良い風を感じることができるのだ。

本当に純粋で、無垢で穢れを感じさせないその姿は、世俗にまみれていない天使のように見えた。ああ私はもうこの子から離れられないんだろうなっていうのはぼんやりと分かった。


此処で打ち明けてしまうと、私が今まで男性と付き合って来なかったのは単純にしっくり来なかったからだ。男と遊ぶのは楽しいし、好きだ。でも何か満たされない。私が求めているのはそうじゃなかった。

でも、今日仁くんとデートしていて分かった。これだ、と。

仁くんは私にエスコートされっぱなしではなく、時には私を気遣い、引っ張ってくれた。

2人で並び歩く時はさり気なく車道側に居てくれるし、車のドアの開け閉めも率先してやってくれた。行動の節々に此方を思いやる心遣いが見え隠れするのだ。嬉しかった。

今までそういうのは私が全てやる側だった。男性が不快な思いをしないように、楽に行動出来るように、常に細心の注意を払い気を張り続けていたのだ。男性も男性側でそれが当たり前のように思っている人が大半で、此方に遠慮することもない。そんなんじゃ満たされないに決まっている。

けれど仁くんは違った。私の事をちゃんと考えてくれてるんだなってはっきり分かった。だから、今日のデートは本当に楽しかった。



そんな感じでデートを終えた私は今仁くんを自宅に送り、別れるところだ。名残惜しいが仕方ない。


お礼を言い合い、いざ別れるとなった時仁くんがこんな事を言ってくれた。




「また、遊んでくれますか?」




...一瞬、一瞬だけ泣きそうになった。楽しかったのは私だけじゃなかったんだって。そう仁くんが教えてくれたみたいで。



「ふふっ、いいよ〜。こんな美少年にお願いされちゃ断れないよね!」



本当に嬉しくて、私は心の底からそう伝えた。

まだまだ仁くんには遠い女かもしれないけど、いつか絶対追い付いてものにしてみせる。相応しい女になるから。





待ってて仁くん。



ふぇええ...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ