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恐怖と救い

今回、明るい話ではないです。

真面目な感じに仕上がっていますので、そういうのは嫌だ!って方は見ない事をお勧めします。



ーー暗い。


ここはどこだ。

右、左、上、下、全ての方角を網羅したとしてもまだ暗く。

理解できない現状に、抗いきれない不安が波のように押し寄せてくる。

暗い、暗い、周りの暗闇が俺を嘲笑っているような錯覚を覚えてしまう。

不快だ。



ーーしかし、それなのに僅かに心地良い。


認めたくはない。

しかし、この「黒」で満たされた空間はとても楽だ。

暑くない寒くない疲れない痛くない。

意識があるのかどうかも定かではなくて。


何も、そう何も感じることはない。


ーー楽しさや、嬉しささえも。


心地良さと、それを遥かに上回る恐怖が交わりながら俺の心に纏わりついて行く。


数瞬前に気付いたが身体の感覚が無い。拳を握り締める、笑顔を浮かべる、誰かを抱き締める。

ーーできない。


このどうしようもなく不快で快適という矛盾した感情が沸き起こる奇妙な空間は何処で、俺は誰なのか。

疑問が尽きることは無い。


その時、

俺の周囲を満たす「黒」がたちまち質量を伴ったように蠢く。

....どんな感触なのだろう。


呑気にそんな思考を頭に浮かべていると「黒」は俺の細い首にまるで環形動物のように絡み付き始めた。何故だかその強さは次第に増している気がする。

感じることはないが、冷や汗が吹き出した気がする。


おい、やめろ、死んじゃうだろ。


おそらく首を絞められている。

なのに痛くないしんどくない。

その有り得ない現状は恐怖を何倍にも増幅させる。

恐怖は、まるで静かな水面に落ちた一滴の雫が広げる波紋のように、俺の心に伝染していく。



俺は死にたくない。

やりたいことがまだたくさんある。



俺は、もう(・・)死にたくないんだ。

怖いんだ、死ぬのは。



感覚神経が機能しているのかどうか定かではない、恐らくそこにあるであろう腕を必死に何処かへと伸ばす。

腕はあるのか、伸ばせているのか、この暗い世界ではその答え合わせすら困難で。

それでも、必死に伸ばす。

助けて欲しいから。



ーーー誰か。俺を。




ーーーーー。




ーーー眩しい。


その時、此処では感じることの無いはずの暖かさを感じた。

眩い光が「黒」を浄化していく。

光量がどんどん増す。

その光はこの世界を照らした。

「黒」は、消え去った。

その光は確かに暖かくて眩しくて、どうしようもなく優しくて。


俺は、助かったのだと確信した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



....長い夢を見ていた気がする。

それも途轍もなく怖い夢を。


でも今は...眠いなあ。

俺は今寝ているっぽい。

それでも意識は割としっかりしてるかも。

半覚醒状態というやつかな。



「...!」


何か聞こえる気がする。


「....ん!」


少しづつ覚醒する意識に比例して、その聞こえる音も明らかになっていく。


これは...誰かの声?


「仁!!」


...仁か。どうやら呼ばれているらしい。


なんだか、物凄く安心する。

誰かが傍にいてくれるっていうのはこんなに心強いものだっただろうか。

とりあえずそろそろ起きるとしよう。


「....ん」


まるで微睡みの湖を泳いでるみたいだ。

意識はしっかりしてるのに、脳がまだ少し鈍い、変な感じ。意識と脳ってのは密接な関係があると思うんだが、よく分からんね。


「...仁!!」


俺は恐らくぼーっとした顔で、その声の主を確認する。



....お、美沙だ。


なんだかとても久し振りな気がする。

おかしな話だが。


「〜〜っ!起きた...目を覚ました....」


美沙はとても嬉しそうで、もはや泣きそうな顔をしている。


とりあえず何か反応してあげなければな。



「...ぉは、よう」


....?「おはよう」と元気良く挨拶したつもりだったが、掠れていてなんか自分の声じゃ無いみたいだ。それに、震えてる?

声が震えている気がする。


「本当に良かった...。

...でも、どうして.....



.....泣いてるの?」


美沙は悲痛に歪んだ顔でそう絞り出す。



........。



は?泣いてる?

俺が?


そこで俺は初めて自分が涙を流している事を、頬を伝う生暖かい感覚により理解させられた。

声が震えていたのは泣いていたせいか。


どうして俺が涙を?

中学生の時彼女に振られた時に泣いてそれっきりだったのに。


俺が困惑しているにも関わらず、涙がとめどなく溢れる。

実感した涙は、堰を切ったようように勢いを増して。



「うぇっ...えぐっ!なんで...ぅ...えっ...」


嗚咽が漏れる。

女の子の前で号泣するなんて恥ずかしいのに、止められない。


俺が涙を流す具体的な理由は分からない。



でも、悲しくて流す涙では無いということははっきりと言える。

俺は美沙の顔を見た瞬間、まるで迷子の子供が母親を見つけたみたいな安堵感を覚えた。


よく覚えていないが、俺はとても怖い夢を見ていたと思う。

今気付けば何故か体も小刻みに震えている。


だからだろう。美沙が傍にいてくれて、安心して嬉しくて泣いてしまったのは。


「...ぅぐっ...ごめ...とめるからっ...うぇ...」


それでも美沙からしたら困りものだろう。

クラスの男子が急に目の前で泣き始めたのだから。それも高校生。

迷惑になるかもしれないから、早く泣き止もう。



....泣き止みたいのに、どうして?

どうして止められない。


「ゃば...えっ?とまらな...えぐっ...ぅっ...」


早く止めないと。

美沙に男らしく無いと愛想を尽かされてしまうかも。


早く、早く。


俺が今の状態から抜け出そうともがき、焦っていると、



「大丈夫、仁」



ーー美沙に優しく、それでいて力強く抱き締められた。



「...ぇっ?」


理解が追いつかない。思わず間抜けな声を出してしまった。


「仁さっき(うなさ)れてた。だからあたし心配になって名前呼んだんだ。

そしたら急に泣き出しちゃうし、あたし困っちゃうよ。どうして仁が泣いてるのかあたしには分からない。それはとても悔しいけど、何もできないわけじゃ無い。仁は人に涙見せるのあんまり好きじゃ無いだろ?だからあたしの胸を貸す。存分に泣きなよ、大きな赤ん坊さん!貸し1つな?」



俺を胸に抱きながら、そんなことを無垢な笑顔で言う美沙。

その笑顔は慈母のように明るく澄んでいて、俺をとにかく安心させるものだった。



「うぇ...ぅえええ...あああああぁ...」


俺にはもう涙を止めることなんてできなかった。

涙腺が決壊してしまった。


俺にもどうしてこんなに涙が出るのかは分からない。



けれど、美沙の胸は俺を快然とした気持ちにさせ、そこから離れたくないと体が訴えているようで、しばらく俺は泣き続けた。


どうすればもっとシリアスに重量感を持たせられるのでしょうか...

私が書くのはどうしても軽くなってしまうんですよねぇ...

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