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閑話 とある本屋の店員

私はとある商店街の本屋でアルバイトをしているしがない女子高生だ。この商店街は私が通う高校から家までの帰り道の道中にあり便利なため、適当に本屋にバイトを決めたという経緯がある。時給も待遇も悪くはないのだが、そろそろ辞め時かなと思っている。なぜなら、周りの友達はみんなオシャレな服屋さんやカフェでバイトをしているというのに、私は商店街の小汚い本屋だ。なんか恥ずかしい。そうして、どう辞める言い訳を店長にしようかと現在のバイト中に考えているというわけだ。


「そこの女子高生〜、店の前の地面掃いてきて」


この本屋の店長の東雲さん(40歳)が私にそう言う。ちなみに、今は店長、私、あと女子大生の河口さんがシフトに入っている。


いい加減名前覚えてよ!私の名前は女子高生じゃないし!


そんな事を心の中で叫びながらも顔はニコニコとさせ店長からホウキを受け取り店の外へ出る。


ふんっ!絶対絶対辞めてやる!


私はムカムカした気持ちを掃除にぶつけるようにやや乱暴に地面を掃く。


辞める理由はどうしようかなー。学業がおろそかになったから?部活が忙しくなるから?家庭事情で?うーん...


....あれ?


考え事をしながら徐ろに顔を上げると少し先の曲がり角をこちらに曲がり歩いてくる男の子らしき姿が目に入った。遠いので顔は見えないのだが、立ち居振る舞いや仕草で男女の判断くらいはできる。


おっ!ラッキー!男の子を見ることができるなんて今日はついてる!


私はさっきまでの心にかかっていたドス黒い雲が嘘のように晴れ渡っていくのを感じながら、ニコニコとホウキを掃きながら男の子を見る。


段々こちらに近づいてくるにつれて鮮明になる男の子の顔。


あ、あれ!しかもちょっとイケメンっぽくない!?


私が興奮する間にも男の子はどんどん近づいてくる。その子は先だけ銀髪の艶やかに輝く少し長めの黒髪、睫毛が長くキリッとした少しキツめの目をしているが優しい顔つきがそれを絶妙に中和している。鼻はスラッと唇は薄くチョコンとまとまっており、まるで2次元の世界にいる男の子のような容姿で...


......


..........


..............


「あの〜どうかなさいましたか?」


「.....あぇ?」


....あれ?私何して....

...すぐ目の前10センチほどには超絶美形男子。


ほっ!?


「うぇあっ!?」


私は驚きすぎて変な声をだしつつ素早く男の子と距離をとってしまう。


「あ、ごめんなさい。少し近かったですね」


男の子は苦笑いしながら謝ってくる。


「いえ!違くて!びっくりして!嫌じゃない!あの!えっと!」


私のバカぁああ!挙動不審すぎる!分身して本体の自分にビンタしたい!


恐らく私は男の子のあまりの美しさに目を奪われてジッと見つめてしまったに違いない。そこをこの男の子に心配されて声をかけられたのだと思う。男の子なのに優しい....。


「ふふっそうですか、ならよかったです」


その子は口に手を当てて上品に微笑む。


....笑った顔可愛いなあ。この子と結婚したいなあ。


「あ、そうそう。ここって本屋さんですよね?」


私が馬鹿な思考を展開していると男の子が尋ねてきた。


「は、はいっ!そうですが!」


うぅ...緊張してしまい、なんか必要以上に声を張り上げてしまう。


「それはよかったです。向こうの大っきい本屋さんに行ったんですけど欲しい本が売り切れてまして。商店街の方に本屋さんあったかなぁと思って来たんですよ」


「そ、そうでしたか!では、いらっしゃいませ!お探しの本のタイトルは分かりますか?私がっ!この私がご案内致しましょう!」


「ふふっ、じゃあお願いします」


っしゃ!店長と河口さんにこんな美少年の相手はさせない!私の独り占めだ!


商店街のしがない本屋なのに一丁前に備え付けられた自動ドアを私達はくぐる。


「いらっしゃ.....ぃん?」


レジにいた店長が美少年を見て絶句する。


「もう何してんですか店長。ちゃんと接客してくださいよ。いらっしゃぃ...はぇ?」


そんな店長の姿を見て、新発売の本の整理をしていた河口さんが文句を言いながら美少年の方を向いて絶句する。


数瞬後再起動した2人は、


「ちょっと!どうしよ、やばいよ!」

「やばいですね!こ、ここは私が接客致しましょう」

「は?店長である私が行くに決まってるでしょ!」


なんか騒ぎ出した。

ふっ、残念ながらそれは無意味な争いです。


「このお客様は、私が!ご案内しますのでお二人はお仕事に戻ってください」


私は渾身のドヤ顔で2人にそう言う。


「はい、この店員さんに案内してもらうことになりました」


ナイスアシスト美少年!


「そ、そうなの....」

「...了解」


2人は悔しそうに唸っている。

なんという優越感。私は今人生の絶頂に立っている!


「お探しの本のタイトルはなんでしょう?」


「あ、えっと...その...」


なに?急にもじもじし始めたんだけど。ものっすごく可愛いですごちそうさまです。


「どうされました?」


「タ、タイトルを知っても笑わないでくれますか?」


「もちろんです!店員としてお客様を笑うなんてあり得ません!」


なにか恥ずかしいことがあるのだろうか?えっちな本はこの店には置いていないので残念ながら違うだろう。残念ながら。


「そ、そうですか...では...」


「はい、おっしゃってください」


美少年はそこで一旦深呼吸。意を決したように言う。


「『これで相手をドキッとさせる!精選思わせ振りな行動150』です....」


.....


.....何だろう。

とにかく抱き締めたい。

健気に頑張るこの男の子を思いっきり甘やかしたい。


確かに今月発売であるその本は男女共に参考にできる内容であるが、男で買う人は初めて見た。女子しか買う人はいないと思っていたが、男も買うんだろうか。こんなものに頼らなくても男は苦労しなさそうだが....。増してやこんな美少年がなぜこんな本を...?


「.....うぅ」


あ、まずい!私が考え込んでしまったせいで、無言の時間が出来てしまった。美少年が泣きそうな顔になってる。そんな表情ももっと見てみたいけど、今は自重しないと!


「そ、それでしたらこちらの方に残り1冊だけございます!ささ!こちらへ」


「はい...」


私は美少年を新発売のコーナーまで案内する。


「こちらでよろしかったでしょうか?」


そう言いながら、『これで相手をドキッとさせる!精選思わせ振りな行動150』を私は美少年に見せる。


「は、はい!それです。よかった残ってて...」


笑顔頂きました!キュンキュンするよ!



「ではこちらを....ってうわぁ!」


私は浮かれていたのだろうか。


私は、本を美少年に手渡そうと近付いた時、床に這っていたコンセントコードに足をとられて美少年の方に倒れ込みそうになった。


わっ!ヤバい!


美少年に倒れ込みケガをさせてしまうかもしれないと私は恐れ、ギュッと目をつぶった。


ボフッ


.....あれ?


そして感じるのは暖かく柔らかな全身を包み込む感触。


な...に?


私がそっと目を開けるとその視界に映り込んだのは、


「大丈夫ですか?」


殺人級の微笑みを浮かべた美少年の顔だった。しかも鼻と鼻が触れ合いそうなほどの距離。

ここにきて私は初めて、美少年に体を受け止められたのだと理解した。私が胸に飛び込んだ形となる。


「あひょお!?」


なんて言ったかよく分からないけど声とも言えないような音を出してしまった。


「気をつけて下さいよ?女の子がケガしちゃ大変なんですから」


美少年は私を抱きしめながら殺人スマイルでそんなことを言う。


「ふぁ、ふぁい....」


ダメだ私今絶対顔真っ赤だよ!反則すぎる!ヤバい胸のドキドキが止まらない!かっこいいよぉ!可愛いよぉ!うぇえええん!


「あ、ありがとうございます」


そう言って仕方なく、ほんと〜に仕方なく、名残惜しいが美少年から私は離れた。

あんまりくっついてると、ほら。向こうで殺意を込めた眼差しで私を睨んでる女2人に本当に殺されちゃいそうだから。


「いえ」


美少年はそう言って、私から改めて本を受け取った。


「じゃあお会計お願いしていいですか?」


「は、はい!」


私が悔しがる女2人を尻目に美少年の会計をした後、その子は礼を言って店を去っていった。


「「「ありがとうございました〜」」」


3人揃って頭をさげる。


「ちょっとお!女子高生!?最後のわざとじゃないでしょうねえ!?」


「そうだよ!私も喋りたかった〜!」


その瞬間、2人がすごい形相で詰め寄ってきた。


「ふふっ、わざとなわけないじゃないですか。あ、でもあの美少年の胸の中、心地良かったなあ〜」


「「きぃいいい!!」」


悔しがる2人を見てるとなんだか楽しい。私は実はドエスだったのかもしれない。


あ〜、あの美少年またこの店に来ないかな。


私はこの店を辞めようと思っていたことなどとっくに頭にはなく、先ほどの夢のような時間を思い出してニヤけるのだった。


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