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末路

今回残酷でそして鬼畜な展開があるので苦手な方はご注意下さい。

 

 俺は中川眞二にボコられた後、姉さんが呼んでくれた救急車によって病院に担ぎ込まれた。


 ついこの間退院したばかりなのにまたこの場所に帰ってくることになるとは。母さんや心愛にはむちゃくちゃ心配されて泣かれた。また、中川眞二への怒りが留まることなく溢れている様子で、被害届を出す方向で話が進んでいたのだがそれは俺が拒否した。もし姉さんが酷い目にあっていたならどんな手を使ってでもその罪を償わせるが、俺がボコられる程度どうでもいい。なんか面倒くさそうだし。法律に詳しくはないのでどうなるかは分からないけど、未成年だし厳重注意とかで終わるんじゃないかな?

 ただ姉さんは怒りが収まりそうに無い様子だったのが気掛かりだけど、もう関わりたくないとも言っていたのでここは引いてくれるはず。




 そんなこんなで時は夜、俺は病室のベッドに仰向けに寝転ぶ。


 そう、あれはただの自演だ。


 簡単なことだ。朝、姉さんにそれとなく俺のことを不審がらせ、わざと俺の後をつけさせた。尾行してくるかどうかは賭けだった。まあそのために伏線は何重にも貼っておいたんだけど。あとは、中川眞二の悪事を姉さんに見せつけて作戦は成功だ。姉さんはおそらくあのクズのことはもう何とも思っていないに違いない。

 さらに俺が体を張ることによって俺自身の好感度をあげることもできる正に一石二鳥の作戦だ!


 中川眞二が人格者であったなら俺は喜んで祝福した。だが、あんなクズと知った上で姉さんと好きにさせるほど俺は甘くない。


 ……そして、今夜。本当の意味での、作戦を実行する。


 俺はベッドから這い出てゆっくり立ち上がる。

 この高スペックな体を持ってすれば、あんな奴の拳なぞ効かん!

 …と言いたいところだが、やはり痛いものは痛い。そこそこの怪我を負ってしまった。能力が高いだけで超人ではないからな。

 そうそう、あと、あいつがあの時姉さんに乱暴を働こうとした時も、俺は動こうと思えば動けたので特に危険はなかったのだ。


 身体能力に任せ、俺は2階から慎重に壁を伝う。この高さならもし落ちたとしても下は芝生なので、特に問題ない。と、思う。


 ……よし、行くか。


 こうして俺は病院を脱走し、中川眞二の家へと向かった。



 体感で20分ほど走っただろうか。奴兼中川楓先輩の家へ着いた。少し息を整え、いざ行かん。


『ピンポーン』


『はい、どなたですか?』


 女性の声。中川先輩の声じゃない。ということはお母さんかな。


『こんばんは。夜分遅くに失礼します、眞二君の友達です。眞二君はいますか?』


『ああ、……眞二の。ちょっと待ってね』


 お母さんは俺が中川眞二の友達だと名乗った瞬間少し不機嫌な声色になった。……あのクズはもしかしたら家族みんなにも嫌われているのかもな。当たり前か。


 そうして少し緊張しつつ待っているとドアの奥から、『誰だよこんな時間に……』などとクズが愚痴りながら出てきた。ジャージにスウェットとラフな格好をしており、就寝の準備でもしていたのかもしれない。


「ッ!お前は……」


 クズが俺を見て少し体を構える。それはそうだろう。ついさっき自らが暴行した相手が目の前にいきなり現れたのだ。身構えるのは当然の行動だ。


「今日は姉さんがすみませんでした。お金を渡すので、許してくれませんか?」


 俺はそう言って深く頭を下げた。

 ……これで上手く乗ってきてくれるといいんだけど。


「……へぇ、殊勝なことだな。んで?いくら用意してきたんだ?」


 すると、ニヤニヤしながら近づいて来た。

 こいつが低脳で良かった。一般人ならこんな言葉頭から信じはしないだろうからな。


「……ここではなんなので、場所を移しませんか?」


 俺は声を潜めてそう提案する。


「……そうだな。移動するか」


 僅かな逡巡の後クズも納得してくれたようで、俺達はすぐ近くの川の橋の下へと向かった。


 川に着いた。肌を撫でるようなひんやりとした空気を感じる。辺りは暗く、遠くの街頭と月明かりだけがこの場を照らす。


 ……ふう、正念場だな。


 橋の下に差し掛かったところで俺は後に振り向き、クズを見据えた。


「ははっ!じゃあさっさと金を出せコラ。金額によっては今日のことは許してやるぞ?」


 クズはそれが俺がお金を出す合図だと勘違いしたようでヘラヘラと笑いながら、右手を差し出してくる。


 よし、もういいだろう。

 気弱な演技をするのも疲れた。ここからが『俺』だ。


「お金?嘘に決まってんだろ馬鹿。クズに渡す金なんて1円もねえよ」


 先程とは一転した態度でそう言い放つとクズはポカンとしたアホヅラを晒す。俺が何を言っているのか分からないと言った顔だ。まあ馬鹿なお前じゃ分からないだろうな。


「……お前、バカなのか?また朝みたいにボコボコにされてぇのか?」


 ようやく俺の言葉を理解したクズは、俺を睨みながら凄んでそう言う。申し訳ないが全く怖くはない。


「あははっ」


 全くの的外れな脅しに笑いが込み上げて来て、思わず吹き出してしまった。こいつは勘違いしている。自分の方が喧嘩が強く、強者だと奢っている。確かに今世の男達は前世の男達よりも圧倒的にひ弱で、クズ程筋肉質で大柄な人はそうはいない。だけど俺は違う。


 俺は『ズドッ!』と音がするほど強く地面を踏みしめ、一気にクズに肉薄する。小石が辺りに爆散するように飛び散っていることからも、踏み込みの強さが伺える。


「えっ?」


 クズが間抜けな声を出すがもう遅い。左足で地面を踏み、腰をギュルッ!と回転させ、その回転力を利用した渾身の右拳をクズの無防備な腹に叩き込む。

 なんかよく分からんけど、回転させた方が強そうだからそれっぽくやってみた。


『ドムッ』


 人を全力で殴るとこんな感じなのか。思ったより殴っているこっち側も痛いな。それに何と言うか肉の厚みを拳を伝って感じるのが酷く不快だ。


「ごふっ!」


 俺の1発でクズは地面に這い蹲った。


「……おぇええ!!……はぁ?お、お……まえぇ!ふざっけんな!朝と違うじゃねえか!」


 汚いヨダレを垂らしながらそんなことを言う。


 本気を出せばこんなやつ敵ではない。異常なまでの高能力を備えた体を持ってるんだぞ、前原仁は。異世界転生チートを舐めるな。加えて、俺は前世では中学生の時剣道をしていたことがある。一応全国大会に出場するほどの実力だった。対人戦が全くの未経験というわけではないのだ。朝は、わざとこいつの攻撃を受けていたにすぎない。あれは痛かった。痛かったぞぉー!!……某有名マンガの悪役のセリフを拝借。


「おらあ!」


「うぇっ!!」


 姉さんの純真を弄んだ怒りと、朝の仕返しでもう1発顔をぶん殴っておく。


「おらぁ!!」


「ごぇえっ!!」


 特に意味はないけどなんかむかつくからもう1発殴っておく。


 よし、仕上げに取り掛かろう。もうこいつの犠牲者は出してはならない。こいつは女の子に乱暴すると聞いた。ならば、その根源を絶ってやる。


 俺は一歩一歩踏み締めてクズに近づく。より恐怖を煽るためだ。怯えろ、後悔しろ。許しはしないけど。


「わ、わがった!やめでぐれ!もうお前には関わらない!これでいいだろ!?」


 そんな舐めたことを言うクズ。本当に俺がやめると思っているのかな?


 悪いけど、俺はやる時は徹底的にやる人間だ。容赦はしない。ここで俺が躊躇ったら、犠牲者がまた出るかもしれない。だから、ここで終わらせる。


 ガバッと足を大きく背中側に振り上げる。……この体柔らかいから無茶苦茶振りかぶることができるな。


「お、おい……嘘だよな?」


 何か言っているが知らん。情状酌量の余地なし!歯食いしばれ。


「……ふっ!」


 俺は全力で、



 クズの金的を蹴り抜いた。



『グチュゥ!!』


 うわ……嫌な音が辺りに響いた。

 人生で聞いたことがない音。それなのに、何処かおぞましさを孕んだ音。男なら一生聞きたくないだろう。もちろん俺も嫌だ。


「……あッ!がぁ!!あばばばばばば……」


 クズは泡を吹いて白目をむきながら意識を失った。正しく『末路』と表現するのが相応しいその様は2度と思い出しくないほど凄惨で、衝撃的だった。

 ……これを行ったのが自分だとは信じられない。



 俺はその後クズが意識が戻るのを待って、誰にやられたかを絶対言わないようクズをちょうきょ....説得してから、家に帰した。死んだ魚みたいな目をしていたから、多分大丈夫だろう。

 もし警察などの公的機関に通報されたら1発アウトだけどな。その時はあいつの行いも全部暴露してやるし、一蓮托生ってやつだ。


 2度目の人生だからか、かなりの強気な行動をしていると思う。……もし俺が逮捕されるとかいう事態になったら皆悲しむよなぁ。今度からこういうことは一切なしにしよう。今回1度きりだ。


 ……それにしても前世の俺では考えられない所業だった。俺はいつからこんな鬼畜な事を平然とできる人間になってしまったんだろう。

 まあ、あいつに今まで乱暴されてきた女の子達や、カツアゲされてきた男の子達、それに姉さんの気持ちを考えれば、あれでも足りないくらいか。


 まあ、何にせよ、一件落着だ。


「……帰ろ」




 俺はやつの金的を蹴り抜いた嫌な感触を思い出しつつトボトボと病院に帰るのだった。


仁くんは、大切な人には激甘ですが、それを害するものは極端に嫌う人です。

かといって前世ではここまで極端ではありませんでした。もしかしたら、今世の体に精神が引っ張られているのかも知れません。


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