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中川眞二

 俺はその日、中川先輩の家の前に身を潜めていた。


 家族には学校に行くと言って家を出てから、スマホで学校に欠席連絡をしておいた。まあ、ズル休みだな。なんで俺がそんなことをしているのかというと、例のクズ(仮)中川眞二を見つけ、真偽の確認をするためだ。姉さんの気になる人は本当に先輩の兄の中川眞二なのか、それと本当にクズなのか、ということの確認だ。それと出来ればある作戦を実行したい。まぁこれは成功率が低いし、余り期待はしていない。


 中川先輩には事前に中川眞二の写真を貰っている。これで万が一の人違いをする心配もない。詳細に色々と尋ねたのだが、何をするつもりなのかあまり先輩は深く聞いてこなかった。それだけ兄のことはなんとも思っていないという事なのかもしれない。


 ……いつもの間にこんなに行動的になったんだよ俺は。最早オタクの面影もない。

 なんか調子に乗ってアンパンと牛乳を近くのコンビニで買ってきちゃったし、案外ノリノリなのかもしれない。


 アンパンを齧りながら家の前で待つこと30分、やや乱暴にドアが開き、気怠げにアクビをしながら大柄の男が出てきた。

 スマホに保存してある写真と急いで照合する。……うん、間違いない。あれが中川眞二だ。

 顔は可もなく不可もなく、だが服装が乱れていてダラシない。あとひと目でわかる筋肉隆々、かなり鍛えていることが伺える。こわい。


 俺は中川眞二を尾行を開始する。こいつの悪事の真偽を確かめるのだ。人伝に聞く情報ではそれは事実になり得ない。真実はこの目で見て判断するしかないのだ。


 そこで俺はふと思い出したように一瞬だけチラリと後ろを確認する。

 ……お、ついてきているな(・・・・・・・・)。これは運が良ければ例の作戦の実行も夢じゃないかもしれないな。


 そんなことをしていると、中川眞二がスマホを取り出し誰かに電話をし始めた。少し距離があり会話の全貌は聞こえないが、「ーーーーに来い」「はやくーーー」などと聞こえる。どうやら人を呼び出しているようだ。


 数分で、今にも死にそうな程息を切らしたヒョロヒョロした弱そうな男が来た。……来るの早いな。近くで待機でもしていたのか?


 中川眞二はそいつの肩をに豪快に腕を回し、移動を再開させる。ご機嫌な中川とは対照的に、ヒョロ男は小刻みに震えている。表情は背後からでは確認出来ないが、恐らく顔色は悪いのではないだろうか。


「……」


 いや、どう見てもいじめっ子といじめられっ子なんだけど?片やゴリラのようなごつい男。片や骨と皮だけのようなヒョロッヒョロの気弱そうな男。

 本当に友人関係なのかこいつら。怪しさしかない。


 思考を繰り広げていると、町外れまで来ており段々と人気(ひとけ)が無くなってきた。こんな場所まで来たのは初めてだ。


 ……ここは、シャッター通りか?人が全くいないな。ジメジメしていて雰囲気も悪い。余り長居したいとは思えないような所だ。注意深く中川眞二を観察していると、奴がキョロキョロと辺りを見渡し始めた。


「おっと」


 ここで見つかったら不味い。

 折角面白いように事は順調に運んでいるのだ。台無しにしてしまうには惜しい。

 俺は慌てて近くの電柱を背に身を隠す。


 そして、ヒョロ男と共に細い横道へと入っていった。あの横に折れる前の不自然な警戒の仕方、絶望に染ったヒョロ男の横顔。臭いすぎる。

 これは、当たりかもしれない。


 確信に近い予想を立てながら、黒い笑みを浮かべる。小走りで細い路地へと向かい曲がり角から顔だけを出し、中川眞二たちの様子を伺う。


「(失礼しま〜す)」


「ほら、いつも通り金を出せよ。どうせ男ってだけで小遣い貰いまくってんだろ?なあ!」


「そ、そんなことないよ」


 中川眞二がヒョロ男の胸ぐらを掴み、壁に押し付けながら恐喝紛いのこと……いや、あれは立派な恐喝だな、恐喝をしていた。それに『いつも通りの』ね。言質は取れた。ほぼ間違いないと踏んでいいだろう。


「(おいおい)」


 ビンゴ!!

 俺は小さくガッツポーズする。悪事の真偽は確認できた。愚者の行動は単調で非常に助かる。面白いように踊ってくれて嬉しいよ俺は。思った通りお前は『クズ』だったよ、中川。


 中川先輩に、中川眞二が最近金が足りずイライラしてると聞いていたから、近々カツアゲするかもとは思っていたが、初日からしてくれるとは。授業は分かるし、数日は学校を休む事を覚悟していたんだけどな。


 さて、そろそろヒョロ男くんが気の毒だし、作戦を開始するか。まさかこの作戦を実行出来るとはな。事が上手く進みすぎて笑えてくる。


「お、おいっ!」


 俺はわざと気弱そうな男の子を演じながら中川眞二のすぐ横に飛び出す。さあ見せてくれお前の本性を。


「っ!!チッ、人がいたのか」


 中川眞二が舌打ちをしながらこちらに振り向く。


「……なんだぁ?クソガキじゃねえか」


 人に見つかったことにより少し焦っていた様子だったが、俺が気弱そうな男の子だと分かった瞬間気持ち悪い嘲りの顔に変わった。幸い俺は童顔だからな。中学生くらいだと思われても不思議ではない。まぁ高一だからな、中学生みたいなもんか。


「おいおい、ガキが来ていい場所じゃねえよ。今なら許してやるからさっさとどっか行け。その整った顔をグチャグチャにされたくないだろ?」


 お、こんな奴でも俺をイケメンと認識できるのか。

 だけどまぁ、そういうわけには行かないんだなこれが。


「お、お前が中川眞二だな」


 俺は勇気を振り絞った感を出しながらそう言う。我ながら中々の演技力だ。この世界なら俳優を目指すのも選択肢の1つに入ってくるのかもしれない。


「……そうだが。お前は?」


 中川眞二は名を知る俺を少し警戒したようだ。……あ、ヒョロ男が隙を見て逃げ出した。中川眞二はそれを見て、『チッ』と舌打ちをし、こちらに向き直る。


「で?お前は誰だよ」


 ヒョロ男に逃げられたことが気にくわないのか苛立たしげに中川眞二はそう問う。強面だなこいつ。加えて俺より15センチから20センチ程高い身長。前世なら確実に小便漏らしそうになってたぞ。何故今平気なのかは分からない。


「ぼ、僕の名前は、前原仁。前原茄林の弟だ!」


「前原だあ?……あぁ、いつだったかイラついてたから怒鳴り散らしたかった時に、女共に囲まれてた奴がいたから、気まぐれに怒鳴って助けてやった女の名前が確かそんな感じだったな。最近妙に話しかけてきやがる。顔も悪くない」


「そ、そうだ。姉さんはお前のことを気に入ってた。だから、そんなカツアゲみたいなことはやめろ!姉さんが悲しむだろ!」


 刮目せよ、姉のために健気に頑張る弟の演技を。涙が出るだろう!?こんな姉思いの弟は滅多にお目にかかれないぞ。姉思いの前原仁です、宜しくお願いします。


「……ぶ、ぶはっ!うぜーその正義感。だが、残念。俺は近々あの女を犯すつもりぞ。あの顔を歪ませながらやるのは嘸かし気持ちいいんだろうなぁ。さんざん苛め抜いた後に、あっさりと捨ててやるよ。俺は男だからなぁ、女に不自由はしないんだよ。お前の姉貴を捨てた後はまた違う女で遊ぶだけだ」


 ……やばいキレそう。こいつやっぱりここで殺処分しとくか?いや落ち着け、キレると演技ができなくなる。まだ時期じゃない。

 折角このバカのお陰で順調に進んでいるのだ。態々自ら台無しにする必要は無い。


 ……ふぅ。


「ね、姉さんにお前の本性をばらす!そしたら、もう悪さできないぞ!」


「どうせ、俺に嫉妬した弟の下らないでまかせだと一蹴されて終わりだよ」


「……お、お前なんかに、姉さんはあげない!うおぉおお」


 さぁ作戦の要だぞ。俺は悔しげに顔を歪ませながら、中川眞二に突っ込む。癇癪を起こしたクソガキの抵抗だぞ。お前はどうする?


「あーうぜーだからガキは嫌いなんだ」


 中川眞二は溜息をつきながら俺の胸ぐらを掴み上げ、宙にぶら下げる。片手で持ち上げんのかよ。どんな怪力してんだこいつ。


「は、離せ!」


「あぁ……離してやるよ。おら、よぉ!!」


『ゴッ』


 鈍い音を辺りに響かせながら俺はぶん殴られた。視界が回る。

 2メートルほど吹き飛ぶ。


「うぇ……」


 こいついきなり暴行してくるのか、これはちょっと予想外。人に殴られるのってこんなに痛かったのか。こいついくら何でも浅はか過ぎるだろ……。


「二度と口ごたえできねぇようにしてやるよ。今からお前をボコるけどよぉ、周りの奴らに何があったか聞かれても、絶対俺の名前出すんじゃねぇぞ?もし言ったら、殺すぞ?」


 『パキパキ』と拳を鳴らしながら俺を見下ろす中川眞二。……ちょ、ちょっと怖いかな。あまり痛くしないで下さい。痛いのは嫌いだ。


「おらぁ!まだまだいくぞ!」


『ドゴッ!バキッ!』


 2回、3回と肉と肉がぶつかり合う不快な音が路地に響く。服もボロボロだよ。それにしてもこの手馴れた感じ。こいつ普段から暴力も振るってるだろ。やっぱり正真正銘のクズだよ、お前は。


 ……というか、そろそろ来てくれ、さすがにきつい。もしかして作戦失敗したのか?


 と少し不安になった瞬間。




「じ、仁っ!!!!」



 姉さんが叫びながら飛び出してきた。


 ははっ、やっぱり作戦通り。今日は運がいい。

 俺はニヤリと笑った。

ご都合主義全開で参ります。

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