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莉央ちゃんとのデート 後編

 俺の前に並び立ついかにも遊んでそうな風貌の女子3人組。この世界の普通の男ならこんな女の子たち相手にしない事は向こうも重々承知のはずだけど……莉央ちゃんと親しげにいる俺を見ていけると踏んだか?


「すみません。ありがたい誘いなのですが、今は別の子と遊んでますので。また、次の機会にでも」


 誘いに乗ってしまうのではないか、そういう不安を感じさせていた莉央ちゃんを肩に抱き寄せて堂々と言い切った。莉央ちゃんはとても嬉しそうに頬を緩ませている。安心して欲しい。デート中の女の子を放ったらかす程人間腐ってはいない。


「えっ?遊んでるってそこの地味な女と?君みたいな子とこの女は釣り合わないよ〜。私たちと遊んだ方が絶対楽しいって!」


「うんうん!えっちもそいつよりは上手いよ!」


 口々にそんなことを言う女の子達。なんだこいつら莉央ちゃんのことバカにしてんのか?自分の価値を示す時に、誰か他の人を落とす様な発言をする子とは仲良くなれる気がしないな。


「いえ、この子はとても素敵な子です。では失礼します。いこ、莉央ちゃん」


 今の少しのやり取りでもう分かった。この子達とはこれ以上会話をする価値はない。そう結論づけた俺は莉央ちゃんの手を取りその場を離れようとするが、


「おい待てよ!」


 そう言って莉央ちゃんの肩を掴む女の子。おい、しつこいな。もしかしてこいつら前世で言うところのDQNというやつか?これはまた厄介な連中に捕まってしまったみたいだ。1番嫌いな人種だ。


「お前みたいな芋くせえ女がこんな男と仲良くできるわけねぇだろ?どうやって脅して遊んでもらってるんだ?それとも金か?」


 女の子達の口調が乱暴なものに変わった。ようやく本性を出したってことか?というか何言ってんだこいつら。美少女とか最早関係ない。いい加減イラッときそう。


 怯えたように、俺に縋るような目を向ける莉央ちゃん。……ここまでだな。男として、女の子相手にはなるべく穏便に接したいし、手荒な真似もしたくない。でもそれは震える目の前の女の子を見捨てる理由には決してなり得ない。


「おい、いい加減に……」


 莉央ちゃんの前に出て、女の子達を止めようとしたその瞬間。


「なんか言えよおい!このブス!」


 1人の女の子がそう言って、莉央ちゃんを突き飛ばした。別に力いっぱいというわけではない、小突いたような威力。


「きゃ!!」


 短い悲鳴と共に尻餅をつく。

 俺はその間近の光景をスローモーションの世界で見ていた。

 何処か楽観していたのだ。自分の価値を知りながら、女の子をデートに誘った時点でこうしたトラブルも想定していなかったわけじゃない。それでも、前世では経験した事がなく、現実味がなかった。目の当たりにして漸く遅すぎる理解を得たのだ。そんな自分にも心底腹が立つ。そして何よりも莉央ちゃんに手を出した女達が……。


「……」


 もう我慢なんてする必要は無い。

 大好きな女の子が怖がっていた。突き飛ばされた。

 俺は情けない。女の子1人守り切れない。


 これは俺の八つ当たりで意趣返し。そこに莉央ちゃんの無念も加えて。


「……お前何やってんの?」


 出したことが無いくらい低い声が出た。莉央ちゃんを突き飛ばした女の子の前に立つ。この時俺はどんな目をしていただろうか。どんな声を出していただろうか。女の子がたじろいだのが分かった。


「な、なにって、君を脅してるそこのブスを……」


 何を思い上がってるんだこいつは。いつ俺が脅されていると言った。増長するのもいい加減にしておけ。思慮が浅くて、愚かで、思いやりが無い。俺はハーレムを作りたいし、美少女は大好きだ。だとしてもこんな奴とこれ以上関わりたいと思う程俺は馬鹿じゃない。


「目腐ってんのか?お前らより莉央の方が何万倍も可愛いぞ?加えて性格が良くて魅力的だ。対してお前はどうだ?あ?」


 女の子の顎をクイッと上げ、超至近距離で睨みながら言い切ってやる。


「軽はずみなナンパ、他者を貶める発言、浅慮な暴力。思い返してみろ、何が誇れる?いいか、俺は莉央が大好きだ。ぶっ飛ばされないうちに早く帰れ。2度目はないぞ」


「……」


「い、いくよほら」


 俺に間近でキレられた女の子は呆然としていたが、あとの2人がその子を連れ慌てて去っていった。去り際に『イケメンに罵られるの……いいかも……』と呟いていたのはもう気にしない。

 ……はぁ。キレるのなんか何年ぶりだろうか。ましてや女の子にキレたことなんて初めてかもしれない。……まぁ後悔はしてないが。勢い余って莉央ちゃんも呼び捨てにしちゃった。


 急いで莉央ちゃんに駆け寄る。


「大丈夫?怪我はない?」


 そう言って手を差し出す。

 しまったな、先に莉央ちゃんの安否を確認するべきだった。こういう所だろうな、俺がモテない理由は。


「……は、はい。私は大丈夫です」


 莉央ちゃんは放心していたようだが、しっかりと俺の手を掴んで立ち上がる。無事なようで何よりだ。


「ありがとうございます……」


「ううん。俺のせいだから、ごめんね」


「い、いえそんなことは……」


「その気遣いが嬉しいよありがと。デートとかって気分じゃなくなっちゃったね。残念だけど今日はもう帰ろうか」


「は、はい……」


 俺たちはその後会話もなく無言で駅に向かった。莉央ちゃんは少し後ろを追従するように歩いていた。

 うーん、怖がらせちゃったか?しょうがないけど、落ち込んでしまう。まぁさっきの出来事は俺が全面的に悪い。この子に非は1ミリもないのだ。申し訳ないことをしてしまった。


「じゃあ莉央ちゃん。また明日ね?」


「……」


「莉央ちゃん?」


「……あ、あの!」


「うん?どしたの?」


 莉央ちゃんは何かを言いかけるも口を開けたり閉じたりして不安そうにこちらを上目遣いで見つめるだけだ。何か伝えたい事がある。けれど言っていいものか迷っている。この子の心情が手に取るように分かる。


 ……本当に莉央ちゃんは。しょうがないな。


 俺はこの子が、出会って間もないこの子が、どうしようもなく愛しく思えて、無意識に自然と抱き締めた。周りには人が沢山いるが構うものか。


「あ……」


「何も遠慮することないんだよ?言いたいことがあるなら言っていいよ。莉央ちゃんが思ってるより、俺は莉央ちゃんのこと好きだよ」


 莉央ちゃんの頭を慈しむように撫でながら、できるだけ優しい声音を心掛ける。遠慮はしないで欲しい。まだ出会った日は浅いが、俺はもうこの子を手放せない。好きなのだ。


 俺のその一言が功を奏したのか、莉央ちゃんがポツリポツリと話し出す。


「……ッ!わ、わたし……さっき仁くんが私のために怒ってくれたことが、う、嬉しくて……」


「うん」


「最初、あの女の子たちが来た時、私もうダメだって、仁くんはきっとこの可愛い女の子たちについていくんだって、そう思いました……」


「うん」


「でもっ!仁くんは、わ、わだしを素敵なごだって!お前らよりがわいいっで!性格もお前らよりいいっで!ぞう、言っでくれまじだ!」


 莉央ちゃんは泣きながら顔を俺の胸に埋めてそう叫ぶ。この吐き出し方は……今まで色々溜めてしまってたんだろうな。ここで全て出して欲しい。


「うん」


「わだじ!不安だったんでず!!仁ぐんにひどいこと、痴姦しだのに!笑って許してくれたげど、ぞれは演技で!心の中では、わだじのこと、気持ち悪いって!そう思っでるんじゃないかって!」


 そんなことを思わせてしまっていたとは……情けない。もっと俺から好意を感じるような行動を心掛けるべきか?


「うん」


「ぞれでも!仁ぐんと一緒にいれて、たのじくて!仁ぐんの優しさに甘えでるだけだど分かってても、だのしくで!でもそれが辛くて!今日のデートが終わったら、もう仁ぐんに話じかけるのはやめようって、そう思ってまじだ!」


「……うん」


 ……ええ。それは困る。


「でも!!仁ぐんは、さっぎわだしのために怒ってくれまじだ!それがうれじくてうれじくで!もうどうじていいかわからなくなりまじた……」


 そう言って俺を見上げる莉央ちゃん。端正な顔が涙でぐちゃぐちゃだ。それでも可愛いのは反則だと思う。



「教えて下さい仁くん……わだしは、一体どうしたら……ふむぅ!?」



 もう何も言う必要は無い。我慢させてごめんね。

 莉央ちゃんの言葉を全部待たずに、俺は。


 自分の唇を莉央ちゃんの唇に押し付けた。



 腕の中の莉央ちゃんの体が強張り硬直するのが分かる。


 5秒ほどたっただろうか。俺はゆっくりと唇を離した。莉央ちゃんの顔はもう惚けきっていて、涙で顔が濡れているのもあって、凄く間抜けに見えてしまう。


「こうすればいいんじゃない?」


 俺はそう言って笑顔を作ろうとしたのだが……既に自然と頬が緩んでいた。そうか、自然に笑うって言うのはこういうことなのか。


「……ふぇ?」


「あ、あははっ変な声でてるよ。莉央ちゃん」


「ふぇ?ふぇえええええ!?い、今のって、5、5人に1人しか人生で経験できないと言われるキ、キキキキス!?どうして!?」


 どうやら随分混乱しているようだ。無理もない、俺も何気にこの世界ファーストキスだ。それにしてもキスが5人に1人ってマジ?まぁそもそものキスの相手が少ないしそんな感じになるか……。ご丁寧に説明ありがとうございます。


「……な、なんでですか?わ私は、仁くんに痴姦したんですよ?それなのに……」


「俺が莉央ちゃんのことが愛しく思えて、辛そうな莉央ちゃんをほっとけなかった。つまりそういうことだよ」


「……そう、ですか」


 顔を真っ赤にして俯く莉央ちゃん。スカートを皺が出来る程強く握りしめている。


「ごめんね?莉央ちゃんが辛い思いしてることに気づかなくて」


「っ!そんなこと!私は……」


「うん、分かってる。優しい莉央ちゃんなら僕の謝罪は受け取らないだろうね。ま、莉央ちゃんが痴姦のことを気にする必要はないんだよ。わかった?」


「……はい」


「うん、いい子。じゃあまたね?明日からはまた笑顔の莉央ちゃんが見たいな」


「……本当に優しい人です。はい!また明日ですっ」


 莉央ちゃんは最後にとびっきりの笑顔を見せてくれた。

 うん、君はやっぱりその表情が1番素敵だよ。



 こうして、莉央ちゃんとの初めてのデートを終えた。

 キスの1件で周りが騒がしくなる前にさっさとトンズラしよう。


やはりシリアスを書くのは苦手です。どうしてもちゃっちくなってしまいます。難しいですね

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