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来週は

「はぁ!はぁ!」


 うおぉお!!急げ急げ!!

 暑い!あづい!右手が痛え!でも走れ俺!


 俺は今、駅から春蘭高校へ全速力で向かっている。もう歩道のスピード違反するくらいだ。そんなのないけど。

 何故無茶苦茶急いでいるのか。それは、ものすごっっく遅刻しているからである。その時間およそ4時間。


 おい、試合終わるんじゃない?これ

 バスケの事はあんまり分からないけど4時間ってヤバい?ヤバいかな?


 美沙には本当に申し訳ないんだけど、これ程まで遅刻しているのには勿論理由がある。


 愛する心愛を殴ったあのクソ野郎をぶっ飛ばせたのは良かったのだが、あの後母さんに連絡を入れたり、万全を期して心愛を病院に連れて行ったり、クソ野郎とまたもう一悶着あったりしたのだ。


 あのクソ野郎、

『お前……前原仁だな!?』とか言って俺の事を知ってたからな。有名になってしまったものだ。


 『俺がお前に殴られたと世間が知ったらどうなるだろうなぁ?』


 と、気持ち悪い笑顔を浮かべながら言われたので、


『世間体と目の前で泣いてる妹、どっちが大切かなんて考える必要も無いだろ』


 と少々カッコつけてみた。まぁ人殴ったら世間体で収まる問題じゃないんだけどね。

 その後なんか悔しそうにしながらも騒ぎにはしたくないのかすんなり帰って行った。

 これはただの希望的観測なんだけど、恐らくあいつは俺を警察に突きだすようなことはしない……と思う。プライド高そうだし、後々自らの手で報復を……ってタイプな気がする。それにあいつも心愛のこと殴ってるし、自分の罪が明らかになるような事はしないでしょ。まぁ根拠なんかないし、家に警察来たらもうごめんなさいするしかない。


 前世の俺なら絶対ビクビクして引きこもってるはずなんだけどな。生まれ変わって胆力がついたようだ。

 後悔も反省もしてない。

 でも母さんと姉さんにはあとでいっぱい謝ろう。


「はぁ……!はぁ……!」


 もう汗がすごい。湿度の高い生ぬるい風が頬を撫でる。

 でも美沙が!待っている!


 試合会場である体育館までもう少し。


「えっ!?前原仁!?」「キャー!!走ってる!!」「仁くんどこ行くのー!?」「髪の毛のなびきが美しい」「あ、汗が!前原くんの汗が地面に!!だ、誰か吸水性の高いハンカチを!!」


 すると、見慣れない制服を着た5人組の女の子達とすれ違った。

 今日の対戦相手の学校だろうか。


「!?」

 

 試合なのに、校内を彷徨いているだと……。試合中にそんなことはないはず。


 ということは、やばいかもしれん……。


「うぉおおお」


 僅かな諦念を抱えつつ俺はさらにギアをあげた。


 体育館が見えてきた。

 出入口からはぞくぞくと人が出てきているようだ。みんな、前世でよく見たバスケのユニフォームを身にまとっており、選手であることが伺える。


 ……はぁすみません……。

 間違いなく試合終わっちゃってますね……。


「はぁ」


 紛れもない事実に気持ちが沈む。それまでの勢いは何処へやら、俺は肩を落としつつ重い足取りで体育館へと向かう。


 緊張が溶け、足を止めた瞬間汗がとめどなく溢れてきた。シャツに染み出していないか少し不安だ。


 ……美沙になんて詫びようか。

 う、胃が痛い。


「あ」


 美沙らしき人を発見。

 チームメイトと何やら話している様子。

 試合はどうなったのだろうか……。非常に聞きにくい。応援に行くって約束したのにね、ごめんなさい。


「ぶふぉ!!?」「前原……仁だと?」「はぁぁあくんかくんか」「汗えっろ」「ハラジンちゃん!!チュッ!!」


 他校のバスケ部の女の子達が俺に気付いたらしく一様に反応を見せてくれる。

 ハラジンってなんやねん。まえハラジンってことですか?奇抜なネーミングセンスだ。悪くない。


 一応イケメンの嗜みとして愛想笑いを振り撒いておく。うん、イケメンだから。

 それでも足は美沙の元に一直線。その雰囲気を察してくれたのか、女の子達がかの有名なモーゼの奇跡で海が割れるが如く道を開けてくれる。


「あ……仁」


 美沙は俺の姿を確認した瞬間、正しく花のようにその笑顔を咲かせた。汗で少し湿った髪の毛が少しエロ……なんでもない。


「試合お疲れ様、美沙。ごめんね約束してたのに応援来られなかった……」


「あ、大丈夫大丈夫!あたしこそごめん!無理に誘っちゃって」


「ううん、全然無理にじゃないよ。僕も来たかったんだけど……色々あってね。その事情はまた話すね」


 今話してもいいんだけど……その、周りがね。


「な、なんて親しげなんだ」「あの子誰なの?美天使とどういう関係?」「約束だと……!?」「きぃいいいいいいいい!!」「いや、あんたは落ち着け」「じんくんのおっぱいぽよぽよ」


 とまぁこのような有様なのである。とてもじゃないがこのまま話を続けるべきではないだろう。


「美沙は今から帰り?良かったら一緒に帰らない?」


「……!もちろん!じゅ、準備するから待っててくれ!」


「「「「きぃいいいいいいい!!!」」」」



* * *



「もうほんとにごめん!」


「はは。大丈夫だって。妹さんがそんな事態に巻き込まれてたのに、あたしが怒ったらこっちが悪者だよ。試合にはなんとか辛勝したこだし万事おっけーだ!」


 美沙の優しさが心に染みるぜ……。


「ありがとう。来週は行くからね」


 なんでも来週も引き続き試合があるらしい。しかしなんといっても来週には中学校の同窓会が控えている。土曜日同窓会で、日曜日試合というスケジュールだ。


「それで妹さんの怪我はどうだった?」


「ん、別段重傷ではなかったよ。少し腫れてたくらいかな」


「そうか……。妹さんを殴ったやつ、同じ男でも仁とは天と地の差だな」


「まぁThe・この世界の男って感じだったね」


「……この世界??」


 う。

 しまった。元異世界の住人の癖が出てしまった。とはいっても最近ではあまり異世界って実感は湧かない。この世界の住人だっていう意識が強くなったきたのかもな。


「ううん、なんでもない。そういえば莉央ちゃんはどうしたの?応援に来てくれてたんじゃないの?」


 これ以上突っ込まれても困ってしまうので話を逸らす。……まぁこの問いの答えは実は知ってるんだけど。


「あぁ莉央なら美容院?だったかな。用事あるらしくて仁が来るちょっと前に帰っていったよ」


「そうなんだ」


 美沙の応援は莉央ちゃんと一緒にする予定だったからな。遅れる旨の連絡を入れておいたのだ。『美容院で仁くんに釣り合うようないい女になってきます!』って意気込んでたな。


 その後美沙と楽しく会話を交わしつつ、雄大な春蘭高校を背に俺達は帰路に着いた。



* * *



「ふぅ」


 『ぼふっ』と俺はベッドへダイブ。

 時刻は夜22時。夕食と風呂を終えた俺は就寝の準備に入る。


「……」


 夏の夜のひんやりとした空気が窓の隙間から流れ込み、風呂上がりで火照った体を冷やす。

 チラリと、包帯が巻かれた右手を見やる。まるで心臓の鼓動のような周期でズクズクと痛むが、どうやら骨が折れているわけではないようだ。


 今日も落ち着きのない1日だった。

 人を殴り飛ばす体験なんて、中川眞二の1件だけで十分だったのにな。

 竜崎郷(りゅうざきごう)だっけ?もう5発くらい殴っとけば良かったか?でもやりすぎても可愛い妹たちを怖がらせちゃっただろうしな。


 ……まぁ心愛(ゆあ)も無事だったことだし、正直アイツを殴り飛ばした時点で溜飲は下がった。

 去り際の様子からしてまたなんかしてきそうだから取り敢えず周囲の警戒は怠らないようにするし、俺に近しい人達にも注意しておく。というかいっそソフィに竜崎を監視してもらうか?正直俺の侍衛なんてあってないようなものだしな。またソフィに相談してみるか。


 竜崎のことは一旦忘れよう。


 それよりも、だ。


「来週、か」


 来週中学校の同窓会がある。普通ならここは懐かしい思い出に思いを馳せながらワクワクするところなのだろうが、俺に関してはそうもいかない。思い出云々言う前に記憶が無い、というかそもそもこの前原仁の中身は別人だ。

 さらにさらに、少し前に俺は中学校時代の同級生に会っているのだ。桜咲雛菊(おうさきひなぎく)さんと、星宮真紀(ほしみやまき)さんだ。話に聞くと、前原仁()は昔桜咲さんを性格が変わってしまうほど深く傷つけてしまった。その事に星宮さんは怒り心頭に発している。

 中学校時代無茶苦茶している前原仁()を同窓会に招待してくれるのは、前原仁()の昔の愚行の贖罪の機会を設けてくれるということだ。

 この世界に転生してからというもの、周りの美女・美少女達からチヤホヤされぬるま湯に浸かってきた俺だが、来週の同窓会ではそうもいかないだろう。今の、ハーレム形成に向け八方美人な俺とは違い、さそがし昔の前原仁()は数々の人を傷つけてきたのだろう。その犠牲者が、来週の同窓会には数多く居る可能性が高いのだ。


 もちろん、過去の前原仁()がやった事なんだから、今の俺には関係ない。



 なんて、言うつもりは毛頭ない。

 たとえ別人であっても、紛れもなくこの俺の体が行った所業。責任はきっちり俺が取らせてもらおう。


 来週。来週だ。


 何が起こるかは分からない。

 しかしここは男を見せる時だ。男には逃げてはダメな瞬間があるのだ。


 

 昔泣かせた女の子を放っておくほど腐ってはいないぞ。



 ある種の決意を秘め、痛む右手を無理やり握りながら俺は眠りの世界へ沈んでいった。

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