襲ってきた影とヒーローになった彼
店から出るとちょうど午後の履修が終わったのか帰る学生が増えてきた。
特に用も無いし帰るかな。
明日も朝早めだし
キャンパスを出ると西の方がオレンジ色に染まっていた。
聡子の住んでいるアパートはキャンパスから10分ほど歩いた駅から2駅いったところで、また駅からも5分ほどしか歩かないので、さほど遠くはなかった。
大学の最寄り駅までの道のりは下り坂で帰りはいいが行きはなかなか辛い。
電車の中には残業をしなかったサラリーマンや部活終わりの学生、遊びにいってた主婦など様々な人で混んでいた。
聡子の使う駅で降りる人はあまりおらず、駅の裏のアパートの方向に進むにつれて人通りは少なくなる。
アパートに行き着く前に通る住宅街では夜食の匂いが漂っていた。
細い道へ入って少し歩いたところで誰かに肩を触られた。
誰だろう。何か落としたかな?
振り返ると全く知らない中年の男性が立っていた。白髪の混じった髪に手入れをされていない髭や目元のシワが目に付く
「どうかされましたか?」
「へへ、初めまして。おじさんいつも見てたんだ。帰り道はいつも1人なんだね。へへ、お友だちとは帰らないのかい?」
やばい。そう悟った私は走り出した。
しかしまたすぐに追いつかれてしまい、手首を捕まれ、髪を触られる。
「へへへ、別に変なことしないから。おじさんとお友達になろ?ね?」
どーしよ、怖くて声が出ない。誰か…
「どうも、おじさん。うちの連れに何か用ですか?」
「え?誰だい君」
「その人の彼氏です」
誰だろう。
おそるおそる目を開けるとそこにはアイツがいた。
さっきまであんなにうざいと思ってたのに何故かとても安心した。ほっとした。
安心して涙が溢れ出した。
「邪魔しないでくれるかなー、おじさんはこの子のお友だちなんだから」
そして男が胸ポケットから出したものに聡子は驚愕した。
折りたたみ式ナイフ。
え、嘘でしょ?
「あの、ちょっ、逃げて!」
やっとのことで声を絞り出した瞬間だった。
時間が止まったように感じた。私から見た角度だと男がアイツに重なっていて手元は見えなかったけれど、確かにそれは彼を傷つけた。
彼の顔に苦しみの表情が見て取れた。
男は一時の衝動でやってしまったのか青ざめた顔で走って逃げ、彼は膝から落ちた。
右手で抑えていた左腕からは目に痛いほど真っ赤な血が流れていた。
「だ、大丈夫ですか…!?あの、私…」
「大丈夫、唾つけとけば治るから」
恐る恐る見るとナイフは刺さったわけではなく、浅く横を掠めただけでだった。
だからと言って唾をつける怪我ではなかった。
「うち、この近くなんで、その、よかったら手当てくらい…」
「行きます。」
キリっとした表情で彼は即答した。
ここに放置していこうか。