やたら説明口調なお話。
楽しんでいただけたら幸いです。
「ってぇ…」
起き上がり、きょろきょろと周りを見渡す。
「………………」
と、目の前にはこれでもかというほど口を広げたあほそうな顔をした素材だけは美人の女が。
「おい、ここどこだよ?」
尋ねても、その女はぱちくりと目を開閉するだけ。
「おい、おい。お―――…」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
声をかけていると、急にあり得ない奇声を上げはじめた。
「おいうるせえよ」
「いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
頭を抱えて、その目の前でばたばたごろごろと転げまわる美女。
土煙を上げてばたばたとのたうち回る金髪碧眼の美女の姿は、一部の層からの人気は絶大であろうと思われる。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
縊り殺す気か、というほどにギリギリと首を絞めながら襟元をつかんでぐいぐいと振り回す。
これもやはり一部の層からすればご褒美だ。
イチナはその『一部の層』ではないため、とてもご褒美などと呼べず、なされるがままに脳をシェイクされ、吐きそうになりながら質問を続ける。
「おいおい、落ち着け。つかここどこだよ…」
「ここは第一世界第一宇宙ファルメル系第九惑星ファンタジアよおおおおおおおおおおおお!」
いや、どこだよ。
そんな顔をしているイチナに向かって、その美女はガッと口を開いて叫ぶ。
「アンタのいた世界が第四世界第八宇宙太陽系第三惑星地球なの!どれだけ離れてるかわかるでしょう⁉」
「ああ、なるほど」
「ここは剣と魔法の世界!アンタにはチート級の能力付けたけど、私は神としての力しかないの!しかも神の力は強大すぎて使うのを許されていない!精々世界を滅ぼそうとしていてそれだけの力を持っている輩を取り締まってぶち殺すそれだけにしか使えないの!」
ふむ、神様の力とやらは中々にぶっ飛んでいる。
「しかも私、あの世界での絶対神なのよ⁉絶対神だけがあの世界を管理できるの、絶対神だけが世界の移動を可能にするの!絶対神だけが親交のあるなしに関係なしに存在できるのよ⁉そこまでいくのに何京年費やしたと思ってんのよおおおおおお!」
「シラネ」
「九京年よ、九京年!そのお祝いに色んな神様に褒めてもらう年だったの!色んな神様から称えられて次はゲネウスに取って代わって超越神王の名をほしいままにする予定だったのに!違う世界の中に来たらその地位を取り上げられるの!しかも私、あと七京年経ったら死んじゃうの!二度とあの地位に上り詰められないのよ!っどおおおおおおおおおおおおしてくれんのよおおおおおおおおおお!」
それを聞いても、イチナは特に何も思わない。
精々『九京歳とか、もうクソBBAかよ』とか、『七京年も生きれるんだったらいいだろ』とか、『それよりもゲネウスって誰だよ。人間にとってのゼウスかな』とかそれくらいしか考えない。
それでもそれよりも何よりも、
「お前もしかして権力欲の神?」
それが一番の疑問だった。
「ち、ちがうわよおおおおおお!てか、私に対して何かないの⁉ほら、謝りなさいよ!」
「へえ、じゃあ神様ってのは皆権力に対してどっぷりなんだな。そりゃあ人間もああなるわな」
「っだっかっら! アレは僕が…ってあれぇ⁉」
一人称の変化。それは何を意味するのか。
…わかりかけてきた。
「えっ、えっ…うっそぉ⁉え、ちょと待って、待ってええええええ⁉」
まばゆいばかりの光とともに、ぎゅんぎゅんと白い体毛が生え、爪を尖らせ、小さくなっていく。
「…うそだ、まさか、君…」
「んあ?」
間抜けな声で尋ねると、急に何か力が湧いてくる。
「おお?」
「ま、まさか君いいいいいいいいい⁉」
濁流のような勢いで、知識と、記憶と、経験と。全てが入ってくる感覚。
「おおおお?」
体が浮く感覚。直後、体中から光が溢れた。
「あ、あああ…」
「おおおお…」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
実に三行分の叫び。この世界で三回目だ。
それを聞いて顔を顰め、イチナが訊く。
「どうしたってんだよ。これってお前が言ってたチート級の力ってやつじゃねえの?」
「ちっがうよ!」
目の前の金髪碧眼の美女だったものは、人差し指(?)を立ててぐるぐると回しながら説明する。
「僕が渡したのはチート級の身体能力!でもそれは違う!僕たち神様の、チートなんてもんじゃない、もっと言ったらあえて見逃されたバグみたいなもん!ゲームやってて、ある一点、その一点でだけ視点移動ができなくなる。それも、その位置がゲームのチュートリアルで視点移動ができるかどうかの確認の場所にある!そんなレベルのバグを神が放置してるって、そういう状況!わかる⁉」
わかるわかる。それやべえな。普通ならクソゲーゴミゲー扱いでどんな期待背負ってても初入荷の数で間に合うレベル。
そんなバグが残されているなんて…やはり人生はクソゴミゲーだった。
「それが君に渡された…ってことは、君が神になったも同然なの!」
「それすげえな!これからの先、超楽しいじゃん!」
うわあ、すっげええええ!さいっこうじゃんそれえ!
表の反応の軽さと裏腹に、心の中でイチナが叫ぶ。
それと同時に、
「無尽蔵の知識と無尽蔵の魔力と無尽蔵の経験と無尽蔵の身体能力、その全てが君の中に入っちゃったんだよ!」
「で?」
「なんっでそんなに軽くなるんだ急に!しかも、それにはデメリットもある!魂の濃度が足りなくなって、今後の魂の寿命が濃縮される、つまり、君の来世が絶対にありえないんだよ!その代わり不老やら即時回復やらなにやら色々得点はついてくるけども、もともと魂の濃度が濃密で活量も豊富な僕たちと君は違うんだ!神の力が暴走すればどうなるかわからない…って話を聞いてるの君は⁉」
「いや、悪いことしたなと思ったけど、お前はお前で勝手に僕を飛ばしたんだ。ウィンウィン…じゃねえや。どっこいどっこいだろ」
「どっこいどっこいって今日日聞かないよ!ってか待ってって!僕、この姿じゃ生きてけないから!ある程度神だった残滓で第一位魔法までは一発程度しか使えないけど、第二くらいまでなら何発でも扱えるから!だからせめて精霊として僕を連れてってよお!」
第一位魔法。
魔法の中でも随一の魔法。本当に一握りレベルの魔法適性がないと扱えない。
しかし、それ以上の魔法適性を持つ者は自分の特有、独特の魔法を創って使うことができる。
ちなみに魔法のランク付けとして、第一位魔法から第十位魔法まである。
第十位魔法は、水魔法だとコップ一杯分の量を創り出せ、火魔法だとマッチの火くらいの持続性で、火種程度ならこれで賄える。
そこから第一位に飛ぶと、水魔法でこの世界一の面積を誇る森と言われるフィルミニウム樹海が一気に燃えているような火事でも一瞬で消せ、火魔法だと焼けないものはない。
第二、ということは第一のその一段下、宮廷魔導士の平均が第三なので、トップレベルだ。
それでも第一とは明確な格差があるが、残滓、残り物でそのレベルの魔力である。神の力は恐ろしい。
ちなみに第一が使えるレベルになると権力に興味関心がないのか、宮廷魔導士にはならないらしい。
まあ、イチナにはそんな下心はなくもな…バリバリあるのだが。
そんなふうにこれからのことを考えながら、彼は異世界での一歩を踏み出した。
おっと、駄文とか言っちゃいけないよ?
柔らかく、諭すように、優しく注意しましょう。
…まあ、優しい忠告ほど胸に刺さる者ってないんですけどね。