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荒野を往け

どうもです。鉛空 叶です。この度、集英社ライトノベル新人賞で二次落選したので、そのまま捨てるのももったいないと思うので、こちらに投稿させていただきます


 

 暗い。

 暗く、熱い部屋で、機械の唸る音がする。

 モニターの明かりが唯一、部屋を照らしている。

 それはまるで誕生のようで。

 それはまるで、おぞましき所業のようで。

 部屋の中央。暗がりのベッドの上に、男が横たわっている。

 男はまだ幼く、少年と言って差し支えないだろう。全身に衣服はなく、素裸で仰向けに転がっている。

 細く、嫋やかなその身体は瀕死と言っても過言ではない。

 様々な器具で手術を受けている真っ最中だろうか。


 ――火花が散る。

 ――機械音。

 ――蒸気。


 ベッドの脇に男がいた。

 男は老人で、最早、死に掛けと言ってもいいくらいには、老いさらばえている。

 しかし、しかし、そこにあるのは命を燃やす老人だ。

 老人は目を血走らせながら周囲の機械を操作していく。キーボードを叩く手は素早く、淀みなく、しかし注意深く周囲のモニターに目を走らせる。失敗してはならないのだから。

 どれだけ時間が過ぎただろうか老人は汗を拭った。

 キーボードを叩く手は既に止まっており、後は少し手を動かすだけで終わる。


「もう少し」


 しわがれた声で、しかし優しく、意識のない少年に語り掛ける。


「もう少しの辛抱だからな」


 少年の髪を撫でる。老人は目を閉じた。

 そして決心を固めたようにレバーを握り締める。これを押し込めば全てが終わる。

 全部、ようやく。だから。

 老人は目を見開いて、


「さぁ、目覚めるのだッ! この電撃で――ッ!!」


 暗い部屋に光が舞った。





 


 ――砂塵を孕んだ風が吹く。


 見渡す限りの荒野が広がっていた。

 どこまでも続いているようで。果てが見えない。

 煌々と照りつける太陽と死を予感させる風が吹きつける。

 その風を引き裂くように、荒野の中心を一台の巨大なバイクが駆け抜けていた。

 ごつごつとした機械のバイク。

 近年、まったくと言っていいほど見る機会のなくなった機械である。

 轟音を響かせながら、鉄馬は駆けていく。

 その背には少年が一人と、サイドカーにも、肩口で切った短髪を靡かせる少女が乗っていた。二人ともがゴーグルをかけていてその双眸は伺えない。


「――熱い。熱い熱い……なぁ、本当にこっちであってるのか?」

「あってるわよ。依頼者が言ってたんでしょう? 信じましょうよ」

「ってもなぁ……」


 少年はじっと片目で荒野の先を見つめる。

 もう片方の目は、包帯に覆われていて見ることはかなわない。

 しかし、そこには何も見えやしない。見渡す限りの岩と砂だ。

 不思議なことに汗一つかいていないその顔を少女に向ける。


「なんもねぇぞ?」

「あるよ。なかったら死ぬだけだよ」


 腕組みをしたまま、少女は鼻を鳴らして答えた。

 確かに、と少年は納得する。こんな時代だからこそ、人を信じたいのだ。


「ドライだなお前」

「そうでもなきゃ運び屋なんてやってないよ。依頼主の言葉を信じられなかったら、何を信じろってのよ」


 それもまた、確かなのだ。


「……と、言ったものの、確かにこう、砂ばっかりだと気が滅入るわ」


 少女はゴーグルを外し、久しぶりにその瞳を外気に晒した。髪と同じ、黒い瞳。覆い被せるように傍らに置いた双眼鏡で隠す。

 じっと見つめる先に、何かないのかと首を動かす。やがて、ある一点に少女の視線は絞られた。


「あ、お兄、見て!」


 少年を兄と呼び、少女は指を向ける。その方向は、現在の進行方向からやや反れた方向だった。

 キッとブレーキ音を鳴らしてバイクを止めると、少年は引っ手繰るように双眼鏡を手に取った。


「どれ……お」


 片方の目に映ったのは、遠方に見えるビル群だった。


「ね、町よ、町! きっとあそこよ!」


 久しぶりに見る町の姿に少女の機嫌がよくなる。

 都合五日、自分たち以外の人間を見ていないのだ。

 前の町からどれだけ進んだかわからない。けれど、ようやく見つけたのだ。


「たぶん、あそこかな?」

「そうよ、そうに決まってる。この方向には一つしか町はないって言ってたもの」

「おっけ、んじゃ行くとしますか」


 そろそろうんざりしてきた旅に新たな刺激を求めて。

 少年――ディーン・ラスタ。

 少女――アディリア・ラスタ。

 再びバイクを起動させると、町へ向かって一直線に駆け出した。

 

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